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ごめんね:両

許せない。


許せない許せない許せない。


彼は私のものなのに。


彼は私の主人公なのに。



私は、ベッドの中で彼の様子を遠視していた。


勇悟が一瞬で邪魔者を氷に封じ込め、容赦なく拳を振り抜いたのを見てニヤニヤしていた。いつも通り邪魔者は排除され、彼はすぐに帰ってくるだろう。



私の身体を、溺れるように貪る彼が愛おしかった。


私の言う事、やる事を全て肯定して、受け入れてくれる彼が愛おしかった。


私の事だけを見て、私だけの事を護ってくれる彼が愛おしかった。


私の願望は満たされ、全身に彼の愛を受ける事は幸せだった。



夜を重ねる度、彼の身体は変貌していった。


彼は私の『愛の力』を受け入れ、その力によって異なる存在へと孵化しようとしていた。今の彼は、まだサナギの状態。あとは、彼に人をやめさせるような、何か『きっかけ』があれば、きっと彼は私と同じ位まで上り詰める。そうなった時、彼と私は本当の意味で1つになるのだ。


その時を楽しみに、ひたすらに彼と愛し合ってきた。



それなのに。


邪魔者め。


私と勇悟の愛を引き裂こうとしている。


勇悟を陥れ、私の愛から目を逸らせようとしている。



許せない。




「し……き……ね……」


そうだった。彼女は、彼女は僕の幼なじみ。東識音。


「勇悟……勇悟ぉ……!!」


彼女の腕に力が入り、僕の身体をギュッと抱きしめる。


僕は戸惑いながら、彼女の背中に手を回そうとした。



その時。



「勇悟、だまされちゃダメだよ。」



背後から声が聞こえた。


何度も耳元で聞いた声。何度も愛を囁き合った声。


振り向くと、そこには風理が立っていた。


「風理……でも、彼女は……」


彼女の姿に思わず言い訳じみた言葉を口にしてしまう。



「私のこと、また見捨てるの?」



その言葉を聞いて。


僕の身体は無条件に反応してしまう。



識音の腕をほどき、風理の元へと向かい、風理を強く抱きしめる。


「見捨てないよ。風理。」


「勇悟、ありがとう。」


そのまま口づける。彼女の柔らかい唇は、何度味わってもとろける快感だ。


そして、僕の中にまた『愛の力』が流れ込んでくる。


それを受け入れると、僕の心はどんどんと黒く染まっていく。



風理だけいればいいじゃないか。


風理以外に興味なんかない。


風理のためなら、僕はなんだってやると決めた。



「勇悟……」


風理が耳元で囁く。脳に直接響くような甘い声だ。



「勇悟、彼女を——識音を、殺して?」


その言葉が、その命令が、その懇願が、僕の中にゆっくりと染み渡る。



「あの子を殺せば、勇悟は……きっと次の段階に進めるわ。」


風理の声が遠くから聞こえるようだ。


「あなたは、私と同じ神となって、私と1つになれる。」


1つになる。その甘美な響きに、僕の奥にある欲望が刺激される。


「お願い。勇悟。」



「ああ……わかった。風理。」



そして、僕は識音へと振り返る。




勇悟が識音へと振り返る。


「うふ、うふふふふ……」


私は彼の背後で静かに笑いを漏らす。そうよ、あなたは私のもの。



彼は一歩、また一歩とおもむろに識音に近づいていく。


識音はそんな彼の様子を呆然と見ている。



私は勝ち誇った気分で一杯になる。


彼の愛は私が勝ち取った。


彼の気持ち、心、肉体、魂にいたるまで、全部、全部わたしのもの。



勇悟は識音の前で立ち止まった。


いつもの彼なら一瞬で相手を屠るのに、今の彼は何かを抑えつけるように震えている。しかし、その手は止まる事はない。



「ゆう……ご……」


識音の唇から彼の名前が零れる。


彼はピクリと身体を震わせるが、その手は徐々に識音の首に向かっていく。


「ありが……とう……」


ポロリ、と識音の目から一筋の光が零れる。


勇悟の手は識音の首に掛かり、そしてゆっくりと力が込められていく。ヒュドラの首を簡単に千切る彼の力なら、人の首はまるで綿菓子のようなものだ。


「ごめ……んね……」


識音は微笑んだ。



私は、次の場面を想像した。




そして、僕は識音の首を——



その時、識音が笑顔を見せた。


それは、小さい時から見てきた、彼女の笑顔。


大人に近づいても、ちっとも変わらない、彼女の笑顔。



走馬燈のように、彼女との思い出が僕の中を駆け巡る。


僕を護り、僕が護った女性。



そんな彼女の笑顔に、僕は。



僕は。



僕は、力を緩めなかった。




風理が僕の心を占めている。


もう、迷う事はないだろう。


身体の震えも止まっていた。



識音に心の中で別れを告げる。



……



だが、次の瞬間、僕の身体に衝撃が走った。



「なっ……!?」


ガクガクと震えながら、自分の身体を見る。


そこには、識音の手が、僕の胸に突き刺さっていた。


「ごめんね……勇悟。」


識音は僕を見て、悲しそうな笑顔を見せた。



「がっ……」


ドラゴンのブレスや、サイクロプスの一撃にも傷ひとつつかなくなっていたはずの肉体に、致命的なダメージが与えられた事がわかった。


なぜか【自動防御】も反応しなかった。


「勇悟!?」


背後から風理の叫び声が聞こえる。


「なん……で……」


僕の身体が徐々に力を失っていく。命が消えていく。



識音は僕をじっと見ている。



風理が駆け寄ってくるのがわかる。



しかし、僕はもう立つことすらままならない。


その場に崩れ落ちる。



「勇悟! しっかりして! 勇悟ぉ!!」



風理が僕の身体を揺さぶる。しかし、もう反応する事もできない。



視界が暗くなっていく。



ああ、そうか。



僕は死ぬのか。



意識が遠くなっていく。



僕は識音に。



命を救った識音に。



識音に、殺された。


読んで頂きありがとうございました!

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