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使い魔:裏

さらに神間会議は続き、議題は勇悟への補償内容へと移った。


「処分保留になったとはいえ、彼に力を与えるのは危険だろう」


「かといってアーティファクトなどを授けるわけにもいかんな」


神々は勇悟への補償をどうするか頭を悩ませていた。


神が人個人へ何か与える場合、それは才能だったり、加護だったり、スキルのような特殊能力だったりと力を与える場合と、神が作り出した道具や、神々の叡智が記された書籍、魔剣や鎧のような武具などのアーティファクトを与える場合がほとんどだ。


しかし、勇悟の場合は事情が違う。彼が半人半魔神として神々に警戒されている以上、力を与えるのを躊躇う神が多いのは仕方ない。


「うーむ、困ったな。あと考えられるのは人の間で使われる通貨や、神界で作られた食料などだろうが……」


「通貨は流通量が増えてしまい、人界に影響を及ぼす可能性がありますね……。食料なども、人界にない植物や動物を渡すのはまずいでしょう。」


全知全能とまで言われる神々が揃いも揃って良い案の一つも出てこない。私も考えてはいるが、思いつくのは戦闘に役に立たなそうなスキルをあげる事ぐらい。ソフィアにこっそり相談してみたら怒られた。


どうしたものか、と皆で唸っているとユーピテル様が口を開いた。


「ふむ、仕方ないね。」


神々がユーピテル様を見る。彼はふっと笑いながら、パンパンと手を叩く。


「はーい! お呼びですか! ユーピテル様!」


ユーピテル様の影の中から飛び出してくる黒い影。バサバサと羽ばたいて、彼の肩へと降り立つ。黒い翼、金色の眼。この鳥は黒鷲のアルテア。ユーピテル様の助手として働いている鳥だ。


「って、ここは! 神の会議場!」


アルテアは周囲の視線に気づいてうろたえている。ユーピテル様がアルテアの翼をふわりと撫でる。


「アルテア、君に頼みがあるんだが。」


「っ!! は、はい! 何でもお任せ下さい!!」


ぶるりと嬉しそうに身を震わせるアルテア。そしてユーピテル様はにこやかな顔を崩さずにゆっくりと口を開く。


「君に、仁木勇悟君の使い魔になってもらいたい。」


それを聞いた神々はガタッと音を立てる。


「ユ、ユーピテル様! それは! 人間に神の使いを与えるなど!」


「しかし彼に与えるべきものは他にないのだろう?」


「で、ですが! もし悪用などされでもすれば……」


「それについては大丈夫さ。彼は私の助手でもある。私の言う事は絶対に聞いてくれる。仁木勇悟よりも私に従うから、何も問題はない。」


神々は口をつぐんでしまう。確かにアルテアが勇悟君と使い魔の契約を結んだとしても、ユーピテル様に逆らうわけがない。悪用などしようがない。名案といえば名案であった。


「しかし、人界に影響が……」


神の助手は当然それに見合った力を与えられている。神の代行者として地上に降り立つこともあるため、一部の能力は神に迫るものもある。無遠慮に振るえば人界に影響を与えかねない。


「大丈夫。アルテアはこう見えて結構しっかりしているからね。やっていい事と悪い事の区別ぐらいちゃんとつく。」


ユーピテル様がアルテアに微笑みかける。当のアルテアは固まってしまっている。どうやら何も聞いていなかったらしい。


「……は! あ、あの……ユーピテル様! オレは、オレは……もう捨てられるって事ですか!?」


「違うよ。何を聞いていたんだ。君には仁木勇悟君の力になってもらいたいだけだよ。ただし、あくまでも人界に混乱を招かない程度にね。」


アルテアはユーピテル様の答えに胸を翼で器用になで下ろし、その命令に首を傾げた。


「仁木、勇悟……あの、その方は一体……?」


「ふふ、人間だよ。しかし、魔神でもあるみたいだがね。」


「ま、魔神!?」


ガクガクブルブルと震え出すアルテア。善神と魔神の戦いは有名だ。魔神の恐怖は神話として伝わっている。


「ま、それはともかくとして、君は彼の使い魔となって働いてもらおう。なに、彼は優しい人間だ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」


「は、はあ……わかりました。不肖アルテア、粉骨砕身、ユーピテル様の命に従い仁木勇悟なる人間の力になってみせます!!」


「うん、頼む。」


そしてユーピテル様は周囲の神々を見回した。


「さて、こんなところでどうかな?」


誰も異議をあげる神はいなかった。




『スタジオーネ』に降り立ったアルテアは、無事に勇悟君と合流したようだ。


勇悟君とのやりとりが漫才のようで面白かったが、途中、勇悟君がアルテアに向けて放った殺気が洒落になってなかった。勇悟の背後にいたディーナ達も怯えていた。いつの間に、あんな怖い顔が出来るようになったんだろう。


勇悟君はアルテアに『勇者』とやらの存在について調べるよう命令した。


それを聞いて私は首を捻る。『勇者』の正体を調べてどうするのだろう。彼はもう自首を諦めたはずだが、真相を暴こうとしているのだろうか。


宿を飛び出したアルテアは黒い翼で空を駆けていく。闇に紛れてしまって人の目には全く捉えられないだろう。今は音も消して飛んでいるため、鋭い聴覚を持つ人間でも気づかない。【気配察知】や【魔力察知】でも、名人級のLv4以上でない限り捉えるのは難しい。アルテアは【隠密Lv4】を持っているからだ。


王城にたどりついたアルテアは、窓の外から中の様子を確認している。


鳥の目といえば夜に視力が落ちる夜盲症の事だが、アルテアの目は闇でも見通す視力を持っている。それどころか、10km先の物でも見る事ができる。視覚だけではなく聴覚や嗅覚など、五感が優れているアルテアの斥候能力と情報収集能力は確かだ。


「ちっ、どこだよー 勇者とかいうやつは」


アルテアは呟きながら確認している。【隠密】によって音が漏れないようになっているため、実際に声が聞こえているわけではない。


「お、あいつかな?」


どうやらアルテアが勇者を見つけたようだ。窓の1つから中の様子を伺っている。その部屋には青い服を着て葡萄酒の杯を傾けている男がいる。テーブルの向かい側には、金髪ロールヘアーの少女がピンク色のドレスを着て座っている。


「勇者様! もう一度、魔王を倒した時のお話を聞かせてくださいませ!」


少女がわくわく顔で男に懇願している。男は葡萄酒を呷ると、ニッコリと笑ってうなずいた。


「いいですよ、殿下。」


「もうっ。殿下はやめてくださいまし。カテリーナとお呼び下さいませ。」


「ははは、かしこまりました。カテリーナ様。」


勇者と呼ばれた男はキラキラと爽やかな雰囲気を醸し出す笑顔で、カテリーナと呼ばれた少女に笑いかけた。男の笑顔に少女は頬をほのかに赤らめている。


「そうですね……私が魔王城へと向かったのは神からの啓示があって——」


そして、男の口から語られるのは詩人が歌うような勇者の英雄譚。神から『魔王を倒す勇者』として啓示を受けた男は、自分の溢れ出る才能に気づき、旅に出る。ドラゴンや巨人を退けて、たどり着いた魔王城で魔王と対峙した男は、魔王と死闘を繰り広げ、最後には聖剣の力を借りて魔王を打倒する。


「す、すごいですわ、勇者様ぁ……」


カテリーナは男の話にいちいちオーバーリアクションで驚き、しまいにはうっとりとした表情で男の話を聞いていた。


「はあ? 何いってんだあいつ……」


呆れ顔のアルテアは、そのまま男の話に耳を傾ける。


「それで、私が——おっと、失礼。」


そこで男が何かに気づいたように立ち上がる。


「勇者様、どちらへいらっしゃるんですの?」


「カテリーナ様。すぐに戻って参ります。ちょっと野暮用を思い出しまして。」


「そうなんですの? わかりました、早く帰っていらしてね。」


勇者は中座して部屋の外へ出て行った。アルテアは【隠密】と影に潜る力で男の後を気づかれないように追っていく。小便かなんかだったら嫌だなあ、と小さくつぶやいたアルテア。


男はキョロキョロと辺りを伺いながら廊下を歩き、誰もいない事を確認してから懐から何かの金属の塊を取りだした。男が何か唱えると、金属が光り出す。すると、男が金属に話しかけた。


「オレだ。」


「おう。そちらは問題ないか?」


相手の声は金属から聞こえてくる。どうやら遠話用の魔道具のようだ。とはいっても携帯電話のような便利な代物ではなく、対となる魔道具との一対一の通話のみ可能なものだ。


「問題ない。明日が凱旋式だ。王との謁見もある。予定通り明日決行だ。」


「そうか。疑われてないだろうな?」


「ああ、問題ない。お姫様なんてオレに惚れちまってるようだぜ。」


「ふっ。ボロは出すなよ。危なくなったら【転移の石】を使えよ?」


「わかってるさ。じゃあ、そろそろ戻らないと怪しまれる。」


「では明日。——皇帝陛下のために。」


「皇帝陛下のために。」


金属からふっと光が消え、男はまた懐にしまいこんだ。そして、男はまた辺りを伺ってから来た道を戻っていく。


「おいおい……変な事になってるなあ。」


アルテアはポツリと呟いてから羽ばたき、引き続き男を追いかけた。




「なんなの、あの偽勇者!」


私はプンプンと怒りながら姫と語らう勇者の様子を見ていた。


「何か企んでいるようですね。」


ソフィアが肩の上で首を傾けている。


「皇帝とか言ってたわね。帝国の回し者って事かしら。調べておきましょう。」


「ミネルバ様……調べるのはいいですが、調べてどうするおつもりです?」


「そりゃあもちろん……勇悟君に伝えるのよ。」


すると、ソフィアはため息をついた。


「またお尻を叩かれたいんですか。干渉は禁止されているでしょうに。魔法は使えないのにどうやって伝えるんですか。」


「そ、それは……」


当然ながら意識体を呼び出したりする事もできない。彼と話す手段がないのだ。意地悪なフクロウの言う事は正しい。


「うう……」


私はうなだれながら、【遠見の鏡】に映されたアルテアの様子を見ていた。


「……それにしても、アルテアはさすがユーピテル様の助手ね。なんだかんだ言って仕事はきちんとこなすし。どこかのフクロウとは大違いだわ。」


仕返しとばかりに嫌味を言うと、ソフィアが掴んでいた肩に爪が食い込む。


「いたいいいたいいいたいー!」


「ミネルバ様……? あんな低劣でガキんちょなワシと比べないでください。」


「は、はい……」


ソフィアの落ち着いた声が恐ろしく感じる。私は思わず返事をしてしまった。


ソフィアとアルテアは犬猿の仲で、出会えばいつもお互いを罵り合っている。助手の会合でも喧嘩が絶えないらしい。いつも冷静なソフィアにしては、珍しい。


「そもそも、勇悟殿があのバカワシの報告を聞いても、動くかどうかはわからないでしょう。彼の事だから何かしらするかもしれませんが……。」


「そうね、なんたって主人公なんだから、あんな偽勇者なんてきっとこてんぱんよ。ケチョンケチョンよ。」


「はぁ……。相変わらずですね、ミネルバ様は。」


そうよ。私は私。いっぱい反省したけど、勇悟君に見守られているんだもの。女神らしく、がんばらなくっちゃね!


読んで頂きありがとうございました!

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