ショッピング 3
ようやく落ち着いた美菜さんにアクセサリーを売っているお店を聞く。
「アクセサリー? 専門店もあるけどバックや洋服を売ってるお店にも置いてあるし、髪につけるものならまた別の店だけど…」
言葉を切った美菜さんが意味ありげに笑う。
「二人で探しに来たならペアリングでしょう?」
「ええ、まあ…」
どうせバレバレなんだから全部正直に話してしまえばいいと思うのに羞恥からか曖昧な返事しか出来ずにいると美菜さんが笑った。
「マリナちゃんかわいいっ」
ぎゅっと抱きしめられたときに香水らしき香りがした。珍しい。
バイト先では飲食店だから着けなかっただけなのかもしれないけれど、美菜さんから香水の香りがしたのは初めてだった。
「でもこういうところのアクセサリーショップは恋人同士でペアリングを買うのが目的なんだからどこのお店でもあると思うよ」
美菜さんが笑って言う。
それが常識なのかそれとも偏見なのかマリナたちにはわからない。
うーん、何故か笑顔の美菜さんから怒りのオーラが見える気がする。
彼氏と何かあったのかな、と思うけれど怖くて聞けない。
「後は好みじゃないかな」
好みと言われるとより難しくなる。
マリナも特別装飾品に詳しいわけじゃないしヴォルフは言わずもがな。
「実際に見るしかないって! 行こ!」
悩んでいると美菜さんに手を引かれる。
「まずは私のお気に入りのところを案内してあげる!」
ぐいぐい引っ張る美菜さんにマリナたちはついて行くだけだった。
「もーうっ! まだ決められないの? 5軒目だよ?」
中々決められないマリナたちに美菜さんが口を尖らせる。
「すみません、どれも素敵だと思うんですけど…」
店頭にある装飾品はどれも素敵だと思うのは本当なんだけど、何かしっくりこない。
ヴォルフも同意見なのか何も言わずに後ろを歩いてくる。
「さっきのなんかマリナちゃんにとっても似合ってたのにな」
少し頬を膨らませて美菜さんが言う。
真剣に案内してくれるのに申し訳ない。
でもあれは可愛すぎて好みじゃないんです、ごめんなさい。
「もう、彼氏さんも似合ってたと思いますよねえ?」
「確かに似合ってはいたがマリナらしくはないな」
「えー? 駄目ですか?」
美菜さんが嘆くけれど、そもそもペアリングなんだからマリナにだけ似合っていてもしかたがないと思う。
そう思っていると美菜さんが何か閃いたように目を瞬いて笑った。
「マリナちゃん、彼氏さん、私ちょっと席を外すので二人で見ててください!」
言うが早いか美菜さんは走って何処かへ行ってしまう。
合流出来なくなるんじゃないかと一瞬思ったが、進路上に進んで行けばマリナたちを見つけられるだろうと思い直す。
道を逸れないように気をつけよう。
「行ってしまったな」
「そうね」
とりあえず道なりに適当に歩いて行こうと言うとヴォルフが小さく笑った。
「お前もこっちの世界だと普通の子供みたいだな」
「む」
セレスタでは弱く見られないよう、侮られないよういつも気を張っている。
この世界でただの子供として扱われるのも心地よいと知ってしまっているから少しだけ甘えてしまう。
「だってこっちでは気を遣わなくていいんだもの」
「いや、珍しいものが見れておもしろい」
からかっているのかと思ったけれど、ヴォルフの顔はどことなく嬉しそうでそれ以上は追及出来なかった。




