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焦燥:表・前編

反省しよう。ディーナを怖がらせてしまったようだ。


僕の中の彼が暴れ回った結果、抑えがきかなくなっていた。屋敷に帰ってディーナの腕を男が掴んでいるのを見た瞬間、僕はキレた(・・・)


ディーナを掴んでいた腕を魔鋼の剣で切り飛ばした。何のためらいもなく。さらに騒ぎ出した男達を惨殺した。一人は胸を突き刺した。もう一人は頭を蹴った。


あれほど手を血に染める事を嫌がっていたのに、そこには何の抵抗もなかった。僕の中で何かが失われていた。悪魔の僕が冒険者達を殺す場面を何度も見せられる内に、摩耗してしまった何か。人として大事だったはずの何か。


今はもう、ディーナを護れたという安心感しかない。次の瞬間には男達のことなど忘れていた。ディーナに抱きしめられ、自分を取り戻した後にようやく思い出したのだ。後片付けが面倒だな、という感想を最初に抱いた。


そうか。僕は壊れているのか。


しかし、そんな自分をどこか冷めた目で見ている自分もいるのだ。結局、やっている事は悪魔の僕と何ら変わりが無い。僕の本性はやっぱり悪魔だった。『魔王』と呼ばれるのがお似合いなのだ。



目の前にいるディーナは、今の僕の事をどう思っているのだろうか。


僕が彼女を護ると言ったら、彼女は抵抗する素振りを見せた。


恐らく、僕の様子がおかしかったからだと思う。そう、思いたい。



彼女に拒絶されたら、僕は。




しばらくディーナと抱きしめ合っていたが、腰を抜かしていた執事服の男がこっそりと座ったまま後ずさりして、逃げようとしているのを感知していた。


「なあ」


僕が声を掛けると男はあからさまにビクリと身を震わせる。


「逃げるつもり?」


男は真っ青な顔でぶんぶんとかぶりを振った。


僕は男へと近づいてしゃがみ込む。白髪で眼鏡を掛けている。男の目をじっとのぞき込むと、ガクガクと震えている。股間からじわりと液体が漏れ出している。


「エルサは、どこ?」


端的に尋ねた。無駄な言葉は必要ないだろう。男はエルサの居場所を知っているはずだ。そうでなくては、ここには現れない。


「そ……それは……」


しかし男は言葉を濁した。


この期に及んで誤魔化すつもりなのか。


かっとなった僕は男の右足を左手で掴む。ギチギチと音がする。


「ああああ!!」


男が悲鳴をあげた。顔を苦痛で歪ませている。


「ねえ、どこ?」


しかし僕は容赦なく質問を重ねる。


「わ、わかった! 言う! 言うから!! 外だ! 王都の外の! 西にある森の中! 泉の側に立つ屋敷だ!」


「本当かな?」


僕の質問に、男は涙を流しながらぶんぶんと頭を縦に振る。


「もし嘘だったら……」


足を離した左手を、今度は男の顔に近づけていく。


「本当だ!! 頼む!! 信じてくれ!!」


嘘はついてなさそうだ。信じていいだろう。王都の外とは、さすがに盲点だった。道理で見つからないはずだ。確かに門番の目をかいくぐるのは容易だろう。王都の門は入る者には厳しいが、出る者のチェックは甘い。


男の首に手刀を入れて気絶させ、縄で縛り上げた上で、とある細工をする。殺しはしない。警備隊への説明に使うからだ。他の男達の死体はアイテムボックスへと収納しておいた。またアイテムボックス内から消えてしまうかもしれないが、その時はその時だ。


ディーナは僕の作業を黙って見ていた。顔が少し青くなっている。以前の僕なら考えられなかった行動だろう。相手を痛めつけて情報を得た。ディーナには申し訳ないけど、今はエルサを助けるために最速の手順を踏むことで頭が一杯だった。


(アルテア。)


(どうした、マスター?)


王都の上空を飛んでいるアルテアに念話で話しかけると、すぐに返事があった。


(王都の西にある森、泉の側に屋敷があるはずだから、探しておいてほしい。)


(わかったぜ!)


僕の足で探すよりも空から探せるアルテアの方が早いだろう。アルテアの視界が大きく方向転換して王都の西に向かった。アルテアがいてくれて良かったと思う。


立ち上がってディーナの方へと向き直る。


「ディーナ。エルサを助けにいってくるよ。」


「……はい。気を付けてくださいね。」


ディーナは不安そうに僕を見上げた。僕はにこりと微笑んで彼女の頭を撫でる。ディーナを安心させるために。大丈夫だ。エルサはきっと大丈夫。そして、僕はまだまともだ。自分にそう言い聞かせた。




ディーナから身を離して屋敷を出ようとした間際、またしても僕の前に立ちふさがる二人がいた。今度はグローリアだけではない。その隣には警備隊長のジョットさんもいた。銀髪と金髪のコンビは珍しい。


緊張の面持ちでやってくるグローリアと、何が何だかわからないといった表情のジョットさん。さらに後ろから数人の警備兵が追いついてきた。僕は嘆息しながら二人と対峙した。


「またあなたですか。今度はジョットさんまで。……すみませんが、今は説明している暇がないんです。後にして下さい。」


そっけない僕の言葉に、なぜだかグローリアは少し安堵したようだ。


「ふぅ……。ニキ殿、どうしたのだ。先ほどの貴殿の様子は、異常としか……」


僕の様子が異常? エルサの事を聞いて焦っていたのかもしれない。僕の中の彼が暴れていたから。しかし、その事を今掘り下げている時間はない。


「エルサの命が危ないかもしれないんです。」


それを聞いて、グローリアとジョットさんは目を見開いた。血相を変えたジョットさんが僕に尋ねる。


「……ユーゴ。それは一体どういう……いや、説明してる暇はないんだったな。わかった。俺もついていくぞ。」


「それは……」


正直いって、足手まといだ。そう言いかけたが、それを察したジョットさんによって遮られる。


「なに、足手まといにはならんさ。表に馬も止めてある。」


「警備隊長殿。私も行こう。」


グローリアまでついてくる気らしい。僕はため息をついた。


「……お好きにどうぞ。」


警備兵達はジョットさんの指示でディーナと執事服の男から事情を聞くために残された。ディーナをまた一人にするよりは安心だ。念のため注意点を伝えておくと、驚いた顔をしていた。


早歩きで歩き出すと、二人とも後ろからついてきた。


面倒なことになったな。




王都を出て西の森へと向かっている。王都を出る際はジョットさんが同伴しているお陰で、夜間なのに特に何も言われる事なく通過できた。多少はついてきてもらった甲斐があったかもしれない。


僕は視界がなくても【空間把握】のお陰で歩く事ができるが、二人はそうはいかない。ジョットさんが乗っている馬にランプをつけて草原を進んでいく。ランプの光源が辺りをぼんやりと照らしているのが幻想的だった。


僕は小走り程度の速度で移動している。それでも、馬と併走できる程度のスピードは出すことができた。ジョットさんが何か変な物を見るような目でこちらを見たが、気にしないでおこう。グローリアもジョットさんとは別の馬に乗っている。


「エルサというと……あの白髪の女の子か。しかし、一体どうしてまた、そいつらは彼女をさらったんだ?」


ジョットさんが道中、僕に事情を尋ねてきた。


事情は大体察している。恐らく、前にアルテア経由で教えてもらった襲撃犯の黒幕が絡んでいるのだろう。あの時に『対処』しておけば、こんな事にはならなかったのかもしれない。後悔の二文字が僕を苛む。そういえば、今回はミネルバからの『神託』はないが、どうしたんだろう? やっと『自重』を覚えたのだろうか。


しかし事情がわかっているとはいえ、それを僕の口から喋るのははばかられる。なぜ知っていると聞かれたら答えられない。僕はとぼけることにした。


「さあ……しかし、この前に僕の屋敷を襲った連中ではないでしょうか。僕に何の恨みがあるのかは知りませんが。」


僕が澄まし顔で答えると、ジョットさんは一応納得したようにうなずいた。グローリアは先ほどから僕の左手を気にしているのか、チラチラと見てくる。


「グローリア様。僕の手がどうかしましたか?」


すると気まずそうに目をそらすグローリア。


「っ!! ……い、いや……先ほどのニキ殿の手……あれは一体なんだったのかと思ってな……」


「ユーゴの手が?」


グローリアのつぶやくような返答に、ジョットさんが反応した。僕の手が真っ赤になっていた件だろうか。今の僕の手は至って普通の色形だ。


「う、うむ……ニキ殿の手がな……その……まるであれは……」


と、そこで使い魔のアルテアの視界が泉の側にある小さな屋敷を捉えた。古めかしく、誰も住んでいなさそうな見た目だ。しかもこんな森の中に建っている事が、その屋敷の不気味さを際立たせた。


(アルテア、それだと思う。)


(マスター! どうする?)


(うん、中の様子を探ってくれる?)


(任せろ!)


アルテアの力強い返答の後、視界は急降下して屋敷へと向かう。屋敷の窓は木の板で塞がれていて、中を伺う事はできない。どうするのかと思って見ていたら、アルテアは屋敷の影に潜り込むと、次の瞬間には屋敷の中へと移動していた。影がつながっていれば移動できるようだ。便利な能力だと感心した。


「僕の使い魔が屋敷を見つけました。今、中を探らせています。」


僕の言葉に驚いた顔をする二人。


「そ、そんな事が、ここからわかるのか?」


「ええ。使い魔の目を通して確認できます。」


僕が答えると、ジョットさんは手で顔を覆った。グローリアはまだ驚いているようだ。隣にいるジョットさんに小声で使い魔の事を尋ねているのが聞こえてくる。


アルテアは闇に紛れて屋敷の中を探索していく。窓が塞がれているため、一片の光も差し込まず視界は闇に閉ざされているはずだ。しかし、アルテアの能力によって暗視スコープのように闇の中をくっきりと見通す事ができる。


小さい屋敷なので、部屋の数はそんなに多くない。影から影を渡りながら部屋の中を確認していくと、2階の奧にある部屋に小さな人影があった。目隠しをされ、縄で手足を縛られた状態でベッドに横たわっている。その髪の色は、白。



エルサだ。



その姿をアルテアの目を通じて、視界に入れた途端。


頭の中がまた赤くなりはじめた。



自然と足が速くなっていく。小走りだったのが、土煙が舞うほどの速度に。


「ユ、ユーゴ! 待て! 速い!」


ジョットさんの声と、馬の蹄の音が後から追いかけてくる。


「ジョットさん、すみません。屋敷の中にエルサを見つけたので、少し急ぎます。この先にある泉の側にある屋敷です。」


そう声を掛けると、更にスピードを上げていく。Lv3だった【身体強化】は、いつの間にかLv4になっていた。全身をバネのようにして、森の中へと入っていく。木を蹴り、枝を伝って、最短距離で屋敷へと向かう。


(マスター、どうする?)


(そのままエルサを見ていて。すぐそちらに着くよ。)


かろうじて、アルテアの念話には答えられた。


読んで頂きありがとうございます!

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