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劇的:表・後編

昼休憩を挟んで、再び訓練に戻る。皆、自分なりに手応えを感じているようだ。


ディーナは色々な武器を試したようだが、結局、僕が一番最初に勧めた薙刀を使ってみる事にしたようだ。リーチがあり、斬り、払い、突き、打ちと万能な武器だ。


僕の剣道の師範は薙刀術もかなりの腕前で、一度だけ竹刀と薙刀で手合わせしてもらった事がある。こちらの竹刀が全く相手に届かず、一方的にボコボコにされたのは苦い思い出だ。それだけ、武道においてリーチは大切だという事だ。


師範との戦いや、稽古の様子を見て覚えている範囲で、薙刀の構えや型をディーナに教えてあげた。自然体が一番ではあるが、最初の道筋があった方が上達は早いだろう。試しに薙刀を振ってみてもらうと、空気を切る音がした。良い感じだ。


ディーナはお礼を言って、引き続き訓練に没頭していった。


エルサはすでに【風泳の短剣】を使いこなしている。よほど空を飛ぶのが気に入ったのか、先ほどからずっと空に浮かんでいる。かと思えば、アクロバティックな軌道で頭上から短剣を突き立てたり、空中で三角跳びをして攪乱したりと実用的な戦術を生み出していた。センスがあると思う。


識音は先ほど僕が見せた熱光線の魔法や、透明になる魔法の他にも、赤外線の可視化による暗視や、レンズのように拡大して遠視、X線によるレントゲンのような透視など視覚に関する様々な魔法をいくつか考案していた。


光魔法って可視光線だけじゃなく、電磁波なら何でも再現できるのだろうか。きっとスタジオーネ人は見える光しか知らないからイメージできないのだろう。もしかしたら、電波で遠距離通信とか、マイクロ波で電子レンジみたく加熱とか出来るのかも? 識音に話してみたら「試してみる」とのことだった。


というか、X線って放射線の一種だと思うのだけれど、もしかして、より強力な放射線で被曝させるような魔法も……いや、それは流石にやめておこう。


僕も引き続き魔法の練習だ。すでに【火】と【水】はそれなりに使えるようになった。Lv1のスキルも取得していた。スキルレベルが低くてもMP効率や効果が低いだけで、大量のMPを使えば大きな効果を得る事もできる。


うん、順調だ。




空が少しずつ赤みがかってきた。そろそろ切り上げなければならない。


「おーい、みんなー。そろそろ終わりにしようよ。」


「ユーゴさん! あ、あの、最後に少しだけお手合わせをお願いできませんか?」


あの大人しいディーナから意外な提案だ。でも、確かに対人の経験もしておいた方が良いだろう。


「あ、じゃあ私もユーゴとやりたぁい!」


空からピョンと着地したエルサがハイハイと手を挙げる。


「それじゃあ私も勇悟と魔法で勝負したいな!」


識音までこんな事を言い出した。


「お、おお……みんな、やる気満々だなぁ。うん、わかったよ。じゃあ一人ずつね。まずはディーナからいこうか。怪我してもすぐ治せるから遠慮しないで。」


「はい!」


威勢良く返事したディーナと二人で、庭の真ん中に移動して少し距離を開けて対峙する。薙刀を中段に構えたディーナは様になっていて格好良い。僕はアイテムボックスから木刀を取り出した。普段から素振りで使っているものだ。


「いつでもいいよ。」


「いきます! やあああぁぁぁ!」


思ったよりも鋭い突きだ。横の動きで避けると、突いた刀身をそのまま横に滑らせる。うん、避けづらい良い攻撃だなぁ。木刀を柄の部分に差し込んで受け止める。カチンと大きな音がした。


スッと一旦薙刀が引かれる。おっと危ない、木刀が両断されてしまう。僕もそれに合わせてディーナに近づき、懐に入ろうと試みる。長柄の武器はやはり懐が弱点だ。近距離に入れば刀の方が有利になる。


「おっと」


しかし、それを予期していたように引いた薙刀をブンッと振るいつつ僕から距離を取るディーナ。間合いに深入りしようとするのを上手く邪魔してくる。


「いいね。うまいうまい。」


「せいっ! せいっ! せやぁ!」


今度は次々と鋭い突きを繰り出してきた。落ち着いて木刀で受け流していく。受け流されてもディーナは体幹をぶらさずに突き続ける。うーん、本当に今日はじめて薙刀を触ったのだろうか。慣れすぎているような……。


僕の方からも少し攻撃してみよう。突いてきた薙刀を避けつつ、木刀を柄にぶつけて弾き飛ばす。もちろん100%の力では薙刀が折れてしまうので手加減している。薙刀が明後日の方向に弾かれ、それに引きずられてディーナも体勢を崩す。そこに木刀で突きをいれると、薙刀の柄で上手く受け止められてしまった。


「おお、すごい!」


「はいっ!」


そのまま、薙刀がぐるりと回って僕の首めがけて刀身が迫ってくる。うーん、容赦のない軌道だ。それだけ僕の力を信頼してくれているのだろう。もちろん、頭を下げて躱しつつ、もう一度木刀で胴をいれようとする。今度は薙刀で受け止めるのは難しいはずだ。


するとディーナはピョンとジャンプして、木刀を避けてしまった。


うーん、これはアニマの身軽さだろうか。素晴らしいな。


このまま続けてもいいけど、エルサと識音も待っているから、終わらせてしまおう。降りてきた空中にいるディーナに向けて、避けられた木刀をサッと返す。空中制動のスキルのないディーナには避けられない。薙刀で弾こうとしたが、それを予期して薙刀の可動域外の軌道で動かしている。ピタリと首元に木刀が当てられた。


「あー、負けてしまいました……。ユーゴさんに勝てるわけないのに、なんだか悔しいです……。」


「おつかれさま、ディーナ。悔しいのは良い事だと思うよ。上達が早くなるからね。それよりも、驚いたよ。本当に今日はじめて薙刀を触ったの?」


「え、はい。訓練していたら、なんだか自由に動かせるようになったんです。それに、身体もなんだか軽くなりましたし……。」


「うーん? そうなんだ。」


ディーナのステータスを確認してみる。すると、朝には無かったはずのスキルがいくつか増えている。【薙刀術Lv3】と【体術Lv2】だ。そんな馬鹿な。僕じゃないんだから、こんなに早く成長するわけが……。



あ。



「そうだった……。ディーナも【女神ミネルバの祝福】を加護としてもらっているんだったね。きっと上達が早いのは【成長促進】のお陰だよ。」


よく見れば、レベルも1つ上がっている。ステータスが軒並み30以上増えている。INTの伸び率が悪い代わりに、STRの伸びがすごく、80を超えてしまっている。道理であれだけ動けるはずだ。


「え、あ、そうでした。そっか……。では、私も頑張ればユーゴさんのお役に立てるんですね! もっと頑張ります!」


「あはは、ありがとう。でも、無理しないでね。」


はりきるディーナの姿を見て、エルサも手を挙げる。


「はい! じゃあ次は私ね! ユーゴ、早くやろぉ!」


「わ、わかったわかった。」


エルサにぐいぐいと腕を引っ張られて、庭の真ん中に連れてこられた僕は、再び木刀を取り出してエルサと向き直る。エルサは【風泳の短剣】を逆手に持って構えた。剣身が緑色に明るく輝いている。


それを見て思いついたので、試しに木刀に魔力を通してみる。魔鋼とは違ってかなり魔力は通りにくいが、一応強化はできるようだ。【魔剣技】スキルのお陰だろうか。木刀が重みを増して、強度が増したようだ。


「よし、じゃあはじめよう。いつでもどうぞ。」


「いっくよぉ!!」


ぶわっとエルサの着ているピンク色のスカートがはためき、次の瞬間には空に跳び上がっていた。クルクルと錐もみ回転しながら、僕の方に向かってくる。軌道は読みやすいが、短剣がどこから振るわれるかは読みづらい。【見切り】も複数の攻撃軌道を提示している。しかし、今の僕なら躱す事は難しくない。


キン、キン、と続けて振るわれる短剣を魔力を帯びた木刀で弾いていく。エルサの攻撃は一回一回のモーションが小さく、次の攻撃までの間隔が短い。隙の無い良い攻撃だ。しかも、短剣を鋭い風の刃が覆っていて切れ味が鋭く、リーチもわかりづらくなっている。


エルサは連続攻撃の間、一回も地に足を着けていない。空中で体勢を変えて、位置を変えて、次々と的確に急所を狙ってくる。完全に短剣を使いこなしているようだ。常に動き回っていて相手に位置を掴ませないようにしている。


しばらく攻撃を防いでいると、スッと僕の死角に回り込んで気配を殺したようだ。エルサの気配が薄くなった。僕の【気配察知】はLv5だが、エルサの持っている【暗殺術】はLv3。【暗殺術】の気配隠蔽効果はなかなかのものだが、ぼんやりと気配を掴む事ができる。


そのまま、音も無く背後から短剣を突き立てようとした。しかし、僕はそれを見もせずに避ける。そのまま【瞬動】で逆にエルサの背後に回り込んだ。


「えっ!?」


僕が目の前から急に消えた事に驚いたエルサ。ちなみに、【気配操作】で僕の気配は消してある。エルサの【気配察知】では見つけられないようだ。


ポンとエルサの肩を叩いて、慌てて振り向いたエルサの額に木刀の切っ先がトンとぶつかる。エルサがポカンと口を開けた。


「ううぅ……降参。」


「うん。すごいね、エルサ。一日で魔法の短剣を使いこなすなんて。」


頬をぷっくりと膨らませるエルサ。


「ユーゴ、強すぎるよぉ!」


「はは、エルサを護るには、エルサより強くないとね。でも、エルサも十分強くなったと思うよ。もともと【暗殺術】や【短剣術】で強かったと思うけど、魔法の短剣は相性が良いみたいだね。」


「うん! これすごく良いよ! ありがとうユーゴ!」


お礼は僕の中にいる彼にすべきなのだろう。短剣を作ったのは彼なのだから。


——ふん。風理のために作っただけだ。


素直じゃないやつだな。




「『無幻咆哮(ミラージュ・ライオン)』!」


真っ白なライオンが音も立てずに僕に飛びかかってくる。たてがみを揺らして、大きな口を開くと頭からかぶりついてくる。


「『水月』」


僕の言葉によってライオンの足下に影のようにじわりと丸い水たまりが広がる。水の中には白いライオンの全身が映し出されている。水面にぽつんと波紋が広がると、いつの間にかライオンは姿を消している。しかし、水の中のライオンは相変わらずそこにいて、キョロキョロと辺りを見回している。


僕が考案した水魔法だ。一定時間、水の中に映った鏡の世界に相手を閉じ込める。名前の『水月』とは、水面に映る月の事を指している。


「うぅ、ライオンちゃん……ええい、『猫矢軍団(キャッツ・レギオン)』!」


識音が別の呪文を唱えた。僕達は先ほどから魔法の応酬を繰り返している。といっても僕は特に反撃はせずに識音の攻撃魔法に対処しているだけだ。


白い猫が10匹ほど識音の頭上に現れた。識音の魔法は地球の動物絡みのものが多い。名前も僕とは違って工夫しているようだ。そういえば、識音は昔からノートに色々と書き溜めて一人でニヤニヤと悦に入っている事があったっけ。


猫たちは形を変えながら、四方八方から僕を取り囲むように飛びかかってきた。どうやら、矢の形になったようだ。色々と考えるなあ。目にもとまらないスピードで、躱す事は難しいだろう。


「よし、『熱壊』」


【高速思考】によって素早くイメージを固めつつ詠唱する。この組み合わせは我ながら反則だろう。でも、識音も同じく【高速思考】を持っているから、呪文を次々と放ってくる。


ゴォッという音と共に10個の炎の塊が落ちてきて、猫の矢にぶつかっていく。打ち落とされた矢は猫に姿を変えて、光を撒き散らして消えていった。


「もう! 全然通じないよぉ! うう、こうなったら……『天落白馬(スカイ・フォール)』!」


僕の【魔力察知】が大きな魔力を感知する。識音の体内魔力のほとんどが集められていく。かなり規模の大きな魔法だ。まともに食らえば危ないかもしれない。


僕達の頭上から光が射し込むように、幾筋もの光が落ちてくる。光自体は無害なようだけど……? 光が収束して1つの大きな光の柱が生み出された。そして、カッという音と共に、大きな白馬が柱の中を落ちてくる。


危ない。


一目見てその危険性を理解する。恐らくあの白馬が地面に降り立つと、周辺を巻き込んだ衝撃が生み出されるだろう。


このままでは見学しているディーナ達が巻き込まれるかもしれない。


僕は躊躇なく【魔法反射】を発動させた。激突寸前だった白馬が向きを変えて天に昇っていく。キラキラと光の粉を振りまきながら天を翔る姿は絵画のようだ。


「あれっ! お馬さん! どこいくのーっ!?」


昏倒寸前まで魔力を使った識音はへたり込んだまま、間抜けな声を出した。僕は彼女の様子を見て苦笑しながら、近づいていく。


「識音。今のはちょっと危なかったよ。あのままじゃディーナ達も巻き込んでたかもしれない。」


「えっ……ほんと? ご、ごめんなさい。」


「うん。魔力の込めすぎには気を付けてね。って、さっき失敗した僕が言う事じゃないかもしれないけど。あはは。」


サッと青くなった識音をフォローしつつ、僕達はディーナとエルサの元へと戻っていった。ディーナとエルサは僕達の魔法を口を開けてみていたようだ。口元に少し涎がついている。


そういえば、訓練中の僕達を覗いている気配があったけど、いつの間にか消えていた。特に何かしてくるわけじゃなかったから放っておいたけど、どうせまた貴族か何かだろう。懲りないなあ。



それにしても、三人が三人とも、たった一日で強くなりすぎだ。


まるで匠の技のような劇的なビフォーアフターに内心で驚きが抑えられなかったが、これだけ強くなれば自分の身を守る事ぐらいは出来るだろう。冒険者として一緒に活動する事も出来そうだ。


僕達は互いに労いながら、屋敷の中に戻って風呂に入る事にした。一日中訓練していたから汗でビッショリだ。


昨日と同じく女性達3人で先に入るものと思い、僕はリビングに入ろうとすると、そんな僕の腕を3人の手が掴み、ぐいぐいと風呂場に連行されてしまった。


なんということでしょう。


読んで頂きありがとうございます!

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