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双翼の魔女は異世界で…!?  作者: 桧山 紗綺
異世界<日本>編
10/368

魔力と神域 1

「マリナ、あれは何だ?」

 立ち止まったヴォルフが短い手で指し示す。

「どれ?」

 身を屈めて同じ高さに目線を持っていく。示す先にあるのは商店と民家くらいしかない。首を捻るマリナにヴォルフが補足を入れる。

「あそこの赤い柱だ」

 その更に奥にある公園のように緑の多い場所を指しているのだとようやくわかった。

「ああ、あれは…」

 『お前のことを教えてほしい』そう言われた日から、ヴォルフはマリナのこと以外にも様々なことを聞いてくるようになった。

 中でも多いのがこの国、この世界のちょっとした習慣や品物についてだ。

 こいつは私もひと月前に来たんだってことを忘れてるんじゃないか?と思うくらいこの世界についての質問を浴びせてくる。

(周りに目を向ける余裕があるのはいいことだけど)

 王子が大事なあまり周りが見えないタイプのヴォルフは、この世界でも意外に落ち着いていた。

 焦ってもどうにもならないから楽しもう、という性格でもないのに。意外だ。

「マリナ、あの中には入れるのか?」

 説明しているとヴォルフが建物に興味を持った。小型犬が散歩してるのは見たことがあるけど、ヴォルフほど大きくても入れるかな?

「うーん、多分大丈夫じゃないかな。 ダメなら注意されるだけだし、入ってみようか」

 他にも人がいるので立ち入り禁止ということはないと踏んで入口に向かう。

 この国は本当に平和なようだし、マリナはまだ未成年に当たるので多少のことなら咎められないとも計算していた。

 柱を潜ると空気が変わったのを感じる。

 理由を求めて辺りを見回すとこの場所に植えられた樹に目が留まる。どれもかなりの年齢を重ねているためか、深い力を感じた。

(すごい…)

 一際背の高い樹の前に立つ。手を伸ばせば幹に触れる距離、そこで目を閉じる。

 息を吸うと濃密な力が入ってきた。

 外に植わっていたのとは格の違う力に震えが走る。

(これなら…)

 今までよりも多くの魔力を得られるかもしれない、そう思い手を伸ばしたとき、後ろから声がかけられた。

「その樹が気になりますか?」

 はっと振り向くとそこには変わった衣装を身に着けた初老の男性が立っている。

 あの衣装は何と言ったか、どうやらこの建物の関係者らしい。

 穏やかな微笑みは何故かこの場所の雰囲気に相応しいと思った。

「この樹は大火事や空襲でも焼けなかった樹なんですよ。 ここで一番歴史があります」

「へえ、そうなんですか」

 だからこれほどの力があるのか。見下ろされる位置にいると、広がった枝葉に守られているような気になる。

 力があるだけでなく、包み込むような清らかさを感じた。

「ああ、すみません。 若いお嬢さん相手にする話じゃなかったですね」

「いえ、そんな」

 あまり交流したことのないタイプの相手に戸惑う。

「ところでお嬢さんはおひとりでお散歩ですか?」

 何故そんなことを、と思ったが周りを見て納得する。辺りにいるのはお年寄りか子供連れしかいない。年若い人間が近寄るところじゃないのかな。

 そう結論付けていると砂利の上を歩いているヴォルフが目に入った。

「ヴォルフ!そっちに行っちゃダメ!」

 建物の方へ向かっているヴォルフを制止する。

 ヴォルフが振り返って文句を言おうと口を開く。しかしマリナの横に人が立っているのを見、口を閉じた。

「すみません、こちらは犬が入ってはいけなかったでしょうか?」

 関係者と思しき男性に伺いを立てる。立ち入った後で既に遅いが、謝意を見せるのは早い方がいい。

「いいえ、近所の方の散歩コースにもなっていますし、大丈夫ですよ。 本殿に上がられては困りますが」

 禁止されてはいないみたいだ。ほっと胸を撫で下ろすと男性がヴォルフに興味を示す。

「あなたのお連れですか? 大きいですねえ」

 男性が手招きするとヴォルフはこちらへ近づいてきた。

「立派な体格ですね、これは食べますか?」

 どこからか取り出した乾燥肉をヴォルフに見せる。ヴォルフが顔を顰めたのを見てマリナはやんわりと断りを入れる。

「すみません、彼は主以外からは物を貰わないんです」

「おや、そうなんですか。 立派ですねえ」

 少し残念そうだけれど、男性はヴォルフを偉い偉いと褒めている。ヴォルフは撫でる手を嫌そうな顔で我慢していた。

 かわいそうでもあるがおもしろい。にやにや笑いながら見ていると威嚇するようにヴォルフが牙を剥いた。全然怖くない。

「よく馴れていますね。 大人しくていい子だ」

 良い子、という単語に反応してヴォルフの耳がぴくりと動いた。

 成人した男として、その褒められ方は微妙だろうな。

 口を利けないヴォルフは笑うマリナを不愉快そうに睨んでいた。

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