踊らされる人々 1
執務室に続く廊下を渡っていると道の先から着飾った令嬢が出てきた。
彼女らは何処に行くつもりなんだろう?ドレスだけならわかるけれど、ごてごて着けられた装飾品は明るい廊下には不似合いだと思うんだけれど。
「あら、分を弁えない野良猫がいるわ」
マリナを見ながらわかりやすい敵意を飛ばしてくる。
それ言われたことがあるな、と思いながら軽くだけ頭を下げて通り過ぎようとする。
「挨拶すら出来ないなんて、お里が知れますわね」
先頭に立った青いドレスの令嬢が口の端を吊り上げて笑う。
「…」
そもそも何でマリナが見知らぬ令嬢に挨拶をしなければならないと思うのだろうか。
彼女たちは確かに貴族のお嬢様であるけれど、王宮で位が与えられているわけではない。
会釈せずに通り過ぎても責められない程度の地位なのだけど、双翼というのは。
王宮は、貴族社会はそう簡単なものではないので会釈はしたけれど、しない方がよかったかな。
礼儀を欠けば調子に乗っている、身の程を知らない。
礼を尽くせば媚を売っている、役目に相応しい態度を取れていない
バランスを綺麗に保たなければ転がり落ちてしまいそうだった過去が懐かしくなってきた。
引いてばかりでも役目は果たせないので加減が難しいのだ。
王宮に慣れたおじさんたちに比べたら彼女たちはとても可愛くて、どう対応しても間違う気がしない。
一生懸命爪を研いで向かって来たつもりなんだろうけれど、実力不足だった。
あとマリナの出自は大体の人間が承知している。
足を止めずに無視して通り過ぎようとすると令嬢の一人が立ちふさがった。
「耳が聞こえないの?」
このまま通ろうとすると裾を踏んづけてしまいそう。
ちょっとだけ困って足を止める。
(弁償は嫌だな)
そんなことを考えていると令嬢は楽しそうに口元を歪めて扇を広げた。
(扇まで派手。 夜会でもないのに気張り過ぎだって)
王宮は確かに格式の高い場所だけど、同時に政務の中心地でもある。
さらに言えば生活の場でもある。
普段からそこまで派手な格好をしている人間はあまりいない。
登城する官吏たちは着飾っているといっても華美過ぎることはなかった。
王子は当然いつも最高級の物を着ているが、あれでいて派手なものは好まない。
落ち着いた物でも華やかに見えるからどちらでもいい気がするけれど。
思考がどんどん横に逸れていく間に令嬢たちは勝手に盛り上がっていた。