魔力と神域 2
男性は斎藤さんといっていろいろな話をしてくれた。
神域に勤める人から聞けた話は貴重で、マリナの予想を補足してくれる。
(これなら半年後に間に合うかもしれない)
仮定が裏付けられてマリナは今まで以上に多くの場所に出かけていた。
そしてそんなマリナにヴォルフもついて来る。バイトがある日は朝に、休みの日は丸一日。それが最近の日課になっている。
「…」
深く息を吸うと空気と共に力が入ってくる。横で見ているヴォルフも気にならない。
魔力を扱わない人間にはわからない快感に浸っていると横から声が聞こえた。
意識を切り替えて目を開く。ほうっと息を吐くとヴォルフに向き直る。
「何?」
「この間から公園などに出かけているのは何か意味があるのか?」
魔力知識0のヴォルフが聞いて来た。公園じゃなくて神社なんだけど。
「この世界の魔力が薄いって話はしたよね。 でも場所によって濃い場所もあるの。 自然の多い所とかね」
「だから公園ばっかり行ってるのか?」
「公園じゃなくて神社ね。 向こうの世界で言えば神殿とか教会が近いかな」
要するに神聖な場所だ。
「斎藤さんから聞いた話だとこの国では自然を神として崇めているらしいの。 この神社の境内にも樹が多く植えてあるでしょう?」
「確かに…多いな。 それに大きい」
ヴォルフにしては着眼点がいい。
「そう。 大きい、つまり樹齢が高いということにも意味があって、長く生きている樹も神聖なものとして扱うみたいよ」
「それがさっきの話とどう繋がるんだ?」
「簡単に言うと神聖な場所では魔力が濃いの。 神聖で樹の多い、こういった場所は魔力を得るのに最適ってこと」
その国で神聖だと信じられている場所では魔力が濃いことが多い。それは向こうの世界でも同じだった。
「つまり、早く魔力を溜めるためにこういった場所を回っているのか」
珍しく理解が早い。
「その通りよ。 それでも結構な時間がかかりそうだけどね」
そもそも魔力が空になるなんてそうそう起こらない。魔術師たちは魔力が無ければただの役立たずになる。そういった事態を避けるために普段から自分の魔力量は気にかけていた。
「向こうの世界ならどれくらいで元に戻るんだ?」
珍しく良い質問をする。
「三日くらいかな」
個人差はあるけれど、自然に漂う魔力を取り込む能力が高い、魔力との親和性が高い人間なら数日から一週間程度で自分の総量まで魔力を戻せる。
「みっか…」
マリナの答えを聞いてヴォルフが落ち込んだ。
必要のない不自由を味わっているのだから、そりゃ落ち込むよね。
一緒に暮らすことになってマリナは改めて変化した身体の不自由さを感じていた。
事情を知っているマリナと暮らしているから、それでも負担は最低限で済んでいるはずだ。
けれど、中には知っているからこその不自由がある。
一番揉めたのがお風呂だ。マリナからすれば犬を洗う、と思い込めば済む。
けれど、そこまで切り替えができないヴォルフは、それはもう、ごねた。
嫌がった理由もわかるけど。
(知り合いの女の子に身体を洗ってもらうっていうのは抵抗あるよね)
余程特殊な趣味がなければ耐え難いだろう。というかそんな趣味があったらこっちが引く。
結局我慢できるところまで我慢させて強引に洗ったんだけど、それがよっぽど嫌だったのか、それ以来濡れタオルでこまめに身体を拭いている。置いてあるタオルに背中やお腹を擦るだけでもずいぶん違うらしい。
元々犬はそう頻繁に洗うものでもないようだし、しばらくはそれで大丈夫だろう。
「さて、ここでの用も済んだし、帰ろっか」
時間がかかるのは仕方がない。他に選べる方法がない以上、地道に魔力を集めていくだけだ。