踊らされた人々 2
双翼の騎士と魔術師の噂。
突然女官の間から発生したその噂は王宮にいるも者のみならず、王都周辺の貴族たち全てに行き渡るほど衝撃をもって語られた。
当然王宮勤めであるレインにも聞こえていた。
というか今まさに目の前で話している奴がいる。
「しかし驚きだよなあ、あの二人って幾つ離れてるんだ?」
「それくらい珍しいことでもないでしょう」
貴族同士なら十近く離れていることなどよくある。彼女は平民だが。
「いやー、並んでるところを見るとちょっと信じられなくなるぞ」
執務室の中だというのに男の言葉は止まらない。
手は動いているので度が過ぎない限り、上司も注意しない。
レインも話をしていると手が止まるというタイプでもないので、適当に相槌を打ちながら書類を片付けていく。
「しかし残念だよなー。 双翼の魔術師の子、マリナだっけ?
そのうち絶対美人になるし、王子の信頼も篤い、お買い得だったのにな」
表情を崩さないよう気をつけながら気のない返事をする。
これまで気づかなかったくせに何を言っているのかと腹の中では何かが燻ったが、気づかないふりをした。
そもそもこの男には婚約者がいるのでただの戯言だろう。
「馬鹿なことを言っていないでそっちの書類も早く片してください」
「はいはい。 なんだよ、何か機嫌悪そうだな」
「別に…、普通ですよ」
機嫌は悪くない。
ただくだらない話を聞いているのが苦痛なだけだ。
本人を知っているせいか、勝手な言葉にいらっとする。
レインも打算込みで近づいたが、それだけでもない。
信頼もでき、きっとお互いに大切な存在になれると思った。
今は信頼できる友人が精々だろう。
未練があるとは言わない。
時折職務で関わる時も胸が痛むことはない。
彼女も同じだろう。レインが求婚したことなどすっかり忘れた顔で接してくる。
本当に忘れているのかもしれないと思う時があるくらいだ。
気を遣わない少し親しい友人くらいの距離は思いのほか心地よい。
これくらいの関係がレインと彼女には相応しかったのだろう。
自分も早く次の相手を見つけないとな、とレインは思った。




