七夕
思いついた番外編です。これを投稿しようと思っていたら明日の分を投稿していました。
失敗失敗☆
時間的には日本から戻って来て少し経った頃です。
「~♪」
鼻歌を歌いながら手を動かす。
「楽しそうだな」
ヴォルフがマリナを見て呆れたような声を出す。
「そうね、楽しいわ」
四つ折りにした紙を切りながら答える。
自分でも声が弾んでるのがわかるくらい浮かれていた。
机の上に乗った紙切れをつまみあげてヴォルフが眺める。
「細かいな…。 俺はこういう作業は苦手だ」
あえて小さなサイズで作っているから手の大きいヴォルフにはちょっと難しいかもしれない。
そう言いながらもマリナの手を見ている。
「やってみると楽しいかもよ?」
大きな紙で作るのも楽しそう。
「見ている分にはおもしろいな」
口だけでもないみたいで柔らかい表情をしていた。
切込みを入れた紙を広げて貼り付ける。
同じものをいくつも作り繋げていく。
小さいので貼り付けるのが少し大変だったけれど可愛い。
「なんか巻貝みたいな形だな」
完成品を突きながらヴォルフが呟く。
「そうねえ」
一枚の紙がこんな形になるなんて本当に不思議。
「よくこんな物を考え付くと思うわ」
巻貝型の他にも色々な形を作ってみた。
「これが何で川なんだ…?」
「さあ? そう見ようと思えば水の流れに見えるのかも…?」
長い紙を二つ折り、四つ折りと折っていって交互に切込みを入れていく。
端から端まで切込みを入れ終わったら丁寧に紙を開いていき、紙の両端を持って引っ張ると…。
まるで糸で編んだ網のような形になる。
じーっと紙細工を見てマリナも首を傾げた。
網っぽい。
網にしか見えない。
「でも天の川って名前なのよね」
教えてもらった名前はそんな名前だった。
天、の川…。
「空に浮かんで川っぽいものって何かしら?」
「雲か?」
雲なら流れていくところも含めて川っぽいかしら。
「雲、虹…。 あ、夜なら星とか」
「星か…」
夜空に浮かぶ星々の輝き。
だとしたらとても素敵な名前だと思う。
日本でマリナが住んでいた所ではそれほど星は見えなかったけれど。
星の川という意味なら綺麗な響きだ。
「で、お前は何でそんな物を作ってるんだ?」
「七夕なんだって今日は」
日本の祭りのひとつだと聞いている。
「たなばた?」
「詳しくは知らないけれど笹という植物をこういった紙細工で飾りつけて、願い事を書くんですって」
「願い?」
「そう」
セレスタにはそういったお祭りは無いので興味深い。
「願いなんて誰かに叶えてもらうものでもないだろう」
ヴォルフが情緒のないことを言う。
「つまらないことを言わないの」
その通りだとは思うけれど、祭りにそういった現実的なことを言うのは野暮というものだ。
「叶えてもらいたい願いごとじゃなくてこれから叶える願い事をかけばいいんじゃない?」
そう言ってヴォルフに短冊を渡す。
ちょっとサイズを小さくしすぎたかな?書きづらい。
「小さくて短いことしか書けないぞ」
「そうね、ちょっと失敗」
マリナの願い事はもう決まっている。
『魔導列車を造る』
すぐには叶えられることじゃないし、課題も山積みだけど絶対造ると決めている。
「壮大だな」
「ふふん、だからこそ叶える価値があるのよ」
考えていると時間を忘れるくらい楽しい。
「願いか…」
短冊を手に真剣に考えるヴォルフ。
願いがないってことはないと思うんだけれど、何をそんなに考え込んでいるんだろう。
随分時間を掛けてヴォルフが書いたのはとてもらしいものだった。
『早く勘を取り戻す』
「なんていうか…、ヴォルフらしいね」
「やっぱり剣を離していた期間が長かったからな」
戻ってから時間があれば訓練所に行っていて、もう十分取り戻しているんじゃないかと思うんだけれど。
ヴォルフからするとまだまだらしい。
「でも考え込んでいたわりには普通の願い事、というか目標ね」
「真剣に叶えたい願い程、自分の力だけで叶えたいんだ」
「そんな願い事があるんだ…」
すっごく知りたいけど聞かないでおく。
ヴォルフがそこまで言うなんて、よっぽど大切な願い事なんだろうな。
「叶うまでの間も楽しみだからな」
「ふふっ、そうね」
目標や夢に向かっているときは楽しい。
手応えがあるなら尚更に。
戻って来てから数週間。
バタバタと忙しい時間が続いているけれど。
目標を見つめ直す、こんな一時があってもいい。
大切な人と一緒に過ごす時間がこうして増えていくように、これからも頑張ろうと思える。
「で、笹は?」
「ないから適当な物に飾り付けるわよ?」
執務室の端に置いてあった鉢植えに乗っけてみる。
大分違うけれど、これはこれでよし。ということにした。




