03 『お嬢様vsお嬢様』
03 『お嬢様vsお嬢様』
俺の頭の中の、少々足りないリソースは、二つの結論を出していた。
一つ目は、このタイミングで現れるのは京太郎氏つながりで、艾老師の孫であろうということ。
二つ目は、お嬢様がお嬢様になるほど難儀な性格をしているということだ。
聡明な女の子でも、お嬢様は色々と抱えているものがあるので変なこだわりがあり、かなり割り引いた方が良い。
しかも美人なら惚れた腫れたとか、蝶よ花よとかがベッタベタに絡んで、更に面倒くさい性格になる。
大体、男というのは『美人は性格が良いから美人なのだ』という、大数学者たちでも証明不可能な命題を信じ切っており、異を唱えようものなら宗教裁判にかけようとする狂信者ばかりである。
アイドルはトイレなんか行かない、とかな。
その通りだよな。
常識だよ、常識。
美人は性格が更に良いに決まってるじゃないか。
(個人の感想です)
そして、お嬢様というのは大抵美人なのだ。
自信がなければ、単身乗り込んでくることもないだろう。
目の前のお嬢様が、特に例外とは思えない。
切れ長というのだろうか、美しい瞳がよく似合う顔立ちで、目を細めた方が大人っぽくなる。
まあ、とても美人だろうとは思う。
少し背伸びをして大人っぽく見せているが、2年もすれば十分に色気は追いつくだろう。
「それで、あなたは艾小姐という認識でよろしいのでしょうか」
「初めましてユウキ閣下。艾玲玉でございます。小妹か、小玲玲とお呼びくださいませ」
とびっきりの笑顔を見せられても、ヒアリング能力に難のある俺には、中国語の部分がよくわからない。
印象というか、主観で表現するしかない。
俺の耳にはそう聞こえるだけだし、そうとしか発音も出来ない。
もっとも、ヒアリング能力があっても意味がわからないのだが。
実はロシア語もずいぶんと頑張ってはいるのだが、オマケで中二に進級させてもらっただけである。
授業より補習の方が多いくらいなのだ。
妻のテパ(俺命名、と威張るほどのものでもないのだが)なら中国語も風習や習慣もよく知っているだろうが、今は妊娠してチベットに里帰りのようなものをしているので残念ながら不在である。
どうも、体重のコントロールに失敗したらしく、裸を見られたくないようだった。
『体型が戻るまで帰ってきません』
決意は良いけど、子供はどうなるんだ?
一生、体型が戻らないとか?
妊娠線とか、俺は気にしませんからー!。
そう言えば、サンリンは『サムリン』に近いらしい。
ゲーモが泣き笑いしながら教えてくれた。
しかし、俺には何度聞いてもサンリンと聞こえた。
まあ、それは別の話だ。
ナタリーは中国に詳しいだろうか。
今日はお休みの日だけど、呼んでみるか。
何しろ、このお嬢様の顔には『あなたを利用しに来ました』とはっきりと書いてあるのだ。
とりあえず、習慣がわからないので国際ルールで握手してみると、何の抵抗もなく受け入れられたようだ。
「それで、日系人というのはどういうことでしょうか、艾小姐」
左側のソファを勧める。
右側の奥は、まだ俯いてフリーズしているチカコが座っているが、艾小姐は現地人スタッフだとか思っているのか、目も向けない。
マナイとサードは、貨物船の準備に行ってしまった。
彼女たちは外交は苦手なので、ドウトンボリの方を頼んだ。
準備もあるし、経過を見て判断してくれるだろう。
アキとサクラコとサラスは、アシヤ族の戦力分析辺りで席を外している。
争いは苦手なのだ。
クラは受付に戻っている。
「在日華僑に移民希望者がおります。殆ど日本人と言って良いぐらいに血の濃くなった者たちが沢山いて、それでも日本人や日本政府から中国人として差別を受けております。一方で、風俗や習慣が日本に染まってしまい、華僑から差別を受けたりする者もおります。けれども、一番の問題は、日本も在日華僑も経済が停滞してしまい、若者たちが夢を持つことが出来ないことだと言われています」
「華僑と農業というのは、何となくマッチしないのですが」
「確かに、華僑というのは投資組織ですから基本は商業です。異国で外国人が農地などもらえないのが当たり前ですから、自然とそうなります。しかし、農民にあこがれている者も多いのです」
「農業は厳しいですよ」
「それでも、妻が持て、大農場主になれる可能性すらあるじゃないですか。ホエールとエリダヌスでの公用語の日本語にも不自由しませんから、大農家になれれば、将来は貿易も行えると思います」
「そうですかね」
「実は、日本文化の洗礼を受けた在日華僑の女たちは、半分以下の男と結婚しなくなりました」
「半分以下?」
「これは在日の流行語ですね。つまり平均以下と言うことです。サラリーマンの平均年収が基本で、それ以下の者とは結婚したくないようです」
平均収入以下?
俺も小遣いが月に400リナだ。
年で4800リナだから、スカート2枚の侍女見習いと同じじゃないか。
いや、侍女見習いは祭りの季節には別途小遣いが貰えるんだ。ちくしょうめ。
平均7石のタルト村なら、俺は最下層民だ。
平均以下の男、確定だな。
いやいや、表高3000石の領主なんだ。
自信を持とう。
それで、キンに言ってやるのだ。
『小遣いを月425リナに値上げしろ』
それぐらい押し通せなくては、夫の威厳は保てないだろう。
上手くいけば420リナぐらいには値上げできるかもしれないからな。
マナイの食べたチョコパフェは、一杯26リナもするんだぞ。
饅頭とお茶のセットなら4リナでお替わりも出来るのに。(お茶だけだよ)
待てよ。
このお嬢様、男を厄介払いしたいと遠回しに言ってるだけじゃないか?
「平均年収って言っても、収入は年齢によって変わりますよね」
「今は、年齢・収入早見表があって直ぐにわかるのです。特に年齢が上がるほどはっきりしてきます」
「しかし、役付きになれば変わるでしょう?」
「非公式ですが、会社のハンモックナンバーがわかれば大体予想がついてしまいます。営業成績などがあれば、かなり先まで予測可能です。個人情報保護などと言っていても、今の日本では端末を使えば親の遺産から生涯収入まで直ぐに表示されますよ。高校2年になると、学校と成績で生涯収入を予想するソフトもあるくらいですから、彼氏にするかはそれで決める娘もおります」
なんだって!
それじゃあ、女の子たちは端末をクラスメートの男や、告白相手に向けるだけで、大体の将来を見ることができるのか。
放課後の校舎裏。
呼び出された、美少女。
『入学した時に一目惚れしました。僕と付き合ってください』
下げた男の頭に、密かに端末を向ける美少女。
(ピピ! 生涯収入2億4千万円から2億8千万、税込み。係長クラス。別途住宅ローンが必要。小姑ひとり。浮気3回。最大12センチ。居酒屋通い……)
『ごめんなさい。私、好きな人がいるので……』
うわー、いやーな世界だ。
絶対、日本には帰りたくない。
こういうのを残酷な描写というのだろうか。
それに、12センチだって立派なものじゃないか!
(一部は、妄想です)
「嫌な時代ですね。将来に希望など持てないでしょう。少子化も仕方ないかな」
「あら、昔は所有している牛や羊の数で嫁取りをしたのですよ。長老も羊の所有数で決まりましたわ。今もあまり変わってはいません」
やっぱり、金持ちの価値観だな。
財力で押し通して平気なタイプだ。
恋など、したことないのだろうな。
格上以外、恋愛の対象外とかかな。
そう言えば、キンは猪10頭出しても嫁にしたいとか言われてたな。
ふざけるな。
猪10頭じゃ、キンのスカートすら手に入らないぞ。
ツラ洗って出直してくるな、という感じだな。
今では猪ではなく石高かな。
確かに田畑の数で嫁の数を決めているような気がする。
養える数だからな。
タルトなんか、何年かしたら、また若い嫁さんを貰うのかな。
第1、第2夫人とかは引退して孫の世話でもしそうだ。
いや、再選択法があった。
まさか、俺の妻になるとか言い出さないよね。
ナナとサラサに殺されてしまう。
「艾小姐の星では、得票数か何かが目安ですか。株式かもしれませんね」
「確かに財産だけでは上流には届きませんね。ホエールが民主主義に移行できたのは、閣下のお陰です。ホエール株の48%なんて、皇帝とかにならないと無理でしょう」
「俺は破産しましたよ。艾小姐のような資産家とは違います」
「まあ、閣下は凄いのですよ。ホエールでも大人気です。ですから自信をお持ちください。私のことも、是非、小妹とお呼びくださいませ」
いや、意味がわからないうちは呼べませんよね。
お願いだから、俺に端末を向けないで!
400リナ、12センチとか嘘ですから!
「何が小妹よ。いきなり来て厚かましいわよ!」
俺が怯んでいるとチカコが復活した。
いきなりの喧嘩腰である。
俺の時もそうだったが、こいつは初対面の相手には突っかかる縛りでも持っているのだろうか。
「ち、チカコ様!」
華僑の大物のお嬢様は、一瞬で蒼くなった。
チカコはブラチョッキに巻きスカート姿だったから、現地人とでも思っていたのだろう。
意外とテンパっていて、目に入らなかったのか。
しかし、艾家のお嬢様も名門で裕福な家柄だとは言え、流石にチカコが相手では無理だろう。
ホエールでは青鯨家、つまりチカコが一番格上なのである。
しかもこいつは、ホエールの総支配人とホエールの女帝を前にしても、『いや』の一言で退けてしまうのだ。
ビジネスでも父親を撃退し、損害賠償を金とプラチナで6万トンも奪い取った。
博打で父親の株を3%から1%までに減らして、最高権力者の座を失わせる所だった時もある。
大豆と天然ガスの取引は俺が思い付いたことだが、チカコに任せたら、元手の3万トンの金が1週間で7万トンだ。
ロシアが2万トン分儲けたが、あちらは天然ガス産出国としてのアドバンテージがあったからだ。
こいつにおっぱいがなければ、俺なんか直ぐに職を失いお払い箱だ。
勝負にならないのである。
だから、勝負になりそうな気配があると、取りあえず『おっぱい揉み』で誤魔化して殴られるしかないのだ。
チカコの唯一の弱点は男なのだ。
いいえ、変態ではありませんよ、男です。
あれ、同じものかな。
しかし、どうも、ここでは格下扱いだがなあ。
やはり、ヨリが自然と格上だよな。
ビジネスじゃなく殺し合いになったら一番強いからだろうか。
ヨリと戦争になったら、俺はオペレッタの中に逃げ込んで、一生外に出ることはないだろうな。
その次が多才で責任感のあるカオルコか。
しかし、カオルコが平凡な人間に見えるって、ちょっと怖い世界かも。
「格好つけてユウキに取り入ろうとしてるみたいだけど、あんたは何の肩書きでここに来てるのよ。外交は委員会関係者じゃないと無理だし、観光客なら領地内見学の申請をしなきゃね。先生や官僚候補なら面接試験があるわよ。技術者もビジネスも、先に許可を取るのよ。直訴なら侍女になってからにしなさい!」
「あああ、あの、その、つまり」
「つまり何よ。自分は特別扱いされるとでも思ったの? 星系首相のお嬢様でも100人はいるのよ」
「き、京太郎小父様が、きっと……」
「淡鯨家の紹介状は?」
「ええと、あのですね。先日小父様が依頼なさって」
「あれは肩書き抜きよ。委員会からエリダヌス代表にお願いしたことじゃないわよ。偉くなれば虎を捕まえられる訳じゃあないでしょ。虎相手に青鯨だ、淡鯨だと言っても食べられちゃうだけよ!」
確かに、京太郎氏からは何の連絡も受けていないし、個人的な相談だ。
(何しろ、元奥さんや娘が絡んでいるのだ。公式会見の訳がない。脅迫のような気もするが)
もしかして、経費も持ち出しか?
しかし、チカコの言うとおり、観光客なら申請しないと領地には入れないし、外交官ならセリーヌかその部下から一言あるだろう。
最低でもアポがあれば、マナイかナタリーが予定に入れているはずだ。
俺が呼んだ客ではないし、京太郎氏が連れてきたわけでもない。
迎え、と言うなら空港から連絡を入れるべきだ。
つまり、例え艾老師の孫とはいえ、この状況ではただの不審人物である。
俺を迎える船に勝手に便乗してきたのだろう。
遅ればせながらだが、詐欺やカタリの可能性だってあるわけだ。
まあ、本物だろうが、あの笑顔は営業スマイルだと思う。
ホエールの権力構造は、まだ二重になっていて、星系首相たちが組織する星系会議が内政のトップだが、まだホエール株で支配していた頃の『委員会』が外交、軍事、貿易などの外政を司っていて、やっと星系会議から委員会の委員が選べるところになったばかりである。
ペイルホエールを例にすれば、惑星の各地域から議員が選ばれ、議員から知事(地球では国家元首クラス)が選ばれ、その中から星系首相(地球では国連総長)が選ばれる。
その首相が集まって星系会議をするのだが、議題はあくまでもホエールの内政自治までである。
委員会への働きかけは星系会議として株主総会の開催を要請し、そこで委員に要望を提案し、委員が取り上げた事案だけが総会で議決に回される。
外交とかの委員会権限の強い事案は委員が決めて報告するだけだ。
それでも以前は総会の開催要請すら出来なかったのだから、かなりの進歩である。
あとは、8年の任期が切れた委員が総会で選ばれ、総代表は委員会から選ばれる。
まだシステムが変わったばかりだから、誰も任期が切れていないので、元々の10人委員会以外からは委員は選出されていない。
とはいえ、上が下を選んでいたシステムは徐々に下から上へと民主的になってきた。
しかし、ペイルホエールの星系首相は淡鯨家の血縁であり、艾家は在ホエール華僑の代表であっても、星系首相を選ぶ側の知事でしかない。
艾家の実力がペイルホエールではナンバー2だったとしても、淡鯨家の支配下にある20星系の一つのうちのナンバー2でしかない。
チカコにすれば、豊作氏を支える9委員のひとりが支配する星系の、20人の部下の、そのまた部下でしかない。
艾家が2階級特進してもやっと委員会の委員であり、まだ青鯨家の部下である。
委員会は元々は国連の一機関で、宇宙開発のためのものだったが、ホエールの成功で宇宙の利益分配組織になり、その後ホエールの出先機関になりはてた。
その頃の委員会を支配していたのが中田中校長であり、その校長を使っていたのが祖父の尼川祐介である。
祖父が鬼籍に入り、校長が蒸発し、跡継ぎの祐一が逃げて、俺にお鉢が回ってきたのだが、その間に青鯨家が支配していったのだ。
宇宙支配は、実は簡単なのだ。
ゲートドライブの制作現場を支配すれば良いのだから。
迎人氏は、権力も富も興味はないし。
そう考えると黄鯨家を押さえていた尼川家は、委員会の敵であり、ホエールの敵である。
俺がホエールに殺されなかったのは、ひょっとしたら奇跡かもしれない。
ヨリの協力とチカコの評価とカオルコの説得がなければ、青鯨豊作総代表も俺を抹殺しておしまいにしたかもしれない。
あの頃の母さんは、命がけで祐馬だけは守るつもりだったそうだ。
それで現地人に溶け込み、刀の稽古もし、俺の妻たちと暮らしていたらしい。
『最初はノーパントップレスなんて、死ぬほど恥ずかしかったんだから』
『最初から、あんな格好じゃなかったっけ?』
『豹柄のビキニとノーパントップレスは全然違うものだわ。女にしてみれば、これ以上は無理という最後の2枚が、あるのととないのとじゃ、それこそ天と地の差よ』
露出面積と羞恥心が正比例するわけではない証明だろう。
ミニスカートは、何処まで短くしてもミニスカートとして許容されるが、パンチラはスカートの長さに関係無く、見られるのは我慢ならないもの、らしい。
『あんなミニ穿いてんだから、見て欲しいんだろう』
などというのは、絶対に男だけの価値観である。
『見られたくないなら、ミニなんか穿かなけりゃ良いのに』
などというのも、男だけの価値観である。
あの人に可愛いと言って貰いたい。
それが、彼女たちがミニを穿く理由だからだ。
その、『あの人』に入れない男は、意見する権利もないのである。
我々は、黙ってミニスカートが見られる環境を保護しようではないか。
環境保護団体としての活動だと思えば楽しくもなる。
そして、我々には妄想する権利があるのだ。(多分)
更に嫌われる可能性はあるし、気持ち悪がられる可能性もあるが、妄想なくして青春は成り立たない、と俺は言いたい。
『スカートの中には夢がある』
はい、皆さんご一緒に。
『おっぱいの柔らかさは、それが優しさだから』
おほん。
まあ、それで、俺が死んだらオペレッタとリーナさんが暴れて、ホエールどころか地球まで滅んだだろう。
これは誇張ではないと思う。
きっと、人類は石器時代まで戻されてオペレッタ1世の支配下になり、皇帝に隅々まで覗かれる世界になっていたと思う。
見方によっては、キヌが世界を救ったのかもしれないな。
ロリは宇宙すら救えるのだ。
キヌは去年女の子を産んで、豊作氏はご機嫌である。
そう言えば、豊作氏は中国嫌いだったな。
チカコもそうなのだろうか?
たびたび脱線するが、オペレッタはリーナさんと一緒にバイオレッタとジュリエッタの改造をしている。
魔改造と言うべきか。
何でも金樹脂ナノプログラムだけでも驚異の発明だったらしく、金属と高分子の組み合わせやゲル状のナノプログラムの特許で大金持ちになった。
それで、ふたりは最高級のアンドロイド素材を輸入しまくっているようだ。
ホエール軍もオペレッタの様々な技術供与に対して相当支払っているらしく、唯一の窓口である白鯨中佐は、今度は大佐に昇格するらしい。
本当は、技術の差が開くばかりなのだが、言わない。
オペレッタには、悪意がないからだ。
そのうち新型の4人娘が登場し、そのうち3人は単体でもホエール軍を打ち破る戦力を持っているはずである。
残りのひとりは、俺を打ち破る下半身を研究開発しているようだが、究極の下半身を俺は知っているので絶対に秘密なのだ。
バレたら彼女が研究対象になりかねないからだ。
きっと、神隠しに遭うだろう。
それが最大のヒントである。
結局、颯爽と登場した艾小姐は、チカコとクラとロマの部下に連れ去られてしまった。
「とにかく、詳しく調べてからにするわよ」
「あれー、ユウキ様ー、閣下ー、代表ー」
意外な展開だった。
チカコが順番、いや、地位や家格などにこだわるとは思ってもみなかったのだ。
あいつも、一応、お嬢様のプライドを持っていたのだろう。
それで、俺はマナイとサードを呼び、一緒にドウトンボリ村の対応に追われているうちに、艾小姐の存在を忘れてしまった。
おっぱいを見せてくれなかったからではないぞ。
小姐は『シャオチエ』の発音で良いみたいだ。
艾小姐とは、『艾お嬢様』みたいな感じだろうか。
小妹は一般庶民では幼馴染みみたいな感じだが、格式のある家では義理の妹みたいな存在で、時には婚約者になるという。
婚約者ではなくとも、兄のように悪い虫を払う役割を担うらしい。
従兄弟や実の兄の親友が、そういうポジションに選ばれる風習があるそうだ。
ロミオとジュリエットで、兄や従兄弟や親友などの取り巻きがいたのを思い出してくれると感じがつかめるだろうか。
一族郎党の雰囲気は、上流では当たり前のことなのだ。
そう、それで、サツマイモを満載した貨物船にサードをつけて派遣して、ドウトンボリが少し落ち着いた頃、クラが呼びに来て、艾小姐のことを思い出した。
クラのお尻をスカート越しに想像しながらついて行くと、そこは風呂場であり、泣き疲れた艾小姐が侍女に囲まれて全裸で立たされていた。
リボンもシニヨンも外され、長い髪が流れていて、とても美しいが哀れにも見えた。
俺は慌てて、15歳Bカップに修正した。
じょ、冗談です。
これは、イジメかリンチか?
近くにはハサミを持ったササがいて、俺を見ると、
「ご命名を!」
などと言い出して、俺は心臓が止まるかと思った。
ササは、何の身分を持たない難民の女が領内に入ったのだから儀式をするのは当然であり、その後侍女見習いの教育を受けられるのは、これ以上ない幸せなことであると言っていた。
きっと、チカコがそんなことを教えたのだろう。
クラとロマは、どこか変だと思っていたようだが、儀式を受けられるのは名誉だと思っているので、艾小姐が名誉称号だと信じ、自分のことのように喜んでいたようだ。
確かに、クラとロマの時には、本人たちはそう感じていたのだろう。
地球の学校で勉強してきても、根っこは変わらないらしい。
そう言えばキヌも、豊作氏と結婚したと言うのに、俺が宇宙で一番偉いと信じていた。
お祝いに行った時に『領主様』といまだに呼ぶので、やめさせようとしたのだが、聞き入れてくれなかった。
それはそうと、俺は危ないところで艾小姐を救うことが出来た。
手遅れだったという説もあるが、気を利かせた侍女が先に髪のカットやボディ洗いを済ませている可能性だってあったのだから、救えたと言えるだろう。
「外国人を侍女にするわけないだろう。なりたい奴はここにいっぱいいるんだからな。お前たちだって外国人に仕事を取られるのは嫌だろう?」
外国人は大体官僚である。
後は、先生とか経営者だろうか。
正確にはナタリーが侍女なんだが、秘書と呼んでいる。
しかも、俺はナタリーに『儀式』などしていないのだ。
したいけど。
いまだに、おっぱいも見せてもらえないのである。
結婚するまで『おあずけ』なんだそうだ。
いつも隣で、トップレス姿でいるマナイに叱られたけど。
『毎日毎日飽きるほど沢山、の、を、見てるのに、まだ見たいのですか』
『…… 見たいです』
まあ、マナイには嘘をつけないしな。
やめて。二人して可哀想な子を見る目はやめて。
その後は、侍女たちにドレスやシニヨンを探すように言い、艾小姐をゲストルームに連れて行った。
全裸だから、バスタオルを掛けてやった。
ショック状態なのか、何を話しかけても、
「はい、ユウキ様」
としか、応えなかった。
『大丈夫なのか?』
『はい、ユウキ様』
『痛いところはないか?』
『はい、ユウキ様』
『とりあえず、パンツを穿いてくれ』
『はい、ユウキ様』
俺の顔を見て、涙目でそう繰り返すだけだった。
よっぽど怖かったのだろうか。
女のイジメは陰湿だとか言われているからな。
クラが新しいパンツを持ってきても、怯えているしな。
ナタリーが駆けつけてくれたが、怯えてイヤイヤをするばかりだった。
チカコに雰囲気が似てるからだろうか。
結局、女性陣が怖いらしく、俺がパンツを穿かせることになった。
領地内で男性恐怖症はいくらでも見つけられるが、女性恐怖症は初めてである。
女性にパンツを穿かせるのも初めてだった。
その後、ロマが彼女の穿いていたショーツを見つけてきたが、やはり部屋には入れなかった。
俺はロマからショーツを受け取り、ベッドで毛布を被っている艾小姐が既に新品を穿いているのを思い出して、それをポケットにしまった。
チョップ!
「変態さんはいけません!」
ロマが見ていて怒られた。
なんだ。地球での学習効果もあるじゃないか。
だって、この星でパンツって珍しいんだもん。
チカコとサクラコは穿いているけど、他は殆どノーパンなんです。
いや、ナタリーとポリーナ先生はひもパン愛用者だったな。
ひもパンって、くんくんするのに向いてないよね。
10歳以下とか、30歳以上のパンツも向いていないような気がする。
13から17歳ぐらいのパンツがいいよね。
熟女好きでも熟女のパンツまではくんくんしないような気がする。
(あくまでも、個人の感想です)
ショーツは一端整理箪笥にしまってから、誰も見ていないのを確認してポケットにしまい直した。
オペレッタ以下3名は、きっと見逃してはいないだろうが、何も言って来なかったので誤魔化すことに決めた。
紅茶や温めたミルク、クッキーやプチケーキなどを出してみたが、艾小姐はなかなかショック状態から復帰しなかった。
ウーロン茶と月餅は持ち合わせがない。
ところが、例のイチゴジュースは喜んで飲んだ。
それで、少し落ち着いたのか、そのまま眠ってしまった。
男型のサードを呼んで部屋の警備を代行させ、俺は艾小姐のお付きを探しに出掛けることにした。
ひとりで来ているわけがないからだ。
領内は男子禁制だから、きっとホテルか空港で待っているのだろう。
途中でチカコを見つけた。
洗濯機に大量の粉石けんを入れている。
俺の姿を見ると、驚いたようだ。
「あっ、12センチ!」
「だから、違うって!」
失礼なことを言いながら、全力で逃げやがった。
意味わかってるのかー!
間違いなく、有罪だな。
俺の名前は12センチじゃないし、それに12センチじゃないぞ!
いや、計ったことはないのだが、違うよね。
しかし、チカコを追いかけるよりも、大量の泡を吐き出し始めた洗濯機を救う方が先だった。
先週届いたばかりの最新型の廉価版なのだ。
全自動だから、センサーが汚れや匂いを検知して水も洗剤も柔軟剤も適量だけ自動で入れてくれるのに、チカコが天然石けんを大量に投入したせいで壊れてしまうからだ。
全自動洗濯機を使えないなんて、女子力うんぬんどころの話じゃないな。
泡のせいで、キャンセル命令が聞いて貰えず、何度も試すことになった。
大量の泡は水で流し、洗濯物を取り出すと中の洗剤を全部洗い流した。
洗濯物は、見覚えのあるシルクのチャイナドレスにブラジャーにシニヨンキャップにリボン、後は身体のサイズを大きくしたり小さくしたりする補助下着?の類いだった。
シルクは洗濯機では洗えないだろう。
きっと、もう駄目だと思いながら、一応一番丁寧なコースで洗濯するよう指示した。
パッドらしきものは一緒に入れないでくれ、と洗濯機に拒否されたので、水で手洗いしてから干しておいた。
俺は変態じゃないが、変態ぽかった。
ポケットに、ブラとお揃いのショーツがあるのを思い出したのは、領地脇の神田川を渡ってからだった。
まあ、良いではないか。
洗濯したショーツなんて、誰も得しないのだから。
俺は下着泥棒に昇格した。
04へ