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狙撃手の少女

主人公達はがっつり銃を使って戦闘します。場面によっては少し残虐な表現と感じることがあるかもしれません、ご容赦ください。







 私は戦い続ける。まだ、私にも護りたいものがあるから。













「安全と脱出路の確保を確認。あとはお願い」


「わかった。ありがとね」



 部屋の中、横にしたベッドの上で寝そべる少女は傍らの仲間に感謝を告げた。



「風70度、1.4m、車両は東の建物の影から」


「了解。……外したらごめん」


「大丈夫。そう言ってあなたはいつも乗り越えてきてる」



「……そういうこと言われたら、もっと緊張するじゃん」




 それから少女は手元の長物を引き寄せ、頬をぺったりとチークパッドに載せる。レンズに一切の陰を作らぬように覗き込むと、ウインクをしてから全ての意識をレンズの向こう側、軍事パレードの最中である大通りに傾けた。


 狙うはハンヴィー、軽装甲車に続く車列3両目の戦車の上。パフォーマンスとして上部にどっかりと座り、傍の若い軍人に心底嫌気の差す笑顔を向ける中将。









「いやぁ、ついに新しい年が始まったなぁ。ほら、見てみたまえ、この戦車の上からの眺めを!」


「すっ、素晴らしいものであります」


 両手を後ろで組んだまま、目に見えるほどの汗を掻いて青年が口を開く。



「そうだろうそうだろう、私が街から人手をかっさらって開発を急がせたのだから、当然だろう! はははは!」


 弱冠20歳の青年がほんの少しの訓練をしただけの一等兵であることは、ちらちら見える階級章が物語っていた。そんな青年が幹部である中将の傍にいるのは、何かしらの作為が働いているのだろう。




「それにしても、この国も随分と住みやすくなったものだ。今では一言命令するだけで、私の思うままなのだからな! ……そうだ従卒、今からここで自殺でもしてみてはどうかな?」


「はっ! ……はっ?」


 青年はその言葉があまりにも荒唐無稽過ぎて、ついつい返事をしてしまう。それからゆっくりと呑み込んで、再び口を開いて顔を引き攣らせる。



「めでたい軍事パレードの戦車の上で、突然人が死んだら笑えるだろう? それとも何かね、私が折角ひもじい君達兄妹に目をかけてやったのに、その恩を忘れたのか? 数日前に行方不明になった妹を探してやってるのは誰だったかな?」



 まだ若い兵士の、苦渋の滲んだ表情が見て取れる。男の退屈を紛らわすためだけに従卒に仕立て上げられた彼を、兵士と呼ぶべきかはわからないが。


 彼の向こうには、戦車砲に跨る中将の煌びやかな勲章。その男の下卑た笑顔は、誰にとっても見るに堪えなかった。






「さあ、やってみたまえ。安心しろ、妹には君は立派な最期だったとでも言っておくよ」





 左手を銃身に添え、人差指をゆっくりと引く。薄く開かれた唇から静かに息を吐き出し、まるで心臓の鼓動すら忘れてしまったかのような静寂が辺りを包む。





「さあ。さあ、さあ!」


 中将に急かされ、青年は拳銃を顎に押し当てる。



「……くそっ、ごめん、ごめんなシノン……」



 妹への懺悔が、戦車の走行音に飲み込まれていく。








「そんなこと、させない」








 青年の拳銃が火を噴くよりも早く、口端を歪めた中将目掛けて0.338インチの銃弾が飛翔した。


「撃て、ほらはやくっ」


 中将が最期の言葉を言い終えた瞬間、銃弾が青年の左耳を掠める。その風と銃声に咄嗟に中将を見た青年の前には、額に孔があいた男がいた。思わず絶句し、尻餅をつく。




 何か偉い奴が部下と一悶着起こしそうだ、と注目していた民衆の目の前で男の頭が爆ぜ、悲鳴が起こる。青年が拳銃を下ろして銃弾が飛んできた方向を振り向くも、その方向にはビルが立ち並んでいるばかりで、人の姿はどこにも……


 ……いや、ビルの上層階で、何かが煌めいた。思わず全身が緊張して目を瞑るが、予想される激痛は走らない。目を開けて自分の体を確認しても、どこにも孔は開いていなかった。





 結果として命を救われる形となった若い青年は、一瞬だけ見えたスナイパーの光をじっと見つめ続けた。
















 1月13日、水曜日。


 あまり生活感の無い家で、一人の少女が自分で拵えた朝食を食べながらテレビを見ていた。簡素ながらもしっかりとした味付けが施されているところを見るに、料理の腕は悪くないのだろう。



「――次のニュースです。昨日12日、オージア陸軍による年明けの祝賀を兼ねた軍事パレードの最中に陸軍将校が暗殺された事件について、政府軍はいまだ犯人の特定には至っていません。

 これについて今朝、反政府組織、レジスタンスから『昨日の暗殺は我々が行ったものである。政府軍は国民を解放し、この国の政治から退け。我々には徹底抗戦の構えがある。正義は我々と共にある』と声明を発表、暗殺はレジスタンスの狙撃手によるものとの見方が強まっています――」



 女性のキャスターが座りながら、昨日起きた事件を紹介する。その左上で時折変動する天気予報は、殆どが曇りだった。




「――レジスタンスは以前にも政府軍の工場などに破壊活動を行っており、彼らの目的は現政府の解体のようです。なお、組織の幹部は未成年との情報もありますが、真偽は不明です。

 これに対し政府軍は『我々は卑劣なテロ行為には屈しない。速やかに自首するべきであり、彼らに勝ち目はない』とのことです。数々の破壊工作を行ってきたレジスタンスについて、今日は組織犯罪に詳しい専門家の方にお越しいただきました。本日はどうもありがとうございます――」



 その紹介と共に画面が動き、女性の横に座っていた2人の男性が現れる。「元警察官、現在軍の犯罪課在任」「犯罪心理学教授」という肩書が、本屋で見たこともない著書の名前と共に紹介され、1人ずつ頭を下げた。



「――よろしくお願いします。まず始めに断っておきたいのですが、彼らについての詳細は一切が不明なため、あくまで私の主観としての分析になります。私が考えるに、恐らく彼らは自分に酔いしれているのではないかと思います。態々沢山の民衆の目がある新年にちょっかい出せば目立つだろう。つまり、現行政府に楯突いてる自分達がカッコいいと錯覚しているのではと……――」







 そこで少女はテレビの電源を切る。単に食事を終えたから、という理由もあるだろうが、少女の眉根に皺が寄っているところを見ると、些か不機嫌になっているであろうことは予想が付いた。


 政府軍に都合のいい言葉を並べるためだけに用意された似非コメンテーターに腹を立てているのか、それとも単に、真冬に冷たい水に触れるのが嫌なだけか。憮然とした表情で台所へ食器を持っていくと、今使っていた皿を丁寧に洗う。



 それを終えると、少女はお気に入りのスニーカーを履いて、手に暖かい息を吹きかけてからリュックサックと楽器ケースを担ぐと、誰もいない家を出た。











 大通りに入った少女は曇天を仰ぎ見て、寒さから逃れるためにマフラーの中へと首を竦めた。人のいない通りはとても静かで、風に乗ってバスやタクシーのエンジン音がどこか遠くから聞こえてくる。

 ここ数年で、街の中を歩く者は激減した。何も国民が家から出るのを面倒くさがってるわけでもないし、殺人ウイルスが蔓延しているわけでもない。


「……いや、死ぬ可能性があるって意味では同じかな」


 10年前に軍が政権を握ってから、この国は静かになった。もし兵士の機嫌を損ねるようなことがあれば、酷いときはどこかへ連行されて二度と帰ってこない。当然模範的な兵士もいるが、悲しいことにその数は、数えるほどにも満たなかった。










「おー、やっと昨日のヒーローが来た! ヒカリ、おはよう!」


「おはよ! ヒーローなんかじゃないからやめてよ!」



 公共の乗り物を嫌う少女は道の真ん中を歩く。街の中は普通、殆どの車両が通行止めだった。誰もいない道を寂しそうに歩く少女は、その呼びかけに手を振ることで応える。



「なに言ってんの? 昨日のあのおっさん撃ったのヒカリなんだから、そんな変な謙遜してんじゃないわよ」


「わー! ちょっと、声が大きいよサナ!」



 ――なんでこの子は街中でこんな大声で……



 楽器ケースを担ぐ少女――ヒカリは大袈裟に頭を押さえてみせる。サナはヒカリの幼馴染のうちの一人で、自分の思ったことを素直に口に出す性格だった。その性格にひやっとさせられることも多々あったが、彼女はヒカリの冷え切った心を炎のように包みこんでくれていた。



「あんたねぇ、うちの唯一のスナイパーなんだから、しゃんと胸張んなさいよ!」


「だーかーらー!」



 サナが周りに人がいないことを知ってて言っているのはわかってるから、ヒカリも本気になって怒ることはしない。話している内容を除けば、ただの他愛もない会話だ。









「そだ、なんか飲み物買ってかない?」


 大分人の入りが多い――それでも席の4割程しか埋まっていない――カフェを通り過ぎようとした2人だったが、出口から出てくる人が芳ばしい空気をサナの鼻腔まで運んできてしまった。当然のようにその匂いに誘われたサナは、感染を拡大させるかの如くヒカリを巻きこんでカフェに入る。



 カウンター越しに店員を捕まえたサナは、小さな子供のように透明なカウンターに両肘を乗せる。実際サナは小柄だったが、そんな仕草は彼女を更に子供らしくしてしまう。


「あ、すいません持ち帰りで。私は……そうだな、ホットの抹茶ラテで。ヒカリも一緒に飲んでみない? こういうの自分じゃ買わないでしょ?」


 張り出されたメニューの隅に見つけた『ココア』のコの字を言うより先に、サナがヒカリを振り返って水を向ける。慌てて口を噤んだヒカリは頷いて、俯いて表情を曇らす。


「それじゃ、抹茶ラテ二つで……はい、袋はいりません」



 別にヒカリは抹茶ラテが嫌いなわけではない。ただ、「今日はちょっと遠慮しておこうかな」程度のことすら言えない自分が、どうにも恥ずかしかった。そして、そんなことで恥ずかしくなる自分が……







「そういえば! 昨日のニュース見た?」


 カウンター席に座る若い女性があげた声に、ヒカリとサナは耳聡く反応する。


「ニュース? んー……あ、レジスタンスがパレードを襲ったってやつ?」


 隣の男性が、コーヒーを啜りながら尋ねる。頷いた女性は「迷惑な話だよね」と盛大な溜息をついてみせた。



「そりゃ、軍に反抗したい気持ちはわかるけどさ。そうやって軍を刺激したら、もっとあたし達への締め付けが強くなってくんだし。しかも幹部が子供だって言うじゃん? 会社の社長以下重役が子供ってことよ? そんなのが銃を持ってうろついてるなんて……あたしには信じらんない」



 割と大きめな声で話す彼女を心配してか、男性が慌てて辺りを見回す。だがヒカリ達には気が付かなかったようで、見回すのを止めた男性は「そうかな?」と異議を唱えた。



「俺は寧ろ、もっと頑張ってほしいと思うけどな。そりゃ子供が銃を持ってんのは怖いし可哀想だけど、悪いのは子供にまでそんなことさせる軍じゃないか? あいつら、どんなに小規模なデモ相手にも装甲車引っ張ってくるし、これまでにも何人もデモに出てたやつが事故とやらで死んでる。

 それに、レジスタンスのニュースはちょくちょく聞くけど、今まで一般人が巻き込まれたっていうのは聞いたこと無いし……やっぱ俺は、レジスタンスは正義の味方に見えるけどなあ」



 そんな2人を、何を言うでもなくヒカリ達は見ている。



 やがて店員がカップを二つ持ってきて、2人はカフェを後にした。







 暫く道を歩き続け、コップをゆっくり傾ける。今のところすれ違った顔触れは、サラリーマンか幼稚園児連れの母親達のみ。


「あらヒカリちゃん。おはよう」


「おはようございます」



 3組の親子がヒカリに気付いて声をかける。子供を幼稚園まで送り届けるのだろう。手を振り返したヒカリは、6人の背中が曲がり角へ消えるまで見守っていた。










「やめてくださいっ! やめて、離してっ!」




 閑散な通りに突如、女性の悲鳴が響いた。その声の持ち主は角を曲がった所にいて、ヒカリ達の目の前で女性が路地裏へ入り込んでいく。そしてそれを追う様に男が3人、オージア陸軍の制服を身に纏ったまま路地の暗がりへ姿を消した。



「サナ」



「わかってる」




 2人はコップを置くと、同時に腰の裏から何かを取り出して駆けだした。そこに一分の迷いさえも感じることは出来なかった。





インターネット小説はどれくらいスペースを開ければいいのか……正直、まったくの手探りでやらせて頂いてます。

また、各描写がわかりずらかったり、初っ端から設定がぶっ飛んでたりしてるかもしれません。

予め謝罪の意を表します。

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