子爵令嬢の謝罪 2
ひとしきり笑ってようやく笑いが治まった。
笑われたシャルロッテ様は不本意そうな顔でマリナを見ているけれど決して怒ってはいない。
怒らないなんて珍しい人だなと思う。
「失礼しました」
まだ笑いに歪みそうな口元を抑えながら断る。
「本当に失礼でしたわ」
頬を膨らませそうな勢いで口を尖らせる。その様もおかし…可愛らしいとわかっているのだろうか。
普通の貴族なら憤慨するところを口を尖らせるだけで済ませるなんてとてもいい人だ。
今日で彼女の印象がかなり変わっている。
素直で可愛くて面白いといった良いところばかり見えた。
たった2度会っただけのマリナの印象なんてたいした意味がないと良くわかる。
「ところでシャルロッテ様は本当に謝罪だけしに来られたんですか?」
「そうですけれど、何か問題ありますの?」
文句でもあるのかと言った風だ。
また笑いそうになって指で唇を押さえる。本当に面白い人。
「いえ、問題は何も」
どうにか笑いを抑えて答えるとシャルロッテ様が不思議そうな顔で聞く。
「そういえばどうして私の名前を知っていますの?」
「調べました」
短く答えるとシャルロッテ様がわずかに息を呑む。
「ああ、報復をしようとかそんな意図で調べたのではありませんからご安心を」
元々どこのご令嬢かくらいは知っていたけれど少しだけ深く調べただけ。
近づいてきた人間が誰かを知っておくのは義務のようなものだ。
「こちらこそ失礼をしましたわ。 あのようなことをしたのですもの、身辺調査は当たり前ですわ」
シャルロッテ様はまだ勘違いをしている。
「それは違います。 行為の内容に関わらず自分に近づいてくる人間は全て調べています」
シャルロッテ様たちを特別に調べたわけではない。
マリナの答えにシャルロッテ様は一瞬息を呑み、ゆっくりと吐き出した。
「…重ね重ね失礼でしたわね。 高位貴族や王族の側近くに控える方なら当たり前の嗜みだというのに、貴女には身についてないと言っているようなものだったわ」
「お気になさらず」
本当に気にするようなことでもない。だから申し訳なさそうにしないでほしい。
「あなたは強い人ですのね、本当に…」
声の色が変わったことに首を傾げる。
「?」
不思議だと顔に出すとシャルロッテ様が苦笑する。
「馬鹿なことを言いましたわ。 忘れてください」
そう言って足早に立ち去ろうとする。
ちらりと見えた横顔に気になる色が見えて言葉を探す。
呼び止めようとした時にはもう次の角を曲がっていた。




