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馬車の上で:表

あまりの惨状に目を覆いたくなる。


ゴブリン達だったもの(・・・・・)が辺りに散らばり、僕の全身は返り血で真っ赤になっているだろう。



僕が、殺した。



虫よりも大きな生命を奪った事などなかった僕は、その濃厚な死の気配に今更ながら震えだし、手に残る感触に吐き気を覚える。


持っていた剣を取り落とし、地面に跪いて胃の内容物を吐き出す。血と吐瀉物とが混ざり合い、その臭いに吐き気が増幅される。


そして、不意に目から涙がこぼれた。


嗚咽をこらえられない。



なんてことはない。


僕は、覚悟なんて出来てなかったのだ。


——あれほど誓ったのに。


——あれほど悔やんだのに。



誰かを護るために、誰かを傷つけるなら。その時、僕は——





ひとしきり泣いた後、いつの間にか御者席から降りてきていた中年の男がおずおずと話しかけてきた。


「あのー、大丈夫ですか?」


「うっ……ううっ……」


僕は、涙を袖でゴシゴシとぬぐい、中年の男の顔を見る。


「……すみません。そちらこそ、お怪我はありませんか?」


「え? ……はっ、はい。……ゴホン。失礼しました。私は商人をしているミケーレと申します。助けて頂きありがとうございました。」


ミケーレと名乗った男は、僕に対して深々とお辞儀する。


「こちらこそすみません。取り乱してしまって……。僕は、ユーゴ=ニキと申します。」


「はあ……あの……」


ミケーレの伺うような表情に、僕は視線を切って少し考える。


(商人という事は、街に向かっているはずだ。ここがどこかも分からない状況だし、話を聞くだけでも……)


そこまで考えたところで、ミケーレは思い切った様子で声を出す。


「あのっ……もし、よろしければ、王都まで馬車に同行して頂けないでしょうか……?」


「え?」


「あっ、すみません。もちろん、護衛代はお支払いします。」


「いえ、護衛代なんて要らないんですが、王都というと、どちらの王都ですか?」


「え? ビアンコ王国の王都ですが……?」


ビアンコ王国。僕はソフィア様から聞いた、この世界の大陸図を思い浮かべる。


ドーナツを四分割したような、4つの大陸。その内、0時〜3時方向にある【プリマベラ大陸】の2つの大国。ビアンコ王国とアマラント帝国。


ソフィア様は、住みやすい国の1つとしてビアンコ王国を挙げていたな。


「そうですか……。でも、僕なんかが護衛で大丈夫なんでしょうか?」


それを聞いたミケーレは、ぶんぶんとかぶりを振って答える。


「とんでもない! お一人でゴブリン5体を倒す腕前のユーゴさんなら、安心できます!」


「わかりました。僕もわけあって王都を目指しています。ぜひ同行させてください。」


「ありがとうございます!!」


こうして僕はミケーレさんの馬車に同乗させてもらう事になった。




そういえば、全身が血にまみれた僕が馬車に乗って大丈夫なんだろうか。


そう思いながら、自分の身体を見ていると、ミケーレが話しかけてきた。


「ユーゴさん、もしよろしければ私が洗浄の魔法を使いますが……」


「ミケーレさんは魔法をお使いになれるんですか?」


「ええ。といっても、初級魔法のほんの一部だけですけどね。旅には便利なものですから。」


「では、お願いできますか?」


ミケーレは快く了承し、目を瞑って意識を集中し、発現のキーワードとなる魔法名を唱えた。


「『ウォッシュ』」


すると、僕の全身が淡い光に包まれ、返り血が徐々に透明になり、最後には洗い立てのように綺麗なシャツとズボンが残った。


この世界、『スタジオーネ』では魔法はそれなりにポピュラーなもので、3人に1人は使える程度だとソフィア様が言っていた。しかし、ほとんどの人は生活に役立つ程度のささやかな魔法が精一杯で、他人を攻撃できるような魔法には才能と訓練が必要だ。


ミケーレさんが使った魔法は、恐らく水属性の属性魔法だろう。


「ありがとうございます。……それと、この男性は……」


お礼を告げつつ、僕は地面に横たわる鎧を着た男の方を見る。


「残念ながら、そちらの方は既に……。冒険者カードは私の方で回収しておきました。」


「そう……ですか……。」



身近に死を感じた。


一歩間違えれば、僕もこうなっていたのだ。


トラックに轢かれた時は、すぐに意識がなくなったので、死んだという実感は薄かった。今、こうして他人の死を目の当たりにし、急速に実感が湧いてきた。ぶるりと身体を震わせる。


この世界では、命が軽い。


僕は名前も知らない男性に手を合わせて黙祷した。


「遺体も持ち帰りたかったのですが、あいにくと馬車は一杯でして……。」


そこで、僕ははたと思いつき、遺体に触れて【アイテムボックス】への収納を試みる。


遺体が消失し、無事に収納できたようだ。


「ふぁっ!? 遺体が……消えた!?」


「あっ、大丈夫です。僕が持っています。」


「はぁ……、何かの魔道具でしょうか?」


「まあ、そんなところです。」


スキルの説明を避けて言葉を濁した。ミケーレさんはそれ以上深く追求する事はなく、辺りを見回す。


「ユーゴさん、ゴブリンの討伐報酬はよろしいんですか?」


「討伐報酬?」


「ああ、ユーゴさんは冒険者の方ではなかったのですね。腕が立つので私はてっきり……。ゴブリンの討伐証明部位がどこなのかは存じ上げませんが、身体の一部を冒険者ギルドに持って行く事で討伐報酬がもらえると聞いています。」


「なるほど……。」


僕は、念のためゴブリンの死体を持って行く事にした。吐き気を抑えながら【アイテムボックス】に収納していく。辺りには濃厚な血の臭いだけが残った。


「それでは、参りましょうか。」




馬車の御者席に二人で腰掛け、街道を進んでいく。


馬の蹄音がリズムを刻み、心地よい風が顔に吹き掛かる。


僕は、そういえば、と思い出し自分のステータスを確認した。


==================


ユーゴ=ニキ

15歳・男性・ヒューマン


Lv2

HP :190/190(+10)

MP :4270/4270(+4020)

STR:50(+5)

VIT:65(+5)

INT:75(+10)

DEX:60(+10)


*スキル

【アイテムボックスLv5】

【鑑定Lv5】

【身体強化Lv1】(Lv5→Lv1)

【軽身Lv1】(新)

【剣技Lv5】(新)

【自然回復Lv5】(新)

【魔力操作Lv3】(新)


※カッコ内は前回からの変更点


==================


レベルが上がっている。ステータスも増えているようだ。というか、MP増えすぎでは……?


さらに見覚えのないスキルが増えているし、身体強化のレベルがなぜか下がっている。


スキルのレベルが下がるなんて現象、説明を受けていない。何が原因なのかわからず、首をひねる。


増えたスキルは、4つ。【軽身】【剣技】【自然回復】【魔力操作】だ。内2つは、いきなりLv5からなのか……。


名前から何となく察しがつくものの、スキルの詳しい説明が知りたい。そう思ったら、【鑑定】の半透明ウィンドウが現れ、スキルの詳細を教えてくれた。


==================


【軽身】 常時発動スキル

身体を軽量化し、足場を使った精密な空中制動を可能とする。

Lv1…瞬間的な軽量化により、ジャンプをサポートする。


【剣技】 常時発動スキル

片手剣技、及び両手剣技の複合スキル。剣を自在に操る事を可能とする。

Lv5…極致の剣豪となり、相手の剣筋すらも自在に操る。


【自然回復】 常時発動スキル

身体の治癒力を高める。自然回復するものであれば傷病問わず作用する。

Lv5…重傷でも数秒で全回復する。部分欠損も欠損部位に触れる事で修復できる。


【魔力操作】 常時発動スキル

体内の魔力を自在に操る事を可能とする。

Lv3…非常に大きい魔力でも無理なく操れるようになる。


==================


僕は頭を抱えた。いつの間にか化け物になっていたようだ。ため息をつく。



「ユーゴさんは、どちらからいらっしゃったんですか?」


ミケーレさんが、そんな僕の様子には気づかずに尋ねてくる。


「えっと……」


どう答えるべきか。正直に話しても信じてもらえないかもしれない。僕だって、日本の道ばたで出会った人に「私は異世界から来ました」とか言われても、信じない自信がある。


散々迷って、誤魔化すことに決めた。嘘をつくのは心が痛いけど。


「実は、僕には記憶がないんです。」


「え?」


「気が付いたら森の中で倒れていて、それ以前、どこにいたのか、何をしていたのか、覚えていないんです。ミケーレさんの悲鳴が聞こえたので、駆けつけたんですが……」


「……そう、なんですか。」


ミケーレさんは半信半疑というところだ。しかし、何かを察したように納得し、僕の嘘に乗ってくれるようだ。


「それは大変でしたね。王都までは数時間の距離なので、王都に行けば何かわかるかも知れませんね。」


「はい、ありがとうございます。」




その後、王都に着くまでミケーレさんに様々な一般常識を教えてもらった。ミケーレさんは嫌がる素振りひとつ見せずに、答えてくれた。


ソフィア様に聞きそびれた事がいくつか判明する。


・暦は地球の一般的な太陽暦である『グレゴリオ歴』と全く同じ。1年12ヶ月365日、1週間7日。曜日は日本のものと、なぜか同じだった。


・時制も地球と同じく、1日24時間、1時間60分だった。魔道具として精密な時計も存在するようだ。


・重さや長さといった単位までグラム、メートルで統一されていた。


太陽暦の話を聞いて、空を見上げる。しかし、そこには地球ではお馴染みだった太陽は存在しなかった。ミケーレさんにそれとなく尋ねてみるが、太陽も月も存在しないようだ。一体、どうやって地球と同じ暦が生まれたのだろうか……。


通貨は、昔は国ごとにバラバラだったが、商人ギルドが発行する統一通貨に駆逐され、今ではどの国でも使える統一通貨が流通しているそうだ。通貨量は商人ギルドと各国代表の集まる会議でコントロールされているらしい。


通貨単位は『エル』。鉄貨が1エルで、銅貨が10エル。銀貨、金貨、白金貨と10倍ずつ増えていく。パンが1つ10エルぐらいらしいので、日本の物価で考えると1エル=10円ぐらいだろうか。もちろん物価は全然違うんだろうけど。



出発時には青かった空が少しずつ赤みを帯びていく頃、僕達は王都に到着した。


読んで頂きありがとうございます!

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