表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/83

夢の果てに:表

長い、長い夢を見ていた。



夢の中で、僕は悪魔のような姿になっていた。


悪魔のような僕は、風理と相思相愛になっていた。



二人きりで城に閉じこもり、毎日、毎日、昼も、夜も、起きてから寝るまで、飽きもせず。僕と愛理はベッドの上で愛し合い、お互いを貪りあっていた。


「やめろ! やめてくれ! 僕は、僕にはディーナが!」


僕の叫びは届かない。


二人は笑い合い、お互いを抱きしめあい、口づけを交わす。


「ダメだ……ダメなんだよ……僕は、風理の事を……」


月野風理は魅力的な女の子だった。僕に影響を与えた。本について語り合う時間は楽しかった。だけど。



僕は、彼女の事を愛してるわけではない。




夢の中の僕は日に日に凶悪な力を身に付けていった。スキル、魔法、ステータス。どれもこれも人の枠を外れた強力で超越的な力だった。


力を一つ身に付けるたび、僕は人間をやめていく。護るには過剰な力だ。だけど、夢の中の風理は、そんな僕を褒め、認め、肯定した。悪魔の僕はそれを喜び、ますます熱中していった。


そしてある日、そんな二人の元に冒険者パーティが現れる。森の奥で凶悪な気配を撒き散らす正体不明の存在を『調査』しにやってきた、ランクAの冒険者パーティだ。


風理は、悪魔の僕に囁く。『あいつらは私達の仲を引き裂こうとしている邪魔者よ。早く始末して続きをしましょう。』


「やめろおおおお!!」


悪魔は、そんな彼女の言葉にうなずき、身に付けた力を遠慮無く彼らに向けた。人外の膨大な魔力が、彼らを消し炭に変える。風理はそれを見て満足そうに笑い、悪魔の僕を褒めた。


「ああ……あああ……」


僕が、悪魔の僕が、人を殺していく。



その後も、別の冒険者が現れるたび、二人はまるでゲームか何かのように、簡単に人の命を奪っていく。どうやら悪魔の僕は『魔王』だと認識されているらしい。悪魔の僕は「風理は僕が護る」と壊れた人形のように繰り返し、時には残酷に、時にはあっけなく、殺人を行った。



「やめろ……もう……やめてくれ……」


悪魔の姿をした僕が人を殺すたび、僕は一つ何かを失っていく。ついには、悪魔が人を殺しても何も感じなくなりつつあった。僕の口から出る言葉は、すでに惰性とわずかに残された理性の絞りかすでしかない。



「…………」


一ヶ月が経つ頃、僕はもうあきらめていた。


もう、悪魔の僕は止められない。



きっと、これは、風理を見捨てた僕への罰。


そう思い始めると、少しずつ僕の身体が、悪魔の僕に吸い込まれる気がした。



ああ……もう……どうでもいいや……




「勇悟……だよね?」


女の声。だけど、もはや聞き慣れた風理のものではない。その声は僕の中に波を立て、僕の心を掻きむしった。


悪魔の僕に吸い込まれつつあった、僕の最後の意識のかけらが、その声に反応する。しかし、もはや意識は薄弱とし、混濁し、その声の持ち主が誰かは思い出す事はできなかった。ただただ、ぼんやりと、その声を聞いていた。


しかし、悪魔の僕は、そんな声の持ち主すら容赦なく一撃で殺害した。


「う……うぁ……あああぁぁ……」


大きな喪失感が襲う。何かとても大切な、取り返しのつかないものが失われた気がした。その絶望は完膚なきまで僕を打ちのめす。


もう、限界だった。


僕の意識は、完全に消滅しようとしていた。


「勇悟、待って。」


しかし、そんな僕を呼び止める声が聞こえた。それは悪魔の僕に対する呼びかけだったのかもしれない。ただ、その声が、消えようとした僕をその場に留めた。そして、僕の意識ははっきりと呼び覚まされた。


「勇悟、私だよ。」


そうだ。この声は。この声はかつて僕の隣にいた声。僕を導いてくれた。僕を護ってくれた。そして、僕が護ろうとした声。


ついにその声の持ち主は、悪魔の前に姿を現した。悪魔に近づき、抱きしめる。


「勇悟……会いたかった。」




僕は彼女の抱擁により、その言葉により、完全に意識を取り戻した。


しかし、それも長くは続かなかった。



風理が僕を呼び止め、僕はあっけなく彼女へと振り返ったのだ。


『勇悟、彼女を——識音を、殺して?』


そう言った風理の顔は、僕よりもよほど悪魔のように見えた。



悪魔の僕は、彼女の『悪魔の囁き』にうなずき、識音へと近づいていく。



「や……やめろ……あ……ああああああ!!」



僕の手が、彼女の首に掛けられる。


止められない。


止まらない。



僕の五感は完全に悪魔と一体になっている。


僕の目は識音の涙に濡れた瞳を捉えている。


僕の手は彼女の首筋の感触をしっかりと伝えている。


僕の耳は彼女のかすれた声を聞いている。



もう。


もう。


こんな世界。


こんな現実。



——くそくらえだ。


読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ