突然の再会 3
三十分も遅刻したのに店長は全然怒っていなかった。むしろマリナの服に付いた土を見て何があったのかと心配してくれた。
「犬に襲われるなんてついてないわねー」
バイト先の先輩が同情的に言ってくれる。
「ええ、まったくです。 気に入ってたのに、落ちるかな…」
ほとんど一張羅なのに…。へこむ。
「すぐ落とせば平気よ。 乾いた土を払ってから洗濯してね」
先輩の一人、麻子さんがそう教えてくれる。
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「うちの子もよく汚してくるから。 洗濯のことなら何でも聞いてね」
二人のお子さんがいる主婦でもある先輩は頼もしい笑顔で胸を張った。
「ありがとうございますー。 私ここでバイト出来てほんとうれしいです!」
誇張なしの本音だった。本当、ここで働かせてもらえなかったらどうなっていたことか。
「やだ、マリナちゃんったらかわいいこと言うー」
大学生の美菜さんが抱きついてくる。慣れない接触に戸惑いながらも、うれしく思う。
じゃれあってる私たちを店長と麻子さんが微笑ましそうに見つめていた。
こんなこと元の世界ではしたことがなかった。ただの子供として可愛がってもらえることはうれしくて、むずがゆい。
こうしたい良い人たちに囲まれていると、自身の幸運を実感する。
「すみませーん、注文いいですかー」
お客さんの声が聞こえて美菜さんの腕から出る。
笑顔で注文を聞き、厨房へオーダーを通す。
楽しそうに談笑するお客さん、厨房から漂ういい香り、穏やかな時間の流れに心地よさを感じて目を閉じる。
満ちた日々を噛みしめて目を開けると、道路を挟んだ向こう側の歩道に黒犬の姿が見えた。
(あいつ…! 来んなって言ったのに!)
瞬間的にイラッとした。監視してるつもりなのか眼光鋭くマリナの挙動を見つめている。
結局バイト終了までイライラしながら仕事をすることになった。