第1話 覚醒
俺は今暗い暗い闇の中にいる。
もうどれぐらいいるのか分からない。
「灰崎京介、立て!!」
突如名を呼ばれる。
忘れかけていた名前を。
俺は声のした方を睨む。
そしてそいつはニヤリと気味の悪い笑みを気持ちの悪い顔にうかべながら、
「喜べ灰崎、今日は人類史上最も喜ばしい日かもしれないぞ?なんせ我が国始まって以来の狂気殺人犯をこの世から永久追放することが出来るんだからな!!!」
俺は何も言わずにそいつから視線をずらした。
「とにかく来い。」
そして牢屋の鍵が開き外に連れ出され、そのまま歩かされる。
そして部屋に入った。
そこには仏壇と袈裟を着た人、そして制服を着た大人が沢山いた。
そして俺はその男達の前まで歩かされた。
するとその中の男が前に出てきて、
「罪人灰崎京介、無差別殺人の罪により課せられた死刑。そしてそれを今日実行するように政府から司令が届いた。」
そう言われた。
その後お経が読まれ始めた。
正直分かっていた。
そして悲しくもなんともなかった。
「灰崎京介立て!!」
お経が終わるとまた同じように忘れかけていた名前を呼ばれた。
ただひとつ願うのなら、もう二度と生まれ変わりなどはしたくない。
天国や地獄なんてのも信じてないし行きたいとも思わない。
ただ俺はひっそりとこのクソッタレな終わりかけている全ての世界から消えてしまいたかった。
だからむしろ安堵している。
そしてまた別の部屋に入った。
そこは真ん中に椅子が置いてあった。
恐らく電気ショックで殺すタイプの死刑なのだろう。
楽そうでいい。
そして俺は椅子に座らされた。
「ではこれより罪人灰崎京介の死刑を執行する。」
そして部屋の端にいた三人のおとこがいっせいにかべにあるボタンを押した。
「どうかひっそりと静かに全ての世界から消えることができますように。」
俺は心から、そう願った。
その刹那 、
世界が凍った。
おかしな表現かもしれないが、そう表現することしか出来なかった。
ボタンを押した男も、あの気持ち悪い顔でにやけていたあのおとこも、俺の死刑執行を言い渡した男も写真の中のようにピクリとも動かない。
『灰崎京介、力が欲しいか。』
どこからか声がする。
「誰だ!!」
『力が欲しいか。』
その声はもう一度繰り返す。
「力?何の力だ」
『この世界を変えることが出来る可能性がある力だ』
『お前は世界が憎いのだろう?どうせ死ぬならお前を無茶苦茶にした世界を復讐をした後に死ぬほうが気持ちがよかろう。』
世界を変えることの出来る力だと?
馬鹿馬鹿しい。
気づけば目の前に若い女が立っていた。
俺と同い年ぐらいだろうか。
「お前は誰だ?名前は?」
『私か?私に名前など存在しない。しかしそうか、
それでは不便だな。では私のことはノーネームとも呼べばよい。』
ノーネームだと?
馬鹿馬鹿しい。
名無しってことか。
「ではノーネームお前はなぜ俺にそんなことを聞く?」
『お前なら世界を壊したいと思うに違いないと思ったからだ。』
『もう一度聞く。』
『世界を壊す力は欲しいか?』
また聞いてくる。
「いらん。」
即答する。
『お前の両親を殺した世界を壊したくはないのか?』
『お前を陥れ、親友を殺し、想い人を殺した世界を壊したくは無いのか?』
『お前にこの力が生まれてからあれば、両親は死ななかっただろう。親友も想い人もだ。』
「ッ」
「なにを。」
するとノーネームは不敵な笑みを浮かべ。
『動揺したな?』
『それがお前の答えだ。』
『ひっそりと静かに消え去りたいと思っても、お前の心の奥深くがそれを拒むのだ。』
「そんなことは無い!!」
「俺はこのクソッタレな世界から一秒でも早く消えていなくなりないんだ!!」
いつの間にか息が上がっていた。
クソッ今更この世界に何の未練があるんだよ。
『後、それともう一つ、お前や周りの人の人生を壊したのは世界だが、その世界を操っているたった一人の男がいる。』
「何っ?」
世界を操っているたったひとりの男だと?
「そんな男、存在するわけが無い。
デタラメを言うな!!」
『信じ難いだろうが事実だ。』
そして女は不敵な笑みをもう一度浮かべ
『さあどうだ?お前は世界を恨む言ったがお前が恨むべき相手はたった1人の男だった。』
『さぞ滑稽な話だ。』
女は嘲笑する。
そして女は真顔に戻り。
『これが最後だ。』
『灰崎京介、お前は世界を壊す世界を手に入れ、世界を壊してから死ぬか、今死ぬか、どっちだ?』
「やってやる。」
俺が気づいた時には俺はそう答えていた。
きっとそうすべきだったのだろう。
「やってやるって言ってるんだ!ノーネーム!俺はその力を使ってこのクソッタレな世界を壊す!!」
『いいだろう』
『お前にこの力を授ける。』
『灰崎京介、せいぜいこの世界を壊すために、足掻くがいい。』
不敵な笑みを浮かべながらノーネームは消えていった。
その刹那。
凍っていた世界が動き始めた。
ヤバッ
俺死ぬところだったんだった。
そう思った瞬間。
突如第六感が目覚めたような感じがした。
部屋のいくつかの場所にONとOFFを切り替えれるスイッチなようなものだ。
今ONになっている。
それをOFFにした。
すると急に電気が消えた。
「なっ何が起こった!?」
男達の声が聞こえる。
そうえいば俺を殺すはずの電流が来ない。
「カチッ」
そう音を鳴らしながらオートロックがかかっていて絶対に外せないはずの手錠が外れていた。
「もしかして俺のこの力は機会や電気で動いているものを操ることの出来る力なのか?」
いや、そんなことは今はどうでもいい。
とにかくここから逃げなければ、部屋からでようとしてふと俺は思った。
ここは死刑囚の収容所だ。
監視カメラも無数にあるだろうしその他のトラップなどもあるかもしれない。
ここはすべての機械をOFFにしてから動くべきだ。
「なっなにっ」
男の声がした。
「どうしたっ!?」
さっきのリーダー格らしい男の声だ。
「たっ大変ですっ。はっ灰崎が灰崎京介がいません!」
「なんだと?」
「クソッ」
「総員直ちに灰崎京介を探せ。」
「見つけ次第、刑を執行することを許可する。」
「了解。」
男達の声がした。
「クソッどうやらのんびり一つ一つOFFにする時間は無さそうだな。」
「っ」
俺はその時ふと他の機会より明らかに大きい機械があるのを第六感で感じた。
「これは、もしかして。」
「はっ」
俺は全神経を集中してその機械をOFFにした。
すると、
今まで反応していた機械がすべてOFFになった。
「思った通りだ。」
今のはブレーカーだったのだ。
「クソッどこだ!」
よし。このうちに逃げてしまおう。
そして俺は自動ロックなどなんの役にもたたなくなったドアを開け、走った。
途中に人もいたが真っ暗で全く見つからず難なく外に出られた。
外は雨が降っていた。
久しぶりの外だった。
そして男は、収容所の近くにおっていた布を体に巻き、そのまま人が多い通りへとひっそりと静かに消えていったのであった。
「見てろよ、世界!!俺はこの力を使って貴様を粉々にぶち壊してやる!!!」
そう、嘯きながら。
―第2話に続く―