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Goodbye in the “Light”



「皆! 大丈夫!?」


 ヒカリ達が皆の元へ降りた時、まさにサナのG36Cの弾丸が底を尽きたところだった。ジャングルスタイルのマガジンをリュックサックへしまうのを見て、コウが慌ててカバーする。


「やっぱ、俺がいないと駄目だな!」


「大口叩く割に遅かったじゃない! 頼んだ!」


 最早この場では鈍器として以外に使い道の無くなったG36C本体をリュックへ差し込む。そしてサクに頷くと、サナはミドウとアズマの元へ走った。



「よし、これより全員滑走路を通って空港から離れる! あなた達は、貨物機での亡命は今回忘れて下さい。近くの基地からミサイルが狙っているんです」


「……分かってるさ、命には代えられない」


「全員先に行け、俺がケツを持つ!」


 コウがグレネードに弾を込めて、「早く行け」とサナを急かしている。


「わかったわよ! 私が先行する、付いてきて! くれぐれも後ろから私を撃ったりしないでね?」

 そう言って列を牽引し、階段を下り始めた。












「彼等、空港から陸路で脱出を図るようです。滑走路を仲良く歩いてますよ」


 3台のハンヴィーの傍で双眼鏡を構えていた男が、ボンネットに寝転がっている上司へ状況を伝える。


「そう。格好の獲物ね」



 当の上司は寝転がったまま右手に持っていたリボルバーから弾を抜き、それぞれ別のポケットへしまっていた。それから、空になったシリンダーを左手でくるくるとまわし、親指で押しこむ。


「これからも彼等の監視ですか」


「当然。彼女達はまだまだ価値がある、組織のためには全てを利用しなければならない。忘れた?」


「いえ。……ただ、貴女が心なしか楽しそうに見えたので」


 それを聞いた上司は驚いたように跳ね起き、男を見た。


「あなたにも、人の顔色を伺うことが出来たのね?」


 それを聞いた男は目を僅かに細め、無視することに決めた。



 車から降りた上司は男から双眼鏡を受け取って、滑走路脇のフェンスに一心不乱に向かうヒカリ達を見つける。そのまま左にスライドさせ、傍の搭乗口に着けられた貨物機越しに、建物の扉から彼女たちを追跡しようと飛び出してきた兵士を確認した。


「あなた達も、力に見合わない役割を受けると大変ね」


 そう言って、双眼鏡を車内へ放り投げる。その代わりに一つのスイッチを取り出し、無造作に押す。



「乗る前にSAMに気が付いてよかったわね。さ、行きましょう」


 上司が運転席側のドアにもたれた兵士を蹴り飛ばし、ドアの表面に古いワイパーのように血糊をつけるのも、割れたドアガラスも気にせずに乗り込んだ。それに続いて男も助手席に乗り込み、珍しそうに上司を見た。


「……やはり、楽しそうですね。貴女が自分からそちらに座るとは珍しい」


 それに答えずに、上司はアクセルを優しく踏み込んだ。助手席側の無事な窓ガラスに映り込んだ、サガラ達が亡命するために使う予定だった貨物機が火を噴いてる事は、どちらも気にしなかった。











「飛行機が爆発した……!?」


 ヒカリ達が丁度フェンスの穴を抜けた所で、突如貨物機が爆発、炎上した。近くにいた追跡部隊はそれに巻き込まれて全滅していて、屍が四散している。


「ロケット? いや、音が無かった……」


「爆薬か」


 ミズキよりも先に結論に至ったアズマが、納得のいかない表情で振り返る。


「爆薬? あの飛行機に予め仕込まれてたってこと?」


「多分な。だけど、先に爆薬を仕込む時間があるのに、空港のロビーで俺達を包囲しないってのはおかしな話だ。それに、タイミングもおかしい。傍に仲間がいるのに、なんのメリットもない状態で起爆させる必要がない……」


 それを聞いていたサガラが申し訳なさそうに手をあげた。


「悪いんだけど……考えるより先に、この場から逃げないか?」


 ヒカリたちを追いかけていた部隊は爆発に巻き込まれた。他の部隊も爆発に気を取られ、行動から統率が消えている。脱出するには、最適なタイミングなのだろう。


 それでもヒカリは、あのヘリを落とした二人の影について、思案を巡らせずにはいられなかった。







 空港から遠く離れたヒカリ達は、仲間達の「――トラックに乗ってイーストブロックの駐車場まで着きました――」という無線に従って駐車場まで歩いていた。どうやらこの街の駐留軍を本当に全て空港へ向けたのだろう、一目見ただけで職務質問待ったなしの容貌だが、空港の騒動のためか通行人とは一人もすれ違わない。



「あなた達さえよければ、暫くの間我々の保護下にいるのはどうでしょうか?」


「君達の?」


 列の前の方でサクとサガラが話しあっているのが聞こえてくる。サガラの住居はもうとっくに軍が見張っているであろうことを考えると、早急にどこか他の住まいを探すべきだろう。



「そうです。他に逃走経路を用意しているなら話は別ですが、そうでないのなら、そこまで悪くはない話でしょ?」


「……それの見返りは、情報と技術の提供かい?」


 ポケットからUSBを取り出し、左右に振って見せる。



「それは?」


「おや、てっきり俺達の素性を調べ上げたうえで護衛してくれたのかと思ったが」


 わけがわからないという風にサクがヒカリを振り返る。


「その人、多分パルチザンの設計者」


 サガラの乗る車が建設現場から来たことと、車中での言動を元に情報を組み立てる。


「その通り。だけどよく俺が付けた愛称まで知ってるな?」


「公式の愛称なんですか? 別の仲間が付けた名前だったんですけど」


 その仲間とは気が合いそうだな、と笑ってサクに向き直した。


「ま、いいだろ。そのかわり、どうか俺の夢を、壊してくれ」





「……あっ!!」


「どうしたの?」


 ちらりとアズマの方を見てから、ヒカリが驚いたような声を上げる。その場にいた全員が何事かとヒカリの方を向いた。



「大変、マガジンが一つない! 落としたかもしれないから、すぐそこまで見てくる!」


「何言ってんのあんた、危ないでしょ!?」


「大丈夫、護衛の人にもついてきてもらうから!」


 そう言うと、困惑するアズマの裾を無理矢理に引っ張って角を曲がった。






「おいっ、おい! どういうつもりだ!?」


「どうも何も、逃がしてあげるんですよ!」


 誰も人のいない路地に入り込んでから、ヒカリがアズマの服を離す。それがつい数時間前まで「軍人は敵だ!」なんて言っていた少女の行動とは思えず、僅かに警戒してしまう。


「……そりゃどうも」


 そう言いつつも、視線はヒカリを捉えて離さない。



「……なに?」


 見つめてくるアズマに、ヒカリが眉根を寄せて言葉を投げる。


「やめる気は、ないんだろ?」


「ない。あなたこそ私達と一緒に戦ってくれたり」

「しないな」


 二人同時に溜息をつく。きっと二人はいつまで経っても平行線なのだろう。……或いは長い目で見たら、ゆっくりと近づいてはいるかもしれないが。


「それじゃ、これでお別れだ」



 二人の道は、交わらない。






「……あいつらをよろしく頼む。俺なんかと違って根っこから良い奴だよ、多分ミドウってやつも」


 そう言ってバンダナに指を掛けするりと解くと、足元へ捨てる。それが、このたった一日の逃避行のすべてを否定しているようで、ヒカリはつい、口を開いてしまった。



「もしも……もしも次に会う時は、敵?」



 その問いに、アズマは答えない。ヒカリに背を向けて歩きだす。



「アズマ、さん……」


 離れていく背中を叩くその声に、再び小さく溜息をついてから振り返る。その先には同じようにバンダナを外したヒカリが、唐突に右手でM&P9を向けた。虚を衝かれたアズマもファイブセブンを引き抜き、ヒカリへ向ける。



「……やっぱり、撃たないんだ」


 咄嗟の判断で銃の引金を引かなかったアズマを見て、ヒカリがほんの少し口許を綻ばせる。



「私は、ヒカリ。あなたと一緒に戦った死神の名前と、顔を、忘れないで」


 ――……意味がわからない。



 目の前の少女の行動が理解できないアズマは、それでも引き金にヒカリが指をかけていないことを確認した。


「軍人にも良い人がいるってことはわかった。それでも私は戦う。皆を救うために、良い人の手を汚させない為に」



 ――だから、だから俺は、良いやつなんかじゃないんだ。



「……そうか。お前、パルチザンを探りにノースブロックにいたんだろう?」


 コクリとヒカリが頷く。


「あれは陸軍の最高機密のはずなんだがな……どんな情報を掴んだのかは知らないけどな、用心するに越したことはないぞ」


 どちらからともなく銃を下ろした二人は、互いの目を見詰めた。それでも、どちらも互いの考えを理解する事は出来なかった。


 ……いや、きっと二人自身、自分の行動を完全に掌握することが出来なくなっているのだろう。心と体が一致していない。






 ――命を懸けた逃避行を繰り広げたんだ、しょうがない。こんな日のことは、早く忘れるのが吉さ。



『本当に? 本当に忘れちゃったの……?』


『そんな……そんな、ふざけないで……! どうしてあんたが……!!』


『……これは私の呪い。何が起きても、何を起こしても、あなたには……』





「――CS、完全に亡命者を見失いました。次の指示を――」


 無線が、暗い思考の海に沈むアズマの意識を引き上げる。


「わかってる、私たちだって用心してる。……でも、ありがとう、ございます。心配してくれて」


 拙い感謝の言葉が、鈍く痛む頭にゆっくりと沁み込んだ。



「――了解、イーストブロック全体に包囲網を敷け――」


 再度、無線が二人の間に入る。


「だってよ。くだらねえこと言ってる暇あんならさっさと行け」


 拳銃をホルスターにしまい、背嚢を担ぎなおす。右手をヒカリに向かって払ったアズマは、背を向け一歩を踏み出した。



「じゃあな……ヒカリ」



「……またね、アズマさん」








「あの護衛の人はどうした?」


 サナ達の元へ戻ったヒカリは、コウのその質問に答える前にサガラに目配せをして、何事もなかったように取り繕った。


「あの人はなんか、これ以上私達に迷惑かけるのは申し訳ないからって言って、別れちゃったよ」


 それから、深く突っ込まれないうちに話題を変える。



「それで、ミドさん達はどうするか決まったんですか?」


「ああ、決まったよ。サガラと僕は君達を手伝う。その代わりに機長やカナちゃん達を匿ってもらう。そういうことで一応話はまとまった」


 ミドウが「そうだよな?」というふうにサクの方を向き、サクが頷く。ヒカリが見た限りでは良好な関係を結んだようだった。


「とりあえず、まずはビルに戻りましょ。特にヒカリは疲れたでしょ?」


 サナが手をパンパンとたたき、目の前に見えたトラックへ走り出した。






「ヒカリちゃん」


 サナを追いかけようとするヒカリを、サガラが引き留める。


「こんな言葉では到底足りないが、ありがとう。俺たちも……あいつも、君のおかげで救われた」



 あいつ、というのはもちろんアズマの事だろう。軍人を逃がしてよかったのか? そんな疑問が心の奥底から聞こえてきたような気もしたが……



「当たり前ですよ。それが誰であろうと、目の前で困ってる人を助けるのが、私の役目なんですから!」



 ……きっと気のせいだろう。





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