24 『デュース』
24 『デュース』
7月は二期作にすると収穫と田植えがあって、非常に多忙な時期である。
領地では全員が一丸となって収穫をし、堆肥を作り、ワラを編む。
新米を精米し保存する。
小麦を製粉したり、麦酒を仕込んだりもする。
大豆を乾燥させたり、芋を発酵させ蒸留したり、デンプンで飴を作ったりもする。
干し芋を作ったり、大学芋(飴煮と違ってラードで揚げてから飴を絡める)が流行るのもこの頃である。
冬場なら流行るのは、石焼き芋である。
特に現地人には、神聖なものらしい。
ひたすら農作業をして、終わりが見えた頃、学期末の試験があり、何とか高校2年の夏休みが見えてきた。
まだ高2なのは、行方不明が3年あったからだからね。
いや、それで一度は留年したのだけど。
トータルでは、やはり5年生なのか?
ロシア語はまだ中1で、ポリーナ先生も諦めているようだった。
時々、思い出したように補習があったが、俺は先生のおっぱいが隠されてから気合いが入らないのだ。
15歳のおっぱいが如何に美しいかを説明したのだが、信じて貰えないのである。
姉二人との関係を疑っているらしいのだが、勿論、教えたりはしない。
姉二人は、情報部所属だからである。
表向きは内務省の農業部になっているのだが、知らない人にはわからない。
ポリーナ先生は、ロシア情報部との縁が切れかかった所だから良いのだ。
もっとも、カリーナもセリーナも処女再生することにしたらしい。
領地内の少女たちがみんな若いので、少し羨ましくなってきたようだった。
結婚式やハネムーンも魅力らしい。
チアキが処女再生する前に、いっぱい順番を入れようと企んだことも影響しているのだろう。
だが、セルジュの申し渡した刑罰は『処女再生してから』の一言が入っていたはずである。
まあ、とっても気持ちいいので、処女再生しなくても良いのではと思ってしまうのだが、セルジュが通信で『処女再生したら性奴隷よ。そうそう』などと態々送ってきたので、更にチアキは舞い上がってしまった。
「領主様だけに開発されるなんて、夢のようです」
「別に、ホエールで初恋を探しても良いんだよ」
「絶対に嫌です!」
「じゃあ、地球とか」
「絶対に嫌です!」
「ならば」
「嫌です!」
「でも」
「もう、ちゃんと真面目にしてください」
「はい」
「あぁ、あぁんん」
そんな時期に、冷房を使って工夫をしたイチゴの収穫がやっとできたのだった。
折角、イチゴジュースのアイデアが閃いたのに、領地にイチゴがなくてがっかりしたのだが、農民は困難を創意工夫で乗り切らなくてはならない。
イチゴの時期ではないので、秘密に栽培した。
収穫量も少しだけだし、この季節では日持ちもしないから、見つかればすぐになくなってしまう。
成長期の少女ばかりだからだ。
だが、これなら何とかジュースの1杯や2杯は作れるだろう。
いよいよ、チカコの課題を片付ける時だった。
丸のままと、半分に切ったイチゴを陰干ししてみた。
夏の強烈な太陽を浴びないように工夫して、色々と試した結果、少し土臭いが、イチゴの味も香りも予想以上のジュースが完成した。
勿論、干しイチゴの割合は20%から30%と言ったところである。
残りは新鮮なイチゴを使うのが良い感じだった。
実はチカコにバレないよう、誰にも教えていないのだ。
知っているのはナタリーだけだが、秘書だからバラしたりはしないだろう。
本当はサクラコかサラスに協力して貰いたかったが、やはり秘密主義を押し通した。
ケチが付くのが嫌だったからだし、量も少ないからである。
フレッシュイチゴジュースの方が、美味しいと思う人も多いかもしれないし。
だが、肝心のチカコが珍しいことに留守にしていた。
ナミとナリに、湘南リゾートで水泳を教えてるのだそうだ。
アキが仕事で湘南リゾートに行くし、カナもアマゾネスの採用試験とかで湘南リゾートに行くから、便乗したらしい。
チアキとカリーナ、セリーナが処女再生に出かけたのも同時期だった。
色々な手続きもあるから、一緒に行って遊んでいるのだと思う。
そう言えば、エリザベスはサーラーが来たので、毎日楽しそうに学校で勉強している。
二人には、中1から始めてもらった。
チカコは最低でも3日は帰ってこないらしく、イチゴジュースの風味が飛んでしまうから、今回はボツである。
イチゴの栽培からやり直しである。
この時期にイチゴを栽培するのは、やはり無理がある。
苦労して、ここまで来たのに!
それで癇癪を起こしてナタリーに叱られ、いじけてササとミヤのおっぱいを揉んでいたら、今度はナタリーが癇癪を起こし、タキの部屋に放り込まれてしまった。
タキとレンとサラスとイリスは、一晩中慰めてくれた。
翌日は妊娠中のススと、キン、ギン、ドウである。
満ち足りた母の顔をするようになっていた。
それから、更にお腹を大きくした豪華とセリーヌとも、穏やかな時間を過ごした。
二人は宇宙の支配権など、つまらないことだと話している。
生まれてくる子供たちと穏やかに暮らすことの方が遙かに大切で、人間らしい生活だと言うのである。
ホエールの支配権など、もうどうでも良いようだった。
「どうして?」
「だって、あと二人か三人産みたいもの」
「それができることが、一番の幸せよ」
俺も、そう思った。
ラーマは子供たちと同じ扱いで、少しいじけていたが仕方がないだろう。
しかし、ナタリーの癇癪は、罰にはならなかったと思う。
ナタリーの優しさであったのだろうか。
俺は暫く農地と妻の邸以外は行かず、政治も経済もすべて長官たちに任せて、優しい妻たちとずっと過ごしたいと思った。
ここには望むものが、すべてあるような気がしたからである。
しかし、俺の望む平和は長くは続かず、ミト村に流行病が起きた。
救済に出かけねばならなくなった。
原因が奇跡的に山を越えてきたらしい東北人であることがわかると、輸送船で東北救済に向かわなければならないと思った。
領内、各村にはマスクなどを配り、予防を呼びかけ、まだ山間部に住み暮らす小部族にも、カマウのリヤカー隊や、サンヤ兵たちが見回って、注意を呼びかけてくれた。
夏風邪だが、こじらせると厄介らしい。
その時の話は長くなるので別の機会に譲るが、すべてを終えて帰ってきた時は、11月の半ばを過ぎていた。
商店街を、こそこそ歩いて帰ってきたら、いつの間にか四阿の向かい側にアイスクリーム店ができていた。
看板はレティ・アイスクリームと読める。
ちょっと驚いてしまった。
まあ、間違いないだろう。
あの、レティが現れたのだ。
何故、エリダヌスにアイスクリーム店を開いたのかと尋ねれば、答えはみんながエリダヌスに行くからに決まっている。
俺は更にこそこそっとしながら帰ると、取りあえず情報部に顔を出した。
内務省は領地に関することが主な業務なので、ユウキ邸の一部にある。
情報部は内務省の所属なので、当然、ユウキ邸の中にあった。
他の省庁が、迎賓館脇のビルに入っているのとは、やはり趣が異なるのである。
カリーナとセリーナは14歳になっていた。
いや、見た目がそんな感じなのだ。
単なる主観です。
でも、成長の余地がありそうなおっぱいがたまらなく14歳だし、少女の愛くるしい笑顔がたまらなく14歳だし、真っ赤っかのドッキドキがたまらなく14歳なのである。
だが、別にトップレスにノーパン(多分)である必要は無いのだ。
本音は全裸でもOKなのだが、ただでさえ辺境の惑星として色々な悪い噂が流れているのだから、建前上はメイド服ぐらいにして欲しかった。
「これが正装だと教わりました」
「みんな、この格好です」
「いや、わかってるけど、地球人には恥ずかしいだろう?」
「私はエリダヌス人です」
「私もエリダヌス人です」
うーん、でも心は地球人だよね。
無理してるよね。
「エリダヌス人だったら、領地内では全裸でも平気なはずだよ?」
「えええっ」
「へぇぇっ」
「全裸でこんな風に、田植えとかするんだよ」
俺はちょっとオーバーアクション気味に、ドウの田植えシーンを再現してみた。
男には耐えられないかもしれない、色々と。
「ふえっ」
「ひえっ」
カリーナとセリーナは涙目でお互いを見てから、徐に巻きスカートを脱ごうとしたが、できずにフリーズした。
まあ、無理だよね。
あの、母親10人委員会ですら全裸にはたどり着けなかったのだから、地球人で14歳の処女には絶対無理だろう。
全裸で、田植えとかできるエリダヌス人が特別なのである。
昔、あの、草取りの日に、キン、ギン、ドウのお尻を選ぶことができたら、どんなに良かっただろう。
いや、選ぶことはできないのだが、選ぶことを選ぶことができたら、全部選んでいたことだろう。
その後は、4人であんなことも……
おっほん。
「まあ、座ってくれ。その後の経過を教えてもらおうか」
「もう、ひどいです、領主様」
「もう、意地悪です、領主様」
いや、ロシア人美少女の全裸が見てみたかっただけで、意地悪とかじゃなかったんだけど、内緒にしておこう。
でも、そのうちに風呂場に連れてっちゃおう。
二人は俺にとっては、もう妻なのだから、いーんだよ、きっと。
それも、まだ内緒だが。
「旅客船かるろ号が就航し、ホエールも地球も歓迎しています。エリダヌスに処女再生を受けに来やすくなりましたし、七湖観光も人気です」
「人気があって常に予約でいっぱいです。それから地球人も、だいぶペイル動物園に訪れるようになりました」
「かてれや号はどうだ?」
「ホエール軍が完熟飛行に入りました。1ヶ月以内には、引き渡しが可能でしょう」
「それから、建造中の姉妹船3番の名前が欲しいそうですが?」
「カルロ社長に考えてもらうことにする」
「わかりました」
「伝えておきます」
公式文書は、俺か内務長官の名前で出されるが、こうした外国宛てに仕事ができる部署があるのはありがたい。
外務省は、相手も外務省になってしまうから駄目だったのだ。
以前は、全部自分で連絡を入れていたのである。
秘書では、なかなか難しいところもあった。
「ドウトンボリはどうなった?」
「警部以下6名が10石開発の途中ですが、既に妻を迎えています」
「あれ、刑罰だから、移民にならないんじゃなかったの?」
「我慢できなかったそうです」
「一人が崩れたら、総崩れでした。移民申請が出されています」
「情けない奴らだな。チベット人は半年ぐらいは耐えたのに。ドウトンボリだって3年近くも独り身を通したと聞いているぞ」
「それが、アシヤ村では、第3執事長も移民申請をしてきました」
「ええっ、あの人は別に刑罰の対象じゃなかったよね。セルジュはシップに全員を連れて行けと言っただけなのに!」
「それが、勘違いされてアシヤ村に行ってしまったそうですが、すぐに妻を3人も……」
「警備員3人は、大勢の少女たちから求婚されて涙を流しています」
まあ、無理矢理じゃなければ赦そうか。
しかし、みんな未婚だったのだろうか。
刑罰を受けたから、離婚されてるかもしれないな。
ホエール中にニュースを流されたのだから、何が起こってても仕方がないかも?
「お陰で、アシヤ族は農業を始めました」
「スイタ族もドウトンボリに農業の指導を受けに来たようです」
「侍女が足りないか?」
「いえ、ドウトンボリの侍女たちが、女たちをまとめているから大丈夫です」
「既に、基礎的な侍女教育を始めているようです」
そのうち、関西の部族も総崩れになるかもしれないな。
関東ではそうなったし、仕方がないのか。
「マサイ関連はどうなんだろう」
「カリモシヒーリングスが、一部ですが開院しました。医師は5名ですが、ワックス医師以外は独身の若い医師だそうです」
「ワックス医師は?」
「奥さんと子供を二人連れてきています」
「ですが、既に第2夫人候補がいるようです。エリダヌス人ですが」
うーん、その場合、移民になるのだろうか?
「司法省に移民の範囲を決定させようか。ワックス医師のケースを取りあえず検討させてくれ」
「マナイ監査役が、既にメナイ司法長官に打診しました。連れてきた奥様と子供たちのケースも考えているようです」
「現地人スタッフは、どうなったの?」
「カリモシ村から、侍女見習いを待っていたものを派遣したそうです」
「患者の世話が仕事なので、喜んでいるようです」
今のところ、脳外科手術を受けた者のリハビリが中心だが、自閉症や鬱病、ヒステリーや健忘症なども有望と報告されていた。
既に2万件を超える希望者がいるそうだ。
鹿モドキたちも、協力体制に入ってくれている。
「マサイの商店街はどうだろう」
「テンヴァージン・ストリートと呼ばれているようです」
「10人とも領主様の女じゃないのに」
「あやかりたいのはわかるけど」
流石に地球人は嫉妬心があるようだ。
少しだけなら、ちょっと新鮮かもしれない。
「ポリーンズバーは、ポリーンとレイラーが処女だとバレて、男たちが毎日通い詰めているようです」
「しかし、両親や兄弟が従業員なので、目を光らせているのか、おかしなことにはなっていないようです」
「それに、開放的なお店なので、夫婦や恋人たちにも人気があるようです」
「仕入れには、直接来てるのかな?」
「ポリーンが2回、レイラーが1回来ました」
「領主様が留守だと言うと、真面目に仕事して帰りましたが、どうにも」
「そうね」
「何だよ」
「面会に来た時に、現地妻とか言っているそうです」
「それって、本当なのですか?」
仕事中だというのに、カリーナもセリーナも向かいのソファから、俺の両隣に移動してくる。
「げ、現地妻なんていないからね」
「どうかしら、レイラーは領主様が好みそうな美人でしたよ」
「カリーナほどじゃないだろう」
「ま!」
カリーナは赤くなって俯いてしまった。
腕を掴んでいるのも、どうやら恥ずかしくなったようだ。
14歳って可愛いよね。
「領主様、私はどうですか?」
「セリーナだって、とっても美人だよ。二十歳の頃から知ってるし」
妙な言い方だが、事実なのだから仕方がないのだ。
「ああ、領主様はみんなにそんなこと言ってるのでしょう?」
そう言いながらも、セリーナも可愛く俯いてしまう。
それは良いのだが、仕事が進まないぞ。
やめて、もっと良いことに切り替えようかな。
いやいや、ここはオフィスなのだ。
いかがわしいことは慎まなくてはならない。
バン!
凄い音がして、入ってきたのはナタリーである。
こそこそ帰ってきたのだが、もうバレたようだ。
「閣下、帰ったなら帰ったと一言ぐらいあっても良かったのでは? まあ、何をしているのです?」
「いや、近況報告をちょっと」
「両脇に侍らせてでしょうか?」
「まあ、それは色々とあってさあ」
ナタリーはプンプン怒っている。
確かに、領地ではナタリーが一番の側近である。
「そんなに怒ってばかりだと、美人が台無しだよ」
「ふん! 上手いこと言って誤魔化そうとしても無駄です。そんなに若い娘を侍らして、まったく、私がいつの間にか最年長じゃないですか!」
「いや、まだまだ最年長じゃないだろう。アリエ先生たちはずっと上だよ」
「みんな外国人じゃないですか。私はエリダヌス人です」
「ああ、その話をしてたんだ。エリダヌス人なら領地内で全裸でも恥ずかしがらないとか、何とか」
「ええっ! 全裸なんて、私は、私には……」
カリーナとセリーナが立ち上がった。
「私、やります」
「私もできます」
二人は、真っ赤な顔をしてスカートを床に落とした。
手で隠しながら身体を捩る仕草が、二人もいると効果が3倍にも4倍にもなりそうだった。
何の効果だ?
「わ、私だって!」
「ナタリー、意地張るなよ」
「ぜ、全裸のひとつやふたつ、秘書に不可能はございませ…… そんな! いやできますよ。できますから閣下、ちょっとだけ外に出ていてください。お願い、お願いしますぅ」
ナタリーが無理しているので、俺は逃げ出した。
ちょっぴりとだが、ひもパンぽいものが見えたような気がした。
丁度良いから2段目の様子を見に行くと、見習いたちが稲刈りの真っ最中で、全員が全裸だったから、
俺は3段目に逃げた。
留守の間、農業用アンドロイドに面倒をみてもらっていたイチゴハウスに行ってみると、上手い具合にイチゴが収穫時期に入っていた。
結構、美味いぞ。
一粒つまんだ俺は味に納得すると、早速、大量に摘んで、陰干しまでを始めてしまい、夕方まで作業をしてしまった。
迎賓館に置いてきたソラや東北の村長たちが少し心配だったが、きっとタルトや夫人たちが何とかしてくれているだろう。
もう少し、と思いながら3段目の田畑の様子を確認してまわった。
ここだけでも、実高5千石を超えている。
確認作業も大変である。
しかし、江戸時代なら1万石からは大名だが、それはそれで管理するのは難しいだろう。
数字上は千町、1平方キロが10個であるが、用水やあぜ道、炭や肥料としての入会地などを考えれば、最低でも2倍の土地がいるし、欲を言えば山もひとつぐらいはあった方が良い。
それも、人が入って管理しなければならない。
百万石なんて、それこそ機械力を導入しなければ絶対に無理だろう。
昔の殿様は偉かったのだろう。
まあ、お殿様だからな。
そこに、4段目から人影が現れる。
丁度夕日を背負う形で輪郭しかわからないが、先頭はヨリで間違いない。
きっと、警備隊の訓練があったのだろう。
すると、脇にいる士官はパリーか。
少しの間離れていただけなのに、何だか懐かしい。
パリーが走ってきて抱きついたが、何故か左右とパリーが二人いる。
ほえっ?
右側のパリーは、少し弾力が足りない気がする。
「ユウキ!」
「ユウキ様!」
「れれれ、レティ! 何してるんだ。こんなところで」
「決まってるじゃないですか」
レティはパリーにウインクすると、俺に抱きついてキスしてきた。
パリーが俺の膝に足技をかけて、山になっているわら束の上に押し倒す。
連係攻撃か!
俺は思わず、レティがケガをしないように抱き留めて倒れてしまった。
レティはそのままキスを続けたが、30秒もするとパリーの咳払いが聞こえた。
その後、パリーが取って代わっただけだった。
二人はこんなに仲が良かったのだろうか?
「パリー少尉! レティ少尉!」
ヨリの大声が降ってきた。
二人は慌てて立ち上がると、直立不動の姿勢でヨリに敬礼した。
「解散前に、勝手な行動は慎むように」
「了解です」
「了解しました」
「では、今日の訓練はここまでとする。一同、解散」
「ありがとうございました」
ヨリは俺を立ち上がらせると、思いっきり尻をつねってきた。
が、すぐに兵隊とサードたちを連れて去ってしまった。
やはり、男前なところも良いよね。
しかし、その場に残ったのは3人である。
いや、俺を除いて3人だ。
はて?
その人は、やはり男前だった。
ドン、と鳩尾に拳が入る。
「うっ!」
何するんだと言う前に、両肩を掴まれ、顔と顔が近づく。
「ユウキ、久しぶりネ。会いたくなかったけど、会いたかったヨ」
「どっちなんだよ、うっ」
フェンシィがしがみついてキスしてきた。
とても上手になっていた。
迷彩服の階級章は、フェンシィも少尉だった。
「仕返しに、3度は擦るって決めていたネ。今擦るカ?」
「いや、今は拙いから!」
パリーとレティが見ているのだ。
3度もしたら、9回にされそうじゃないか!
いや、そうではないのだ。
「何故、フェンシィまでここにいるんだよ」
「わからないのか?」
「わからないから、聞いたんだ」
「ふん! 相変わらず女を馬鹿にしている奴だナ」
「いえ、決して馬鹿になど……」
「そうカ、やはり擦らないとわからないカ」
「いいえ、結構です」
「お前、ご褒美の約束忘れたのカ?」
「その、決して忘れたわけではなく、その後、お会いしなかったものですから」
「じゃあ、ご褒美にお前をもらうネ」
「ええっ! フェンシィは俺を性奴隷にするの!」
擦られるのには、そんなわけがあったのか!
「そんなわけあるカー!」
やはり、フェンシィの右フックは強烈だった。
気がつくと、どうやらレティのアイスクリーム店内だった。
カウンターの向こう側が店内のテーブル席で、こちら側はカウンター内だった。
店はもう閉められていた。
俺はソファに座らされていて、バミューダパンツとTシャツは防疫所を出てそのままだったから、おかしな所はない。
ちょっとだけ、安心した。
レティは、可愛いお店のエプロン姿を披露してくれたが、可愛いのは勿論、レティの方だった。
だが、何故かエプロンしかしていない。
くるりと回って、お茶か何かの用意を始めると、後ろ姿はまるっきり全裸に見えた。
可愛いのはレティではなく、レティのお尻だった。
エプロンより可愛い。
いや、俺は少し混乱していた。
フェンシィが殴りつけたからかもしれない。
「フェンシィとパリーは?」
レティは片側にキュッとお尻を寄せると、そのまま振り返らずに上を指さした。
2階という意味だろう。
しかし、なんて可愛いお尻なんだろう。
半年足らずで、何という色気だろうか。
俺はちょっとボーとして見ていたかもしれない。
涎は垂らしていないよね、きっと。
「今、ちょっと欲しいと思ったでしょう?」
「いいえ、はい、いいえ」
「ユウキ様に考えろと言われて、ちょっと男の研究をしてきました」
「ええっ、ま、まさかレティ!」
「でも、ユウキ領では処女再生できるから問題はないでしょう?」
「そ、それは、そうかもしれないけどさあ……」
「うふふ、食べてみます?」
「ま、拙いよ」
「あら、美味しいって評判ですよ」
レティはずいっと前に出てきて、俺は少しだけ仰け反ってしまったが、レティが出したのは自分ではなく、アイスクリームだった。
俺は一口食べて驚いた。
アイスにはメープルがかけられていて、更に軽くだがメープル酒が混ざっている。
「美味いな」
「そうでしょ。ちゃんと男が喜ぶ研究をしてきたんです」
「そ、そうなのか?」
「ちゃんとデザートも用意してありますからね」
アイスクリームにデザートって変じゃないか?
レティがくるりと回った。
決して、変じゃなかった。
極上のデザートになるだろう。
「これで、デュースに持ち込めました」
「デュースって?」
「一度、力尽きてユウキ様に負けましたが、これで引き分けです」
そうなのか?
「今度は、ユウキ様が負ける番です」
レティがエプロンを落とした。
「デザートは、正真正銘のレティの処女です」
マッチポイントはレティのものだった。
そして、レティは俺の許嫁になったが、領地内では16歳が結婚年齢だと言うと、ドウの部下だったテナイが来て、レティの店はタルト村にあるので、領地内の法ではなく、タルト村の法に基づいて即結婚しても良いと言う判断を下した。
タルト村の法って?
「初潮が来れば、村長が結婚許可をくれるのです」
「ああ、俺が許可した」
「タルト、お前な」
「良いじゃないか、めでたいことだし、このアイスも美味いし」
「ああ、その通りだ」(コラノ)
いつの間にか、タルトとコラノも店の常連になっていて、今はレティたちと『サツマイモアイス』を研究していた。
レティたちと言うのは、エリダヌス警備隊のメンバーのことである。
警備隊の訓練は毎日あるわけではなく、パリー班とフェンシィ班とレティ班に分かれていた。
休みが多いので、普段はレティの店でアイスクリームを売っている。
勿論、2階が宿舎である。
全員が寝起きしていて、アイスクリーム店は交番にも警察署にもなっていた。
このせいで、エリダヌス警備隊は、アイスクリーム軍と呼ばれるようになった。
ヨリ大佐が率いるアイスクリーム軍は、ホエールとの模擬戦闘で負けたことがなく、ホエールも地球の各国も、エリダヌスには逆らわない方が良いと判断したようだった。
俺は最初の演習に顔を出しただけで、後はヨリにすべて任せてしまったから、詳しくはわからないが、印象では味方のバイオレッタの暴走を押さえるのが一番難しいことだった。
ジュリエッタは未だに出番がないようだ。
オペレッタは、ホエール軍の主力戦艦30隻の主砲斉射をパラボラ状になって撃ち返し、白鯨少将を青ざめさせた。
「ぬるま湯以下」
しかし、領地にはシーリーンやポリーン、サマンなどが出没し、色々仕掛けてきては
『デュースですね』
と、言うのが流行ってきた。
エリザベスだけは『もう妻なの』と得意そうに言っているが、Aカップにはもう少し時間がかかりそうだった。
チカコは、俺の特製イチゴジュースに感激した。
「これよ! 良くやったわ。デュースにしてあげる」
「ジュースだろ?」
「馬鹿ね。これで、あんたのことを認めたって意味よ」
「良くわからないんだが」
「良いのよ。次もあんたはちゃんと勝ってよ」
「どうしてなんだ?」
「それは、あんたに負けたら、私もけっこ……」
「何だって?」
「何でもないわよ! ちゃんと勝ちなさいよ!」
チカコは店を飛び出していった。
しかし、上機嫌なようだった。
一人で、アイスクリーム店まで来れるようになったのだから、上出来なんだが。
「ユウキ、できたわ。これが新作のアイスよ」
「おおぅ」
何故か店内には、タルトやコラノや親子ジャケに豊作氏までいて、レティのイチゴアイスを待っていた。
本当はチカコ味なんだが、内緒にしておこう。
その後、レティアイスクリームは、シベリアンアイスクリームにもない、メープル味とイチゴ味が評判になり、ホエールでも地球でも紹介され、エリダヌス土産のナンバーワンになった。
「祐貴君!」
「駄目ですよ」
「そんな、やっとシベリアンアイスクリームをホエールで展開できたのに」
「お金では買えないものもあるんですよ」
「ここで、売ってるじゃないか!」
「じゃあ、買ってください」
「全部、売ってくれたまえ」
「帰るまでに溶けちゃいますよ」
レティは律儀にも豊作氏のお土産用の箱に、ドライアイスを詰めていた。
その、迷いのない笑顔は、俺にとって大切なもののひとつになっていた。
おしまい。
補足。
カリモシヒーリングスは、脳外科の治療の最前線となり、その治療効果は現在の科学技術では補えないほどの効果が実証された。
その実績を元にしてマサイ北大陸でも鹿モドキによる治療・研究がなされて、マサイ北大陸の学術都市化を促進させた。
都市では、鹿モドキに加えてシベリアンタイガーと人類の研究が盛んとなり、いつしか知性体研究都市と呼ばれるようになった。
シベリアンアイスクリームとレティアイスクリームはライバル会社のように言われているが、社長は両方レティであり、アイス生地の生産は殆どをアラディン商会が引き受けているので、実質のライバルは地球のアイスクリーム会社だけだった。
地球のメーカーは、香料でレティのアイスを再現しようと頑張ってはいるのだが、無香料の昔風のアイスの方が美味かった。
普通に作れば良いのに。
レティはそう言うのだが、量産するためには香料とか色々と必要なのだ。
何しろアイスクリーム軍は暇だから、最近は手作りばかりになり、更に改良がなされていくのだった。
チアキは処女再生後、安定するとすぐに俺の部屋に攻め込んで来たが、14歳の処女をなめていたのか、俺の前でパンツをどうしても脱ぐことができずに泣き崩れた。
ナタリーでも無理なんだから、無理だよね。
艾小姐は、結婚式の少し前に通信を寄こした。
それは美しいウエディングドレス姿だった。
「ユウキ閣下、良く覚えていてください。私の息子が淡鯨家を継いだら、私は絶対に処女再生して閣下の前に現れますわよ。そちらの言葉でデュースと言うのでしたかしら?」
その後も10分くらいあれこれしゃべっているようだったが、ナミとナリとのキスが忙しくて、良く聞いていなかった。
「待ってるわよ」
チカコが勝手にそう返信すると、ナミとナリに混ざってきた。
そんな、何年も先のことは考えられないしな。
次は、レティとパリーとフェンシィが待っているのだ。
農民は、とても忙しいのである。
応援、ありがとうございました。




