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ブロックの外へ








「ほらサナ、起きて、駅だよ!」



「ん……?」



「もう夜の9時だよ? サナ、熟睡しすぎ、とにかく降りるよ」



 電車に揺られて6時間半。今はイーストブロックに入る2駅前で停車中だった。どうして自分が電車に乗っているのか、サナは寝ぼけた頭で思い出そうとする。





「えーっと……? ああ、昼にあんた達が迷子の女の子、ナナミちゃんだっけ? を見つけて、そのお姉ちゃん探しに来たんだっけ」



「そそ。正確には姉じゃなくて、近所のお姉ちゃんだったらしいけどね。そのお姉ちゃんの家族がイーストブロックに引っ越してからは文通をしてたんだけど、一週間経っても返事が来ない、と」


「それだけだったら私たちは出張ってない。わざわざ少女探しに私たちが動くのは、現在イーストブロックがレジスタンスの作戦行動により高度警戒中だから。そして少女の写真の背景に、戦闘機とみられる機体が写っているから」



 慣れないホームに降り立ち、3人はさっと辺りに視線を走らせる。3人組の軍人がホーム両端の階段で、乗客を値踏みするように見張っているのが見えた。


「だから交通機関は嫌いなんだよ」


「しょうがない。レジスタンスの構成員は皆休んでいるし、他の幹部はやることがある。それに、車より特急の方が速い」




 小声で話しつつ、3人は階段に向かう。





「ま、しょうがないわ。自業自得みたいなもんだし」



「まあそうなんだけどさ……」





「おい、お前たち。少し止まれ」





 軍人の脇を通り階段に足をかけたところで、有無を言わさぬ声がかけられた。途端に止まったヒカリは両脇の2人の袖を引っ張ると、ゆっくりと振り返る。







「はい? なんですか?」


 サナが一歩前に出て、いつもと変わらぬ明るい声を出す。



「お前たちは……バンドの帰りか?」


 ヒカリの背負う楽器ケースに目をやり、自分の銃に両手を乗せた兵士は口を開いた。その様子は気さくで、疑われたわけではないことにミズキは一先ずの安堵を覚える。





「はい、バンドって言ってもブラスバンドですけどね。それがどうかしましたか?」



 静かに深呼吸をしたヒカリも会話に加わり、不審に思われぬよう努めた。



「いや、特にどうって訳じゃないんだけどな。ここ数日、イーストブロックでテロ行為が多い。あの記念橋が落ちた事件はお前たちも知っているだろう」



「勿論です、大々的にニュースやってるじゃないですか。……えっ、なに、まさか疑われてるんですか?」



 ――変わり身が早いことで。


 半笑いでおどけるように話すヒカリを、ミズキは何とも言えぬ顔で見つめていた。




「まさか。ただ、女の子だけで夜に出歩くのはやめた方が良い。特にブロックの外はな。こういう人が多く集まる場所は、テロリストに狙われやすいんだ。だからこうして、ブロック外にまで俺たちが特別警備をしてるわけだが」



 ――一般人の多い駅で戦闘なんか、するわけないでしょ。


 僅かに頬を痙攣させて、サナはそんなことを思った。目の前の軍人はまともな人間なのだろうが、まさか目の前の子供がその“テロリスト”だとは思いもしないだろう。




「そうですね、今日はたまたまこんな時間になっちゃったんですけど、これからは気を付けます。ありがとうございました」


 サナがそんなことを思っている間にも、ヒカリは慇懃に頭を下げ感謝を告げた。踵を返して階段を上がると、ICカードを改札にタッチする。









「あんた、よく平気だったわね」


 欠伸をしながら駅を出て、サナは先頭を歩くヒカリに声をかけた。


「私が軍人と落ち着いて会話してたのが、意外だった?」



 サナの心を読むように、歩きながら後ろを向くヒカリ。その顔は穏やかに笑みを湛えていた。


「それは私にも意外だった」


 サナの隣を歩くミズキも、油断なく周囲を見渡しながら同意した。「だよねー」なんて、いかにも軽そうにヒカリが頷く。




「私も。私もびっくりだよ」






 3人が下りた駅は、駅前にスーパーマーケットが位置していた。夕飯の時間を過ぎたスーパーは、夜食を求める若い男性が何人かいたものの、大分人数は少ない。その手前を猫が走り去っていく。



 猫が向かった方向にはロータリーがあり、そこにはバスやタクシーが停まり、『空車』という表示が光を放っていた。ブロックの中で住んでいる3人はタクシーを初めて見たせいか、軍への警戒も忘れて物珍しそうに見ている。



「どうする、折角だからタクシー乗ってみる?」


「……そうね、この近くの宿泊施設まで頼みましょう。それに、この周辺のことを聞けるかもしれない」



 意見の合致した3人はタクシーを選択し、ヒカリがしゃがみ込んでいたいかつい男に声を掛けた。




「すいません、前に一人乗っても良いですか?」


「ん? ああ、お客さんか。どうぞ」


 サナとミズキが後部座席に乗り、ヒカリは助手席に座る。



「……シートベルトしてもらっていいか?」



 運転手に注意され、慌ててベルトを探す3人。






「とりあえず、近くの泊れる場所までお願いします。出来ればイーストブロックには入らないで……そうなんですよ、ブロックの中の施設って大概高いじゃないですか。友達との外泊にそんな良いホテルは必要ないんで……はい、お願いします」



 いかにも夜遊び慣れしてそうな女子を演じるヒカリは、禿頭の運転手相手にも怖じることなく話に興じていた。


 そんな様子を、再び不安そうな顔でミズキが見つめていた。





「なんでわざわざ、こんな柄悪そうな人のに……」



 ミズキの耳に、サナのそんな呟きが入り込んでくる。ミズキは運転席の男をちらりと見て声が届いていないことを確認してから、サナの頭を寄せた。



「とりあえず、運転手には少しだけ注意を向けておいて。……それとヒカリにも」


「ヒカリにも? ……あーっと、この子の様子が変なのはねミズキさん、その……まあ、ちょっと浮かれてるだけだからさ。気を揉まなくても平気だと思うよ」



 楽しそうに談笑しているヒカリと、どこか気まずそうにしてるサナを交互に見て、ミズキは首を傾げた。
















「そっか、ブロック外にも普通に人は住んでるのよね」



 サナが窓の外を見やって、窓に吐息をかける。走る車の数は少なく、散在する街灯と数えるほどのヘッドライト、テールライトのみが夜の道路を照らした。夜霧が立ち込めていれば、幻想的な風景になっただろう。



「基本的に、各ブロックの外部はブロック内と比べ駐留部隊の数が少ない。だから、軍人を快く思わない人間や、街での暮らしに息が詰まるという人が住んでる」


 反対側の窓をのぞき込むミズキが、数年前のテレビで聞いた言葉を反芻する。



「お嬢ちゃん、よく知ってるね」


 運転席に座る禿頭の男が、細い眼鏡越しにルームミラーを覗き込んだ。その格好は厳つく、何か気に障ることを言ってしまったかとミズキを怯えさせる。



「おっと、ごめんよお嬢ちゃん、怖がらせちまったかい?」


 だが、体を緊張させたミズキを見て申し訳なさそうな顔をし、運転手は素直に謝った。





「ミズキ、大丈夫だよ。悪い人じゃないから」


 シートを掴んで後ろを振り返ったヒカリが、綺麗なウインクをする。相変わらず普段の様子とは異なるが、確かにサナの言う通り浮かれてるだけなのだろう。そういう目で見ればそういう風にも見える。



「……そっか、そうじゃなかったら、そもそもヒカリが隣になんて座んないか。ミズキ、私達心配しすぎだったみたい」


 自分に向けられる敵意に敏感なヒカリが、警戒せずに運転手の隣に座った。それはサナにとって、運転手が安全だと判断する材料足り得たようだ。




 それに、とヒカリが次の証拠を提示する。


「この人、さっきの猫と遊んでたもん。ほら、さっき走ってった猫」


「おっと、そこ見られてたか。これじゃ形無しだな」



「……猫好きに悪い人はいないって?」



 ミズキは呆れた溜息を吐きだし、シートにもたれかかった。




「軍がいないのを良いことに、好き勝手やる連中もいるからな。前にタクシーを襲われた仲間もいるから、皆で厳つい格好してんだ。まあ客の数も少し減ったけどな」



 運転手は自らの退廃的な格好をそう説明した。


 ――普通の客も少なくなると思うけど……



 3人は示し合わせたわけでもなしに、同時にそんなことを思う。




「夜に仲良しのお嬢ちゃん達を運ぶのは中々無いことだ、一体何が有ったんだ?」


 ハンドルを左に切るついでに、助手席に座るヒカリの顔を窺う。その様子にヒカリは気が付かないふりをした。



「実は……5日前から連絡が付かなくなった女の子がいまして、イーストブロックに探しに行くところです」


 リュックを抱えて事情を説明するヒカリ達を、行動力のある仲間思いな子と見た運転手は、「だけど」と異を唱えた。


「探しに行くって言ったって、ブロックのどこら辺にいるかくらいはわかってるのか?」


 干し草の中から針を探すつもりかと、停止線の手前で車を止める。


「最後にいた場所だとか、何か手掛かりくらいはないのか?」


「それが無いんです……」




「……いや、ある」




 信号が変わるのを待って再び走り出した車内で、ミズキは(おもむろ)に口を開いた。



「えっ、手掛かりある? 文章には特に何も無かったし……」



「あの写真?」



 サナが頭の中に写真を浮かべ、唸る。


「写真には女の子と、飛行機みたいなのしか写って無いけど……」


「その写真が手掛かり。あの飛行機は多分、これ」


 ミズキがデニムジャケットのポケットから数枚の写真を出して見せる。




「なになに、これは……F-22? なんか丸っこいわね」


 写真には、翼の先端が丸みを帯びている戦闘機が大々的に写されていた。裏面には『世界最強の猛禽類!! 12.04』と記されている。



「えっ、ちょっと見せて」


 サナの言葉を聞いたヒカリは振り返り、写真を受け取る。



「F-22……ラプター」



 アズマの言葉を思い出し、まじまじと建物の中で羽を休める機体を見詰めた。






「ラプター? どれどれ、見せてくれ」



 唐突に興味を示した運転手にも、赤信号で停車してから写真を数枚見せてあげる。



「なんだ、嬢ちゃん達はこの子を探してんのか?」


 そして、このタクシーを選んでよかったなと言ってハンドルを右に切った。


「この子のこと知ってるの?」


「そりゃ知ってるさ、5日前に乗せたばかりだぞ」




 3人は思わず顔を見合わせる。




「1週間に2、3回は必ずタクシー使うからな、仲間内じゃ有名人だよ」


「どこまで乗せてったんですか!?」


「空軍の基地だよ」


 途端に険しい顔をする3人を見て、運転手は苦笑した。



「大丈夫だ、陸の奴等とは違って気の良い奴らさ、頼み込めば中に入れてもらえる。あの子もそうだったよ、『友達に戦闘機の写真を撮りたい』っつって入り浸ってた」


 陸軍と空軍の性格がまるっきり違うというのは本当らしい。一昨日の朝に話したサラリーマン風の男の話を思い出したヒカリは、「良かった」と言葉を漏らした。



「てっきりもっとかかるかと思ってたよ、こんなに早く手掛かりが集まるなんて」


「話を聞く限りじゃ、その子が危害を加えられてるとかもなさそうだしね」




「その空軍基地はこの時間も空いているの?」とミズキ。


「馬鹿言っちゃいけねえ、こんな時間に開いてるわけ無いだろ。今はビジネスホテルに向かってるよ、基地は明日にしな」


「開いてないかぁ……」


 再び3人は顔を合わせた。








「私思ったんだけどさ、夜に子供だけでホテルに泊まろうとしたらどうなると思う? ブロックから離れたここの駅にさえ警備いたんだし」



「……だけど、不審がって軍を呼ばれるかもしれない」



「……えっ、それじゃあ野宿? 私久しぶり……」




 3人は運転手に聞こえないよう小声で話していたが、助手席にいるヒカリの言葉は全て筒抜けだった。そうでなくても、3人の顔が深刻だったのを見て運転手は同じ行動を取るかもしれないが。



「……今日はそろそろ仕事も終わりだ、もしホテルが都合悪いんなら……家は家族がいるから無理だが、車くらいは貸せるぞ?」


 寝床としての車の提供は、3人にはとても魅力的だった。



「私は……私は2人に任せるよ」


「私もどっちでもいいわよ」


「……迷惑でなければ」



 結局言葉に甘えることにした3人は、「恐れ入ります……」と、ひたすら平身低頭していた。





























 規則正しい電子音が、まだ陽も昇らぬ時刻に鳴り響く。2コールで目ざましを止めた男はしばし天井を見詰めてから、タクシー会社へ繋がる無線機を手に取った。


 この国では携帯電話の使用を禁じられている為、トランシーバーや簡易無線、アマチュア無線か公衆電話が遠く離れた人とコミュニケーションを図るためのツールだった。軍の審査を受ければ固定電話は設置できるが、専ら会社間での情報伝達にしか使われない。


「……おはようございます、はい、はい。……はい、すいません、実は急用が入ってしまいまして、今日のシフトをPに変えて頂いてもよろしいでしょうか……はい、代理は既に声を掛けてあります。はい……はい、わかりました。すいません、ありがとうございまーす……失礼します」


 代理として声を掛けた友人に奢るものを考えつつ、男は洗面台に立ち顔を洗った。




「悪いな嬢ちゃん達、狭い車に詰め込んで」



 車の鍵を開けつつ、自家用車の中で思い思いの方向を向いて毛布を抱きつつ眠る、3人の女の子たちの様子を見る。




「あっ、朝早いですね、おはようございます」




 だがヒカリは既に起きていた。男が来たことに気付いたヒカリは、伸びて固まった体をほぐしてから、小さく開かれた目でサンバイザーに付いた鏡を使い寝癖のチェックをする。


「悪い、起こしちまったか。まだ6時だ、寝てて良いぞ」


「いえ、私はずっと前に起きてます。折角なんでここら辺を一周してきてもいいですか? 毎朝の日課なもんで……」


「1時間くらいで戻ってこいよ」と言い残し、男は車の鍵をヒカリに渡して家へ戻った。




























「アズマ、いるかー?」



 兵舎の中の一室を、ニシが3度ノックする。20秒ほど経ってゆっくりと開けられた扉の先には、だらしない格好でニシを迎え入れたアズマが立っていた。小隊長にむりやり休暇を与えられた二人だった。



「邪魔するぞ。こないだの奴らについてだ、上がこってり絞りあげたらしい」




 ずかずかと部屋に入り込んではカーテンを豪快に開け、部屋に光を取りこむ。


「光あれっと」


「おい神様、勝手に俺の部屋を漁るな」



「ちっ、あんだよ、ベッドの下に有るべきもんがねえぞ?」


「んなもんあるか」とアズマはインスタントコーヒーを二つ淹れ、スティックシュガーの封を開ける。






「それで、折角貰った休日に押し掛けてきた自覚がもしあるのなら、さっさと話せ」


「駐留部隊があの村に隠れてた理由だ」


「話せ」




「あいつ等、ずっと前からあの村に入り浸っては女を食い物にしてたらしい。森の中で周囲には監視の目は無い、軍人に楯突く奴らもいないってな。

 ところが……えー今日は24だから……5日前の19日だ。丁度逃げた研究者がそこら辺を通ったんじゃないかって日にちだな。その日の明朝、ヘリが研究者を捜索するために回廊付近を飛びまわってたんだ」


 結局見つけられずに、空港で落とされたがな。と溜息混じりに吐き出される言葉を聞いて、アズマは回廊で出会ったヘリを思い出した。



「まさかそのヘリが、自分達を探してると思ったのか?」


「その通り。(やま)しい事がある人間は、しら(・・)を切り続けるか、耐えきれなくなって自分からその場をめちゃくちゃにする。あいつ等は後者だったってことだ。

 自分たちのやったことがばれて逮捕される、と思ったあいつ等は、『どうせ捕まるなら』の精神で村を占拠。好き勝手やってた癖して、今は『こんなことやってんのは俺達だけじゃねえ』って釈明に入ったよ」



 思わずアズマは頭を押さえる。



「つまり、そこら辺をヘリが飛ばなきゃ、あの女の子は死ななかったのか?」


 そう自問する。3日前の時点でそんなことを予測できる筈もないし、自分に過失はない。頭ではわかっていたが、自分のせいであの村は……という考えを拭い去ることが出来なかった。





「そう落ち込むな。あの女の子が自殺するってわかってたわけじゃないんだ、止められなかっただろう?」


 そうニシが慰める。休みの日に朝から訪問したのも、ニシなりにアズマを心配してのことだったのかもしれない。



「……あの村の奥には死体の山があっただろ。その中には若そうな兵士の死体もあった、もしかしたら仲間の暴走を止めようとして殺されたのかもしれない」


「『俺達の邪魔する奴は全員殺した』と言っていたらしい。もしかしたら部下も殺したのかもな」



 アズマはその光景を見て、戦争の記憶をフラッシュバックさせた。




「あの女の子も、きっと死体を見たんだ。死体の中には子供のもあった、俺はそれを見てたんだ」



「それだけで判断することなんて出来ねえさ」


 ニシも同じように戦争を思い出したかもしれないが、慎重なニシはアズマよりも冷静だった。



「それに、俺は一度拳銃を抜いただろ? その時俺は、セーフティを掛けなおすことを忘れたんだ。それさえなければ、あの子は……」


「……誰だって基本を忘れることはある、しょうがない」



 アズマの中を、言葉で表すことの出来ない憤りが駆け巡る。そのやり場のない怒りがどうしようもなくなり、アズマは手元の渋いコーヒーを一息に呷った。





「……悪い、もう落ち着いた」


「だったら良い。折角休暇貰ったんだ、たまには休めよ」


 それからニシは思い出したように膝を叩き、「一つ忠告だ」と前置きしてから口を開いた。


「コーヒーの粉入れすぎだ、苦い」


 それからアズマは、再び謝った。




















「さあお嬢さん方、着いたぞ。ここが空軍基地の入り口だ」



 6人乗りの自家用車を基地の手前で停め、運転手はヒカリ達を下ろした。基地の正面には車両用の大きなゲートが閉じてあり、隣には女性軍人が2人詰めた小さな小屋がある。



「ここまでで良いのかい? 午前の内に終わるんなら待っていられるけど」


「いえ、これ以上迷惑はかけられませんよ。本当にありがとうございました」


 3人はここまで乗せてもらった礼に頭を下げ、別れを告げる。運転手は後ろ髪を引かれるような思いだったが、最後は手を振って車を走らせた。







「それじゃ、どうやって情報を集める?」


 サナが歩道にしゃがみ込み、フェンスで囲まれた基地を見詰める。ここに来るまでの道中は巡回する兵士が多かったが、空軍基地内はそうでもないらしい。



「こっからじゃ、流石に中までは見れないよね……」



 ヒカリはつま先立ちでフェンスの向こうを覗いたが、「流石に無理か」と諦めた。




 そんな二人の隣で、ミズキが腕組みしてゲートを睨みつけている。



「……ヒカリ、これ持ってて」


 それからミズキは、コートの下のホルスターをヒカリに預けると、道路をすたすたと渡っていった。




「えっ、ちょ、ミズキ、待って!」


 慌てて飛び出そうとしたヒカリの袖をサナが掴み、目の前をトラックが通過した。



「ここはブロック外なんだから、道路に飛び出したら車に轢かれるでしょ!?」


「ご、ごめん……」


 トラックが走り去ると、道路の向こうではミズキが女性兵士に声を掛けているのが見えた。






 ヒカリが腕時計を確認して、リュックサックや拳銃をホルスターごとごみ箱の中に隠して道路を渡る。



「その中に入れて大丈夫?」


「大丈夫、日曜は予定無かったから!」


 近くの電柱に張ってあったごみ収集計画表を指し、ミズキの元へ走り寄った。








「あら、貴女の友達?」



 何とか道を渡った2人は、ゲートの脇の詰め所に座る女兵士と話すミズキに合流した。ミズキの突然の行動を咎めようとも思っていたが、会話の邪魔をしないよう、2人は黙って様子を窺う。



「はい。私達、人を探しているんです。彼女の手紙にラプターが写っていたので、タクシーの運転手の方がここではないかと」


「写真?」



 ミズキがポケットから少しだけくたびれた写真を取り出し、手渡す。それを片手で受け取った兵士は、あぁー……と口を開いて頬を掻いていた。



「なるほどねぇ……確かにこの子は知ってるわ」




 どこか上の方を見て腕を組む兵士を見て、3人はそっと身を寄せる。




「ミズキ、どうしたの?」


「どうしたもなにも、彼女を知らないか訊ねただけ」


 私は何もしてない、と両手をひらひらさせてアピールする。








「……それじゃ、右手のゲートを通って入っておいで」


 どこか困ったような表情を浮かべた兵士は、しょうがないという風に小屋を出てゲートを開けた。もう1人の女兵士が「こっちよ」と待っていて、ヒカリ達はゆっくりと侵入する。





「2人とも、一応気を付けて。敵意は感じられないけど……」




 そうヒカリが耳打ちした直後、3人の後ろでゲートが音を立てて閉じられる。




「手を上げて。視線は真っ直ぐ私を見て」




 ゲートの立てる音に気を取られた3人に、正面に立っていた兵士が銃口を向ける。



「今は非常事態だから、許してね」



 そして3人は、促されるまま基地の中へ入るしかなかった。






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