麻子さんの隠れスキル
「マリナちゃん、好きな人でも出来た?」
「え?」
その日のバイトは美菜さんの唐突な質問から始まった。
「何ですか、いきなり」
笑いながら問い返す。見れば麻子さんも興味を隠さない笑顔でマリナを見ている。
「だって、この間からなんか楽しそうだし。 絶対になんかあったんだと思う!」
「その言い方だと前が楽しくなさそうだったみたいですね」
そんなに変わったかな?態度には出さないように気をつけてたんだけど。
「もう! そうじゃなくて! 変わりましたよね? 麻子さん」
美菜さんが麻子さんにも話を振る。多数決ってずるい。
「そうねえ、様子が特に変わったってことはないけれど、まかない食べなくなったし誰かと食事をするようになったのかなーとは思うかな」
麻子さんもやんわりと問いかけてくる。事実なので否定しづらい。
「え? マリナちゃん一人暮らしだよね。 まさか、同棲…?」
「あはは…。 違いますよ」
同居、とも言えないよね。犬だし。
「えーっ? でも絶対なんかあったってー!」
「そういえば、帰るときも誰かを探してる風だったわね?」
「…!」
麻子さんの言葉に一瞬返事に詰まる。その台詞に美菜さんが食いついた。
「えっ!? バイト先まで迎えに来るなんて、やっぱり彼氏出来た?」
詰め寄る美菜さんと答えに困るマリナを麻子さんがにこにこと見ている。一言で人を追い込むとか、怖いです。
ニコニコした顔に隠れたスキルに麻子さんの裏の顔を見た気がした。
(楽しんでますね…)
いつもより緩んだ口元が物語っている。
今日は一日からかわれるのかなー、と半ば諦めの気持ちで苦笑いを浮かべた。