嫉妬?
レインを見送って振り返るとヴォルフがマリナを見ていた。
見慣れた騎士服を着たヴォルフはその体躯と表情が相まってとても近寄り難い、言い方を変えるととても迫力のある見た目をしている。
気の弱い子供なら泣いてしまいそうな顔にも、見慣れたマリナはとくに何も思わず声を掛けた。
「見てたの?」
見られて困ることは何一つなかったけれど、ヴォルフは不機嫌そうな顔をしている。
何かあったのか聞くとレインと一緒にいたのが不満だったらしい。
「アイツは何か気に入らない」
まあ、性格的にも真反対だろうし反りが合わないだろうなとは思う。
その後に続いたヴォルフの台詞には平静を保てなかった。
「俺よりアイツの方がお前のことをわかっていそうなのが腹立つ」
予想外の反応に驚き二の句が継げない。頬が熱を持ったのが自分でもわかる。
「これが嫉妬というものだろうか」
「な、にを言って…」
動揺に舌が回らない。
そんなことを聞くな、と言いたいのに喉に貼りついたみたいに言葉が上手く出てこなかった。
「マリナ」
ヴォルフの視線がマリナの瞳を捉える。
黒い瞳の中に自分が映っているのが見える。ヴォルフを見つめ返すと表情が少しだけ和らいだ。
後で時間をくれ、とだけ言ってヴォルフは自室に入って行った。
不可解なヴォルフの態度に少し疑問が湧いたけれど、後で話すだろうと気持ちを切り替える。
マリナも自分の部屋に戻って休むことにした。