オペレーション:ビジランテ
爆発と銃声が、雪にもたらされた静寂と遊び声とを切り裂く。灰色の雲に立ち込める黒い煙が、事態の深刻さを一目で示していた。
白かった道路が、泥や砂で黒く汚されていく。その混乱はまるで、水にインクを垂らすように拡散していった。
白と黒。ひどくはっきりと分かれた二色が、至る所で混ざり合っている。
「君、そっちに行くのはやめなさい! そっちには銃を乱射してる奴がいる!」
ヒカリが街の中心部――爆発の起こった方へ走っていると、すれ違うサラリーマンの手が肩に掛かる。それでもヒカリはその手を払うと、親切な男の方を向いた。
「わかってます、でも大丈夫です! とにかく、まだ他にも爆薬があるかもしれない、あなたはとにかく逃げて下さい!」
そして軽く頭を下げると、人波をかき分けるように前進する。
「あっ、おい!」
ヒカリの背中に手を伸ばしたサラリーマンは、家の中から飛び出してきた家族にもみくちゃにされ埋もれていった。
ヒカリは流れる人の波をなんとか掻い潜りながら、1時間ほど前にサクに手渡された新型の通信機を手に取り、脇に付けられたボタンを押しこんだ。普段から使っている無線機と違い、送信相手が液晶に表示されているせいで、まさに電話のようだ。もっとも、今画面に表示されているのは、「全員」という文字だけだったが。
「こちらヒカリ、誰か聞こえる!?」
上がった息を整えるため、走りから早歩きにシフトする。人ごみを逆行するのは想像以上に疲れたらしい。
「――こちらサナ、今どこ!? さっきから何度もヒカリに呼びかけてるんだから!――」
極々小さなノイズが走り、続く形でサナの声が飛び出してくる。以前の無線機よりも綺麗になったサナの声を聞いて、高性能なんだなぁ……なんて能天気な事をふと思う。
「えっ、本当? 何の反応もなかったけど。そんなことより、街中で爆発が起きてる!」
そして目の前の黒煙を見て、自分の頬を叩くのだ。
デバイスに耳を傾けつつ、走りゆく人々の様子を観察する。その表情は1人1人違うが、少なくとも一つ、全員に共通する特徴をヒカリは見出した。
歪んだ表情。そこからヒカリは、確かに恐怖を感じ取った。
――少なくともここまで走ってきた限り、誰も負傷はしてなかった。爆発地点までは多分、まだ1.2kmくらい先だ。誰かが傷付く前に行かないと。
「――私達もそっちへ向かってる! あんたの銃も私が持ってるから、合流してから渡す!――」
「わかった!」
頼もしいサナの声に頷くと、通信機を腰のホルダーへ戻そうとする。だがヒカリの手を離れる直前、再び通信機から声が聞こえた。
「――こちらサク。ヒカリ、聞こえるか?――」
――あれ、きちんと反応してるな……
突然のリーダーからの通信にも、通信が無事に届いたことにも、ヒカリは首を傾げる。
「こちらヒカリ、どうぞ?」
「――街で暴れているのは銀行強盗だ。逃げてきた人の話を総合すると、恐らく脅威は7名。それぞれ自動小銃や散弾銃で武装をしているものの、私服だったそうだ。敵性グループは銀行を襲撃し、その奥にあると思われている金庫を爆破。それがあの黒煙の正体だ。
たまたま職務中だったメンバーの行員によると、射撃及び爆破による負傷者は行内にはゼロ。金塊や紙幣を持てるだけ詰め込んだグループはその後、街の外へ向かっているらしい――」
レジスタンス構成員の出自は様々だ。専業主夫からフリーター、果ては会社経営者やエリート行員。諜報活動はその多彩さによるものが大きかった。今回も、比較的古株のメンバーが銀行で働いていたらしい。それ故の情報は、ここからどう行動するか決定するに足る重要なものだった。
「街の外……車?」
つと立ち止まり、強盗団の行動目的を察する。
「――ああ、そうだろうな。街の中には乗り入れられないからな、外に待機してるであろう車で逃走を図るつもりだろう。今俺達は先回りして、強盗の進路上にある筈の公園に向かってる。ヒカリも来い――」
流石にサクも分かっていたのだろう。通信機の向こうからも人々の喧騒が微かに聞こえる。
「了解!」
通信を切ると、画面が光りだしてマップが表示された。きっとサクがGPSを送ってきたのだろう。マップの中心にある公園に、ピンが刺さっていた。そのすぐ北部はブロックの切れ目で、急がなければならない。
「――それとヒカリ……――」
切れたと思った通信機から、再度サクの声が漏れ聞こえる。腰のホルダーから通信機を持ち上げると、どこか歯切れの悪い声に返事をした。
「はい? どうしました?」
僅かに溜息が聞こえたのは、何故だろうか。
「――……悪かった。別にヒカリからMSRを取り上げたかったわけじゃないんだ。ただ、あいつがヒカリを苦しめたり、危険にさらしたりするのは……――」
弁明を図るサクに、そんなことかと噴き出すヒカリ。
「大丈夫ですよ、リーダー。私も少しオーバーでした。それに、散歩したらすっきりしましたし」
「――……そうか、それならいいんだ……――」
どこか疑問を含んだサクの声は、無線の切れる音に掻き消されて霧散した。
いくつかの交差点を曲がり、街の中心部が遠ざかっていく。5分ほど走り続け、逃げ惑う人の姿が少なくなってきた頃、ようやく木に囲まれた公園が見えてきた。
「やっと来た、ヒカリ! 周辺の人は粗方避難させておいたから」
「了解!」
公園の入り口では、背中にヒカリのケースを背負ったサナが、二輪車進入禁止用のポールに腰掛けて待っていた。
「一緒に来た他のメンバーは近くのビルに隠れてる。ヒカリは公園の向こう側、街の外の方で援護して。詳細は無線で話す!」
ごく簡単な説明を受ける間に少しだけ息を整えて、サナの持つMSRを受け取って走り出す。走るのに邪魔なケースを担いではいるが、まるで関係ないとばかりに公園を駆ける。ともすれば、ケースを持つ今の方が走りやすそうにすら見えた。
そんな背中を不思議そうに見ていたサナも、気を取り直して走り出す。
「――こちらサナ、ヒカリと合流、私も配置につく――」
「――こちらサク、了解。ヒカリ、公園を抜けた先にあるビルに窓ふき用のゴンドラが降りてきている筈だ、それに乗りこんでくれ――」
通信機から垂れ流される会話を聞きつつ公園を通り抜け、ビルの壁の前で立ち止まった。脇にある小さな路地に入って数分歩けば、そこはもうサウスブロックの外。ここで逃してしまえば、強盗団は逃げ果せることだろう。それは阻止せねばならない。
路地から離れ、左右を見渡す。一際背の高いビルの屋上から吊り下げられたゴンドラが、地面から50cm程の所で揺れているのを発見した。
ゴンドラに飛び乗り、中にあった『上昇』というボタンを押す。だがピクリともしない。
「ゴンドラあったけど、ボタンが反応しませんよ?」
ビル清掃のバイトなんてしたことないしなぁ……なんてぼやきつつ辺りを見回すと、傍に操作説明書が置いてあるのに気付いた。『優先権をケージに移してね!』と喋る可愛いネズミが書いてある手書きのだ。
「ごめん、なんでもないです!」
「――……? そしたら、これから作戦を説明する。俺、サクのA班とサナのB班は、強盗が通ると推測されるT字路脇にあるビルの2、3階で待機。ミズキは政府軍の警戒。ヒカリには、正確な威嚇射撃を頼みたい。ただし、危険があると判断したら撃ちぬけ――」
ネズミの言うとおりにボタンをいじり、ワイヤーの張り詰める音と共にゴンドラが上空へと巻き上げられていく。ゆっくりと遠ざかっていく地面を見て、観覧車を思い出す。
「把握しました、威嚇ですね。……あれ、コウは待機ですか?」
「――こちらミズキ、他のメンバーは、待機と避難指示が半々くらい。コウは避難指示、シュンはヒカリが持ち帰った槍を検分中。他の皆は昨日の今日で傷が癒えていない。無理矢理戦闘させていたら、心が壊れるから――」
そう言われてヒカリは、昨日の戦闘を思い出した。明確な敵意に曝されて、引金すら引けていない仲間も少なくなかった。
「――大丈夫よヒカリ。相手はプロじゃない、今日は無事に勝てる筈。安心して私に任せなさい!――」
きっと得意げな顔をしているのだろう。ヒカリの意識を引き戻したサナの声は、心の底から自分達を信じていた。
「――ごめんなさい、一つ忘れてた。ヒカリ、作戦名何にする?――」
たった今思い出したようにミズキが、突拍子もなく話を振る。
「えっミズキ、このタイミングで!?」
忘れてればよかったのに……と言おうと思ったが、普段より少しだけ声が高かったから、きっとわざとなのだろう。誰もいないからと、ゴンドラの中で1人頬を膨らませる。
「――なんだ、ヒカリが名前を付けてくれるのか?――」
――なんでサクさんまで乗り気になってるのさ、リーダーなんだからサクさんが付けて下さいよ……はぁ。
「――ん、すまんヒカリ、何て言ったかよく聞こえなかった――」
「なんでもないです。うーん……Vigilanteとか?」
今までの知識とセンスを総動員させ、皆に笑われないような名前を考える。
――それとも、皆が笑うような名前の方がいいのかな?
「――ビジランテ……自警団か――」
独り言のように呟いて、サクはヒカリに何も言わず無線を切る。その直後に、今まで使っていた幼馴染用のデバイスではない、この場にいる全員と交信するための古い無線機の方が反応を示した。
「――こちらサク、大事な話がある、全員聞こえるか?――」
無線機から、仲間達の応答が流れてくる。ヒカリはどこか嫌な予感がしていたが……サクを止めるには、少し遅かった。
「――今回の作戦に名前がついたぞ。作戦名は、ビジランテだ。皆ヒカリに感謝しろ――」
「嘘でしょサクさん、なんでわざわざ私の名前まで出すんですか!?」
思わず無線機を握り締め、半ば怒鳴る様にして訴える。
「――そう怒るな、なにも嫌がらせでやってるわけじゃないんだから――」
そう言うサクは、どこか愉快そうに聞こえた。
「――そうだヒカリちゃん、良い名前じゃねえか。これからも頼むぜ!――」
メンバーの相次ぐ同意も、ヒカリには意地悪にしか聞こえなかった。
「――こちらミズキ、強盗団の接近を確認。人数は7人、こちらには気が付いていない――」
いつも通りの声音に戻ったミズキが、程良く弛緩した空気を引きしめる。
「――さあみんな、リラックスできたか? 早速お出ましだぞ――」
サクの言葉で、全員が深く息を吸い込む。
「――オペレーション:ビジランテ、開始!――」
ビルの中頃、揺れの収まったゴンドラの縁にMSRのハンドガードを乗せて、ヒカリはスコープを覗き込む。
十字線の向こうには、至る所へおっかなびっくりに銃口を向ける集団がいた。目出し帽の下がどんな表情なのかは分からないが、気にせず銃を向ける。
強盗団近くの様子を見ていたら、近くに個人の電器店があるのが確認できた。銃を保持したまま左手で無線機を取る。
「こちらヒカリ、T字路中央のテレビを飾ってる店が見える? 対象がその前を通るタイミングでショーウインドウを狙撃します」
仲間の返事を待たずに、再びきちんと銃を構える。
強盗団は銃を振り回しながら前進していて、見ているこっちが危なっかしく感じた。互いに互いを射線上に捉え、最後尾の者は常に散弾銃を列の前方に向けている。本職の軍人が不在のレジスタンスでも徹底している仲間同士の連携が、強盗団は出来ていないように見える。誤って引き金を引いただけで、少なくとも2人は同時に被弾するだろう。
そして、A班とB班の待機しているビルの傍、T字路の中心に位置する電器店の正面に強盗団が差し掛かった時、ヒカリは引金を引いた。
銃弾は強盗団の3人目の目と鼻の先、僅か数十cm先の空気を引き裂き、ショーウインドウを割る。
「なんだ、ガラスが割れたぞ?!」
一同の真横にあるショーウインドウが割れ、きらきらと光る破片が彼らを襲う。何があったのかと周囲を見回す先頭の男の目に、腰を抜かして倒れこんでいる仲間の姿が映った。
「おい、どうした? 何があった?」
「じゅ、銃が、俺、目の前をびゅんって」
「落ち着け! その銃弾はどっちからやってきた!?」
「わ、わからん、が、多分あっちから」
そう言って、割れたガラスの正面の方を指差した。その先には長く伸びる道路と木が生い茂る公園、その向こうにそびえ立つビル。その壁面に、中途半端な高さで停止したゴンドラの様なものが微かに見える。
「くそっ、立て、建物に入るぞ! スナイパーだ!」
リーダー格のその男の言葉を聞いた仲間達は一斉に息を呑み、我先にとすぐ傍にあるビルの元へ駆け寄った。その二階に何者かがいることなど考えもせずに。
「おい、どういうことだよ!? 政府軍はいないんじゃなかったのか!?」
「知らねえよ、だからあいつは信用できないって言ったんだ!」
「そんなことはどうでもいい、どうするんだ!? 逃走用のバンは公園の向こう側だぞ!」
各自引金に指をかけたまま熱く口論する場面を見て、男は頭が痛くなる。
「おい、どうする? ここまで来て捕まる気はねえだろ?」
腰の抜けた仲間を建物の一階に運び出した所で、傍にいた仲間がリーダーの男に怒鳴るようにして声を掛ける。
「当たり前だ。……それなら、大きく迂回して進もう。この道は真っ直ぐ行けないし、かといってここでじっとしていてもよくはない」
これで文句は無いだろ? と目出し帽の男たちを見回す。そして移動しようとしたところだった。耳を突き刺すような爆音が流れ込んできたのは。
「……なんだ?」
辺りを見ると、電器店のテレビの音量が上がっていき、割れたガラスから流れ込んできていることがわかった。五人のヒーロー戦隊が変身する際の効果音が鳴り響く。
「おい、どうした?」
「そこのテレビだ。一体……?」
「全員動くな!!」
強盗団が全員テレビの方を向いた隙を突かれ、背後――ビル中心にある階段――の方から聞き慣れない男の声がする。
慌てて振り向くと、3人の男がこちらに銃を向けていた。3人は全員顔をバンダナで覆っていて、人相まではわからない。
「はっ、たった3人で何言ってやがる!」
後ろを取られたとはいえたった3人。そう言って銃を構えようとした次の瞬間には、左右両脇の柱から直線状に並ばないように3人ずつ姿を現し、更に……
「動くな、って言われたでしょ」
と、後ろから少女の声がした。ゆっくりと後ろを盗み見ると、この場にいる誰よりも小さな少女が両手に機関拳銃を持ち、更にその向こうにはビルの上から垂れ下がったロープが揺れているのが見えた。
そこでようやく彼等は、10人に完全に包囲されていることに気がついた。
ゴンドラを下ろしたヒカリは、銃をケースにしまってサナ達と合流しようと歩いていた。
「――こちらサナ、対象を無力化。私達が二階から飛び降りた時のあいつ等の驚いた顔! ヒカリにも見せてあげたかったよ――」
デバイスの向こうから元気そうなサナの声が聞こえて、ヒカリは胸を撫で下ろす。どうやら作戦は万事無事に終わったらしい。
「お疲れ、サナ。皆無事?」
「――ええ、勿論。蓋を開けてみれば、ヒカリに作戦名を付けてもらう程大それたものじゃなかったわ――」
「それじゃあ、レジスタンスは損害なし、強盗団は全員無力化ってことだね」
公園の向こう側に、銃を肩に掛けたサナが無線機を持ってるのが見える。公園の中に入ったヒカリはサナに声をかけようと駆け出そうとした。しかし一瞬、ヒカリの息が詰まり足が止まる。背筋を、冷たい何かが伝う。
「動くな!!」
その言葉が真後ろから聞こえたのと、首に太い腕が絡みつくのは、ほとんど同時の事だった。
何事かと思って後ろを振り向く間もなく、ヒカリは首を絞められる。その視界の隅に、敵意と強い恐怖で出来た拳銃が見えた。
「あんた何者!? その子を離しなさい!」
異変に気がついたサナが駆けつけようとするも、左腕でヒカリの首を絞めた男は、右手に握りしめた拳銃を迷うことなくサナに向けた。
「またガキか、近づくんじゃねえ!」
ヒカリは全身を強張らせてサナを見詰めていたが、そのサナに銃口が向けられたのを見て暴れ出す。
その甲斐あってか、銃弾はサナに当たることなく後ろのビルの窓を割った。しかしヒカリに出来たのはそれくらいで、今すぐにでも泣き出しそうな顔をして、腰の後ろのホルスターに手を伸ばせないでいた。
「またって何よ、その子を離せって言ってるの!」
ヒカリの様子に気が付き、サナはより激しく対抗する。
「だったら、こいつが言ってた強盗団を無力化ってのはどういうことだ!? お前らが仲間を全員殺したってことだろ!」
――この人、まさか逃走用の車で待機してた別動……?
頭の回転を鈍らせないよう懸命になっていたヒカリの思考は、顔の見えない背後の男に向く。
「だったらお前も死ねぇ!」
男はそう叫んで、サナに向けて3発の銃弾を放った。
サナは横に飛んで、傍に停めてあったクレープの屋台に隠れる。そこでようやくサクと他の仲間が駆け寄り、一斉に銃を向けた。そのせいでヒカリを捕まえる男の左手に力がこもる。
「くっ、かはっ……!!」
「撃てるもんなら撃ってみろよ! お前達が俺の仲間にそうしたように! その代わり、このガキも道連れだけどな!」
「聞け! 俺達はお前の仲間を殺したりはしていない!」
サクが誤解をしているであろう男を落ち着かせようとしてるが、当の男はサクの声が一切耳に入っていないようだった。見えるもの、近付くもの全てが敵だというように銃をヒカリに押し付ける。
「嘘つくんじゃねえ! 俺にだって耳がついてる、銃声がはっきりと聞こえたよ!」
「だから、その銃声はただの威嚇よ! ヒカリ、あんたもきちんと言って……」
「うるせえ、てめえは黙ってろ!」
屋台から顔を出したサナに向け、乱暴に引金を引く。トラウマを思い出し口を開けないヒカリだったが、サナに当てさせない為強い意志の力で身動ぎをする。
そのおかげで男の照準はずれたが、より首の深い所へ腕が入り、強い圧迫感が苦しさとなってヒカリを襲った。酸素を求めるために口をパクパクと開くが、十分に呼吸できずに視界にノイズが走る。
「とにかく、その子を離すんだ! 今あんたの仲間が生きてるところを見せてやるから、その子を離せ!」
「お前みたいな若造の言葉、誰が信じると思う! そう言って俺のことも殺すんだろう!?」
お前の思惑はお見通しだ、と言わんばかりにヒステリックな声を轟かせる。だがヒカリの酸欠の頭は、上手く男の言葉を理解することが出来ない。
「俺のことは信じなくていい、とにかく待っててくれ! 今連れてくる!」
サクは背を向けてビルへ向かい、拘束された男の仲間を連れて来ようとする。
「さっきからごちゃごちゃと……!」
男がそう言って、拳銃のアイアンサイトがサクの後頭部を捉えた。こちらに背を向けたサクはそのことに気が付かない。酸素の供給が阻害され続けたヒカリの視界は段々と暗くなっていく。
暗くなったヒカリの視界に、思い出したくもない過去がちらつく。思わず息を呑んだヒカリは、目を閉じて精一杯の力を振り絞り、男の腕を跳ねのけて射線上に立ち塞がった。サナがヒカリを呼ぶ声も、男がどけと叫ぶのも、何も聞こえない。
そして、二つの銃声が鳴り響いた。
下書きの段階では、一話一話の区切りが一切ない、ただただ書き連ねているだけなので、中々一段落させるのは骨が折れます。
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