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10 『夜のシフト』

 10 『夜のシフト』




 取りあえず、実戦経験のあるものとないものを組み合わせてローテーションを組んでみた。


 1、パリーサー・ポリーン組

 2、シーリーン・レイラー組

 3、パリーサー・サマン組

 4、シーリーン・アズラー組


 遠征は、1回に2日から3日かかるから、4回のローテーションを決めておく。

 戦闘経験のあるパリーサーとシーリーンが、比較的スジが良いと思われる助手と組んで、色々と教えることになった。


 留守番組はリーダーをベアトリスとし、援護に万兄弟を残した。


 実際に決めていくと、色々と予想外の事実が見えてくるものである。


 まず、最年長のフィラーは見た目通り嫋やかな女性で、僅かでも戦闘には向いていなかった。

 家事は得意なので、ベースキャンプ要員にした。

 家庭向きの優しいお嫁さんが欲しい男には、とても人気がありそうだ。


 最年少のエリザベスは、置いていく方が危険だと判断された。

 一日中誰かが監視してはいられないし、閉じ込めるわけにもいかないからだ。

 本人は俺の役に立たないといけないらしく、絶対に居残りなんかしないと言い張った。


 男の目と心臓に悪いパリーサーは、意外なほどに戦闘向きで、例のバッファローを一発で仕留めたそうだ。

 ベアトリスを除けば、レティよりも戦力になりそうだった。

 万家の3兄弟が不平不満を言っても、遠征組のローテーションに入れるのは、実力的に考えて仕方がないことだった。


 まあ、全員が二日酔いで、頭痛と吐き気の中での打ち合わせになったが、きっとこれで大丈夫だろう。


 キャンピングバスの正式名称はハンティング・クローラーで、初期には後ろの6輪はキャタピラーだったから、その名になっているとのことだった。

 走行性も居住性もパンクレスタイヤの方がいいし、メンテナンスも素人には楽である。

 キャタピラーなんか外れたら、誰にも直せないだろう。

 しかも、静粛性ではタイヤが圧倒的であり、結局のところは獲物に察知されにくいという長所があった。


 基本的には内蔵バッテリーとソーラーで2日間はまかなえる設計になっているが、水素プラズマ発電機が備えてあり、帰る時には充電してから出発するようになる。

 2台で行動し、何かあった時には連結するか、片方を置いて戻ることになる。


 出入り口が高めに設置されているのは動物対策だと思っていたのだが、実は渡河用だった。

 幅2キロ程度の川なら、十分に対応できるらしい。


 至れり尽くせりではあるが、やはりサスペンションは自然の中では対応しきれず、場所によっては舌を噛みそうなぐらい揺れるという。

 バストイレ付きだが、バスは基本シャワーであり、トイレも走行中はあまり使用するのはお勧めではないらしい。

 しかし、キャンピング・クローラーとは呼びづらいので、今後はバスと呼ぶことにする。


 目当てのシベリアンタイガーだが、基本的には単独行動であり、森の中に棲息し、夜行性である。


 夜間に森を抜け出して、バッファローを襲うらしいのだが、群れは作らないとのことである。


 森と草原の境界は、目的地に近づくほど複雑になり、時には岬のように飛び出した森や、離島のように見える森が点在するという。

 そうしたところの方が、バッファローの餌場も良く、シベリアンタイガーにとっても絶好の狩り場になるのだろう。


 最も、森には鹿や猪の仲間も棲息し、草原には山羊やウサギなどもいるらしいので、必ずバッファローを襲いに出てくるわけではない。

 デカい獲物を狩れば、暫く動かないので、それが一番狙いやすいという。


 雌は時々子供を連れていて、結構過敏になっているらしい。

 洞窟などはそれほど存在するわけではないので、子育ては大変なのだろう。


「雌の方が強いなんてことはないだろうな」

「個体差より年齢差が大きいなんて言う学者もいますよ」

「爬虫類じゃないんだから、そんなことはないだろう。頭が良いと言うことだから、経験値による差が出てくるんだろうな」

「経験値ですか。確かにそうですね」

「老獪な奴とかがいそうだな」

「それより、未経験の童貞が可哀想ですね」

「何だよ、それ」

「虎は森の中で単独で過ごしているのですよ」

「だから?」

「つまり、雄と雌が出会うのは、ユウキ様が虎だとすれば、森の中で偶然、裸の女に出会うようなものです」

「いや、動物なんだから、バッファローの群れなんか全員裸だからね」

「3千頭の群れの中で裸でいても気になりませんが、森の中でたったひとりの裸の女と出会ったらどうなります?」


 確かに、町中の人が全員裸で暮らしているのと、他に誰もいない森の中で、突然裸の女と出会うのは、インパクトが違うのか。

 全員裸というのも結構良いかもしれないが、世界にふたりだけみたいなのも、凄いシチュエーションかもしれない。

 そりゃあ、理性的に振る舞えなんて無理か。


「やっぱり、襲うのかな」

「大抵はそうなるでしょう。年に一度か二度のことなら尚更だと思いますよ」

「気が合って、ラブラブとかは?」

「そんなことがあれば、雌も少しは人生が楽になるでしょうね」

「つまり、選択権はないのか」

「だから、経験を積んだ雌は、童貞男を返り討ちにしたりするそうです」

「うわぁ、それもちょっと悲惨かもしれない」


 とは言え、15歳の童貞男が森の中で経験豊富な熟女に出会っても、返り討ちになる可能性が高いのか。

 年齢差が影響するというのも、多少は真実なのかもしれない。


 年に1度か2度の出会いしかないなら、未経験の処女に出会える確率は低くなるだろう。


 しかし、森の中を裸で歩いている女を見つけたら、相手が清純な処女だろうと色っぽい人妻だろうと、見境なく、というのは何となく理解できる。

 負けても良いから挑戦するかもしれない。

 まさか、ナンパするわけにもいかないだろう。


「そこの美しい奥様。今夜は良い月夜ですね。ご一緒に散歩でも如何です?」


 いやいや、擬人化しても相手は野生動物だから、ムダだろ。

 裸だという概念もないし。


 エリダヌスでは、人間も裸の概念がなかったな。

 ナナとサラサは、少女の頃から子持ちの人妻になるまで、ずっと裸で過ごしていたよな。

 今でも俺と一緒の時は裸だけれど、サラサは道場などでも裸だったな。

 村の中では裸でいることの方が多いようだ。

 侍女にならなかったから、巻きスカートが制服という概念がないのだろう。


 考えると、よくぞ我慢できたと思う。

 いや、これからも我慢するんだけど。

 できるだろうか?


 森の中で、裸のレティに出会ったら?

 森の中で、裸のフェンシィに出会ったら?

 森の中で、裸のエリザベスに出会ったら?

 パリーサーだったら?

 レイラーは?

 ポリーンは?

 艾小姐だったら?


 何だか、拙いぞ。

 妄想が止まらない。


 イリスとマナイは非常に察しが良くて、俺が我慢できなくなる前に、欲望を摘んでくれる。


 悲しいことに、キン、ギン、ドウと一晩過ごした翌日でも、平気で昼間っから欲情したりするのが若い男というものである。


 ツッと、人気のないところへ引っ張ってくれるのがふたりの凄いところだ。


 お陰で、ナミもナリも、クラもロマも、10人委員会も、処女のまま結婚できるのだ。


 本当か?


 お陰で、信義に厚く、品行方正で我慢強い領主の仮面は守られているはずである。


 ………………っっ。


 マナイを連れてくるべきだったか?


 いや、これは新婚旅行なのだ。

 でも、ナミとナリとの初夜がないから、つらい新婚旅行でもある。


 我慢大会か!


 そういえば、昨夜は宴会の終わり頃に『ロシアンルーレット』があった。

 メイド服5人が並び、パンツを穿いているのが誰だか当てるゲームである。

 みんな酔っ払っていて、何でそんなことになったのか良くわからないまま、ノリでゲームに突入してしまった。


 先に酔った孔明さんと国際さんにやらせたが、孔明さんはベアトリスを選んで卒倒し、国際さんはパリーサーを選んで気絶した。


 つまり、誰だか当てるのではなく、誰のを見たいのかがモロわかりのゲームだったのだ。


 俺もレイラーを選んで、フェンシィの飛び蹴りで意識を飛ばした。

 レイラーのスカートがぎりぎりのところまで持ち上がったのだが、それ以降の記憶は迫り来るフェンシィの足の裏で、やはり見てはいないようだ。


 ノーパンだったのだろうか?


 知りたいけど、知るのは怖いような気がする。

 フェンシィは、何も覚えていないと言っていたが、怪しいもんだ。

 だが、追求できるような話じゃないので、諦めるしかなかった。


 実は、俺も何も覚えていません、と言う態度を貫いた。

 建前は大切である。




 出発する時に、1号車には俺とレティ、パリーサーとポリーンが乗った。

 索敵と警戒が必要だからだ。


 2号車はナミとナリ、ナミとナリにくっついている艾小姐、艾小姐のボディガードのフェンシィに、フェンシィが面倒をみているエリザベスの5人である。

 1台に2組の2段ベッド、カウチにふたり寝れるから6人が定員と見て良いだろう。

 

 フェンシィ以外の4人は、二日酔いで寝込んでいる。

 エリザベスは生まれて初めての二日酔いだが、誰が飲ませたのか誰もわからない。

 本人は大人の女なのだとか、一人前になったとか主張していたような気がする。

 そう言えば、ロシアンルーレットの時に、一番はしゃいでいたのがエリザベスで、ゲームが始まる前からノーパンが見えて……

 いえ、何も覚えていません。


 運転はAIがするし、色々と判断するためにアンドロイドのナビが1体ついている。

 それらは2階の運転席にいて、2号車も同じである。

 2号車とは情報連結されているから、1号車が避けられなかった地面の凹凸や凸凹などは、路面情報として20メートル後方の2号車には届けられ、ある程度は対処され、少しだけ乗り心地が良くなる。


 俺とレティは、運転席真下の1階最前列の見張り席で外を眺めながら、ぎこちなく会話をしていた。

 お互い頭痛がひどいので、気の利いた会話があまりできない。


 後ろのカウチ席では、パリーサーとポリーンが黙って揺れに耐えているが、二日酔いにも耐えてるようだ。

 おっぱいはあんまり揺れに耐えていないが、取りあえず俺は前方を注視しているので、揺れる気配しか味わっていない。

 レティは勿論揺れたりしない。


 揺れは思ったより少なく、特にベッドは独自のショックアブソーバを装備していて、音もしない。

 何度か走った場所は情報が蓄積されていて、コースと速度とAIによるサスペンション補助効果が出ているようだ。

 京太郎氏が一度ならず走った場所を選んで正解だった。

 未踏地域を選んだら、きっと舌を噛むような揺れに出会ったことだろう。

 二日酔いで挑むのは勘弁して欲しいところだ。


 しかし、本当にひどい揺れが続くようなら、京太郎氏が地上車を選ぶわけない。

 小型でも、飛行艇にしたことだろう。

 まあ、空中移動するハンティングは、邪道なのかもしれないけれど。


 草原を2時間ぐらい走ると小休止を取り、俺とレティが近くの森を探る。

 パリーサーとポリーンが、バス周辺の警戒に当たる。

 一度目と二度目の小休止の時は、虎の気配はなかった。

 時期的に、ピークを迎えるのはもう2ヶ月先なのだが、獲物が少ない場所の虎は既に南下していると、レティが教えてくれた。


 大体、10キロの円の範囲に1頭から5頭ぐらいの密集というか拡散というか、棲息数であるらしい。


 少ないと思うかもしれないが、その10キロの範囲には、鹿なら200頭、猪でも最低は100頭、ネズミ類(リスやモモンガを含む)なら3千、良い場所なら1万5千はいるだろうと言われている。

 狐や貂(ミンクは発見されていない)なども沢山いるらしい。

 定住しているわけじゃないので流動的だが、平均してそれぐらいは棲息している。

 温帯の森林なら、5倍に跳ね上がるそうだ。

 実際、バッファローは計測できないほどいるのだ。


 虎は雌が多く、強い雄のテリトリー近くには周囲を取り巻くように雌が棲息している場合が多く見られるという。

 それで、虎の棲息数にばらつきが出るらしい。


 見方によるが、強い雄のテリトリーは周囲の雌のテリトリーまで含むと見ても、大きくかけ離れていないだろう。

 とは言え、ハーレムではないのだ。

 雄は一番獲物が濃いところに居座るから、周囲にも獲物が流れて、雌の虎には良いポジションとなる。


 若い雄は、テリトリーを作れるようになるまで、放浪を続けるらしいから、周囲の雌には良く遭遇するが、あまり雄のテリトリーまでは入り込まない。

 運悪く入り込んだら、雌との遭遇戦なんか可愛いものに思えるような戦いが始まるだろう。

 一見ハーレムのように見えるが、生き残るための合理的なシステムなのだろう。

 放浪中の若い雄は、カウントできないので、棲息数は雌が多いと発表されたのだ。


 虎の狩りは夜行性で単独行動だが、戦術的には『待ち伏せ』が一番多く、次が深夜のバッファロー狩りだろうか。

 獲物が少ないと思った虎から南下し始めて、夏場には南部に集中するので、北部の虎の密度が薄くなって、北部も獲物のかき入れ時になる。

 だが、虎が少なくなるから、他の動物たちにとっても繁殖期になるのだ。


 俺たちは、バッファロー狩りに成功し、食べ尽くすまで動かない個体を見つけ出すことを、基本的な戦術とする。

 森の中を移動して、突然ガブリとやられるのが最低の戦術となるだろう。

 地の利がある相手のテリトリーでは戦いたくない。


 できるだけ、昼間の草原に引きずり出したいが、敵は夜間にしか動かない。

 気温20度は、彼らには35度とか40度に感じるからだろう。

 氷温から5度くらいが、彼らには暖かい日和なのだ。

 人間には冷やしすぎのビールの温度である。


 だから、夜間に狩りに成功した奴をマークして、嫌がらせのように昼間の戦闘に持ち込む。

 それが一番良いと思う。


 とは言え、生け捕りにしないと駄目なのだし、生け捕りにしてから、相手を死なないようにしないと駄目だという、高い壁がある。


 まあ、駄目なら艾家の動物園には、剥製を飾って貰うしかないだろう。


 一応、努力はしましたという格好は必要なのだ。

 建前というやつである。




 赤外線探知機は、草原では20キロから30キロぐらいまで生体反応を探れたが、森林の中では2キロから5キロ程度で、それもかなり精度が低くなった。

 それも、夜間限定である。

 昼間は温度差がつかないのか、あまり役に立たないことがわかった。


「森が濃いところなら温度差は少ないんじゃないか?」

「森が濃い場所では、探知機が届きませんよ」

「反応が多いところで妥協しないか?」

「反応が多いところは、鹿や猪が沢山いるので、逆に虎が出てきませんよ」


 夕食前の最後の見回りで、レティに色々提案したのだが、あまり良い考えではないらしく、否定され続けた。


 俺は、狩猟民族ではなかったのか。

 いや、石器時代の知恵しか身についていないのか。

 いえいえ、農民ですよ、農民。


 虎の反応より、レティのお尻の方に興味が引かれている時点で、やる気が起きていないのだと思う。

 別のやる気は凄く起きているのだけれど。


「ジョアンは、麻酔銃で捕まえたんだっけ?」

「はい。遠距離から麻酔銃を撃ったのが最初で、次はスタンガンで親子を……」


 どうやら、レティにも親子の虎の話は、思い出したくない類いのもののようだった。


「この辺の反応は多くもないし、少なくもないから、一応、今夜から夜のシフトにしようか」


 夜のシフトとは、決してやましいシフトでも、やらしいシフトでもない。

 夜間に、虎がバッファロー狩りをしないか見張るのである。


 レティは夜間の赤外線反応を監視していると、何となく虎とそれ以外の反応がわかってくるようだ。


 感知に関しては父親以上というのは、このことなのだろう。

 コツがあれば良かったのだが、殆ど感みたいなもので、ジョアンでも学べなかったのである。

 つまり、俺でも無理なのだ。


 だから、レティに任せてしまえばと思ったのだが、バッファロー狩りに出てくる奴がいれば、それなりの監視をしなければならないので、夜間の見張りは大切である。


 初夜はもっと大切だと思うのだが、ナミとナリには艾小姐がくっついているし、艾小姐にはフェンシィがくっついているし、フェンシィにはエリザベスがくっついているから、余程の強心臓か、露出狂か、恥知らずでなければ難しいことだろう。


 幾らナミとナリが従順だとしても、みんなが見ている前で初夜を経験させるわけにはいかない。


 経験豊富な妻たちなら、昼間でも夜でも、ちょっとした隙を作れば何とかならないこともないのだが、流石に未経験のふたりは対応できないだろう。


 いや、俺が早いわけじゃないぞ。

 違うからね。


 つーことは、虎を捕まえて何とかするまでは、ずっとおあずけか!


 あの、夜のシフトはレティと前半、パリーサーと後半なんですけど、大丈夫でしょうか。


 バスを離れて、草原の中で二人っきりで何時間も過ごすんですが、本当に大丈夫なんでしょうか?


 レティが丁寧に今夜の見張り場所を作っている。

 草むらをならし、シートなどを敷いて、防寒用の毛布やらランタンやらポットやらを設置しているが、おままごとと言うよりは、初夜の準備のように見えてしまう。

 鼻歌を歌いながら準備している姿に、デジャヴみたいな感じがあった。


 森林側を見やすくするために草を踏みならすのはわかるのだけれど、バス側から見えないようにしているような気がするのは、気のせいだろうか。


 シベリアンタイガーには、まだ出会っていないが、ひょっとしたら、もっと拙いことが待っているのではないだろうか。




 バスは後方の出入り口で繋げて、寝るものは2号車、起きていたり、警戒に当たるものは1号車が基本割り当てである。


 夕食後、早く寝ることをむずがるエリザベスを寝かしつけ、早寝は得意なナミとナリにおやすみのキスをすると、真っ赤になって指をくわえる艾小姐をフェンシィに任せて、夜間監視のシフトに入った。


 深夜12時まではレティと一緒で、その後はパリーサーと交代して明け方まで見張りにつく。


 今後、俺は昼に睡眠時間をとることになる。

 当然、初夜は延期である。

 何故、こんなことになったのか知っているが、何故こんなことになったのかと思ってしまう。


 原因はあれだ。

 馬鹿だからだ。

 何も考えずに行動するからこんなことになるのだ。

 とは言え、考えても良いアイデアなんか湧いてくるわけがない。

 馬鹿だからだ。

 このまま続ければ、更に馬鹿なことをしでかすに決まっている。

 しかし、それを回避する方法も、馬鹿だから思い付かない。

 すべての原因は、俺が馬鹿だからだ。

 では、馬鹿は馬鹿なことをしでかすから馬鹿だと言うことにならないか?

 だが、馬鹿では、馬鹿から逃げ出すことはできないのだ。


 金儲けするための金がない貧乏人が、金儲けできないのと同じ理屈だ。

 宝くじに当たるためには、宝くじを買う金がなければならない。

 いや、宝くじで金儲けしようと思うこと自体が馬鹿の発想か。

 ギャンブルで儲かるのは胴元に決まっている。

 どんなにパチンコで儲けても、パチンコ屋ほどは儲からないだろう。

 宝くじの胴元は何処だっけ?


 政府か?

 自治体か?

 銀行か?

 寺社奉行か?


 待てよ。


 処女再生宝くじって、地球で売り出したら儲からないか?


 誰が買うかだな。


 毎晩うんざりしている旦那が、新鮮味を取り戻すために買うとか?

 毎晩うんざりしている奥さんが、新鮮味を取り戻すために買うとか?

 実は両方が買うとか?


 待て待て、処女再生は再選択に繋がるから、奥さんに買っても離婚になるだけだ。

 すると、近所の人妻とかに横恋慕している人が買ったりするのか?

 駄目だ。横恋慕だけじゃ、再生後に相手にしてくれるかわからないではないか!


 美人で、人妻で、自分を好きになってくれる人がいる人用だな。

 つまり、不倫用か。

 問題は不倫の需要がどれくらいあるかだな。


 うーん、あんまり需要がないような気がする。


「ユウキ様、何をそんなに悩んでいるのですか」

「いや、処女再生を望むのは、どんな人かと思ってさ」

「そ、それは決まっていますよ」

「へえ、レティにはわかるのか」

「はい、勿論です」

「教えてくれないかな」

「はい。それは勿論、恋に破れた女です」

「恋に破れると、破れるのか?」

「もう! ユウキ様はエッチです」


 バシン!

 うーん、背中が痛いよ、レティ。


「そう簡単にさせないんだから……」


 レティはブツブツ言いながら先に行ってしまった。


 一体、何の話だったんだっけ?

 馬鹿だから思い出せない。


 とにかく、初夜ではなく、初日の夜は若干の緊張と共に始まった。

 レティはピッタリくっついてもじもじしていたが、やはり仕事は仕事なので、真面目にこなしていた。

 俺に解説する時の潤んだ瞳が可愛かったが、途中からランタンを暗くして、顔が良く見えないようにされてしまった。

 赤外線探知機が2つ、空中でふらふらしているようにしか見えなかったが、レティの細いが優しい声と、暖かい体温と、少女の甘い匂いに包まれて、顔が見えるよりドキドキした。


 俺が手順などを覚えないと交代した後に困るから、まあ、真面目に仕事ができていたと思う。

 俺も知らない手続きが多く、物覚えも悪いから、あっという間に交代時間になった。

 12時にバスまで送っていき、起き抜けの頭を目覚めさせているパリーサーと交代させて、ぐっすり眠るように言った。


「眠れないかも」

「昼間は俺が寝てるから、安全のためにもきちんと睡眠はとっておいてくれ、リーダー」

「はい。お休みなさい、ユウキ様」


 責任者としての自覚はあるようだった。

 その辺りはジョアンの娘である。

 俺はレティにすれば客なのである。


 しかし、レティの日当って幾らぐらいになるのだろう。

 ジョアンは年収数億あるだろう。

 ナンバーワンのハンティングガイドだし、オフには自分で高価な獲物を捕ることだろう。

 しかも、今のところ世界中というか宇宙中の動物園から依頼があるから、仕事が多すぎるくらいなのだ。

 怖いから、考えるのは止めよう。


 ポリーンは寝ているようである。

 フェンシィが双眼鏡を持ってカウチに座っていたが、眠いのか不機嫌そうだった。


 寝てて良いのに。


 だが、俺は声をかけたりしなかった。

 どうせ、回し蹴りを食らわすチャンスを窺っていたのだろう。

 触らぬフェンシィに、である。


 パリーサーは自前のレーザーライフルやスタンガンのチェックをしていて、もう気合いが入ったようだった。

 俺も別の意味で気合いが入った。


 何故かパリーサーは、折角レティが作った見張り所の荷物を全部を一端外に置いて、シートを裏返してから乾拭きをすると、毛布類もすべてバタバタと空中で払ってから香水をかけ直して元通りにし、自分のポジションに落ち着くとボケッと突っ立っていた俺を見てポンポンと隣の場所を叩いた。


 場所ができた、だろうか。

 早く隣に来い、かもしれない。


 潔癖症な方なのかしら。


 俺はそう考えながら、パリーサーの隣に寝そべって、赤外線探知機を出すと使い方などを説明した。

 熱心に聞いてくれるが、何故かパリーサーは自分の探知機をほったらかして、俺の探知機を覗き込んでくる。

 肩がぶつかる次元から、ほっぺがぶつかる次元にまで直ぐに到達し、それから息がかかる感じになり、直ぐに耳に息を吹きかけられる次元に到達した。


 俺の説明を聞いていないのかと思ったが、あまり横を向くことができそうもなく、辛抱しているとランタンが再び暗くなり始め、ほっぺがくっつき、肩の上に手が這ってきてから、柔らかいものがのし掛かり始め、腰の辺りには蠢く太股が乗っかって来た。


 いや、見えないけど間違いない。

 一体何をしているのでショウカ?


 だが、俺はつっかえながらも説明を続け、やがてパリーサーの身体全体が俺の上に乗っかり、両腕の上に両腕が乗っかり、背中にはもの凄く柔らかいものが乗っかり、それでも俺の顔の横にパリーサーの顔がピタリとくっついた状態になるところまでで、何とか説明を終えた。


「あの、これでわかったでショウカ?」

「わかった」


 そう言えば、この方はあまりおしゃべりが得意ではないようだった。

 仲間内でもあまり話をしないようだし。

 立派なおっぱいをお持ちなので全然気にしなかったが、ふたりきりだと困るんじゃないのか。

 アイコンタクトをとろうにも暗すぎるし。

 それとも、これがボディランゲージか何かなのだろうか。


「その、女性が男の身体に接触するのは拙いのではないでしょうか?」

「気持ちいい」

「そう言う問題ではなくてですね」

「昨夜、選んで貰えなかった」


 うーん、きっとロシアンルーレットの話なんだろうな。

 でも、公式には何も覚えてないことになっている。


「ノーパンだった」

「いや、俺は酔っ払ってさあ、覚えていないんだ」

「覚えて」


 パリーサーは、俺の背中で上下に動き始めた。

 もの凄く柔らかいものが、背中を往復し始める。


「何を覚えるのでしょうか」

「私」

「それなら、少しプライベートなお話でも良いのではないでしょうか。家族構成とか好きな食べ物とか」

「これがいい」


 確か、昔のパドマがこうだった気がする。

 背中に押しつけて気持ちいいと言っていた。

 その後は向かい合わせで……


 直ぐに、そうなった。

 俺は仰向けにされると、Tシャツの上から押しつけられ、パリーサーは上下に動く。

 もう、パリーサーは迷彩服の上着のファスナーを下ろしていてモロだしになっていた。

 やがて、俺のTシャツもまくり上げられた。


 しかし、パドマもそうだったが、これは処女の証拠である。

 凄いことをしているのだが、実際にどうすれば良いのか知らないのだ。

 ただ、どうしても選んで貰いたい気持ちがこうなっているだけだ。

 自分のために、その後は相手のために、自分は役に立つと、価値があると、そう思っているのだ。

 確かに、戦闘力はありそうだ。

 目的のために、一生懸命になっている。

 何故、俺なんかに好感度を抱いているのかはわからないが、精一杯アピールしてくるのは好ましい。


 少しでも知識があれば、抱きついてキスする方が先である。

 だが、純粋な求愛行動としてはこちらが上である。

 ただ、誘惑しましたというよりは、私はあなたがこんなにも気に入りましたと直接訴えているようなものだ。


 しかも、大きいぞ。

 凄く大きいぞ。

 そして、気持ちいいぞ。


 俺はパリーサーのおっぱいを左右の手で掴んだ。


「うぅ、くぅ」


 大人っぽい感じだったが、声は少女だ。

 とても可愛い。

 だが、このままパリーサーが仰け反ると、フェンシィの双眼鏡が姿を捕らえる。

 パリーサーを横にしてから、もう一度掴み直し、先端部を口に含んで吸った。


「ああっ、ああああっ」


 パリーサーは声を押し殺しながら声を上げるという器用なことをした。

 流石に危険地帯にいるという自覚はあるのだろう。

 だが、俺だけには十分に伝わる。


 しかし、俺も危険地帯に踏み込んでしまった。

 どうしてこんなことになったのか、頭の一部が麻痺していて思い出せないが、麻痺していなくてもそれどころじゃないだろう。

 もう、引き返せないだろうな。


 やがてパリーサーは、俺の首にすがりつき自分の首を左右に振り始めた。


「ああーん、ううーん」


 パリーサーがすべてを堪能してしまう前におっぱいを離し、俺はパリーサーとキスした。

 最初は軽く、徐々に深く。

 やがて彼女も段々と覚えてきたので、キスを続けながら、おっぱいを揉んだ。


「うううぅ、くふぅ」


 喜びに耐える顔が凄く可愛い。

 濃い褐色の肌が、とても柔らかく匂い立つようだ。


 彼女のことを、真剣に自分のものにしたいと思った。

 最近では、珍しい感情というか要求である。

 イリスが言う、欲望を鎮めても欲しいと思う人、というやつである。

 人材としても女としても、パリーサーが優れているとわかるからだ。

 これは、感でしかないのだが、上手く説明できない。

 忠誠心とか、役に立つ人材とか、サクラコやミヤビが表現するやつだろうと思う。

 単純に性欲かもしれないけど、きっとそれだけじゃないと思う。

 一目惚れやおっぱいという可能性だってあるかも?

 だが、レティに対する抵抗のようなものはなく、逆に何かパリーサーに感じるものがあった、と思う。


 俺は、パリーサーの迷彩服のズボンを緩め、手を入れてまさぐった。

 敏感なところに指が届いた瞬間、パリーサーは驚きに両目を大きく開いた。

 その後、涙を一粒流すと、更に強くキスを続けた。


 そのままパリーサーは頂きに達したが、いきなり俺をドンと突き放すと、ライフルを構えて森林に向けた。


 ザザザッ!


 森林から、黒い影が飛び出してきた。

 だが、それは鹿だった。

 直ぐに南の川の方に走り抜けていく。

 パリーサーは、鹿には目もくれず、森林を睨んでいた。

 やがて、巨大な陰が現れると、森林との境界で止まり、吠えた。


「ぐわおぅーーぅ」


 空気が震えるほどの咆吼だった。

 マサイに来てから、やっとシベリアンタイガーに出会えた瞬間だった。


 だが、そいつは巨大な陰を直ぐに森林に引っ込めて去って行った。

 どうやら、獲物を逃したらしい。

 さっきの咆吼は、言うなれば悔しさか、捨て台詞だったのかもしれない。


「良いところを邪魔しやがって」


 俺の方も、悔しさか、捨て台詞に近かった。


 だが、パリーサーは、ライフルを下ろし、恥ずかしそうに迷彩服の上下を直すと、俺に素晴らしい笑顔を向けてくれた。

 その顔にも、何だか見覚えがあった。

 パドマではなく、ヨリの顔を思い出した。

 口数が少なく、戦闘能力があり、俺に対して積極的で、笑顔を見せてくれる。

 容姿は似てはいないが、タイプは確かにヨリに似ている。

 それにしても、さっきの行動は見事だった。

 現地妻ではなく、お持ち帰りしたい。


 暫くパリーサーといちゃいちゃしながら過ごした。色々と、パリーサーの境遇なども聞いた。


 パリーサーは、お手伝いから妻候補へと飛躍ジョブチェンジしたのだった。



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