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11 『資質』

 11 『資質』




 翌日、昼過ぎまでぐっすり眠れたのは、パリーサーを選択したのが性欲ではなく人材の確保という、俺の大好物であることが判明したからである。

 独りよがりの判断ではあるが、そういうことにしておく。


 これだけは避けて通れない、などとひとりニヤケながら眠ったのだった。


 本当はおっぱいだったのかもしれない。

 おっぱいには一目惚れしてたしな。


 だが、入り口を間違えたとしても、出口は間違っていない。

 パリーサーは優秀な人材である。


 昨夜の見事な対応は、俺の目に焼き付いている。

 パリーサーは、騒ぐ鹿ではなく、最初からシベリアンタイガーに注目していたのである。

 あんなことをしていたにも関わらずである。

 

 まあ、お陰でパリーサーはかろうじて処女ではあるのだけれども。


 すべては、結果オーライである。


 何故かベッドの隣にはエリザベスが眠っていたが、それよりもその脇にパリーサーが少し恥ずかしそうに腰掛けていた。


 きっと、起きるのがわかったのだろう。


 俺が『パリー』と一言挨拶すると、パリーは軽くキスしてパタパタとキャビンに駆けていった。


 可愛かった。


 何故、最初から彼女とこうならなかったのかと、惜しく思うくらいである。

 まあ、原因は新婚旅行なんだけどね。

 忘れてはいませんよ。


 キャビンのみんなが目を丸くしたが、たちまちナミとナリがパリーを祝福して連れ去り、俺が朝食をとる頃には、自分たちと同じ格好で現れて3人で俺の世話を始めた。

 格好は、毛皮のケープに毛皮の巻きスカートに、パンストに毛皮のブーツ姿である。

 パリーは嬉しそうで、輝く笑顔が昨日までとは別人のようだった。

 ケープで隠しきれないおっぱいも輝いていた。


 領地内ではないから、儀式はいらない。

 助かったと思ったが、帰ればきっとやるのだろう。


 しかし、エリダヌス人以外には、意外な展開に見えたことだろう。

 フェンシィの怒りと、レティの沈み様は、ちょっとつらかったと正直に言っておこう。

 何故、レティではなくパリーサーなのかという疑問には、ハンティングではなく戦闘において、レティよりパリーサーの方が素質は上だ、としか言いようがない。

 多分、専門家のヨリが見ても同じ結論になると思う。


 女性の魅力としてはレティが劣ることはない。

 明るくて優しい娘である。

 女としてはパリーの方が無骨で不器用に見える。


 だが、才能を持っている人間が輝いて見えることは、仕方がないのである。

 そして、それを目の前で証明されたら、惚れたことを正しいと思ってしまうだろう。

 チャンスが来たと思ったら、積極的に行動をとることも、きっと才能の内なのだ。

 一生懸命とか、ひたすらとか、一途にとかいう思いや行動は、見ていて悪くない。

 アピールしなければ、才能や魅力に注目されないこともあるのだ。


 とはいえ、銃による戦闘では、きっとレティを凌ぐだろう。

 格闘技も覚えれば、フェンシィに迫るかもしれない。

 この辺は俺の欲目だろうか。


 しかし、何より感知においても、天才が認めたレティと同等の能力があると思う。

 きっと、ジョアンが弟子にしていれば、今回のガイドはパリーサーになっていたことだろう。

 いや、逆に手放さないのか。


 それはともかく、命名と侍女、いや妻候補と言うのは、エリダヌスではもの凄く名誉なことなのだ。

 名誉称号になるのかは、ドウの判断を待たねばならないが、少なくとも母シャケぐらいの名誉はあることだろう。

 クラとロマに続くぐらいの名誉である。


 ついでに言えば、パリーには生涯外国人手当が年1000G(500万円)支給される。

 これはもう確定で、パリーがこのままマサイに残っても支給されることになる。

 更に侍女の給料が支払われる。

 これは子供が成人して養ってくれるまで続く。

 年2万リナだから100万円ぐらいだ。


 俺の子供を産んだら、子供にも外国人手当が支給される。

 子供は外国人ではないが、エリダヌス人が外国で勤務すれば国外勤務手当として、外国人手当と同じ額が支給されるので、面倒だから外国人手当と称している。

 しかも、子供が産まれたらマサイに大使館が作られて、大使があらゆることに金を払ってくれることになるだろう。

 一種の王族扱いなのだ。


 マサイの平均年収が、一家4人で2万4千から3万リナぐらいだから、かなりの高収入になることだろう。


 だが、パリーがエリダヌスに来てくれないというのは、今のところ想定外である。

 少なくとも、子供ができて実家に帰る以外の話になったことはないし、エリダヌスに戻ってこない妻も見当たらない。

 パドマだけは好きにやっているが、彼女は結婚の習慣がないとのことなので、例外になっている。

 子供がサクヤのものだから実家に帰って産むのだが、サクヤが3人目も4人目も欲しがるというのはパドマが拒絶すると思うので、あまり深くは考えていない。

 テパはチベットから戻ってこないが、あれは体型を気にしているだけだし、マリーがイギリスに残っているのは継承権を子供に与えるかどうかでもめているだけだ。

 エリダヌス代表の子供の方が、格上だからであるらしい。

 できれば、一農民としての立場で判断して欲しいのだが、領地の外では色々としがらみが生じるらしい。


 まあ、パリーがどうしてもエリダヌスの水が合わない、とか言い出さなければ、エリダヌスで俺の妻として暮らすことだろう。

 最低でも、結婚式はエリダヌスで挙げることになるし、結婚を拒むとは思えない。


 子連れでマサイに帰れば、ダニエル首相がマサイ王に据えかねないから、少し困ったことにはなるだろう。


 そんなこんなで少し居心地は悪かったが、もう一晩移動せずに、ここで夜のシフトを迎えた。

 昨夜と同じであるが、意気消沈して見えるレティと、もの凄くやる気になっているパリーがペアの相手である。


 レティは1時間ほど無言で事務的に仕事をしていたのだが、少しずつ泣きべそに変わっていった。

 こうした時に下手な慰めとか気安めを言うと、怒りに火をつけるだけである。

 俺は黙って真面目に仕事をする。

 無視してるわけではないのだが、レティにはそんなことを考える余裕もないだろう。


「初めてマサイに来た時は、怖くて仕方がありませんでした。父は妹のサティばかり気にかけて、私を守ってくれそうもありません。私はいらない子だと思いました。どこからか猛獣が現れたら、私が生け贄になっている間に家族は逃げ出すんだと思い込んでいました」


 第二移民団が到着した時、俺は丁度、ダニエルと政治的な打ち合わせのためマサイに来ていた。

 偶然なのだが、そこに初めての怪我人が出たとかで、第一移民団の連中は忙しくなったから、俺が志願して、ダニエルの代わりに第二移民団を出迎えに行った。

 そこでジョアンと出会い、ウマが合うというのか、意気投合して親友になったのだ。


 そのときに、娘のレティを紹介され、少し怯えている彼女を抱き上げて、ジョアンたちと話をしながらキャンプ地まで移民団を連れて行った。

 ジョアンが抱いているサティの方がおしゃべりだったという記憶がある。


「ユウキ様に抱き上げられて、やっと私は恐怖から解放されました。虎やライオンは、この辺りに出ないと教えてくれましたよね」


 正確にはジョアンに聞かれて答えていたのだと思う。

 小さなレティは、しがみついていただけの様な気がする。


 だが、記憶や歴史は人それぞれの価値観であり、それぞれの興味や得手不得手などで、主観的に作り上げられていく。

 努力した者の歴史や、努力できなかった者の歴史も、すべて主観的には真実の歴史である。

 ただ、周囲の人の評価とは、大きく隔絶しているだけである。

 時には努力が認められず、時には努力しなかったことが認められたりする。

 確率は低いのだが、理不尽なことの方が人の記憶には残りやすい。


 人と付き合うと言うことは、客観的な世界を学ぶことでもある。

 そこで知り得た違いを楽しいと思えれば、人付き合いも楽になるが、自分本位になればなるほど世界とは隔絶していく。


 客観的に困っている人には、同情や手助けが現れるが、主観的に困っている人には誰も現れない。

 世の中とは不思議なもので、主観的世界に生きる孤高の人間に、大成功を掴み取る人が多い。


 極端な例は、チカコだろうか。


「ユウキ様?」

「ああ、聞いているよ。それで、怖がりのレティは、どうしてジョアンに認められるような優秀なハンターに変貌できたんだい?」

「それは、私が子供だからユウキ様に抱き上げられたんだと気づいたからです。でも、大人になってもそれじゃ情けないですよね。大人になった時に、きちんと隣で立てるように、父を困らせるぐらい付きまとってハンティングに連れて行ってもらい、頑張って頑張って仕事を覚えたのです。チリチリだった髪も、毎日手入れして大人っぽくしていたのに…… まだ、子供だったのでしょうか」

「まあ、料理の腕はこれから上がりそうだよね」

「そんな、何もかも直ぐには上達しません。まだ、14歳なんですよ」


 レティはめそめそ泣きながら、俺をポカポカ叩いてきた。

 比べるのは失礼ながら、同じような才能を持つパリーとレティーの差は何なのだろうと考えた。

 14歳のパリーは、ここで泣いたりするだろうか。


 違うな。

 パリーは泣くぐらいなら、レーザーで俺を焼くだろう。

 それは14歳でも16歳でも変わらない。

 それは覚悟の差だろう。


 それで、色々気づいてしまった。

 やれやれ、ジョアンは隣に立つぐらいじゃ気に入らないらしい。

 謎の好感度マックスが気に入らないのに、何故、ジョアンはレティを俺に預けたのか。

 その答えがやっとわかった。


 ひとりで立てないなら、ハンターになるなと言っているのだろう。


 確かに、顧客を殺されるようでは、ハンターとしても、ガイドとしても失格である。

 感知だけでは、客を守れないのだ。


 これはどうやら、卒業試験ではなく、入学試験らしい。

 父親が隣にいたら出来ないというか、意味のないことになるのだろう。

 ジョアンは、俺に賭けてみることにしたのだった。

 賭けに負けても、失うのは俺の命だけなのである。

 本当に親友なのか?




 10分後、俺は己を過信している馬鹿なハンター役である。

 レティは勿論、馬鹿な客を止められず、満足させるか逃げ出すまで守る羽目になった哀れなガイドだった。


 とは言え、レティがその気にならなかったら、死ぬのは俺の確立が高いのだ。

 レティが、パリーを選んだことにへそを曲げていれば、更に高確率で俺が死ぬだろう。


 俺が震えると、レティも震えた。


「やっぱり、止めませんか」

「こ、こんなのは、軽い準備運動なんだからね」

「無謀過ぎます!」

「レティはちゃんと獲物を見つけてくれ」


 俺は父ジャケ特製の鉄芯入り八角棒を振り回して、強がりを言った。

 少し、声が震えてたかもしれない。


 トイレに行ってから来るんだったよ。

 ちびったら、レティの言う初恋も終わるだろうか。

 いや、俺の人生が終わるだろう。


 しばらく森を彷徨うと、耳が痛くなるような静寂が訪れた。


「右です!」


 レティが叫ぶと、直ぐに巨大なものが空中から降ってきた。

 樹の上にいたのだろう。

 枝をへし折るような音もしないのは、流石に密林の王者である。


 ガシン!


 俺の八角棒はかろうじてシベリアンタイガーの大犬歯2つを受け止めた。

 両腕が鋭いツメで攻撃されるが、防刃の上着は打撲程度に緩和してくれた。

 だが、相手が頭上から攻撃してきたので防げたが、地上にいたら俺の体重では右か左に弾き飛ばされていただろう。

 昨夜のガオー君は、機嫌が悪いらしい。

 きっと、腹が減っているのだろう。

 

 俺は相手が着地して体勢を整える前に、棒を引いてから眉間に2段突きをお見舞いする。


 ぐがぉぅー!


 全身が痺れるような咆吼である。

 近くにもう一匹いるようなら、完全におしまいかもしれない。

 

「レティ!」


 俺は演技ではなく、真剣に救助を求めていた。

 何しろ、相手の大犬歯は、日本刀ぐらいあるのだ。

 サーベルタイガーの仲間なら犬歯ではなく、剣歯になるのだろうか。

 まあ、食肉目犬科じゃないしな。(食肉目はネコ目でもあるが)

 ツメぐらいは防げても、大剣歯を試す気にはなれない。

 飛びかかってきた虎を、かろうじて棒の先に乗せて巴投げの要領で投げ飛ばす。

 体重600キロ以上だとかだが、自動車のような重さに感じる。

 八角棒がへし折れそうである。

 心もだが。


「レティ! 撃て!」


 俺はレティを確認する余裕もなかった。

 本当に、近くにいるのだろうか。

 とっくに逃げ出してしまったのかもしれない。


 敵は空中でくるっと身を捩ると、両脚から着陸し、そのまま飛びかかってきた。

 棒を伸ばして一回転し、バットのスイングの要領で大剣歯を打ち払う。

 虎の顔が横に捻れたが、片手が俺の肩に掛かって、そのまま体重で押し込まれる。

 かろうじて、棒を地面で支えて拮抗するが、虎の両ツメ攻撃を受けて、棒がえぐれていく。


 バキッ!


 棒が折れて、虎の大剣歯が襲いかかってくるが、俺は虎の腹の下の毛皮を両手で掴んで身を躱す。

 大剣歯は頭上の地面に突き刺さったが、思った以上に近いところだった。

 そのまま俺は虎の腹の下に押し潰されて、呼吸が止まった。


 ああ、これで死んだな。


 虎に押し倒されて死ぬぐらいなら、ナミとナリとパリーに押し倒されておくんだったよ。

 そう言えば、クラとロマも約束してるんだった。


 ナミとナリの成熟し始めた身体。

 パリーのメリハリのある身体。

 クラとロマの相乗効果のある美。


 身体の隅々まで全部知っているのに、相手は処女だって何か変だよな。

 きっと、バチが当たったのだろう。

 来世は、童貞の星に生まれ変わるのかもしれない。


 童貞ばかりで、俺が女だったらどうしよう。

 いや、男だったら、どうしよう?

 うわー、どっちも嫌すぎて嫌だ!

 神様、仏様、レティ様、助けてー!


 ぐっはっぁー!


 気がつくと、俺はレティに人工呼吸されていた。


 ぐぇほぉ、げぅほぅ!


 呼吸にむせるが、辺りはむせ返るような血のニオイが充満していた。


「ユウキ様、ユウキ様」

「やあ、レティ。死ぬ前にもう一度キスして欲しいなあ」


 俺は強がりを言おうとしたが、どちらかと言えば、弱がりにカテゴライズされる言葉しか出なかった。

 弱がりなんて言葉があったのだ。

 いや、甘えだろう。


「良かった。生きていました。神様、感謝します」

「いや、キスしてくれないと死んじゃうかも」

「頭の打ち所が悪かったのでしょうか。それとも低酸素症?」


 レティは泣きながら笑い、首をかしげるという器用なことをした。


 うっ!


 俺は何か言い返したかったが、あばらが痛み始めて、もう何も言えなかった。


「大変!」


 レティはザックの中から救急キットを取り出すと、俺を寝かせて脇腹から胸にかけて診察して、軟膏を湿布薬にして貼り付け、包帯を巻いてスプレーで固めてギプスにした。


 ハンティングにメディカルアンドロイドを連れて行けないという、マサイの法がやっとわかった。

 死の危険を感じないハンターが増えると困るからだ。


 レーザーライフルもガイドしか所持できない。

 それは猛獣狩りではなく、虐殺に近いからだ。

 弱い物イジメである。

 だが、客に覚悟を持たせることになる。


 2発の旧式ライフル弾で仕留められない者は、名誉を得られないシステムなのだ。

 犬も使わせないのは、きっと頭脳戦を期待しているのだろう。

 まったく、ダニエルはよく考えている。


 しかし、マサイ人ガイドは、レーザーで客を守らなくてはならない。

 つまり、レーザーを使わせない客こそが、最も名誉に値する客なのであり、レーザーを使わないガイドが最も名誉に値するガイドなのだろう。

 駄目な奴は、次からは草食獣狩りに回されるのだと思う。

 まあ、シベリアンタイガーは、ハンティングの対象ではないのだが。

 危険地域として、許可なく入ることはできない。


 やっと余裕ができた俺は、虎を見ることができた。

 首の上半分が焼け崩れている。

 流石のシベリアンタイガーでも、延髄から脊椎を焼かれては生きていられない。

 口から大量の血を吐いて死んでいた。


 せめて、俺が死んでいれば浮かばれたかもしれないが、生憎と生き残ってしまった。


 ハンティングの星。

 遊びで動物を殺す、罪深い星かもしれない。

 だが、やがて大規模な農業を開始すれば、何万の虎やヌーやガゼルたちが、棲息地を追われて死滅するのである。

 ダニエルは、動物の死滅を先に延ばしたのだろう。

 だが、人間が増えれば、動物は減るのだ。

 増えるのは家畜だけである。


 人間が生きていくために動物を殺すのは、昔から変わっていない。

 だが、生きるというのはそういうことでもある。

 せめて、人同士は殺し合わないように祈るだけだ。

 それ以上は、人間が進化して、電気か何かで生きていける様に変わるぐらいしか思い付かない。


 俺が休んでいる間に、レティはシベリアンタイガーの首を、剥製にしていた。


 毎日、食べるために鶏や猪を殺す農民なら、それほど凄惨な光景ではない。

 ただ、レティがハンターとしての入り口に立ったことは間違いないだろう。

 天才ハンターの娘として、これから先をどうするかは、レティの決断1つである。

 ハンターになるなら、この首はレティの生涯の守り神となる。

 きっと、毎日祈りを捧げ、時には愚痴をこぼす相手になるだろう。

 だが、優しい娘だからなあ。


 ただ、帰り道で熊を見かけたのだが、レティはレーザーで簡単に追い払っていた。

 別人のようである。


「良かった。これ以上の戦闘は無理だからな」

「ユウキ様は私が守りますよ」


 そう言いながらも、レティは俺にケガをさせたことが無念のようだった。

 客にケガさせるというのは、やはり恥なのである。


「頼むよ。死んで童貞の星に行くのは嫌だからな」

「ユウキ様が童貞だったら、レティはいつでももらいに行きますよ」

「しかしなあ、レティはきっと男として現れるんだよな」

「?」


 レティは、やはり俺の頭の打ち所が悪かったのではないかと疑っているようだった。


 元々、こんな頭なんだけどね。




 やる気で待っていたパリーが、レティの引いてきた獲物を見て仰天していた。

 まあ、こんなのと戦うなんて、本当に嫌だよな。


 俺が負傷したことを知ると、何人かは起き出してしまった。

 軽いケガだから大げさにはしないように言ったのだが、パリーはレティを責めるかのように睨み付け、レティは殺気の籠もった目つきで見返し、ちょっと怖かった。


 ナリとナミが手伝ってくれて、ベッドに寝かされると、パリーもレティも一先ず休戦してくれたようだ。

 レティの変わりように、パリーは驚いていた。

 昨日までの良い子ちゃんじゃないからだろう。


「日程を変更するから、悪いけど周りに集まってくれ」


 直ぐにパリーとレティが駆けつけて、ナミとナリの両脇についた。

 ポリーンとフェンシィが驚いている。


 人生は驚きの連続さ。でも、退屈よりはマシだろう?


「取りあえず、明け方にはベースキャンプへ戻ることにする。帰りは1日もかからないだろう。俺は早く治すつもりだから、安静にして過ごすよ。リーダーはレティだが、疲れているだろうから半日はフェンシィが指揮を執ってくれ」


 レティは不満そうだったが、一度休憩したら疲労が予想以上に大きいことがわかるだろう。

 フェンシィも寝不足のようだが、半日はもつだろう。


「ナミとナリは俺の世話を頼む。夜間はパリーが交代してくれるかな」

「はい」

「はい」

「はい」


 無口な褐色の3つ子のようだった。

 相性が良いと言うのは助かる。


「それから、エリザベスがベッドに入ってこないようにして欲しい。一応、骨折しているみたいなんだ。フェンシィが楽できるように頼むよ」

「はい」

「はい」

「はい」

「はい」

「はい」


 3つ子に張り合うかのように、レティとポリーンも返事を返してくる。


 フェンシィは、直ぐに2台の配置を決め、出発の準備に取りかかった。

 俺は寝ていたのだが、出発前に一度起こされフェンシィに念入りに検査され、手当を受け直して、ナミとナリとパリーに念入りに身体を拭かれて、着替えさせられてから、幾つかの栄養剤とか、代謝を促進するドリンクとか、カルシウム剤とかを飲まされた。


 裸を拭かれているシーンでは、何故か全員集合しているようで、外野のエリザベス以外は真っ赤になっていた。


 見世物じゃないんだ。

 お嫁に行けなくなるだろ!


 だが、これでエリザベスは納得したのか、煩わせることなく大人しくしているようだった。


 フェンシィは意地悪なのだか、優しいのか、良くわからない。


 だが、それで本格的に寝込んでしまった。

 熱も出ているようだ。

 時々、ナリとナミの顔が見えて、パリーの顔も見えたが、何故かレティも現れるし、ポリーンも艾小姐も現れては消えていった。


 フェンシィが2度ほどバスを止めて治療してくれたが、ナミとナリに無理矢理トイレに行かされたり、身体を拭かれたりした。

 その後は再びドリンク剤を中心とした食事だか投薬だかわからない時間になったが、眠れるような薬も混ぜられていたのだろう。

 痛み止めかもしれない。

 後になって考えれば、ありがたいことだったが、その時は恥ずかしくて、鬱陶しくて文句が出そうだった。


 その後、目覚めた時はシップのメディカルルームであり、アンドロイドにしつこく質問されたが、結論は後2日間の安静だった。


「性行為も禁止ですよ」


 アンドロイドが女性陣にそう言っていた。

 返事をしたのは、艾小姐とエリザベスだけだったが、何故だろう?



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