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馬車テンプレ:裏

前話に引き続き、流血表現があります。苦手な方はご注意ください。

勇悟が街道に向かって歩いていくのを、私は【遠見の鏡】から眺めている。


色々と想定外はあったが、概ね順調だと言える。そう、順調なのよ。


「それにしても……ちょっと慎重すぎるわ。」


「当たり前です。見知らぬ世界に見知らぬ場所。辺りには魔物。死んだばかりで、慎重になるなという方がおかしいのです。」


不満を口にした私に対して、肩の上のソフィアが呆れた声を出す。


足下を見て前を見てノロノロと歩き、動物が逃げていく音にいちいちピタリと立ち止まる。


いい加減にイライラが溜まってきた私は、画期的な打開策を思いつく。


「そうだわ! ここは『てんぷれ』の出番ね!」


思い立ったが吉日と、街道に鏡の視界を向ける。あつらえたように幌馬車が通りかかった。御者席に中年の男と、鎧を着た男が腰掛けている。


「しめたわ!」


私は、森の中にいたゴブリンの群れを、馬車の正面に転移させる。突然現れたゴブリン達に、馬は嘶きをあげて立ち止まる。


驚くゴブリン達と、驚く男達。その様子が面白くて私はくすくすと声を立てて笑った。


「ミネルバ様!? なんという事を!」


ソフィアが素っ頓狂な声をあげる。いいじゃない、面白いんだから。


思った通り、ゴブリン達は深く考えずに、目の前の馬車を手頃な獲物だと認めたらしい。馬車の方も御者席に座っていた鎧の男が立ち上がり、飛び降りる。


ゴブリン達と男が対峙する。


ゴブリン達が男に一斉に飛びかかる。男は反撃しようとするも、多勢に無勢。死角から脇腹を槍で突かれ、悲鳴を上げて膝をつく。そして、背中に剣が突き立てられ、男は崩れ落ちた。


それも私の想定内。鎧の男のステータスは見ておいたからね。彼には悪いけど、神からすれば人間の一人や二人、どうって事はない。主人公を除いて、ね。


そして、ゴブリン達は馬車の方に向かっていく。


そこで、私の主人公こと勇悟がゴブリン達の背後に現れた。




「様子が……おかしいですね。」


ソフィアがぽつりと漏らす。


現れた勇悟は顔面蒼白で、足取りもふらふらと怪しい。怯えたような表情を浮かべている。確かに初めての魔物だろうけど、所詮はゴブリン。そこまで怖がる事ないのになぁ。


ゴブリンの一匹が勇悟に襲いかかる。


途端、勇悟はギアが入ったかのように動きに精彩が顕れる。ゴブリンの剣を避け、腕をつかみ取った。



——瞬間、破裂音。ゴブリンの腕が爆ぜた(・・・)



「え?」「は?」


私とソフィアは間抜けな声を出す。


ソフィアは油の切れたからくり人形のように、ギギギと私の顔を振り返る。


「ミネルバ様……? 【身体強化】のレベルは下げましたよね?」


「ええ……。間違いなく下げたわ。今はLv1よ。」


「しかし……。あれ(・・)は異常です。Lv1では1.5倍が精々のはずですが……。」


「そう言われても……。確かに今もLv1のままよ。」


勇悟の所持スキルを確認するも、そこには【身体強化Lv1】の文字があった。


「ホッホウ……。どういう事なのでしょう……。」


首を傾げるソフィアを横目に、勇悟の戦いを見守る。




勇悟はゴブリンが落とした剣で戦うようだ。構えは様になっており、一朝一夕の腕前でない事がうかがえる。


「あら、勇悟君には剣の心得があったのね。」


「そのようですね。現代の地球で剣となると、剣道でしょうか。」


槍を持ったゴブリンが突きを繰り出す。勇悟は剣で受け流そうとしたが失敗し、腹部に刺突を受けてしまった。


「どういう事!? あの程度、勇悟君のステータスなら造作もなく受け流せるはずよ!」


そのまま、他のゴブリン達に囲まれ、防戦一方になっている。


「どうも、剣を上手く扱えてないように見えますが」


「あの構えはマグレだったのかしら……? でも、そんなはずは……。」


ぶつぶつとつぶやきながら観戦しているが、数の暴力により反撃もままならず、死角からの攻撃に次第に押され始めている。


「あーもう!! こうなったら!」


私は決心して、神様パワーを行使する。


勇悟に【剣技Lv5】を付与した。


途端、今までの動きが嘘だったかのように、剣筋が鋭く、早くなり、ゴブリン達を軽々と屠っていく。


まるで踊るような武技に魅了され、しばらくボーッと眺めていたが、勇悟が腹部に傷を負っている事を思い出す。


「あのままだと破傷風にでもなりかねないわ。VITが高いから大丈夫だとは思うけど、念のためよ!」


さらに、勇悟に【自然回復Lv5】を付与。


みるみる間に傷がふさがり、HPも回復しているようだ。さすがLv5ね!




戦闘が落ち着き、そういえばうるさい声が聞こえないな、と思って肩に乗ったソフィアに目を向ける。


ソフィアはなんだかプルプルしている。


私はそーっと目を逸らし、「さーて、お茶でも飲もうかしら」と立ち上がろうとした。


「ミネルバ様!!」


「は、はいぃ!」


耳元で大きい声を出され、私は思わず気の抜けた返事をしてしまう。


「またしても、なんという事を!! 【剣技Lv5】!? 【自然回復Lv5】!? どれもこれもLv5Lv5って馬鹿の一つ覚えもいい加減にしてください!! 剣技のマスター級なんて歴史上2人しか存在しないんですよ!? それに、あんな自然回復、もはや人間を超越した生物じゃないですか!!」


「は、はい、ごめんなさい……」


ソフィアの恐ろしい剣幕に、私はシュンと落ち込む。


「そもそも! さっきのゴブリン達の転移は何なんですか! あんな事、許されると思ってるんですか! ミネルバ様の遊び(・・)で死んだ男が不憫でなりませんよ!!」


「えー……、別にいいじゃない、人間の一人や二人、減るもんじゃなし」


「減るんですよ!!」


翼をバサバサとしながらソフィアが大声を張り上げる。


「いいですか、今度という今度は言わせて頂きますが、ミネルバ様には神様としての自覚が薄すぎます。そもそも——」


説教モードに突入したソフィアはもはやユーピテル様でも止められない。私は大人しく正座して拝聴した。




そういえば、今回あげたスキルのレベル下げてないけど……、まあ、いいわよね。


読んで頂きありがとうございました!

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