12 『決戦準備』
12 『決戦準備』
『祐貴君、艾玲玉さんがそっちに行ってないかね。行方不明で大変な騒ぎなんだよ。連絡を待っている。愛する京太郎より』
愛するって、艾小姐のことだよな。きっと。
言語と発音が合ってないし。
『ユウキ。レティが一人前になったそうだな。いやあ、大変だったろうな。ご苦労様。死んでしまえば良かったのに。レティは今しばらく君に預けるしかないだろうが、求婚者は20人を超えているから、闇夜には気をつけた方が良いだろう。父、ジョアンより』
父って、レティの父だよね。
俺の義父じゃないよね。
大体、闇討ちに来るのはジョアンだろう?
『祐貴君。シベリアンタイガーが手に入ったら、ホエール大首都大動物大公園で放し飼いにできんかね。キネが妊娠したお祝いにしたいんだよ。京太郎の3倍で買い取ろう。君の豊作より』
おい、君のって何だよ。
少しは空気読めよ。ロリコン親父め。
京太郎氏に嫌がらせをするべき時じゃないぞ。
ちなみにキネは、キヌの下の妹である。
14歳になったのだろうか。
あと、ネーミングセンスなさ過ぎるぞ、大公園。
小動物がいないみたいに聞こえるじゃないか。
『ユウキ閣下へ。中国人とマサイ人を侍女にして、私より先に結婚するってお伺いしました。一言だけ申し上げてよろしいでしょうか。
『この結婚詐欺師! ロリコン!』
失礼しました。二言になってしまいましたわ。あなたの特別な侍女、独り身のナタリーより。
追伸
もし、相手が二十歳を過ぎているようなら……
ザザッ、ガタン。
女にかまけてるんなら、早く帰ってこい。仕事が立て込んでんだぞ。双子座をアメリカに取られそうだと、中国が騒いでいるんだ。一応セリーヌに調べさせているが何もわからん。わかったな。プチンッ』
追伸は何故か、画面に割り込んできた豪華だった。
15歳くらいの姿だと可愛いだけで迫力がない。
ナタリーが何か言いたそうに涙目で引っ張っているのだが、豪華が勝手に通信を切ってしまった。
アメリカのは外交的なブラフだろう。
ピカード大統領はこちらの味方である。
本気だったら、ホエールの責任者たちがのんきにしているわけがない。
しかし、中国と騒ぎは起こさないはずなんだが。
ああ、ナタリーは年下に抜かれると時々ヒステリーを起こすことがあるんだ。
二十歳を過ぎてから少し焦っているようだ。
(体感的にだが)
結婚式の予定を立てているのは秘書のナタリーだから、時々爆発したくなるのは良くわかる。
俺には、自分の結婚式だって面倒なのだから。
『ユウキ。ラーマはAカップになりました。もうすぐよね。きゃっ! ラーマ』
うーん、まだまだだと思うぞ。
音声、電文、画像入りと、色々な連絡が入っていたが、まともなのは1つもなかった。
特に4長官のものは、愚痴か悲鳴か泣き落としか恐喝まがいのものだった。
まあ、妊婦を働かせている俺が悪いのだが、任せられる部下を育てられない彼女たちにも少しは責任があるのではないかと思って誤魔化す。
帰ったら、土下座かも。
しかし、妊婦を無理させてはいけないよな。
人事を考えよう。
ケガのお見舞いが一件もないのは情報が伝わっていないのだろう。
まあ、その点は上手くいっているわけだ。
時差はホエールが3日、エリダヌスは最低30分、アルーシャは、着信から実際に読むまでの時間である。
今日は静養の最終日で、明日から身体を動かしても大丈夫だそうだ。
しかし、シベリアンタイガーを生け捕りにして、屈服させて、命令を聞くようにして、艾家の動物園に連れて行く方法がまるで思い浮かばない。
不可能なのではないか?
ナミとナリに、フェンシィとレティを呼んで貰った。
「何タ、ユウキ」
「艾小姐のことだが、シアラオブーメンとかで騒いでるらしいぞ」
「それは3日前の情報ネ。もう、ここにいることはみんな知ってるヨ」
「なら、いいけど。それにしても、艾小姐は、何しに俺の所に来たんだ」
「全く、それを尋ねるのが遅すぎるヨ。初日にお嬢様から聞くべきだったネ」
「いや、華僑の移民がどうのとかしか、言ってなかったぞ」
「移民? あんた華僑からも女をうパう気ネ!」
「女を奪ったことなど一度もないからね」
「見解の相違ヨ」
相変わらず、というか元の黒スーツに戻っているフェンシィは、俺と仲良くする気は無いようだ。
だが、イケメン顔はどことなく女に見えるようになった。
見慣れたからだろうか。
「それより、彼女の目的は虎なのか?」
「一番の目的はそれネ」
「一番って、他にもあるのか」
「まあ、虎が解決すれば、他も自動的に解決するヨ。ユウキがお嬢様をうパわなければナ」
「だから、奪わないって! しかし、何故正気に戻らないんだろう。メディカルアンドロイドも不思議がっているんだが」
「きっと、自衛行動ヨ。チ女見習いなら許して貰えると思っているネ」
「痴女じゃなくて、侍女だからね」
「同じヨ。ノーパントップレスなんて!」
いや、穿いてくれないんだ。
などと言っても、もうキリがないから言わない。
取りあえず、エリダヌスの女がスカートを穿いたのは俺の功績である。
エリダヌス史の編纂をするとドウが言ってたから、ちゃんと書き記して貰おう。
スカート歴元年とか?
今年は改元して『パンツ元年』とか?
普通の歴史では、糸を紡ぎ、布を織るのは大抵女たちなのだ。
だから、女は着飾るのが好きなのである。
だが、毛皮しかない星では、毛皮はそれを狩る男のものになったのだろう。
(多分)
マサイでは、麻に使えそうな繊維質の強い芭蕉科の葉が見つかっている。
ドンゴロスのような袋が作られ、物資の梱包や建築現場などに使われ始めている。
それにしても、フェンシィはずっと喧嘩腰だよな。
疲れないのかな。
そういう性格なのか、それとも俺が嫌われているのか。
大分、殴られたしなあ。
そこにレティが、いや、パリーが、いや、艾小姐にエリザベスまでいて、全員がケープに巻きスカートにガーターストッキングにブーツ姿で現れた。
ナミとナリが加わって、侍女が6人である。
ナミ、黒。
ナリ、白。
艾小姐、赤。
パリー、黄。
レティ、青。
エリザベス、紫。
毛皮は全部同じなのだが、ガーター部分が色違いになっていて、大事な部分は見えないのに、ブラとパンツはつけていないのかと思うとちょっぴり興奮する。
南国の王様か何かでないと、こんな光景は見られないんじゃないか。
「ど、どうして?」
しかし、侍女服は侍女用なのだから、ナミとナリの分しかないはずだった。
艾小姐の分は、ひょっとしたらナミとナリが何処かで調達したかもしれないが、それ以上は無理だろう。
予備は、マサイ人としては低い方だが背の高いパリーには、スカートしかサイズが合わなかった実績がある。
ケープはおっぱいがはみ出して隠しきれなかったのである。
そう言えば、ブラって若い子ほど高い位置に着けているように見えるよね。
年取ってもアンダーバストの位置って変わらないと思うんだけど、どうしてだろう。
おっぱいが大きい人だけならわかるような気がするけれど、小さくても何となく年と共に下がってるような気がする。
今度、男友達に聞いてみようか?
(感想は、個人的なものです)
ビキニの水着なら下げて着けている人は見当たらないな。
最も、年齢と共にビキニや水着そのものが少なくなるようだが。
若人よ。彼女にするなら、ビキニを着てくれる人を選びたまえ。
フリフリのセパレートは通報されるぞ。
それから、結婚するなら裸エプロンをしてくれる人を、それからセーラー服を持っている人を、網タイツも必要かな? ……
ごほん。あくまでも個人的な意見ですぅ。
えーと、ところが、今は全員が自分サイズである。
ブーツだって、借り物では足が入らないだろう。
「昨日、マーガレットから貨物で届きました」
ああ、食料品とかの追加用の貨物便が来たのか。
でも、ナミはそれを簡単に言うけど、金銭感覚がまるっきりないよね。
マーガレットはジョアンに預けた金貨は全部使っても良いと考えているからね。
きっと、凄い金額になっているからね。
領地では、妻たちの衣類は全部タダだけど、内務省がちゃんと精算しているんだからね。
もっとも、ナミとナリは自分たちの給料は全部村の拡張資金に充てていて、1リナも使わないのだ。
外食もしないし、必要なものは誰かのを借りるか、領内にあるものしか使わない。
夏と冬に制服代は貰っていたけど、部下の誰かについでに買いに行かせて終わりだもんな。
古着や端布も集めては村に送っているから、最近はギルポンやナルメの古着屋は評判がいい。
ふたりにとって大事なものは、畑での労働と毎日の食事と睡眠であり、それ以外は、あんまり必要ないみたいだ。
後はキスぐらいだが、キスはお金はかからないしな。
それで、積極的なんだろうか?
このまま子育てとかに入ったら、貨幣経済も貨幣価値も信じない、タキとレンみたいになってしまうぞ。
まあ、幸せそうだから良いけどさ。
でも、レティとエリザベスは侍女じゃないよな。
ナミとナリが認めているんだろうか。
文句を言っても、きっと不毛な話になるから止めておこう。
うーん、しかし、こうして並ぶと見事だな。
ナミとナリは領地では淡い褐色だが、こっちでは色白の美人だ。
艾小姐は真っ白に近かったが、マサイで日焼けして健康的な小麦色になっている。
ちょっとエキゾチックというのか、国籍不明の美少女で、プロポーションは見事だ。
特に巻きスカートを脱ぐと、そこだけ日焼けしていないから、凄いんだぞ。
いや、覗いてはいませんよ。
誓います。
別の意味で見事なプロポーションであるパリーは、現地では小さい方の身長だが、ひ弱に感じる人はいないだろう。
今では自信に満ちていて存在感がある。
褐色の肌は、きめ細かく、吸い付くようで、黒人系万歳である。
目を閉じて太股の内側を触ったら、10人のうち8人が褐色や黒人系を選ぶだろう。
残りは色白ポッチャリ系になるだろうか。
(多分、触らせて貰えないけど)
レティは細身の少女だが、成長途中であり、大柄になるのか女らしくなるのか予想がつかない感じで、実はこのまま止めてしまいたいような、思春期真っ盛りの魅力に溢れている。
エリザベスは、エリザベスだった。
子供のくせに、絶対領域が色っぽいぞ。
そうだ。今は、先に片付ける問題があるのだ。
切り替えたくないが、切り替えないといけない。
「エリザベス、おいで」
エリザベスが、馬に跨がるように俺の右膝に座ると、俺はフェンシィに殴られた。
「たった、6日間で3人もの現地妻ヨ」
「お茶目なジョークだろ。思いっきり殴るなよ!」
「女には冗談ですまないヨ!」
いや、フェンシィに引き摺られないぞ。
俺はエリザベスが『痛いの飛んでけー』をしているのをそのままにして、仕事に戻った。
ケガが治ったら嫌がる要求をするのが約束だったからだが、あまり嫌がっているようには見えなかった。
かなり不謹慎な格好であるが、エリザベスが真面目に取り組んでいるので仕方がない。
先に仕事を片付けよう。
「レティ、シベリアンタイガーは厄介すぎる。なんか楽に従わせる方法は思い付かないか?」
「1つは、薬で意識を朦朧とさせて、徐々に環境に慣れさせるという手があります」
「デメリットは?」
「動物園では、不自然過ぎるでしょうね。寝たきりになるかもしれません」
「野生動物だから、引き籠もりになるのは仕方がないが、薬漬けはあまり上手くないな」
「もう1つは、脳外科手術ですが」
「非人道的とは言わないが、薬漬けとあまり変わらないんじゃないか」
「そう思います。しかもどんな制御も受け付けなくなる可能性もあります」
ナリが手を上げた。
「尊敬させるべきです」
「へっ?」
「賛成です」(ナミ)
「ええっ!」
「ユウキ様が肉をご馳走すれば、今までは大抵の者がユウキ様を尊敬して、仲間になったと聞いています」(ナリ)
それって、シャケ一家や村長たちのことだよね。
後は、ホエールの代表とか。
野生動物じゃないよね。
「ライオンのキングも、ユウキ様の仲間になっていました」(ナミ)
「そうでした。キングと同じようにできれば」(レティ)
「ユウキ様は虎とも仲良くなるの」(エリザベス)
「できます」(パリー)
「はい、ユウキ様」(艾小姐)
それって、戦って屈服させてからの話だよね。
今度の相手は、屈服しないので有名なんだよ。
もの凄く強いし。
「たらし込むって手もあるんじゃないカ」
フェンシィがまだ何か言っていたが、参考になりそうもなかった。
相手は虎だからね。
おっぱいがあっても無理だからね。
翌日は、一日中車中にあった。
多分、成功しても失敗しても最後の戦いになるので、レティとパリーにメンバーの選定を頼んだ。
取りあえず、生き残るのが目標である。
レティとパリーは、昨日ベースキャンプの草原で対決し、色々と争ったらしい。
ライフル、投げナイフ、レスリングと3競技でパリーが勝ち、最後に単純な400メートル自然障害物走でレティが1勝して、ふたりは和解というか、親友になったそうである。
レスリングは見てみたかったな。
泥とか、ぬるぬるのローショ……
ごほん。
いいえ、違いますよ。
実際にやったら、参加しちゃうじゃない!
1号車は、俺とレティとパリー、ナミとナリに艾小姐となった。
2号車は、フェンシィとシーリーンに、エリザベスとポリーンとサマンだった。
エリザベスは、嫌がる要求に応えたとかで、大分満足しているようだった。
痛いの飛んでけーが、そんなに嫌だったのだろうか?
今日は、昼食と夕食の休憩を除けば、レティが決戦の地に選んだところまで走りっぱなしである。
日中はレティとパリーに警戒を任せて、車内でナミとナリと仕事をして過ごしていた。
ふたりともスス内務卿の部下だったり、外務畑で働いたりしていたから、優秀な女官である。
「まず、財務から商務と銀行を分割する」
「銀行にも長官を置くのですか?」
「うん、民間の資金と政府予算の両方を、財務が一括で扱わないようにするんだ」
「では、チカコ様にも?」
「いや、あいつは駄目だ。世界どころか宇宙中に迷惑がかかる」
「ベストの人材でなくてもよろしいのですね」
「金儲けしたいわけじゃないから、構わないさ。ベストと言うよりは手本かな。1年から2年なら10人委員会も文句は言わないだろう」
「はい、ユウキ様」
ナミとナリが無言で同意すると、何故か艾小姐が返事をする。
「じゃ、財務長官はカオルコ、商務長官はアキ、エリダヌス銀行頭取はキンの部下のマナツにする。それぞれ補佐官2名、右筆1名を配属する」
「はい、ユウキ様」
ナミとナリが、以下同文。
「行政長官は廃止して、農務長官、観光長官、税務長官を新たに設ける」
「観光長官ですか?」
「ああ、観光客は外務から分離する。観光客の許可や交通、宿泊施設、道路整備などもそちらに移す」
「それで、誰を任じますか?」
「農務長官はサクラコ、観光長官はカナ、税務長官は、うーんと誰かいないか」
「若いですが、ロミが良いと思います。ロマの又従姉妹で、ギンの部下としては、もう3年以上のベテランです」
「カマウからプロポーズされてなかったか?」
「カマウの息子です。お断りしました。農業をもっと覚えたいそうです。それに……」
ナミは書類を書いているナリをチラリと見ると、ナリが答えた。
「まだ、ユウキ様を諦めたくないようです」
いや、張り切っているのはロン族のためだからね。
ロン族第2派閥のためと言うべきか。
だが、ロミは押し出しも良いし、頑張って貰うか。
身長166センチは、エリダヌス人では2番目である。
リーナさん予想では、シャケの骨を出汁に使う村が身長を伸ばしているらしい。鶏ガラもそうだ。
元々、出汁なんてなかったからなあ。
カルシウム不足だったのだろうか。
ただ、骨のカルシウム量というのは30%ぐらいで、実際にはアミノ酸が沢山含まれる。
更に、カルシウムはビタミンCとかDによって定着するらしい。
シャケが貴重だったロン族は、今でも骨をムダにしないのだ。
「では、ロミを税務長官とする」
「はい、ユウキ様」
ナミとナリが、以下同文。
「それから、司法長官はメナイを昇格させる。別に文部長官を新設してミサコを長官にする」
「ドウの部下じゃなくて良いのですか?」
「ドウの部下は、これから判事として勉強して貰い、民事の問題解決の専門家になって貰うんだ。メナイは組織の管理と人を育てるのに向いているから大丈夫だろう」
「はい、ユウキ様」
ナミがうなずくと艾小姐が返事する。
「次は外務だな。長官はリン。地球の国連大使はクラとロマを留任とする。ホエール大使館とマサイ大使館を新設するため準備室を創って貰おう」
「はい、ユウキ様」
ナミがうなずくと、またしても艾小姐が返事をする。
何となく遺言じみてきたが、そうなることもあり得るので、決めるべき時に決めておこう。
「アカデミーを新設し、会長にミヤビを据える。女学院の優秀な生徒を選んで、奨学生としてホエールや地球の大学に推薦して貰う。それから、ホエールや地球の研究者を招聘して貰う。アカデミーは女学院の奥に一棟作ろうか。女性しか招けないけど、今はそれで良い」
「はい、ユウキ様」
段々、艾小姐のタイミングが早くなってきた。
「内務長官はカレンとする。侍従長はナタリー。ササ、ミヤ、レナは専従秘書とする」
侍従長は江戸時代の側用人であり、専従秘書は御側御用取次役だろう。
俺と各長官の間に入ることになる。
長官は老中とか若年寄だろうか。
「マナイは、ナミとナリと共に監査役とする。侍女としてはお前たちの方が先輩だが、妻としてはマナイが先輩だから仲良くしてくれ」
「監査役とは、何をするのでしょうか?」
「何かおかしなところがあったら、俺に文句を言う役目だな。長官にではないぞ」
大目付かな。
「はい、ユウキ様」
「はい、ユウキ様」
「はい、ユウキ様」
発令
内務長官、カレン。
財務長官、カオルコ。
農務長官、サクラコ。
司法長官、メナイ。
外務長官、リン。
商務長官、アキ。
観光長官、カナ。
文部長官、ミサコ。
税務長官、ロミ。
エリダヌス銀行頭取、マナツ。
エリダヌスアカデミー会長、ミヤビ。
駐地球国連大使、クラ。
駐地球国連副大使、ロマ。
侍従長、ナタリー。
監査役、マナイ。
監査役、ナミ。
監査役、ナリ。
専従秘書、ササ。
専従秘書、ミヤ。
専従秘書、レナ。
なお、妻たちは母子共に健康であること。
以上。
エリダヌスへは、チカコキューブで通信され、スス内務卿ほか3長官などに届けられる。
予想では、一番驚くのがカレンで、一番嫌がるのがカオルコだろう。
メナイも驚くだろうが、領主命令だから何も言わないだろう。
ロミはやる気になるだろうし、マナツは今までと仕事は変わらない。上司がいなくなるだけだ。
職掌はナミとナリが文書化して、これから送ってくれる。
だが、思わず真面目に取り組んでしまって、本来の目的であるナミとナリと久しぶりのイチャイチャの時間を忘れてしまった。
未練はそっちの方が強いのに。
うーん、未練が強い方が生き残れるかな。
夕食は、何故か全員が緊張しているのか、あまり盛り上がらなかった。
特にパリーとレティは、絶対に俺が危うくなる前に手を出しそうだった。
決着をつけなければ、結果は出ないのだから、手を出すなと言ってあるのだが、聞く気はないようだった。
その後もバスの移動は続く予定だったが、一度全員を集めて『シベリアンタイガーとの決着は俺に任せること』を徹底させた。
不満顔が多いので、メープル酒の一気飲み大会にした。
悲壮感が漂う中でのシベリアンタイガーとの決戦は、何となく俺には向いていないのだ。
馬鹿やりながらの方が断然良いに決まっている。
唐突だが、トランプを出して、全員でインディアンポーカーを始める。
降りる奴はシングルを1杯、突っ張って負けた奴はダブルを1杯飲み干さなくてはならないルールである。
酔いつぶれた奴から2号車のベッドかカウチ行きとした。
次が1号車で、勝ち上がりが1号車のカウチで俺の隣である。
負けた奴は脱ぐ、と言う意見は却下した。
普通、ポーカーというのは、相手の顔を見て相手の手を予想するゲームだが、インディアンポーカーは、相手の顔を見て自分の手を予想するゲームである。
勝ち負けは単純なルールだが、予想は結構難しい。
侍女服の連中は、手を上げるとケープからおっぱいがこぼれるので嬉しい誤算だった。
残りはメイド服だが、今ではこちらの割合の方が少なくなっていた。
勿論、エリザベスは何にもこぼれない。
だが、女の子が額にトランプを持ち上げる姿は結構可愛いものだった。
最初のうちは、ポーカーフェイスのナミとナリとパリーが強かったが、みんなが何杯か飲むと逆転し始めた。
特に、勝ったナリが俺にキスして、当然の権利だと主張すると、突っ張る者が続出し、ダブルの大盤振る舞いに変わった。
それでも、パリーがキスして、サマンがほっぺにキスしてくれる頃までは何となく和やかで良い調子だったと思う。
ほろ酔いだったし。
しかし、その後エリザベスが6回連続してクイーンを引き、挑戦者はことごとく敗退していった。
俺も2度もエースを引きながら、2度ともエリザベスの馬鹿笑いに自信を失い、敗退した。
ポリーンは3杯で2号車へ行き、サマンとシーリーンも同じく4杯目で2号車行きだった。
シーリーンは負けず嫌いのようだったが、今回は裏目に出たようだ。
フェンシィは最初の頃は慎重に降りたくせに、6回連続で突っ張り、ことごとくエリザベスに敗退した。ダブルを連続6杯飲むと2号車のカウチに自分の足で行って、そのまま酔い潰れた。
パリーもキスしたいと言うよりは、阻止したいと言った感じで自滅していった。
エリザベスは、キスよりも勝利が嬉しいらしく、皆に見せつけるようにキスしたが、キスそのものは子供のキスだった。
だが、それでも腹が立つようだった。
皆、強気で突っ張り、敗退していった。
約束は約束なので、パリーを2号車のカウチに寝かせて、他のメンバーにも毛布を掛けてやり、1号車に戻ると、ナミとナリと艾小姐が仲良く酔い潰れていた。
レティはガーターだけの姿で俺に泣きついてきたから、もう駄目である。
酔っ払うと脱ぐ癖と泣き上戸が一緒じゃ、今後飲ませられない。
「ユウキ様、レティはもう女です。だから女にしてください」
「ああ、レティは立派な女だから心配するな」
「嘘です。パリーサーみたいに立派じゃありません」
レティがおっぱいを掴んで変なことを言う。
だから、俺もおっぱいを掴んで安心させた。
「いやあ、これはこれで立派だぞう」
「本当ですか。ああ、レティも立派な女になれたんですね」
「ああ、立派な女だぞう」
立派立派などと言い合いながら、レティをベッドに寝かしつけ、ナミとナリはくっついていたので、そのままふたりをすべすべのベッドに寝かせた。
いや、すべすべなのはベッドじゃないな。
その後は、柔らかいベッドに柔らかい艾小姐を寝かしておしまいである。
いや、エリザベスがカウチにいる。
「さあ、エリザベス。もう寝る時間だ」
「エリザベスは勝ったの。ウハウハなの」
「金を賭けてた訳じゃないぞ。ウハウハはおかしいだろう?」
「じゃあ、ご褒美は貰えないの?」
「ご褒美って何だっけなあ」
「確か、ユウキ様なの」
「そうなのか? 俺じゃご褒美にならないらろ」
「確か、裸がご褒美なの」
「変なご褒美だなー。男の裸なんて、誰も欲しがりまへんひょう」
「いいの、きっと何か理由があるの。だから早く裸になるの」
「ほうか、まあしかたがらいらあ」
結局、エリザベスに何故か全裸にされ、エリザベスも何故か全裸になって一緒にカウチで寝ることになったから、俺もエリザベスも十分に酔っ払っていたのだと思う。
エリザベスが嫌がる要求はしなかったと思うが、記憶は定かではなかった。
朝、ナミとナリが何度もニオイを嗅いで、判定を下すまでだったが。
夢の中で出しても有罪なんだろうか?
いや、ご褒美を出してもって意味だよ。
ご褒美も何だかいやらしいか。
他に、何を出すんだよ!
昼前に、レティの選んだ最終決戦の地に到着し、みんなで準備に入った。
虎を見つけるのが先であるから、またしても草原に見張り場所を設けたが、その後は夕方まで自由時間とし、それぞれが勝手に昼食を取ると、午後の休憩に入った。
レティとパリーは特に夜の見張りがあるので、十分に休んで貰った。
この辺りは草原の草が伸びきっていて、凄いところでは2m以上もある。
森林との境界も曖昧で、飛び地のように森林があったりするから、シベリアンタイガーには絶好の狩り場である。
地面にはうねるように高低差があり、草の丈もあるので、少し小高くなっている場所に駐屯した。
森林側にバスを置いて壁にし、比較的草の低いところで、全員が休憩所を整備していった。
見渡すと、バッファローの群れが平和そうに食事をしている。
成長した草は食べにくいんじゃないかと思うのだが、シーリーンとレティが『ウシの仲間は繊維質が強くても反芻するので大丈夫』と言っていた。
確かに、芝生みたいな草原では、何千頭ものバッファローを養えないかもしれない。
人間がかき分けるぐらいの草原の方が、食料としては優れているのだろう。
それから、太陽が夕日に変わり始めた頃。
全員がまだ気怠げに行動している時。
慣れきって油断していると言うべきか。
俺はコンロを設置して、夕食の準備をしていた。
レティは2号車の前でレーザーの手入れをしていて、パリーも隣でスタンガンを幾つか点検している。
ナミとナリは草を踏んで、夕食の会場を作っていた。艾小姐が後ろをついていく。
フェンシィは1号車の端から、艾小姐たちと遠くのバッファローたちを見ながら歩いている。
シーリーンが俺の隣で野菜を切っていた。
エリザベスとサマンとポリーンは、バスの中であれこれ材料を吟味している筈である。
逢魔が時と言うべきだろうか。
艾小姐が、子猫を抱き上げた。
いや、子猫と言うには少し大きい気がする。
だが、何かがおかしかった。
「フェンシィ!」
俺が叫ぶと、フェンシィは俺の方ではなく、後ろを向いた。
そこには、シベリアンタイガーが音もなく空中を飛んでいた。
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