師弟 2
「師匠、飽きました」
手元にある細かい紋様がびっしりと刻まれた魔道具を弄りながら言う。
薄くなった紋様を上から寸分違わずに刻んでいくのはかなりの集中力が必要とされる。
力加減を少し間違えただけでも魔道具が使い物にならなくなるこの作業を任せるのは信頼の証なんだろうけれど。
これ私の仕事じゃなくない?と思わないでもない。
マリナは執務を終えたところで師匠に連行されてこうして労働を強制されている。
師匠に頼まれて嫌とは言えない。少ししか。
一日目を酷使した後にこの作業は結構辛い。
しかしものすっごく貴重で高価な魔道具なので失敗するわけにはいかない。
医療用の魔道具はとても繊細で貴重なのだ。
「文句言うんじゃないわよ。 どうせ暇してたんでしょ」
魔力を持て余しているなら手伝えと言われて肩を竦める。
まあ、師匠の言う通り魔力は溢れている。
発散させたいくらいなので問題はない。
ただ細かい作業に別のものが溜まっていく。
時折動作確認のため魔力を流しながら掘り続ける。
嫌いな作業ではないけれど、飽きた。
「師匠、終わったらデザート奢ってくれません?」
これだけ神経を使う作業を押し付けたのだからそれくらいはいいだろう。
「食べてなかったの? 仕方ないわね」
自分で仕事終わりのマリナを連れてきたくせに、と頭の中で突っ込む。
「遅くまで執務をするなら間に休憩を取ってちゃんと食事は取りなさい」
「終わってから食べようと思ってましたけれど」
「それじゃ遅いのよ。 そんなんだから、成長が遅いのよ」
「小さいのは遺伝です、多分」
母親のことはもちろんわからないし、父親も背中を丸めて酒を飲んでいる姿しか覚えていないけれど、左程大きくはなかったはずだ。
誕生日がきたら16になるマリナ。成長はもう半ば諦めている。
王宮に来た時から小さい幼いと言われ続けていたので慣れ+開き直りもあった。
何よりマリナは今の自分が嫌いじゃない。
「口の減らない子ね。 いいわ、今日はここまでにしなさい」
まだ食事を摂っていないと言ったからか作業途中なのに師匠が解放してくれた。
食堂のデザートは奢ってくれなかったけれど、帰り際にお菓子をくれる。
机からお菓子が出てくるってことは師匠も人の事言えない食生活なんじゃないかと思ったけれど、余計なことを言って小言が飛んでくる前に退散することにした。
『今日は』と言ったからにはまた手伝わせるつもりだろう。
今日だけは平穏に終えたかった。




