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曇天に刺す時計塔





 ――寒い、寒すぎる。




 18日、比較的暖かいサウスブロックから車で丸一日以上かけて銀世界に移動したヒカリは、朝の7時から寒さに全身を震わせた。寒風に乗って、細やかな雪がヒカリの周りを漂う。



 ――おかしい、絶対おかしい! ここでもノースブロックの下の方なのに、なんでこんなに寒いの!? 本当に同じ国!?


 寒さに対して腹を立てたヒカリは、足元の雪を思いっきりザクザクと踏みつけることによって鬱憤を晴らした。


 ――指貫グローブで来なくてよかった。


 出発前に甘く見ていた自分を思い、ぞっとする。そのせいか、雪は次々と踏みならされ、後には無数の足跡のみが残った。


 ――……こんな虚しい事やってないで、仕事しなきゃ。




 ファー付きの防寒着の下のパーカー、そのさらに下のヒップホルスターからM&P9を取り出し、チャンバーに弾が装填されてることを確認してから、セーフティーレバーが上がっている事を確認してホルスターに戻す。MSRの入ったケースは、いつも使っている愛用のリュックサックから顔を出していた。



「さてと……まずはどこへ行こうかな……」


 そう言って見回すヒカリを、居酒屋や食事処の色とりどりな看板が囲んでいる。だが風が強いせいか、それともまだ朝早いせいか、人の姿はまだ見ない。


 どちらにせよ、こんなところで突っ立っているわけにもいかない。ヒカリは片側二車線の車道の真ん中に立ち、目を閉じてクルクルと回り始めた。


「……ここ!」


人差し指を刺した店は、黄緑紫の三色ネオンが入口を妖しく照らす、非常に奇怪な引き戸の建物だった。







「へいらっしゃい! おや、こんな朝から女の子が一人で来るなんて珍しいな。彼氏にでも振られたかい? 今はカフェの時間だよ」



 ドアベルを鳴らしながら店に入るとこれまた目を引く格好の男がカウンターに立っている。頭には鉢巻きを巻いているが、服装はシックな喫茶店のマスター。


 閉口したヒカリが入口に向けられた立て看板を見ると、朝はカフェとして、昼はレストランとして、そして夜は居酒屋として営業しているらしい。夜に居酒屋として使われているなら情報も集めやすいだろう。それに、男の場違いな格好にも納得がいった。


「いえいえ、彼氏なんていませんから! 少しだけお話を伺いたいんですけど、今大丈夫ですか……?」


 遅くなった返事を口にしつつ、店の中を覗き込む。午前7時半の店内には閑古鳥が鳴いていて、掛かっているBGMが心地いい。



「ああ、いいよ。ちょっと待っててくれ、今仕込みが終わるから。適当に座っててくれ」


 そう言って、カウンターの奥へ姿が見えなくなってしまった。




「お待たせ。君は客じゃないんだろ?」


 そう言って席に姿を現したオーナーは、ウインナーコーヒーを差し出してくる。ココアクリームの上に、まるで細雪のようにグラニュー糖がかけられていた。


「えっ、すいません、ありがとうございます」


「いいんだよ気にしなくて、朝は見ての通り客が少ないけど、夜は大盛況だからな。それで、態々こんなおっさんに何が聞きたいんだ?」


 オーナーが両手をテーブルの上に置いて、どっかりと座る。どこか気風のいいその態度に、ヒカリはつい鉢巻きに目をやった。



「……ここ最近、軍人の客が増えたりってことはないですか?」


 茶色いひげに気を配りつつ、アルミのコップを通して伝わる熱が妙に心地よい。


「……なるほど、君は最近軍が工事してることについて探りを入れに来たわけだ?」


 コップを傾けていたヒカリの動きが、はたと止まる。



「お? 図星か」



 にやりと笑い、鼻にクリームを付けたヒカリに紙ナプキンを差し出す。


「まあ、それがわかったから別にどうってわけじゃないんだけどな。

 確かに軍人の客は多くなったよ、大体昼の12時半ごろや、夜の10時以降は特にな。だけど、問題を起こすわけでもなく陽気に打ち解けてるから、特に問題視はしてない。……そういえば、一昨日の晩も兵士が連れと二人で口論してたよ。騒ぎになるかもと思ったんだが、幸い二人とも節度を持った大人だった」


 普段から客の観察でもしてるのだろうか。接客業をやってる人は皆こうなのかと、少しだけ恐ろしく思う。だがそれも、今のヒカリには好都合。


「軍が工事していることを知ってるんですよね。そしたら、その工事現場の場所とかは……」


「ああ、知ってるよ。何を作ってるのかは知らないけど。だけど君は、それを知ってどうするつもりだい?」


 そこでヒカリは、答えに窮した。



 ――どうしよ、ここでレジスタンスだってばらす? でも、この人は軍に通報したりしないかな……? お客の軍人とも打ち解けてる様だし……


 そしてその僅かな沈黙が、男にとっての答えとなった。



 言葉を選ぶヒカリを見て、わかりやすく肩をすくめる。


「……まあ、君が何者かは知らないけど、政府軍と仲が良くないってのはわかったよ。

 ……そうだな、それじゃ俺から一つ忠告だ。君が軍隊を倒してこの国をあいつらから解放してくれるなら、俺達一般市民にとってはとても嬉しいことだ。10年前と比べて今のこの国は息苦しいからな。

 だけど、軍人一人一人が悪の権化かなんかとは思わない方がいい。あいつらだって兵士である以前に一人の人間なんだから。話してみたらとてもいい奴かもしれないし、実はとても軍のお偉いさんに不満を抱いてるかもしれねえ。それをわかってくれるなら、俺は快く工事現場の場所を教えることができるね」



 ――そんなこと、わかってるつもり。でも……



「…………はい」


 ――でも、中にはどうしようもない悪人だっているんですよ。





「すいません、ありがとうございました」


 席を立ち、深々と頭を下げてから出口に向かう。ヒカリの手には簡単な地図が握られていた。


「街の外れや普段人が通らないところは雪が積もったままだから、注意しろよ!」


 ドアベルの音を残して店から出ると、再びとてつもない寒さがヒカリを襲った。



 ――まずは、自分の足でさっき教えてもらった場所に向かおう。とんでもなく遠いわけじゃないらしいから、歩きでも行ける筈。









「――こちらミズキ、サナから伝言。『やっと着いたわヒカリ、まだ生きてる?』だって――」


「……私は死ぬ前提? 大丈夫、生きてるよって言っておいて。申し訳ないけど、丁度建設地に辿り着いたからまたあとでね」


 ヒカリは無線機の電源を切って、リュックサックから双眼鏡を取り出す。



 パルチザン建設現場のすぐ傍まで伸びる森の中をひたすら歩いていたヒカリは、木々の切れ間に赤いクレーンが立っていたのを見逃さなかった。


「やっと辿り着いた……おかしいな、まさか、こんなに時間かかるとは、思ってなかったんだけど……」


 車に踏み固められた道路から外れ、柔らかな雪や完全に凍り付いた小川を2時間近く歩いたヒカリは相当の体力を奪われていて、少しだけ息の上がったまま双眼鏡を出して覗き込んだ。




「歩哨は……6人、全員完全装備か。あの銃はSCARじゃないな、SG552かな。随分とまあ高級品を……それだけここが大事ってことか、或いはあの部隊が特別なのか。でもなんで短いカービンモデル? 拠点防衛用なら……まあいいや、とりあえず要チェック。

 傍にはパイプテントで、その中には……ストーブ代わりのドラム缶と、固定機銃。M2か。現場の周辺は背の高いフェンスで囲まれてる。身軽なサナとかなら乗り越えられるかもしれないけど、問題はあれが野生動物対策かなんかで、通電してる可能性があるなぁ……」



 ヒカリは巨大な建設現場の北東から偵察していたが、そこから見るだけでも現場に4本の道が伸びており、ご丁寧に全ての入り口に同じセットの防衛体制が敷かれている様子が見て取れる。有り体にいえば、とても厳重だった。


「内部は……装甲車が2、4、6……ぱっと見12台。うわ、攻撃ヘリも2機。仮設の兵舎に、武器弾薬庫、トイレ。反対側はここからじゃ、建設途中のレールガンのせいで見えない。

 あれは……白衣の人が見える、じゃあ研究員の官舎? ダンプも多いな、運転手も作業員も一般人みたい。あ、そういえば肝心の砲台はどれぐらい……」



 そうやって様々な情報を手帳に書き留めていると、ふと駐車場の傍を覗いたときに手帳を書く手が止まった。寒さによる震えは止まることを知らなかったが。



「なんであんな離れたところに一台だけ、ポツンと停めてあるんだろう……」


 駐車場の隅に、青いビニールシートで覆われた車両があった。表から見たらただの資材のようにしか見えないだろうが、裏から見たヒカリには、シートで覆い隠し切れていないところにテールライトが付いていることを確認した。


「……まあいいか、他にも偵察しなきゃ」



 そう言って、再び双眼鏡を動かしてひたすら周囲の情報を集めた。1枚、また1枚と手帳が黒いインクで染まっていく。










「ひっどいヒカリ、折角連絡してもらったのにすぐ切ったのね……」


 一方でウエストブロックでは、長距離移動で固まった体をほぐすサナが、ミズキの連絡を受けてぼやいている。ほかのメンバーがアパートを取り囲む配置につくまで、まだ余裕があるからだろう。


「姑みたいで嫌われたんだろ、多分」


 隣で無線を聞いていたコウが軽口を叩いて、いつも通りサナに蹴りを喰らっていた。



「――ほらそこの夫婦、もう少し集中しなさい――」



 アパートと同じ敷地に位置する給水塔には、ミズキが既に待機していた。上から様子を見ていたようで、無線越しに珍しい冗談が飛んでくる。それに二人は同時に情けない返事を出した。


 サクが静かに笑いつつ、咳払いをして落ち着き払った声で語りかけるように指示を飛ばす。


「――これからアパートの205号室へアンブッシュ(待ち伏せ)を警戒しつつ静かに突入する。コウとサナは西側階段から、他は俺と一緒に東側階段から上がるぞ。準備は良いか?――」


「こちらサナとコウ、準備よし」


「――俺達も、いつでも行けます!――」


「――こちらミズキ、不審な物体及び人影は見当たらない。原始的なブービートラップに注意――」


「――こちらサク、了解。全員……突入――」




 サクの合図と共に歩みを進めたサナ達は、アパートの廊下へ水が浸透するように静かに侵入していった。



「一階クリア」


「――東階段クリア――」


 音も立てずに階段を駆け足で昇り、先頭を行くコウを射線に入れないようサナは上手にG36Cカービン銃を操る。


「西階段クリア」


 コウが無線を抑える手を離してから、ジェスチャーでサナに上を指す。無言で頷くと一旦カービンの銃口を下げてから、階段の踊り場に立って再び銃をしっかり保持する。階段を着実に上り、三階の廊下の手前の壁に右肩を付けて息を整える。そしてちいさく息を吐き出してから、90度回転して銃を構える。


「……3階廊下クリア、それより上階はなし」


「――2階廊下クリア。サナ、戻ってこい――」



 2階、右から5番目の部屋のドアの前で6人が集合する。


「これから鍵をさす、全員警戒を怠らず、少し離れろ」


 鍵を持ったサクがゆっくりと鍵穴に差し込んでいき、ひとつひとつの動作の音を確かめるように目を瞑る。奥まで差しこんでから鍵をまわすと、何事もなくカチャリとドアのデッドロックが動く音が響く。


「……よし、サナ」


 名前を呼ばれたサナは腰から手鏡を取り出すと、最大限静かにドアを開けて隙間に鏡を差し込んだ。


「ドアにもトラップなし、敵の姿も無いわ」


 手鏡を引き抜き、サクに頷きかける。



「……よし、突入!」


 部屋の中に土足で駆け込むと、中には誰もいなかった。リビングの中央にはカーテンの隙間から漏れる光に照らされるテーブルがあり、その上で爆薬が小山を形成してる以外はなんの変哲もない貸し部屋だった。


「室内クリア!」


 結局蓋を開けてみれば、何の待ち伏せも罠も仕掛けられていなかった。


「……なんだか拍子抜け」



 肩をすくめたサナはカービンを片手に持ち替えると、代わりに無線機に手を伸ばした。


「ミズキ、聞こえる? 結局なんの妨害もなかったわ。ただの杞憂みたい、さっさとあいつを回収しに……あ、ちょっと待って」


 無線を飛ばしながら室内を歩いていたら、小山の傍に紙の書き置きの様なものがあるのに気が付いた。近付いて手に取ると、カーテンを開け紙を太陽に透かす。


「『ご健闘をお祈りします』……これ、一昨日の狙撃手が書いた字に似てる……」


 そしてその言葉の下には、デフォルメされた猫が毛糸玉で遊ぶ姿があった。












 ヒカリが建設現場の偵察を終え再び街中へ戻ってきたときには、寒さ対策の厚着が災いして汗でべたべたになっていた。一歩一歩大きく膝を曲げ、足にまとわりつこうとする雪から逃げるように、ただひたすらに前へ進む。



「おっ、やっと戻ってきたか」


 前方に広がる街を見ると、数時間前に話を聞いたオーナーが、壁に寄りかかって立っていた。立ち止まって会釈しようとした時、突然背後からクラクションを鳴らされてちいさく跳ねあがる。ダンプカーが雪を吹き飛ばしつつ、速度を落とすことなくまっすぐに進んできていた。慌てて脇へ逸れると、近付いてきたオーナーに背中をばしばし叩かれる。


「おいおい、大丈夫か? 道の真ん中歩いてたら危ねえだろ。わざわざ他所のブロックからこんな所まで来たのに、車に轢かれましたじゃ笑えないぜ」


「ごめんなさい、すいません……あれ? なんで私が違うブロックの住民だってわかったんですか?」


 少し疲れた頭を回転させて言動を振り返るが、自分についての情報は出していない筈だ。



「そりゃ、普段から車の往来が許可されてるのはこのブロックだけだからな。ここら辺は住宅街だからそうでもないが、ノースブロックは鉱山だったり工場だったりが沢山あるから、特別に許可されてるんだよ」


 ――そう言えば、さっき私を轢きそうになった車もダンプカーだった……



 今日初めてノースブロックへ足を伸ばしたヒカリは、素直に驚いた。他のブロックは原則車両通行は禁止されていて、軍関係者や緊急の用件がある場合に限り許可される仕組みだった。許可の無い車が進入しようとすると、道路からボラードと呼ばれるポールが伸びてきて車を止めるようになっている。


 そういえば、と後ろを振り返る。どのブロックの入り口にも必ずある立体駐車場や検問所が、今通ってきた道には見受けられなかった。


「違うブロックから来る奴がスキー板を持ってなくて苦労するのは毎週あるからな。板の貸し出しはしてないが、せめて飲み物でも飲ませてやろうと思って待ってたんだ」


 そう言ってヒカリは、再びあの喫茶店へと導かれた。








「さ、今度はホットレモンティーだ、すっきりするぜ。それと、タオルな。これは当然未使用だから安心してくれ」


 タオルで汗ばんだ体を拭いながら話を聞いていると、どうやらここら辺は豪雪地帯なので、雪の上を歩くために殆どの人がスキー板を持っているらしい。


「なんでスキー用の板なんですか? まさか、雪の上を滑りながら移動するわけじゃ……」


 そう言うと親父さんは、その巨躯に見合った声量で豪快に笑いだした。それだけでは耐えきれず、カウンターをばしばしと叩き始める。


「嬢ちゃん、発想が面白いな。だけど皆が皆そんなことやってたら、危なくておちおち外になんか出れなくなっちまうよ。

 そうじゃなくて、靴だけで雪の上を歩くより、板を履いてから歩いたほうが雪に沈みにくいんだよ。少なくともここら辺の連中は、踏み固められてない場所を歩くとき、その手段を取る」



 普段サウスブロックには雪がほとんど降らないので、ヒカリには驚く事ばかりだった。手帳の空いてるページに今聞いた話を書き込む。


「雪に足取られると、思いのほか疲れるだろ?」


「確かに、くたくたです……実際、行きも時間がかかりましたけど、帰りはもっと道が長いように感じました……」


「だろ? そもそも、俺たちだって滅多に雪の積もってる所なんか歩かねえ、普段は雪掻きした道の上を歩くからな」



 ――ま、あと一時間くらいしたら現場が昼休みになって客が来るが、それまではゆっくりしてけや。


 大きな鍋を火に掛けながら、優しくヒカリに声をかける。




「お気持ちはとても嬉しいし、このレモンティーもとてもおいしいんですけど、まだやらなきゃいけない事があって……ここら辺で周囲を見渡せるような所ってありませんか?」


「それが観光目的なら嬉しいし、いくつか名所を案内できるが……嬢ちゃんが探してるのはそういうんじゃないだろ」


 ――私の呼び名は嬢ちゃんに決まっちゃったのかな……



「だとしたら、一番良いのは……あれだな。あのでけえのが、スカイクロック。この街のシンボルだよ」


 そう言って、カウンター正面の大きなガラスの向こう、町並みを見下ろすように作られた巨大な時計塔を指す。その時計は、11時24分を示していた。









 ――私何人分の高さだろう……



 巨大な時計塔の足元にポツンと立ち竦むヒカリは、口を開けながら大空にそびえ立つ塔を眺めてそんな事を考えていた。その塔は完全な長方形でなく、その側面のいたるところから、素晴らしい眺望が約束されたバルコニーのような空間がせり出している。


 喫茶店からこのスカイクロックまで20分程かかり、お腹の減ったヒカリは親父さんに作ってもらったサンドイッチをぱくぱく食べた。



 ――きゅうりがシャキシャキしてる。



 パンくずを落としながら入口を探して時計塔の周りをぐるぐると歩いていると、二周目に壁からノブが飛び出しているのを発見した。その扉は目立たないように壁と同じ色で塗装されていた。


 二つ目のハムカツサンドを食べながら扉の前に立つ。扉には『関係者以外立入禁止!』と書かれていたが、鍵も電子認証の類も見当たらない。


 ゆっくりとノブを回して重たい扉を開けると、薄暗い塔の中、目の前に無数の歯車が上へ伸びていて、それを取り巻くように螺旋階段――螺旋というより、塔の壁に沿って作られているので四角形になった階段――が続いている。そして足元には、誰かの靴に付着した雪が溶けた足跡が残っていた。



 ――先客がいる。



 サンドイッチを無理矢理口に詰め込んで腰からM&P9を取り出し、セーフティを解除したヒカリは、無限に続くかのような塔を再び仰ぎ見てから何百分かの1歩めを踏み出した。





 足音が響かないよう常に気を張り詰めながら階段を上るのは、相当に疲れる。所々に設置された小窓は、自分がどれ程上ったのかを把握させてくれたが、同時にこれだけ上がってもまだ先があるのかという気分にもさせられた。



 ただ、ひたすら階段を上る時間はすぐに終わった。



 ヒカリが塔に入っておよそ10分。塔の外側に飛び出したバルコニーを横目に見るのも4回目になろうかという所で、傍に設置された扉から微かに音が漏れ聞こえてくる。近くにあった小窓では全体を確認する事は出来ず、物音の発生源も見当たらない。それでもなんとか確認しようと窓におでこをくっつけていると、今度はより大きな金属の音が舌打ちと共に聞こえた。


 この音はヒカリにも聞きおぼえがある。メンバーの子供が銃弾の入ってる箱を落としてしまって、銃弾が床に散らばった時と似た音だ。




 ポケットからバンダナを取り出し、ヒカリは意を決してドアノブに手をかけた。




中々下書きの添削に時間が回せず、一か月ほど空いてしまいました。相変わらず動きは少ないですが、ご意見、ご感想お待ちしております。

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