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双翼の魔女は異世界で…!?  作者: 桧山 紗綺
異世界<日本>編
21/368

真っ直ぐな彼

 取りあえずヴォルフと住むことには大家さんのお墨付きが出たので安心していられる。

 とはいえ、他の住人に見られないのに越したことはない。ヴォルフには引き続き気をつけてもらうことにした。

「マリナ」

 ぼーっとテレビを見ていたら名前を呼ばれた。寝てると思ったのに。

「何?」

 ヴォルフを見るが、ヴォルフはマリナの方を見ない。

「俺の姿を戻すことはできないか?」

「…前にも言ったけど、今は無理」

「そうか」

「…」

 沈黙が落ちる。何が聞きたいんだろう。そのことについては説明したのに。

「マリナ」

「何?」

「俺は今、犬の姿だ」

「うん、知ってる」

 見ればわかる。

「人間の時に比べて出来ないこともあるが、代わりに出来ることもある。

 今日みたいなことがあったら俺を呼べ。 犬の耳なら聞こえる」

「…」

 ヴォルフがこっちを見ていなくてよかった。

 目が合ったらきっと平静を保てなかった。ヴォルフから視線を外しながら答える。

「犬の足なら前よりも早く駆けつけられるし?」

「そうだな。 今日だって呼ばれてもいないのに間に合っただろう?」

 冗談めかした台詞にヴォルフが真面目に答える。なんでそういうことが言えちゃうかな。

 姿を戻せていたら元の姿で堂々と守ってくれるつもりだったらしい。

「…そうだね。 ヴォルフがいてよかったよ」

 ヴォルフがいなかったら、魔法を使って逃げただろうということはどうでもいい。ただ、そう言ってくれたことがうれしかった。

「守ってもらうとかガラじゃないけどね」

 守られるより守る方が得意だ。ヴォルフだから我慢できるけど他の人間だったら耐えられなかっただろうな。守ると言われるのは何もできない無力な子供に戻ったみたいで嫌いだった。

「そうだな。 お前はそんな人間じゃない」

 聞きようによれば守られる価値がない人間だとも聞こえる。間違いではないが。

 そんな捻くれた思考は続く言葉に叩き潰された。

「お前が守られるだけの人間なら俺は王子とお前を同時に守らなければならない。

 それでは双翼の役目を果たすには不十分だ。

 戦う力を持っているお前だからこそ、俺は王子の守りを任せて敵を追うこともできる。

 そうやって支え合ってこそ双翼だろう」

「…」

 真っ直ぐ過ぎる台詞に言葉を返すことができない。

 いつもこうだ。真っ直ぐな思考と素直な正義感を、直視できなくなる。

 眩しすぎて。

 自分が汚れてるとまでは思わないけれど、とうの昔に失ったものをそのまま残している彼らを羨ましく思う。

(だから、好きなのかな)

 憧れる。

「ホント、単純だよね」

 過去の双翼には主の信頼を競って争った例もある。そう言った例も知っているけれど、ヴォルフとならそんな関係になることはないと信じられた。

「でも、そうあるべき、っていうのには同意できるかな」

 思考がどれだけ疑心に満ちて人の裏側を知っていても、明るい光の中を真っ直ぐに進んで行くことは出来る。

 憧れるからこそ、その真っ直ぐさを殺すことなく守ることができていたと信じたい。

「次の双翼とも同じ関係が作れるといいね」

 水を差すとわかっていても釘を刺した。戻る気がないのだと。

 ヴォルフが文句を言いたげにこちらを見たけれど、マリナは黙殺するしかなかった。

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