馬車テンプレ:表
今回、流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
大きな道に向かってとぼとぼと歩いていく。
森の中は木々の根っこがそこら中に這っていて、足下を見ながらでないと歩きづらい。かといって、前を見なければ木にぶつかってしまう。慎重に歩くと非常に時間が掛かる。
時折、少し遠くで木や草むらが揺れ、葉が擦れる音が聞こえる。その度に、僕は立ち止まって身を縮こまらせ息を殺す。何がいるかわかったものではない。魔物も存在していると聞いた。
しばらく歩くと、馬の嘶きが耳をついた。
顔を上げて、耳を澄ませる。
今度は男の悲鳴のような声が幽かに聞こえる。
僕は、声の聞こえる方向に走り出した。つまづく恐れがあるので、飛び跳ねながら進む。身体が軽い。というか、軽すぎる。ポーンポーンと一歩一歩のストロークが非常に長い。思いついて、木の幹を蹴ってみると三角跳びのように木と木を伝って進む事ができた。忍者かなにか?
視界が開け、先ほど上空から目にした大きな道に出た。急いで周囲を見る。
すると、そこには大きな幌馬車と、それを取り囲む緑色の異形のモノ達の姿があった。全部で5匹いるようだ。
鎧を着た男が一人、地面に倒れている。背中は赤く染まっている。
馬車の御者席の上に立っている、中年の男が声を上げた。
「助けてくれ!!」
◆
瞬間——。
僕の脳裏には、二年前の記憶が鮮明に蘇る。
——危ない!
——刃物を持っているぞ!
——誰か助けて!
そして、とある友人の顔がフラッシュバックする。
——ありがとう! ありがとう!!
——君は命の恩人だよ!!
思い出の中の友人の顔が歪む。
——ごめん……本当にすまない……
——でも、君をかばうと、今度は僕が……
友人の悲しそうな表情が印象的だった。
僕の胸は張り裂けそうになる。
同時に身体の震えが止まらなくなる。
◆
急に世界に色が着き、現実に引き戻される。
思考に沈んでいたのは、ほんの刹那の間だったらしい。状況は何も変わってなどいない。
僕は、震える身体を抑えつつ、馬車の方に歩を進める。
マモラナクチャ。
マモラナクチャ。
もう、見捨てたくはない。
もう、あきらめたくはない。
もう、二度と。
しかし、頭から元友人の悲痛な表情が離れない。
その度に、足が止まりそうになるのを、無理矢理動かした。今や、僕は僕の心を理解できない。ただ本能のように進むしかない。
そんな僕の姿に異形のモノ達の内の一匹が気が付いた。
「ぐぎゃっ! ぐぎゃっ!」
耳障りな声をあげると、他のモノ達もこちらを振り向く。
怯えたような表情を浮かべる僕を見て、嬉しそうに声を揃える。獲物がまた一人増えたぞ、とでも言いたげだ。
異形のモノ達は、緑色の肌を持ち、腰には布を巻き、手にはそれぞれサビの浮いた剣や槍を持っている。血がついていた。
僕は、一匹に向かって【鑑定】を発動させる。
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ゴブリン
5歳・男性・魔物:ゴブリン族
Lv3
HP :15/15
MP :3/3
STR:12
VIT:8
INT:3
DEX:9
*スキル
なし
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ステータスが見えた。ゴブリンという魔物らしい。ファンタジーではおなじみだ。
数値の上では、圧倒的に僕に利がある。そう頭では理解していても、震えが治まらない。
ゴブリンの内の一匹が僕に向かってきた。剣を振りかぶっている。
何も考えずとも、前世での経験が僕の身体を動かす。父親に仕込まれた剣道で培った動体視力と体さばきをフル稼働させる。同時に、厳しい父親の顔を思い出し、僕の胸にチクリと刺さる。
身体強化のおかげか、余裕をもって剣を躱すと、ゴブリンは隙だらけになった。
僕は、冷静にゴブリンの左腕を右手で思い切りつかむ。できれば殺さずに制圧したい。そんな僕の甘い考えをあざ笑うかのように、視界が真っ赤に染まった。
パン、という低い音と共に、ゴブリンの左腕は破裂した。
甲高い悲鳴を上げるゴブリン。
血しぶきがちぎれた左腕から溢れる。
カラン、という音を立てて剣は地面に落ちる。
僕も、他のゴブリン達も、中年の男も、その光景を呆然と見ている。
僕は、自分の右手を見ながら開け閉めする。
確かに、異常な身体能力だと思っていたが、ここまでとは——
ようやく他のゴブリン達が慌てて僕の方に一斉に向かってくる。僕は、急いで足下に落ちていた剣を拾い上げ、剣道の要領で構えた。
この時の僕は、あまりの出来事に驚いていて、忘れていたのだ。
ゴブリンが構えた槍を僕に突き出す。僕は剣で受け流そうとするが、失敗した。
左手の握力がないから。
右手だけでは上手く剣を操れず、槍は僕の腹部に突き刺さった。
痛みをこらえつつ、バックステップで後ろに下がる。
その様子を見て、ゴブリン達は攻勢を強めた。
右手だけでは剣道で覚えた技も使えず、腹部を痛めた僕は、間合いを計り攻撃を躱すのが精一杯になる。
反撃を入れようとするも、他のゴブリン達に阻まれる。非常にやりづらい。
——剣を使わずに、力任せに反撃すべきだろうか?
そう考えた時、急に片手で振るった剣閃が鋭くなった。思ったように剣が振るえる。身体が動く。
ゴブリン達の剣や槍を受け流しつつ、一撃をいれていく。
腕が飛び、頭が割れ、胴を薙ぎ、血がふぶく。小手、面、胴。
気の遠くなるほど反復練習した動きが、片手でも自然と再現できた。
僕は無心で剣を振るう。
気づけば、立っていたのは僕一人になっていた。
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