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会社員

 ジリリリリリ

目覚まし時計が、とあるアパートの一室に鳴り響く。

僕は布団から手を出して、目覚まし時計の場所を探った。

目覚まし時計のボタンをたたく。

目覚まし時計が鳴りやんだ。

ふう。

もう一度寝ようか。


 気づいたら7時だった。

やばい遅刻だ。

急いで布団を飛び出て、洗面台へと向かう。

洗面台の蛇口をひねり、冷たい水を自分の顔にバシャバシャとかける。

歯ブラシを水で濡らし、それに歯磨き粉をつける。

うがいをし、歯磨きをする。

歯磨きをしつつ、トースターに6枚切りの食パンをぶち込む。

歯磨きを終え、冷蔵庫を開ける。

冷蔵庫から牛乳を、食器棚からコップを取り出して牛乳を注ぐ。

それからクローゼットに向かい、スーツを取り出して、パジャマから着替えた。

準備をしていると、

チン

というパンが焼けた音が鳴った。

トースターからパンを取り出し、食べた。

牛乳を流し込み、バナナを剥いた。

バナナを食べながら、羽織を着る。

そしてドアを開け、家を出た。


 駅まで全速力で走る。

もうすぐ30歳だ。

昔のように速く走れないし、長く走れない。

すぐに

ゼエゼエ

と息切れした。

なんとか駅までたどり着いた。

自動改札に定期券を通す。

改札から見えるホームにはすでに電車が止まっていた。

やばい乗り遅れる。

急いでホームへの階段を駆け上り、電車に飛び乗る。

中はぎゅうぎゅう詰めだ。

僕は鞄からスマートフォンを取り出した。

ニュースなどを見た後、テトリスのゲームをする。

この年になってくると、昔のゲームが遊びたくなるのだ。

そうこうしているうちに、目的の駅に電車がついた。


電車を降り、改札までの階段を降りる。

隣を中学生がすごい勢いで階段を下りていくのが見えた。

真似をしてやろうと思った。

だがバランスを崩し、あやうく階段をすべりおちるところだった。

老いを感じた。

駅から会社まで歩いた。

同じようにスーツを着た大人たちがたくさんいた。

信号を3つ越え、歩道橋を2つわたり、高架下を1つくぐった。

会社についた。


会社の受付でタイムカードを通し、エレベーターに乗る。

エレベーターの中にはたくさんの社員がいた。

7階で降りた。

そのフロアをぐんぐん進み、自分の席についた。

鞄を置き、羽織を椅子に掛ける。

鞄からクリアファイルを取り出す。

窓側の人一倍大きな机に向かう。

「部長、昨日の会議の議事録まとめておきました。 主な議題は、二井銀行の融資が削減されたことによるわが社の損害です。」

「すまんな。 私が昨日出かけていたせいで迷惑をかけてしまった。」

「そんなことないですよ。部長は一菱銀行へ融資の提案をされに行ったのですから、むしろ私が感謝したいくらいです。」

「そうかそうか。 今日は子会社を回って、経費削減のために経費リストを作ってきてくれないか?」

「了解しました。」

今日の仕事は外回りだ。

僕は出版社に勤めている。

小説や漫画の編集などの仕事が主な仕事だが、会社の運営もしていかなくてはならない。

銀行の融資や子会社との連携などは僕たち[運営部]がやっている。

大学卒業後は漫画の編集の仕事をしていた。

28歳という年齢にして、[運営部]に配属された。

まだここでの仕事は2年目だ。

だが僕の仕事っぷりが評価され、部長に大変気に入ってもらっている。

今日も部長の期待に応える。

その熱意をもって、子会社へ行った。


 最初に行ったのは、印刷会社だ。

小説や漫画の印刷をすべて担ってもらっている。

融資削減の度にここにきている。

そのため僕が来ると、経費削減の話だとわかるようだ。

「おい、あんたが来たってことは経費削減かい? 悪いがね、うちはぎりぎりまで切り詰めてやってんだよ。 ほかを削減してくれ。」

「ですが、無駄があるかもしれません。 経費リスト作成のため調査をさせていただきます。」

「はいはい。 ご自由にどうぞ。」

印刷の機械、電力、従業員、これらを調査した。

「ありがとうございました。 リスト作成ののち、貴社への配分を決めさせてもらいます。 失礼しました。」

そういって、その会社を去った。


 次に行ったのは、広告代理会社だ。

小説や漫画の広告はとても大事だ。

それらをわが社の[広報部]と提携して、担ってもらっている。

「メーンバンクからの融資がまた削減されました。 経費リストを作成し、貴社への配分を決めさせてもらいます。」

「経費削減ですか・・・ ただえさえ安月給でやってるんだ。 これ以上削らないでくれ。」

「申し訳ありません。 事情は汲めません。」

色々と調査をした。

「ありがとうございました。」

「配分削るなよ。」

「ご約束はできません。 失礼しました。」

そういって、その会社を去った。


 その他にもデザイン会社や小さい出版社などを回り、調査をした。

そして会社へ戻った。

そのころにはもう日が暮れていた。

「部長、ただいま戻りました。」

「おう、お疲れ。 リスト作成頼むぞ。」

「はい。」

リスト作成を始めた。


 12時を過ぎた。

まだリスト作成は終わらない。

昼飯も夕飯も食べていない。

夜食として、カップラーメンをすすりながら、必死にPCと向き合った。

カタカタカタカタ


 やっと終わった。

タイムカードを通し、会社を出る。

人気がない静かな町だ。

もう電車もないので、タクシーを呼んだ。

残業代は支給されるが、いつもこのタクシー代で使い切ってしまう。


 家に帰った。

風呂に入り、テレビを見た。

といっても面白いものはやっていない。

趣味がないから、暇つぶしになんとなく見ているだけだ

郵便受けから取り出した手紙が部屋の片隅に固められている。

同窓会や知人の結婚式の誘いの手紙があった。

毎日残業。

休日出勤。

これらのおかげで出世はしたが、パートナーが見つかる機会がない。

[運営部]は年寄りばかりだ。

他の部には同世代の女性がいるのだろうが、出会う機会がない。

通帳にはお金がたまっていくが使い切るほどの暇もない。

ただ寂しいだけだった。

寂しい。

外では冷たい風が吹いていた。

 

会社員の一日を書きました

仕事に追われ結婚ができない男の寂しさを最後に書かせていただきました

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