スラム:裏
勇悟くん。
勇悟くん。
私の勇悟くん。
私だけの勇悟くん。
私の主人公。
うふ。
うふふ。
彼の事を考えるとドキドキしちゃう。
彼が欲しくなっちゃう。
ああ、欲しい。
欲しいよ、勇悟くん。
あなたが、欲しくてたまらない。
◆
私は勇悟君を手に入れるために動き出した。
彼の心を手に入れたい。
私だけのものにしたい。
泉の中の勇悟君はディーナやエルサと手をつないで歩いている。
気にくわない。
彼の両手は私だけのもの。
彼の身体は私だけのもの。
勇悟君はディーナに微笑みかけている。
ずるい。
彼に見て欲しい。
彼に笑いかけて欲しい。
勇悟君は赤い髪の少年とぶつかった。
どうやら、その子を追いかけてスラム街へ行くようだ。
あらあら、勇悟君ったら。
すぐに他の人の事に首をつっこんでしまうのね。
さすがは、私の主人公だわ。
そうね、だったら。
いい事を思いついたわ。
彼にはもっと『てんぷれ』をこなしてもらわないと。
彼にもっと活躍してもらって、私に相応しい主人公になってもらわないと。
ああ、楽しみだわ。
◆
私は、勇悟君に絡んだ男達に『力』で精神操作魔法を掛ける。
「『狂化』……うふふ、これでいいわ。」
すると、男達は我を忘れて勇悟君に襲いかかる。勇悟君は反撃せずに男達の攻撃を躱し続けている。
勇悟君が痺れを切らして素手で反撃するも、男達には通じない。『狂化』の効果で痛覚が遮断されているため、物理的に動きを止めない限り動き続ける。
「くすくす。ダメよぉ、勇悟くん。主人公なら『悪者』はしっかり倒さないとね。もっと強くなって、早く『最強』になって頂戴ね。」
男達の一人がディーナに斬りかかると、途端に勇悟は血相を変えて腰から抜いたショートソードで男の腕を切り捨てた。いつもとは雰囲気が違って凜々しい勇悟君は、とってもかっこいい。全身から殺気を吹き出して、男達を威嚇している。
「あはっ」
私は勇悟君の様子に嬉しくなったので、『狂化』を解除してあげる。すると、男達は正気を取り戻して途端に勇悟君に怯えだした。
勇悟君はショックを受けたように顔色を悪くしている。苦悩する彼の姿も、悲劇の主人公のようで良いわね。彼が持ったショートソードから血が滴り落ちた。
勇悟君がポーションを差し出したが、男達はそれを無視して逃げ出す。勇悟君のポーションを持った手が宙に浮いたままだ。
たかが道具の癖に私の勇悟君の好意を無碍にするなんて。
なんて生意気なのかしら。
あとでお仕置きしておかないとね。
さらに追い打ちを掛けるように、勇悟君が物陰にいた赤髪の少年に気づく。
少年は、男達が正気を取り戻した辺りから事態を目撃していた。少年の目には、勇悟君が冷酷無比で残酷な殺人鬼に見えた事だろう。勇悟君を見て震えている。
勇悟君が一歩近づくと、少年は背中を見せて逃げ出した。
勇悟君の周りにはディーナとエルサだけが残される。
彼の落ち込んだ表情を見て、ゾクゾクしてしまう。
ああ、もっと。
もっと、色々な表情を見せて。
ディーナとエルサが彼を慰めている。
私の心には嫉妬の炎が荒れ狂う。
彼の事を慰めるのは私の役目なのに。
彼の事をわかってあげられるのは、私だけなのに。
早く、彼をこの手の中に。
◆
勇悟君達はスラムを出て宿屋に帰るようだ。
とぼとぼと歩く彼が愛おしい。
と、そこで邪魔者が現れた。
「ミネルバ、これは一体どういう事だい?」
低い声が私の背後から聞こえた。振り返ると、ユーピテルがソフィアを抱きかかえている。ソフィアは私の魔法によって深い眠りの中にある。
「あら、ユーピテル様。ご機嫌麗しゅう。」
「ミネルバ、質問に答えるんだ。」
ユーピテルは怒気を顕わに私を睨み付けている。莫大な魔力と神力の気配が彼から溢れ出している。
「やだ、ユーピテル様ったら。そんな顔して怖いわ。」
「ふざけるな!」
ドッと音が聞こえるような覇気が放たれる。しかし、私には何の痛痒もない。
「うふ、うふふふ……」
「ミネルバ、君は——」
ゴゥッという轟音と共に私の身体が『力』が溢れ出す。
ああ、気持ちいい。
「なっ!?」
「ユーピテルさまぁ。私ね、気が付いたんです。」
「な、何を……言って……!?」
「もう、我慢しなくてもいいんだって。」
そう言いながら、彼に『力』をぶつける。
神の力に加え、私の勇悟君に対する思いの力。
これは、『愛の力』だ。
私の勇悟君への『愛』が全身から溢れ出し、私に力をくれる。
誰にも邪魔などさせない。
「ぐあっ!! ……な、なんだ、この『黒い力』は!」
「ユーピテル様は邪魔しないでくださいね」
ユーピテルは私の力をまともに受けて吹き飛ばされる。
神力で防ごうとしたようだが、私の思いの前には通用しない。
「そうねぇ……もう邪魔されないようにしなくっちゃね。」
私は名案を思いついた。
私と泉を覆うドームを創り出す。
私と勇悟君の愛を育むための『愛の巣』だ。
「まてっ! 待つんだっ! ミネルバ! ミネ——」
ユーピテルが外で何か言っているが、もう聞こえない。
もはや、私と勇悟君を止める存在はない。
「勇悟くん、これで誰にも邪魔されないわ。」
宿屋で眠る勇悟君の寝顔を眺める。
かわいいなぁ。
あ、そうだ。意識体を呼び出しましょう。そうしましょう。
読んで頂いてありがとうございます!




