双翼のお仕事 3
目的の場所に着いたのは夜遅くだった。
商店や宿屋はもう閉まっている。
この時間に外を出歩いているのは犯罪者くらいだろう。
そう、下に見えるような。
空から地上を見下ろして笑う。
「こんな時間に荷運びなんて怪しいと言っているようなものね」
地上では男三人が大きな木箱を運んでいる。
それなりの重量がありそうな箱は男たちが出てきた場所から中身の想像がついた。
何より木箱から感じる力がマリナに確信を与えてくれる。
「間違っていなければかなりのものね」
ここの領主は相当ふざけた人間だと思う。
「素直にごめんなさいが何で出来ないのかしらね」
マリナの予想通りなら領主は続けられない。
洗いざらい話して罰を受ける覚悟があると見せたのならそこまではしなかっただろうに。
「でも楽しいわね、こういうのって」
不正を取り締まるヒーローにでもなった気分だわ。
遠慮がいらない相手というのもあるし、いっそ飛び込んでみようかしら。
「ふふ…」
気分が高揚していく。
物語のように派手な登場をしてみることにした。
闇の中、木箱を運ぶ男たちは急ぎながらも慎重に足を進めていた。
木箱の中身がとても高価な物だと知っていたから、重い木箱を運ぶのも文句は言わない。
この箱の中身だけで自分たちが一年遊んで暮らせるほどの金になるのだから。
最も男たちの懐にはそこまで多くの金は入ってこないのだが。
「今日も楽勝だな」
「全くだ、ここの領主は腑抜けだからな」
「そう言ってやるな、私兵や傭兵を集めれば国の関心を引くからな。
自分が罰せられることを考えたら行動には移せないだろう」
この国では鉱山から勝手に採掘をするのは禁じられている。
鉱山を見つけたら国に報告し、調査された後でないと採掘許可が下りない。
当然採掘した物について税金が取られる。
領主はそれを惜しんだのかこっそりと採掘をし私服を肥やしていた。
男たちの所属する組織は目敏く領主の悪事を見つけ、横から奪い取った。
取り返そうと領主は何度か襲撃を仕掛けてきたが、返り討ちにしてやるとそれ以降は何もしてこない。
組織の力では鉱山の奥深くまでは開発できないが、それを置いても旨みの多い仕事だった。
僅かだけ警戒心を残しながらも、領主の用意できる戦力では自分たちを排除することは出来ないと知っている。
だからこそ、男たちは頭上から降ってくる物には無警戒だった。
幾つもの魔力陣を展開させ、男たちの足を止める。
音も無く放たれた風の刃が男たちを切り付ける。突然の襲撃に男たちは一人も反応できなかった。
「ああ、やっぱりね」
落ちた木箱から零れた物を拾い、笑う。
「高純度の魔石。 さて、誰の許可を得てこれを運んでいるのかしら」
男たちの目の前に降り立ってマリナは問いかける。
「何だてめえ…!」
傷だらけの姿で男たちが凄む。
まだ状況を理解する時間が足りなかったようだ。
先程より小さな魔力陣を男の眼前に作り出す。
魔力陣の光に照らされ、男の顔に冷や汗が浮かぶ。
「あなたたちを取り締まる許可を持った者です」
「ふざけんな!」
虚勢なのか本当に理解出来ないのか、倒れた男の一人が叫ぶ。
対して魔力陣を突きつけられている男は青褪めたまま口を開かない。
魔力陣が暴発しやすい物だということを知っているのだろう。
「大丈夫よ? ここから魔法が放たれるとしたら、あなたたちが無意味に逃げようとした時だけだから。
…今のようにね?」
そう言って魔力陣を起動させる。目の前にいる男ではなく、逃げようとしていたもう一人の男に向かって。
「ぎゃぁ!」
叫び声を上げて男が倒れた。
笑みを零すと新たな魔力陣を目の前の男に突きつける。
一回り大きな魔力陣は光を明滅させ、いつでも放てると男たちに教えた。
先程声を上げた男も状況がわかったのか無言になる。
恐怖からか息を乱す男たちにマリナはゆっくりとした声で問いかけた。




