双翼の帰還
式典が執り行われるのには数日かかるかと思ったが、その日の午後には式が行われ、双翼が共に戻ったことを知らせた。
マリナが追放されたことは民にまでは周知されていなかったので、貴族に向けた発表になる。
王宮に居た人間しか呼ばなかったのは内務卿のせめてもの嫌がらせなのだろうか。
ともあれ、これで新しい双翼を選べという声は消えるだろう。
王子の傍に控え、居並ぶ貴族たちを眺める。
突然の発表にただ驚いている者、早くも立ち直って敵意を向けてくる者、中には好奇心を顔いっぱいに張り付けている者もいた。
その中にさっき別れたレインと、師匠もいる。
久々に見る師匠は穏やかな笑みを浮かべてマリナを見ていた。
(戻ってきた…)
ただ黙って認められる優しい世界じゃない。
確かな意志と力がなければ生き残れないような世界。
異世界に行く前と何が変わったわけでもない。生粋の貴族主義の人間にとってマリナが目障りであることは間違いない。
これからもマリナを排除しようとする動きはあるだろう。
けれど…。
ちらりとヴォルフを見る。視線に気づいたヴォルフはそっと微笑みを返す。
悪意や敵意が渦巻く中に、別の意識も確かにある。
好意や信頼、あるいはどちらでもない興味も。
視線を一身に受け、高揚する自分を感じた。
(刻んでみせる)
自分を認めさせ、この国にマリナという存在を刻み付ける。
必要だと言ってくれた人の為にも。
愛していると言ってくれた人の為にも。
(力を尽くして生きるから、支えてよね)
一番近くにいる二人へ視線を向ける。
マリナの視線を受けて王子とヴォルフの視線が向く。
ひと月前には感じられなかった信頼を見つけて笑みを送る。
二人から返ってきた笑顔もマリナに負けないほど輝いていた。




