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プロローグ:裏

「あー、つまんない!」


思わず、声に出してしまった。


私の右肩に佇むフクロウが、首を傾けながら答える。


「ホッホウ……では、仕事をしてはどうですか? ミネルバ様。」


呆れたような声を出して私を窘める、この生意気なフクロウは、私の助手兼友達である。


「何いってるのよ。仕事なんてもっとつまらないじゃない。ソフィア。」


悪びれずに答える私に、これ見よがしにため息をつくフクロウのソフィア。失礼な。


そよ風が吹き、木々が黄金の葉を揺らしてさざめいた。


私は、ティーカップを持ち上げ、飲み慣れたお気に入りのハーブティーを飲んで一息つく。


テーブルの上には、アップルパイがまだ湯気を立てている。その傍らには、最近ハマっている地球のライトノベルが塔を作っている。



ここは、神界。


地球の存在する次元の一つ上に存在する高階次元。


私、ミネルバは下位次元を管理する神々のうちの一柱である。これでも偉いのである。


地球に住む知的生命体『人間』の創り出す物語は、最近の私の大きな関心事だ。あまりに気に入ったので、それを参考に世界を一つ創り出したほどだ。


しかし、その高尚な趣味(・・・・・)は現在行き詰まりを見せている。


私の創った世界に住む人々の営みは目新しく、千年ほどは飽きずに見ていられた。人々の間では戦争や闘争が尽きず、最初の内は全滅してしまわないかハラハラしたが、今ではある程度勢力図も確定し、安定期に入っている。平和なのはいい事だと想うけど、地球の物語にあるようなエンターテインメントは得られていない。


どうしてなのか。


私は首をひねる。物語にあるような『魔物』も作ったし、『魔法』や『スキル』のような特殊能力も作った。何が足りないのだろう。


しばらく考えた後、私は1つの考えに思い至る。




「そうよ、足りないのは主人公だわ! 主人公を創りましょう!」


「ミネルバ様……。主人公とはどういう事ですか?」


ソフィアは首を傾げる。


「主人公よ! 成り上がりよ! 強くなって偉くなって魔王を倒して偉くなるのよ!」


「どんだけ偉くなるんですか。」


はぁ、とため息をつくソフィア。とにかく偉くなるのよ。


「うー、でも単なる勇者設定じゃ面白くないわね……そうよ! 異世界転生よ!」


そう言って、座っているティーテーブルの横にある泉に手を掲げる。


泉がたたえる水が金色に輝きだし、泉は地球を映し出す【遠見の鏡】へと早変わり。私の持つ神様パワーのなせる技である。えっへん。


私は泉を覗き込みながら、ぼそぼそとつぶやく。


「やっぱり、日本人がいいわよね……。平凡な学生で、冒険モノなら男がいいわね。『はーれむ』ものは夢があるし。」


ちなみに、私は正真正銘の女神だ。別に百合属性はないが。


「断られるのもイヤだし、死んだやつを転生させましょ。イヤとは言わせないわよ。ふっふっふ。」


怪しげに笑う私に、ソフィアが釘を刺す。


「地球の人間の魂を勝手に転生させるなんて、ユーピテル様にバレても知りませんよ。」


「ぎくっ。……だ、だ、だ、大丈夫よ。バレなきゃいいのよ。」


ソフィアから目を逸らしつつ、泉の中に目を向ける。


泉の中では条件に当てはまる人間の死を次々と映し出す。


「うーん、なかなか良さそうなのがいないわね。……あっ、この子なんかいいかも! 女の子をかばうなんて主人公らしいし!」


一人の男子学生に目を付けて、泉に手をつっこむ。


遺体から抜け出した魂をむんずと掴み、引き上げた。




魂が自我を取り戻し、形を象る。


身長は170cmぐらい。太くもなく細くもなく、それなりに引き締まっているが、筋肉質というわけではない身体が静かに構成されていく。


泉の中にいた少年が、二本の足でしっかりと地面に降り立った。



優しそうな印象の相貌がぼんやりと開き、目に掛からない程度の黒髪が風になびく。


しばしばと目を瞬かせて、焦点の合った黒眼がこちらを認識した。


「……ここは? あなたは?」


「やっほー。ここは神界。私はミネルバよ!」


「……は?」


顔を疑問符で一杯にしつつ、キョロキョロと辺りを伺う男の子。微笑ましい反応である。


そして、急にハッとした様子でこちらに食いかかってくる少年。


「そうだ! 識音は!? 識音は無事なのか!?」


焦って私に掴みかかる少年に若干苦笑しつつ、落ち着かせるような声色で話しかける。


「大丈夫。あなたの隣にいた女の子なら無事よ。あなたのおかげでね。」


そう言って、遠見の鏡となっている泉を指し示す。そこには、識音と呼ばれた少女が、少年の遺体に号泣しながら縋り付く場面が映し出されている。


「識音! 識音! 僕なら大丈夫だから! 識音!」


それを見た少年は、泉の側に跪き、必死に泉の中の少女に話かけている。泉に手を伸ばし、手を触れる。水面が揺れ、映し出された少女の悲壮な顔が歪む。それを最後に映像は途切れた。


「残念ながら、声も手も届かないわ。——あなたは死んだのよ。」


「僕が……死んだ?」


呆然と、こちらを振り返る少年。


「そう。死んだのよ。今のあなたは魂だけ。地球に戻る事はできないわ。」


「死んだ……死んだのか、僕は。……はは、そっか。……しょうがないよね。」


私は内心で首をひねる。普通、もっと取り乱すのではないか。少年は死を受け入れ、諦観を浮かべつつ、気のせいかどこか安堵した表情を見せている。


「ここは、神のおわすところ、神界。こちらは、神の一柱である、女神ミネルバ様です。」


私の肩に乗ったソフィアが、片翼を器用に私の顔に向けながら、少年に話しかける。


「フクロウが喋ってる……。」


少年はぼんやりとした表情でソフィアを見つめている。


「そして、あなたには、私が創った世界『スタジオーネ』に転生してほしいの。」


「転生、ですか?」


「ええ、仁木勇悟君。あなたには、そこで自由に生きて欲しいわ。」


「でも、僕は死んだのに……。」


「もちろん新しい身体をあげるわ。といっても、生前の身体のコピーだから、何も変わらないけどね。」


「新しい身体、ですか。僕なんかのために、なんでそこまで……?」


少年、仁木勇悟は私の提案に首をひねる。私はニヤリと笑みを浮かべて、両手を広げて応える。


「私の『主人公』になってほしいの!」


「主人公?」


「そうよ。私の創った世界の主人公として活躍して欲しいのよ。もちろん、色々なチート能力もあげるし、ステータスも強力にしてあげるわ!」


セールストークを続ける私に、勇悟は首を傾げる。


「ホッホウ……。ミネルバ様、それではわかりませんよ。」


嘆息するソフィアは、勇悟に異世界の事を説明した。


『スタジオーネ』。剣と魔法のファンタジー小説を具現化したような世界。魔物が跋扈し、普通の人間であるヒューマンに加えて、エルフやドワーフ、獣人であるアニマがいる世界。


話を聞いている勇悟は、ファンタジー世界である事を聞いて目を輝かせた。先ほどまでの暗い表情が嘘のようだ。私の説明のどこがダメなのかしら。ふん。




一通り異世界の説明を受けた勇悟は、私の提案を了承した。


「それじゃ、よろしくね!」


「はい、ありがとうございました。ミネルバ様。」


律儀にお辞儀する勇悟を見て、気をよくした私は、最後に一言付け加える。


「あっ、それと、あの識音とかいう子もその内連れて行くから。よろしく!」


えっ、という表情を浮かべながら勇悟は異世界へと転生していった。



静寂が訪れる。



「……ミネルバ様? 識音も連れて行くとはどういう事です?」


「だって、主人公には『ヒロイン』が必要でしょ?」


ソフィアのため息がやけに大きかった。


読んで頂きありがとうございます!


長いプロローグですみません。次回から異世界が始まります!

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