転送門、そして運命の始まる日
乗り物酔いにも似た感覚。
懐かしくも、二度と経験したくなかった。
(やっぱりここか。・・・マジで面倒くさい展開だな)
酔いの感覚が抜ければ、彼は真っ白な広場のような場所に居た。
白い柱がサークル状に建つ中心。周囲にはクラスメイトと授業中だったので、歴史担当の小池先生も倒れている。
(あー・・・いきなりだったからな。初見なら気絶するか)
彼は2度目なので慣れているし、もっとキツイ体験もしているので耐性があったと思われる。
(「若返った」のになぁ・・・これも一種のボーナスみたいなもんかねぇ・・・)
そんなことを考える彼のすぐ隣から、
「対象:元『勇者』世良田 陸を確認。・・・お久しぶりですね」
まるで感情を感じさせない、平坦な声をかける女性が現れた。
「久しぶり・・・だな。α《アルファ》。出来れば二度と会いたくなかったんだが」
彼のそんな言葉にまったく何も感じていないのか、
「イレギュラーですね、世良田 陸。・・・今回貴方はここに呼ばれる予定ではなかった」
淡々と事実のみを伝える彼女。
「ふ~ん・・・?じゃ、今回は俺は『勇者』役じゃねーんだな?」
「そうですね。・・・今回の、天職:『勇者』は貴方ではありません」
その言葉に、彼は少しだけ胸を撫で下ろす。勇者なんてものは係わりたくない事柄だから。
「まぁ、俺が勇者じゃねーことは朗報なんだが。・・・それにしても、どーなってやがる。前回、俺はきっちり魔王を倒したハズなんだが?」
彼の言葉に問われた彼女は、
「肯定。脅威:『魔王』は確かに貴方によって消滅しました。・・・今回の召喚には『魔王』関係ではありません」
また、淡々と事実を話す。
(こりゃまたトンでもなく面倒な事態ってやつかもな・・・)
思いっきり顔をしかめる。
魔王関係ではないとなれば答えは一つ。
「馬鹿王国の差し金か?・・・というか、俺が消えてからあっちの世界の時間はどれ位経ってる?」
「時間的には貴方の世界での5年に相当します。・・・詳しい内容はアストに降りてから調べてください」
彼女の言葉に彼は頭を掻きながら、
「あ~・・・またアレか。あっちの世界には干渉しないってやつか。・・・まったくたいした管理者サマだな」
「否定。私は管理者ではありません。・・・貴方の世界で言う『門番』ですので。最低限の事前情報を伝えるだけです」
彼の皮肉にも淡々と返事を返す彼女。その仕草は無機物めいていた。
(門番ね。・・・まったくホントめんどくせーわ)
いい加減彼がうんざりしていると、
「うぅ・・・う~ん?」
「あ~・・・何、ここ?」
「さっきのは一体・・・?」
気絶していたクラスメイト達が起きだした。
「ほれ、さっさと向こうへ行け。・・・俺は目立つのは嫌いだ」
「肯定。私は私の仕事をしましょう」
心底嫌そうに呟く彼に一礼をしたかと思えば、彼女の姿は掻き消えるように無くなり、広場の向こう側である「門」のすぐ脇に佇んでいた。
その姿に気付いたクラスメイトが駆け寄っていく。
そんな光景を眺めながら彼は、
(はぁ・・・来ちまったもんはしかたねーな。ま、今回は俺は勇者じゃないようだし、状況確認だけしたらのんびりフェードアウトでもしようかねぇ)
この後起こる騒動を露と知らず、そんなことを考えていた。