踊らされる人々 伯爵令嬢の嘆き
双翼は王の盾で剣。
その意味を今日ほど実感したことはありません。
彼女が見せた力は片鱗に過ぎないというのに恐れから震えが止まりませんでした。
シャルロッテ様が振り上げた扇をいとも簡単に避け、手を取った速さ。
二人が動きを止めるまで、何が起こったかわかりませんでした。
私も嗜み程度に魔術を習ったことがあるので魔力の動きはわかります。
あの時彼女は全く魔法を使おうとしていませんでした。
何も感じられませんでしたから。
まるで騎士のような戦う者の動きが出来るなんて…。
魔術師であること、自分よりも年下であることだけを見て彼女の能力を侮っていました。
魔術師としても実力もさることながら、自らの身を守ることが出来るだけの身体能力。
何よりも状況を理解し、不確かな自分の立場を危うくさせない判断力に慄きました。
きっと私たちを処罰することも出来たのに、即座に身を引き、見逃す懐の深さ。
圧倒的に足りない身分を能力で認めさせてきたという話も今なら理解できます。
現実を見据え、己の不足を嘆くのではなく自らを高め、前に進む強さ。
決意―――。それが彼女を双翼たらしめているように見えます。
彼女は揺るがない。
正直羨望すら感じます。
流されるままに生きている自分とは大違いだと。
今日のような無礼は責められるべきことでしょう。
けれど、どうしても認めることが出来ないのです。
どうして彼女が、と。
幼い嫉妬だとはわかっています。醜いとも。
でも、何も持たざる彼女が全てを手に入れようとしている。
そう思えてならないのです。
シャルロッテ様も同じ気持ちだったのでしょう。
幼い頃からのお友達なのです。
引っ込み思案だった私を引っ張ってくれた大切なお友達。
だから私も彼女の悲しみに寄り添いたい。
ままならない感情を持て余してしまったシャルロッテ様に。
何も出来ない自分に苦しみながら側にいることしか出来ない。
シャルロッテ様の悲しみの原因が彼女であることもあり、彼女さえいなければという感情が押さえられなかった。
彼女に責任がないといっても、一因なのです。
この間まで幸せに笑っていたシャルロッテ様。彼女が戻ってきたばかりに沈んだ顔ばかりしている。
彼女のように荒波に立ち向かい進んで行ける者ばかりではないのです。
私たちなどは世に人に流され、どこに辿り着くかもわからない。
羨ましい。そう口に出してしまったらどんなに楽でしょう。
自分にこんな汚い気持ちがあることを知ってしまった。
それさえ彼女のせいであるように感じてしまう愚かさを抱え、それでも友人の幸福を祈る。
願うしか出来ない無力さにうちひしがれた。




