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単独任務を任命する



「なるほど、サナの持ち帰った書類とヒカリの槍で、そんなことがわかったか……シュン、ミズキ、ありがとう」



 強盗団の尋問から暫く後、サクは一階エントランスのカウンターでシュンとミズキによる“パルチザン”――対空レールガンの報告を受けた。時計の針は既に6時を示していて、窓の外は街灯が儚げに灯っている。端でテレビを見ていたメンバーが、サク達に気がついて何やら内緒話を始めるのが視界に入った。



「……それは良いんですけど、その人たちは?」


 カウンターの内側で肘をつくサクの後ろ、見知らぬ男が2人所在無げに立ち竦んでいた。シュンにとっては初対面だが、ミズキはその服装に見覚えがある。


「この人たちは、俺達の新しい仲間だ。当然訓練や何やらをして、他の仲間と同じように扱う」

 説明を求める2人の視線を受けて、最小限の言葉だけを口にする。


「また拾ってきたの……? 人材派遣会社とか、そっちの副業にも手を出せば?」


 その皮肉でシュンにも2人の素性がわかったのだろう。眉根を寄せてサクを見詰めている。


「どうした?」


「いや……大丈夫ですか?」



 シュンは強盗団の素行を懸念していた。現にほんの数時間前まで彼等はただの犯罪者、その心配はあって当然だろう。サクとしてもそれを説明しなければならないと、腹を決めている事だった。


「もっともだな。……だけど俺達にはとにもかくにも手が足りないんだ。あっちの人もこっちの人も救いたい、だけど肝心な時に力が無い。そしたら、どこかで無辜の命を切り捨てる必要が生まれる。俺は、お前達やあいつ等にそんな選択をさせたくない。特に、「いつだって誰にだって手を伸ばす」って息巻いてる奴には。

 シュンの反対は当然だし、他にもそう感じる人はいるだろう。だがそれを認めて……いや、説得してみせないと、俺はリーダーとして職務を全うしてるとは言えないだろ?」


「……わかった」


 それでも尚渋々といった顔のシュンに、サクは声を落として告げる。



「どうしても無理なようなら……その時は俺の責任さ、何とかするさ」



 言ってる内容は曖昧だが、そこに揺るぎない決意を感じたシュンは、しっかりと頷いた。








 シュンを納得させたサクは、エントランスで待機していた他のメンバーを帰らせた。大体のメンバーは事前に伝えたサクの命令通り既に帰っていたが、現に今、テレビを見ながらコーヒーを啜る女性メンバーがいる。


 冬の6時はとっくに暗いが、それでも非常用に残っていてくれたのだろう。感謝を告げて、その背中を送り出す。サクについてきた元強盗団の2人はやることもなく、今はメンバーになり変わりテレビを見ていた。


 それからサクは、ミズキがプリントアウトしたパルチザンについてのデータ書類に軽く目を通した。


「パルチザンねぇ……その完成はまだわからないのか?」


「そこまではわからなかった。それに、もっと心配な点がある」


 あまり感情を表情に出すことはないが、それでもミズキの顔が僅かに陰ったのを見逃しはしなかった。



「わかってるよ。この情報はミズキが手に入れたんだろ?」


「そう。政府軍のデータベースに侵入したら見つかった」


 ヒカリが槍を持ち帰ったのは今日の3時ごろ。まだ3時間と少ししか経っていないというのに、こんなレベルの高い機密事項を入手できるのは、率直に言って順調すぎるだろう。


「そうなんだよなぁ、問題は、これほど重要になりそうな兵器の情報を、苦も無く入手できるのが問題なんだよ」



 ――だとしたら、この情報はブラフか? いや、それじゃここに実際にある槍や、工場から持ち帰った書類まで偽物ということになる。ということは……? 



「……撒かれた、餌」



 ミズキの呟きが、嫌に頭の中に残る。サクの中でも、その線が濃厚だったからだ。


「恐らくはそうだろうが、だとしても相手方の目的が分からない。態々こんな兵器の情報をリークさせて、何のメリットがある? 釣り針にしては大きすぎる」


 誰もその問いに、答えられない。




 そこまで考えて、サクは天井を仰いだ。


「……わからないことが多くて、疲れた」


 カウンター内側のハイチェアに腰かけるシュンは、両膝をつき頭を抱えるサクを心配するように声をかける。


「他にも何か?」


「ああ。さっきの強盗団の爆薬の入手経路がな。どうやら、どっかの組織が横流ししたらしいんだ」


 横流しと聞いて、2人の表情は瞬時に険しくなる。



「その組織は軍に対立してる?」


「わからんが、軍所属の秘密部隊、とかではないと思うよ。自分達の手で治安を悪化させる必要はないし、その組織は計画の支障にならないよう、現地の駐留軍を何らかの方法で足止めしていた可能性がある。そして何より、女の子が強盗団の元へ直接コンタクトを図ったらしい」


 溜息と共に肩をすくめる。



「女の子ですか……もしかすると、うちみたいな反政府組織だったりは?」


 かもな、と会話を打ち切って、シュンが手渡したペットボトルを傾ける。


「久しぶりに炭酸飲むと、やっぱ美味しいな」


 刺激に痛めた舌を出し、サクは2人を笑わせる。


「これを飲んだら皆を呼んでくれ。まだいるだろ?」


「うん、医務室に」


 不思議そうな顔をするサクはここで、ようやくヒカリが倒れた事を知った。












「悪いな、こう何度も会議を立て続けで」


 医務室に再度集まった6人は、ヒカリの横たわるベッドを囲う様に立つ。



「具合は平気なのか?」


「はい、もうすっかり。ただの貧血からの立ちくらみですよ、心配しないでください」


 ヒカリの笑顔は本当に屈託のないものだった。集まる前にシュンから話を聞いたサクでさえ、ともすれば勘違いしてしまいそうなほど。



「……俺としても皆を休ませたいんだけど、現状そうも言ってられないんだ。皆、シュンとミズキからパルチザンの話は聞いてるんだろう?」


「聞いてる聞いてる。俺達はパルチザンの偵察に行くんだろ?」


 コウが人差指を立てて、さも名探偵のように推理して見せた。



「察しが良いな、コウ。だけど惜しいな、実質的な偵察はヒカリ一人に行ってもらいたい」


「えっ、私一人ですか……? いや、一人でも出来ますけど……」


 今までヒカリが一人で任務を任されることが無かったため、ヒカリは当然のこと、その場にいた全員が驚く。



「一人だけで敵の偵察になんて、危険すぎる!」


 その言葉が誰のものか、サクには考えるまでもなかった。ガルルルと今にも噛みつこうとするサナを、コウとシュンが抑える。


 ある程度サナの態度は想像していたが、それでもその本気に過ぎる否定に、胸の中でくすぶっていた何かが広まるような、不安に似た感情が芽生える。




「そう言うと思ったよ。だけど、危険だからこそなんだ」

 食ってかかるサナを落ち着かせようと、顎に手を添えたサクは長い息を吐き出した。



「折角だ。ここで狙撃手についてしっかり意識を共有してもらいたい。狙撃手になれるのは、ただ射撃が上手い奴じゃない事はわかるだろ? 咄嗟の機転、瞬間の判断、様々な要素を計算して狙撃を成功させる頭、そして常に冷静沈着な心。政府軍でもそうだが、スナイパーというのは歩兵の中でもかなりのエリート、精鋭だ。とんでもない奴なら、狙撃手一人で一隊を丸一日拘束できる程のな」



 改めて自分の肩に乗せられた責務を考え、ヒカリはむず痒そうに頬を掻く。そして今朝、雪に残った足跡を消し忘れた失態を思い出し、私はまだまだ駄目なんだと自らを戒めた。



「大規模な作戦の際はミズキが傍にいるとはいえ、背後を取られたら命取りだ。ヒカリには、単独でも行動出来る力を付けてほしい。今回はあまり踏み込みすぎなければ危険はない、その力はそのまま敵情視察にも応用できる。

 それに、他にもやることがあるんだ」



 そう言って、サクがさっきビルに連れて帰ってきた強盗団のリーダーを入室させる。事情を聞いていたミズキ、シュンは特に驚かなかったが、ヒカリやサナは目を鋭くした。


「落ち着けよ二人とも、この人は誰だ?」


 作戦に付いてこなかったコウだけは目の前の男の事を知らない為、困惑と敵意を見せる2人を宥める。


「この人はさっきまで強盗団のリーダーだった。今は改心してもう仲間だ。

 彼が言うには、彼が住んでいたウエストブロックのアパートに、高性能爆薬がまだ残されているらしい。俺達はそれを取りに行こうと思うんだが……」


 言葉尻を濁し、質問を待つ。



「……なんでウエストブロックの人間がサウスブロックに?」


 腕を組むサナは、疑わしそうな目を男に向ける。居心地悪そうな男は自分の首に手を回しながらも、事実だけを包み隠さず話した。


「『犯罪を起こすにはサウスブロックが良い』って言われたんだよ、爆薬持ってきた奴に。たった10分の1で、しかも俺たちみたいな素人が下手に設置しても金庫の分厚いドアは簡単に爆破出来た。今部屋に置いてある残りの爆薬も、きっと必要になるんだろ?」


 お前達が何をしたいのかは知らねえけど。素知らぬふりをして嘯く男に、サナは再度牙をむき、そしてコウに押さえられる。



「その通り。だけど、万が一にも罠や待ち伏せの可能性があるから、場合によってはこっちの方が危険だ。そこで、これから二つの任務を同時にこなしたいと思う」


 落ち着かないサナに苦笑しつつ、サクは深く息を吸う。纏う空気が変わったのが、誰の目からも明らかだった。




「ウエストブロックの回収班はコウ、サナ、ミズキ、それと他のメンバーを4人程と、あとは俺。

 そしてノースブロックは、ヒカリ一人だ。いいな?」


 最後の呼びかけは、おもにヒカリに対してのものだった。初めての単独任務に緊張していないといえば嘘になる、不安だってある、だが……


「はいっ!」


 だが、ヒカリはしっかりと頷いた。



「それなら、それぞれ装備の点検や心の用意をしとけよ! 今夜ここを発ち、明後日には各ブロックへ着くだろうから」


 実のところ、ヒカリは嬉しかった。サクが自分を信頼して単独任務を与えてくれたことで、自分は子供扱いされなくなったんだという一種の解放感を味わっていた。








ここのところ少し期間が空いてしまっていますが、お許しください。

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