おかしなお茶会
太陽の熱も和らいで、庭園はすっかり秋の空気をしている。
庭園でこうしてお茶を出来るのも後少しだろう。
カップに入れたお茶を一口飲んで皿に乗ったお菓子に手を伸ばす。
この時期取れる木の実を砕いて生地に練り込んだ焼き菓子は香ばしくて甘い。
濃厚な甘みのするお菓子を濃い目に入れたお茶と楽しむ。
幸せな気持ちになる一時。
目の前にいるのが弟子志願者という名の邪魔者でなければもっと良い。
マリナの考えを呼んで彼女が可愛らしく口を尖らせた。
「酷いです、お姉様。
せっかく持ってきたんですからもっと喜んでください」
冷めた気持ちでミリアム様を見返す。
あれだけ言ったのに呼び方を改めないのは、彼女なりに理由があるんだろうと放置することにしている。
嫌がるのがおもしろいとか、碌でもない理由が。
言っても聞かないし。
「喜んでますよ。 ミリアム様は良い趣味をしてますよね」
お茶もお菓子もミリアム様が持ってきた物だ。
組み合わせが秀逸だと思う。
「もう、ミリアと呼んでと言っているのに。
本当に頑なですね」
「あなたほどではありませんよ」
よくも飽きもせずに来ると思う。彼女の家は王都に近くはないはずだけど。
「ミリアム様は何処かお知り合いの所に身を寄せていらっしゃるんですか?」
彼女の家から王都に来るのは時間が掛かる。
二日三日で往復できる距離じゃないので王都近くに泊まっていると予想していた。
「あら、ようやく少し興味を持ってくださいました?
隣町に宿を取っています。
それなりに整えられていて、王宮に来るのに不自由しない程度の距離なのでとても便利な街なんですよ」
ミリアム様がマリナの所に出没するようになってから二週間以上経つのに、家に帰らなくても家族は何も言わないんだろうか。
「こんなに長く家を空けてよろしいのですか?」
流石に何か言ってきそうなものだけど…。
そもそもご家族は彼女の居場所を知っているんでしょうか。
「アレク様たちの結婚式に出席してから帰っていませんけれど、何も言いませんよ?」
ミリアム様から告げられた台詞にマリナも絶句する。
いくらなんでも、と思ったけれど、子供に関心のない人なんていくらでもいると思い直す。
(そうよね、何年も音信不通なんて珍しくないわ)
この王都でもそんな人はいくらでもいるだろう。
ミリアム様も笑うだけで悲愴な様子は全くない。
「放任主義なんです」
可笑しそうなミリアム様に思わず笑う。
「放任というか放置ですよね」
くだらない冗談にミリアム様も声を上げて笑った。
「ふふっ、そうですね。
でもどちらでもいいですよ。 おかげで自由にさせてもらってますから」
言葉の通り、ミリアム様は楽しそうだ。
こうして王宮に押し掛ける時間があると微笑むミリアム様に苦笑を返す。
「見てください、空がとてもきれいですね」
手を上げて空を見上げるミリアム様。
どこか子供っぽい仕草につられて空を見上げる。
高く澄み渡った空はとてもきれいだった。
おかしなお茶会を終えてミリアム様を見送る。
本当に変な人だ。
悪質ないたずらに一緒になって笑っているかと思えば小さな子供のように空に向かって目を輝かせる。
アンバランスな人だと思う。
その不均衡なところが彼女の魅力なんだろう。
振り回されそうになるのに辟易していたはずなのに、退屈しないと楽しんでいる自分がいる。
完全に突き放せないのは彼女の存在を好ましく思い始めているからなのかもしれない。
(本当に厄介な人…)
溜息を吐くのに口元は緩んでいてた。
自室に戻ろうとしたらばったりヴォルフと会う。
「訓練は終わったの?」
こんな時間に外にいるなら訓練場に行っていたんだろうと声を掛ける。
「ああ、お前こそ珍しいな。
こんな時間に外にいるなんて」
自分が思っていたのと同じようなことを言われた。
「ちょっとね、人と会ってたの」
「ああ…。 あの時の変わった令嬢か」
困った顔のマリナを見て来訪者が誰かヴォルフにもわかったらしい。
「あはは、ヴォルフから見ても変わってるんだ」
「お前が対応に苦慮している時点で普通の令嬢でないのはわかる」
どういう意味なんだか。肩をすくめて歩き出す。
向かう先がほぼ同じなので一緒に戻る。
陽が沈んだ空には月よりも先に星が輝いていた。




