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偽らざる本心





 朝日の差し込む部屋。いつもと違う部屋。暖かい部屋。布団を跳ね飛ばす勢いで目覚めたヒカリは、胸に手をやった。





「……びっくりした、なんでこんな飛び起きたんだろ、私」




 いつもとは違いすっきりと覚醒したヒカリは、一呼吸置いてから、右手が何にも触れないことに違和感を覚える。



「あれ、サナがいない。サナってそんな早起きだっけ……」



 頭の上に置いておいた腕時計はまだ22日の朝7時少し前を指していた。二度寝するには遅いが、何かをするには少し早い。


 仕方なく、ヒカリは自分のリュックに手を伸ばす。M&P9は置いてきたが、うっかりしてマガジンや予備の弾丸を持ってきてしまっていたようだ。



 ――道理でいつも通り重かったわけだ。





 中身を整理しようとがさごそ漁る。予備マグ、9パラ、338LMやガンオイル、クリーナー、携帯食料に衛生品、そして氷砂糖などが並べられていく。いつ一人きりで作戦を遂行することになるかわからないヒカリは、いつでも出発出来るように、最低限の荷物を常に携帯していた。





 リュックの奥に残った何かを取るために傾けると、中から瓶が飛び出す。それを引っ掴むと、ヒカリは自分の目の高さまで持ち上げてから瓶を振った。




 ――珍しく、昨日はこれを飲まなくても眠れたや。やっぱりサナに話して気が楽になったのかな。





 カラカラと音を立てる瓶の中では、球体をある程度潰して薄くしたような、極々一般的な錠剤が大量に入っている。ラベルには『こいつの前では、全ての風邪薬はダイエット用サプリメントにも負けない胡散臭い商品と化す!? 大人気NO.1商品、ノーズチョーカー』という喧嘩腰な謳い文句がプリントされている。



 ――凄いよね、こんな多くを敵に回しそうな文句でも、一番売れてるって言うんだから。やっぱり、鼻が詰まってると寝苦しいからかな。



 実際ミズキも、ノーズチョーカーの愛用者だった。これさえ使えば鼻水の心配はしなくていい、と断言していたのを聞いた気もする。




「にしてもサナ、こんな朝早くにどこ行ったのかな」


 数年前から変わらないサナの部屋を見渡して、ヒカリは人の悪い笑みを浮かべた。









「あれ、ヒカリ、もう起きてたの?」


「げっ」






 サナが自室に戻った時、ヒカリは押入れに手を掛けていた。指が一本入りそうな隙間をさっと閉めて、広がった荷物を何事もなかったかのようにしまい直す。



「……何をしていらっしゃいますの?」


「……何も?」



 ばつの悪そうな笑顔を浮かべ、そろりそろりと移動する。





「良かった、ヒカリが人のいない所で勝手に物色するような悪い子じゃなくて」


「か、顔洗ってきまーす……」



 そのままそそくさと退散するヒカリを、サナは呆れた溜息で送り出した。







「あれ、なんか出てる……」


 つま先で何かを蹴り飛ばしたサナは、コロコロと転がる瓶を掴んだ。


「風邪薬? これCM知ってるわ、有名な奴じゃない。あの子風邪引いてたんだ……」


 傍にあったリュックに薬を詰め込むと、サナはヒカリの布団を畳み始めた。












「さあヒカリ、サナ、朝ごはんよ」


「はーい!」


 一階から母親が呼ぶ声が聞こえる。それに返事をしたのはサナと、ヒカリの腹の中にいる虫だった。



「あれ、ヒカリ今……」


「お腹なんてなってないし。サナの気のせいだし」



 ヒカリは白を切ったが、虫は宿主の意に反して再度自己主張を繰り返した。



「……なにさ、お腹減っちゃったんだからしょうがないじゃん。サナのバカ」







 テーブルについて、父親はヒカリの態度に目を瞠った。昨日とは違いヒカリは拗ねたように口を尖らせていて、いじけてる様にも、拗ねてる様にも見える。


「……ヒカリ、どうした?」


「別になーんでもないよ」



 頬杖をついてサナとは反対の、テレビの方を見ている。それも、料理が運ばれてきてからは嘘のように鳴りを潜めたが。







「それじゃあ、いただきます」





 全員が座ったのを確認して、父親が音頭を取る。こうして毎回きちんと礼儀を重んじるのも、料理をおいしそうに食べるのも、ヒカリは一人の料理好きとして嬉しかった。


 食べ終わった後はその限りではないが。



「さあさあ、朝だからって遠慮しないでどんどん食え!」





「ねーねーサナ! あーん」



 そう言ってヒカリは目を閉じ、サナの方へ小さく口をあける。その様子を見た母親も同じく口を開けている。




「…………何さ、こないだのやり返し? 悪いけど、私照れないから」


 サナは自分の箸をヒカリの口に差し込んだ。ぶっきらぼうな口調とは裏腹に頬は真っ赤に染まっていたが、目を閉じたヒカリは気が付いていない。



「んー、美味しい!」


 本当に美味しそうにヒカリが笑顔になるので、見ているサナまで優しい気持ちになってくる。




「ヒカリ、私にも頂戴?」



「え、やだ。あとで恥ずかしくなるって学んだから私」


「はぁ? ちょっ、私にやらせといて何言ってんのよ!?」




 そんな二人の姿に母親はずっと微笑んでいたが、やがて立ち上がり、お茶を取るついでに二人の肩に手を回した。


「ほら、遊んでないで食べる!」



 母親の叱咤を受けて、ヒカリはしゅんとして箸を進める。それでも数口進めるとまた笑顔になっているあたり、やはり心が軽くなってるのだろう。











「どう二人とも、満足?」


「満足満足、また太っちゃうわ……」


「美味しかった!」



 大きく伸びをしたヒカリは椅子から立つと、テーブルに置かれた空の皿をきちんと回収していった。



「お母さん、今日こそは私がやるから、任せて!」


 さあさあと母親を脇へ押しやると、腕まくりをしてスポンジを握る。くしゅくしゅと何度か絞ると、白い泡がたちまちヒカリの手を覆う。




「……ねえ、あなた。なんかあの子、変わったわね」


 父親の隣に座った母親が、水を出すヒカリを見ながら声をかける。


「いやー……あれがあの子の、俺達がずっと見れなかった本来の性格なんじゃないか?」


 二人の目には、昨日と今日とでヒカリはがらりと変わったように映った。本質的な優しさなどは変わらずそこにいたが、何と言うか……





「前より吹っ切れた?」





 夫婦は同時に口を開き、泡を頬に付けたヒカリを見た。

















「おい、もう行くのか?」



 サナとヒカリがリュックを背負うのを見て、父親が口惜しげに呟く。



「大丈夫よ、今日はあっちに顔出すだけだし、私達はまた無事に戻ってくるから」


 心配性なのよ、とでも言うようにサナは笑うが、父親は引き下がらない。




「そんなに生き急かなくてもいいじゃないか。お前達がやってることを否定してるわけじゃないんだ、だけど、なにもお前達がやらなきゃいけないことじゃないだろ? ……って言っても、どうせお前達はやめないだろうけどさ」



 深い溜息をついてから、椅子の背もたれにどっかりともたれかかる。



「せめて、五体満足で帰ってきてくれ。それだけが望みだよ」


「そんなことわかってるわよ、娘のことが信頼できないっての?」




 ――やっぱり喧嘩してても家族、サナが大事なんだな……受け入れてもらってる立場でこんなこと思うなんて、図々しいけど……


 笑顔のまま、ヒカリは心だけをわずかに曇らせる。羨ましいというほどのものではない。ただ、いいなぁなんて思っただけ。その程度のことだ。


 その程度のことであって、誰に何を言うわけでもない。







「さ、行くわよヒカリ」


「え、あっ、うん。それじゃ、サナをお借りしていきまーす!」


 そう言って手を振る。



 ――こんな思い、今までと比べたら我慢なんていくらでもできる。今まで私を苦しめてきた『私』も、今胸を刺すこの痛みも、言わなければいい。誰にも心配させなくていいんだ。





「なんだなんだ、さっきまで上機嫌かと思ったら今度はしおらしくなってるのか?」



「えっ?」



 振り返ったヒカリを、父親は優しく抱き締めた。



「言ってるだろ、お前も娘だ。何を考えてるかなんて言わなきゃわからんが、何かを考えてることくらいわかるさ。お前は、大事な、俺たちの娘だ」



「え、あっ、は……うん。ありがと」




 ヒカリは左手に持っていた楽器ケースを床に置くと、父親の背中に手を回した。




 ――ここも、きちんと、私の居場所なんだ。














「ヒカリ、あんた今日はやけにハイテンションね」


「えっ、そう?」



 完全に雪の溶けた道路の上を、スキップしたりくるくる回ったり、自転車に乗っている人に挨拶をするヒカリは、誰の目から見ても上機嫌だっただろう。



「おはよーございます!」


「ああ、おはようございます」


 自転車を漕ぐ男性を戸惑わせたことに気付かず、そのままルンルンと歩く。





「何かあったの?」


「ううん、なんでもないよ! だけど、サナたちが受け入れてくれたのが嬉しくてさ! 少しだけ肩の荷が下りた感じ!」



「……自分一人で溜めこもうとするからよ、これからも、何かあったらすぐ私を頼りなさい!」



 はーい、と右手をあげて微笑むヒカリ。




 ――この子は今まで、どれだけ一人で我慢してたのよ。


 はしゃぐヒカリを微笑ましく思いながら手をポケットに突っ込むと、何か触れるものがあった。









「あ、忘れてた。ヒカリ、これあげる」



 そう言ってサナが取り出したのは、どこかの雑貨屋の刻印がされたお洒落な紙袋だった。





 ――こんなものでしか、あなたを喜ばせてあげることができないけど……





「なになに、何が入ってるのかな。開けてみていい?」



 どうぞ、と促されたヒカリが封を開けてみると、中には流星を(かたど)ったヘアピンが2つ入っていた。蛍光色の水色と深い藍色のそれらは、青が好きなヒカリの為にサナが買ってきたものだった。




「こっちがアクアブルーで、藍色の方はアイアンブルー。今朝お父さんの友達がやってる雑貨屋さんに行って、買ってきたの。営業時間外だったけど、そこは顔馴染みのよしみってやつでね」



 ヒカリは両手にヘアピンを一つずつ持ち、矯めつ眇めつ眺めている。その顔はついさっきまでわかりやすいほど浮かれていたのに、今は特に何の表情も浮かんでいない。








「……ごめん、あんまり気に入んなかったら捨てちゃっていいよ」



 頬をポリポリ掻いて、居心地悪そうに足を速める。



 だがヒカリはその手を掴むと、サナを思いっきり自分の方に振り向かせた。





「ありがと!!」





 思い切り抱きしめる。じたばた暴れるサナに、ヒカリもすぐ手を離したが。



 ――なんかこの子、浮かれると子供みたいになるわよね。幼児退行? 違うか。




 ヒカリは紙袋を小脇に挟むと、貰ったばかりのヘアピンを右の前髪に、不器用に取り付ける。その手つきから、慣れてないのが一目見て分かった。



「どうどうサナ、似合う?」


「んー、まあ微妙な所かな?」


「えー! そんなぁ……」



「ふふふ、冗談。ヒカリだってお洒落くらいしなさいよ。それくらいやったって罰はあたんないわよ?」



 そんなこと言われてもなぁ……とヒカリがぼやき、足元の石ころを蹴飛ばす。



「あんまり興味ないし、私がやったって誰も見ないから意味無いんじゃないかな」



 ――……駄目だこりゃ。



 肩を竦めてみせたサナは、口で説明するより早いだろうと、通りの先に見えてきたレジスタンスの拠点に足を向けた。











 洋館の中では、シュンがインスタントコーヒーを淹れてコウとサクに渡しているところだった。




「二人ともお帰り! あれ、ヒカリ、それどうしたの?」



 いつもヒカリと同じくらい皆に気を配ってるシュン。ヒカリの変化に最初に気が付くのも彼だった。




「あれ、気付いた? これねー、サナがプレゼントしてくれたの! いいでしょー」


「良く似合ってるよ、良かったね!」


 なんだなんだとコーヒーに砂糖を投入しながら、他の二人もヒカリ達を振り向く。






「おーサナ、珍しく良い買い物するじゃん」


「コウのくせに、何を偉そうに!」


「待て待て、今コーヒー持ってるから椅子を蹴るな椅子を!」



 両手でカップを押さえながらサナに抗議するコウと、椅子が倒れない程度にがんがんと蹴り続けるサナ。




「まあとにかく、良かったなヒカリ」


「はい!」


 隣で蹴り続けられるコウを見て苦笑しながら、サクはヒカリに声を掛けた。








「……ん、帰ってきたの?」



 眼鏡をかけながら階段を下ってきたミズキも、ヒカリのヘアピンにはすぐに気が付いた。



「ミズキ、おはよ! 髪の毛ぼさぼさだよ、今起きた……」




 ずいずいとヒカリの鼻先まで歩いてきたミズキは、ヘアピンをまじまじ見詰めた。



「えっ、と……ミズキさん? どうしました?」


「ふふ、可愛いヘアピンね、買ってもらったの? 大事にしなきゃ駄目よ?」


「……あ、ありがとう、ございます」



「そう、良かったわね」なんて落ち着いた返事を想像していたヒカリは、戸惑いの色を浮かべながら微笑んだ。誰がどう見ても寝ぼけているミズキは珍しく口角を上げて笑い、ヒカリの頭をぽんぽんと撫でてから洗面所に向かった。




「……私、久しぶりにミズキが寝ぼけてるとこ見た気がする」


「俺もだ」



 いつの間にか喧嘩をやめたサナ達も、ふらふらと洗面所へ歩いていくミズキの背中を見送った。
















「っていうかお前ら、なんで帰ってきたの? 明日まで休みだろ?」


 コウがコーヒーをカウンターに置いて頬杖をついている。



「なんて言うかさ、休みもいいけど、やっぱりみんなに会いたくてさ。そういうコウも同じじゃないの?」


 ヒカリの指摘に、ばつの悪そうに頭を掻いた。




「まあな。あと、家をさっさと出たかったってのもあるけど」


「お父さんいるの?」


「ああ。今日は休みなんだとよ。そうじゃなきゃ、全身筋肉痛でここまでは流石に来ない」





 そこに、身だしなみを綺麗に整えたミズキが戻ってくる。




「ヒカリ、それにサナ。やっぱり来たのね、おはよう……?」


 僅かに笑みを湛える二人を怪訝そうに見る。



「ごめんごめん何でもないわ。おはよミズキ」


「ミズキ、おはよ!」





 目を細めて二人の顔を交互に見つめるが、二人して下手な口笛の真似をして誤魔化す。その仕草についついミズキも頬を緩め、追及する気を失った。













「なあ、誰か明日、一緒にお使い行ってくれないか?」


 椅子から立ち上がったサクは、欠伸をしながら周りを見渡す。サクのこういう気の抜けた姿は、先程のミズキほどではないが珍しい。



「お使い?」



「1月15日のクローバー作戦から、俺達は大量に銃使ってるだろ? 銃弾はまだ逼迫(ひっぱく)してないとはいえ、対物火器であるパンツァーファウストの類は補充が必要だ」



「補充っつったって、武器庫かなんか襲うのか?」


 コウの危険な提案は、すぐにサクに否定される。



「それをするにしたって元手が必要だろ? 今回は命の危険はない、ただのお使いだ。今までにも俺一人で何度か行ってはいるんだが、今回は俺一人じゃ持って帰るのに骨が折れる、誰か手伝ってくれないか?」





「私行ってみたいなぁ……」


 意外にもヒカリが、その呼びかけに呼応した。



「何もせずにじっとしてるのって苦手でさ……それに、銃を持って走り回るには体力付けなきゃ!」



 所々に現れる謎の元気を不審に思いながらも、他にはいないか、とサクが周りを見渡す。



「ごめんリーダー、俺パス。昨日の畑仕事で普段使わない筋肉使ったのか、まじで全身が痛いんだ」


「私も残ってよっかな。コウ一人に留守番させてたら、何しでかすかわかんないし。それに体が鈍らないように訓練したい」



 コウとサナの二人が辞退し、残る二人は「しょうがないな」といった感じで頷いた。




「そう嫌々な顔をするな。普段じゃ見れないものが見れるかもしれないぞ。それに、強盗団から手に入れたあの爆薬の正体も掴めるかもしれない」


「え、ほんとですか?」


 珍しそうな顔で見つめるサナに、シュンは肩を竦めた。



「ごめん、まだ解析できてないんだ……金庫の壁を少量で吹き飛ばす爆薬はある程度絞れてるんだけど、少量の定義がわからないから危険で……ちょっと待っててね」



 そう言って、工作室に保管された大量の高性能爆薬の一塊を持ってきた。







「これが約1kg。もしここで爆発したら、まあ間違いなくこの辺り一体の地形が窪むかな」


 思わず、その場の全員がシュンの右手の上にのったブロックを見る。



「ほら、皆怖がるでしょ? 検証しようと思ってはいたんだけどね」



 わからないってこわいでしょ? とシュンは肩を竦めた。








「ま、今日はまだ休みだ。オンとオフの切り替えは大事だぞ」


 手を叩いてその場の空気を変える。当の本人はまた口を覆って欠伸をし、ミズキに暗い目つきで睨まれる。




「よく言う。サクが一番切り替えできてないくせに。昨日も夜遅くまで部屋の電気がついてた」



「それはあれだ、サガラさんの情報をまとめてただけさ。そんな大層なことはしてない、心配しなくても平気さ」



「ダメですよサクさん。疲れ切ってるリーダーは士気にも影響します」



「そうですよ! 人に休めって言っといて自分だけ休まないとか、許しませんからね!」


 シュンとヒカリの猛反論に、ついたじたじとなるサク。



「……わ、悪い。今日は休むよ」


 座ってコーヒーを一口飲み、嬉しそうに一瞬だけふっと笑う。





「怪しいから、皆で今日一日、サクさんを見張ることにします!」


 はいっと右手を上げ、ヒカリはサクに人差し指を突き付ける。先程からのヒカリの挙動にサクはサナを見たが、唯一事情を知っているサナは苦笑を返すだけだった。



 ――ま、あれも本心の一部なんでしょ。



 最初こそ戸惑ったが、慣れてしまえばなんてことはない。遅れてきた幼少期とでも思えばいい。



「……まあ俺の事を見張るのは良いが、それでお前たちは休めるのか?」


 腕を組んでカウンターから離れたテーブルに腰かけたヒカリはそれを聞いて、きょとんとした表情になる。


「当たり前じゃないですか。だってここが私の居場所なんですから」





「ううん、違うよ」



 ヒカリの言葉を否定し、シュンが優しく首を振る。



「ここは、僕たちみんなの居場所だよ」



 シュンの言葉で、サクの胸に暖かい何かが溢れる気がした。



 ――俺の心配は杞憂か。



 長い息を吐いて、自分の太ももを叩く。皆がサクの方を向き、不思議そうな顔をした。



「そうだな。ここは、俺たち皆の居場所だ」





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