突然の再会 2
「で? なんでこんなところにいるの」
人気のないベンチに座って目の前の犬に話しかける。
黒犬はマリナの前にでん、と座ってまっすぐこっちを見ていた。
《お前、その前に俺に言うことはないのか》
「はあ?」
《俺をこんな姿にしておいて謝罪の一言もないのか!?》
吠えた。一応声は抑えているようで辺りに気づいた人はいない。
わざわざ場所を移したのに騒がないでほしい。こんな大きな犬が無駄吠えしていたら注目を集めてしまうじゃないの。
「元はといえばあんたが悪いんでしょ」
黒犬の顔を見ているとそのときのことが思い出されて段々むかむかしてくる。
横を向いて言った言葉は吐き捨てるような口調になった。
《俺が何をした!》
マリナの態度に黒犬が吠える。
「あんたにはわからないでしょうよ」
どうせ気づきはしないのだから、言ったところで無駄だ。
《とりあえず俺を元に戻せ!》
「ムリ」
黒犬の願いを一言で切り捨てる。
《ふざけるな! お前がやったんだろう!》
「だから無理」
《そんなわけないだろ!》
聞かないヴォルフに抑えていた声が大きくなっていく。
「あんたとバカ王子のせいで出来なくなったの!」
話のわからない黒犬。元凶は私だけど騒ぎが大きくなった原因は目の前のこいつにもあった。
《王子を馬鹿にするな!》
「バカをバカって言って何が悪いのよ!」
怒りのままに怒鳴り返す。
この世界に来たのもそのバカ王子が原因だっていうのに!
睨み合ってると携帯が鳴った。
「…!」
ポケットから取り出して液晶を見ると『バイト』と表示されている。
時間を見るとすでに仕事が始まる時間だった。
「うわ、ヤバイ!」
慌てて携帯に出る。
遅刻を怒られるかと思ったら大丈夫と?心配されてしまった。
携帯を切ってポケットに突っ込む。急いで行かないと!
駆け出そうとすると行く手を塞がれた。
《どこに行くつもりだ?》
「バイト! あんたと話してる時間はないの!」
《こっちの話が先だろう!》
「うっさいな! 終わったら聞くから待ってなさいよ!
あんたは頼まれた仕事を私用で放棄したりするの?」
性格的にそれをよしとしない彼は口ごもる。
《それは…》
「終わるまで適当に外で待ってて。
あ、店の中とかすぐ外とか来ないでよ。 うち、飲食店なんだから」
動物がよくないとかいう以前にこんなデカイ犬がいたらお客さんが怖がって入ってくれない。
《仕方ないな…。 終わったら絶対に逃げるなよ!》
「逃げるわけないでしょ!」
マリナが悪い訳でもないのに。というか悪かったら余計に逃げたりしない。
言い捨てて、全力で店に向かった。