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護りたい:裏

私は、勇悟君の長い長い独白を静かに聞いていた。


ソフィアも、私の肩の上で何も言わない。



そういうことか。



彼の、一種病的とも言える自己犠牲。護る事へのこだわり。


自己犠牲は、過去の自分への罰として。


護る事は、未来の自分への戒めとして。


彼の内面は自縄自縛で身動き一つ取れない状態になっていたのだ。



そして、凶刃から護ったはずの友人は、自身を傷つける刃となった。


刃は心の奥深く、トラウマとなって勇悟君に傷を残した。


護ると、傷つけられる。でも、護らなくては、後で傷つく。


結果として、彼の中に激しい自己矛盾が生まれ、護る事に恐怖を抱くようになった。



今まで、私は彼に何をしてきた?


人には過ぎた力を与え、彼を怯えさせた。排斥を受けるような特別な存在になる事を是とし、ヒロイックな働きを彼に求めた。


次々と事件を起こし、彼に力を振るわせた。望む望まないに関わらず、彼はその力を護る事に使ってしまう。結果、彼は傷つける事に慣れていく事に、傷ついていた。



主人公になれ、と私は言った。


彼にありふれた欺瞞のサクセスストーリーを歩ませ、私の自己満足を満たす為の道具となる事を求めた。誰も、幸せにはならないのに。



いつだって彼は、逃げていたのだ。


人を傷つける事から。人に傷つけられる事から。


しかし、私は彼の死を利用し、彼のトラウマを利用し、彼の思いを踏みにじった。



私は、神失格なのだ。




泉の中には、勇悟とディーナが抱き合っている様子が映っている。


勇悟は涙を流しながら、彼女に身を預けている。



彼は、心から信頼できる相手を見つけたのだ。


護りたい(・・・・)と思う存在を初めて見つけたのだ。


きっと、ディーナは彼の心を解きほぐすだろう。


深く残された傷痕を癒やし、彼に安寧をもたらすだろう。



私は、そんな二人の様子を微笑みながら眺めていた。


飽きもせず。



ああ、二人がいつまでも幸せになれたらいいのに。


ああ、二人がいつまでも健やかでいられればいいのに。


ああ、二人がいつまでも結ばれればいいのに。



すると、画面に映る二人の身体が淡く輝きだす。


「……これは?」


「な、なんでしょう。すごく神に近い気配を感じますが……」



抱き合っていた二人も慌てて身を離す。


お互いの身体が光っている事をあたふたと報告しあっている。


「これは一体……」


「祝福だよ。」


急に、低い重低音が背後から聞こえた。私が急いで振り返ると、そこにはユーピテル様が立っていた。


「ユーピテル様!」


「やあ。急に君の雰囲気が変わったように思えたのでね。気になって見に来たんだ。」


「雰囲気が……?」


「ああ。でも、祝福が発動したところを見ると、どうやら良い方向の変化だったようだね。」


ユーピテル様は先ほど見せた厳しい表情とは比べものにならない、優しい笑顔だ。太陽のような暖かい魔力が感じられる。


「ユーピテル様、祝福とは一体何なのでしょうか?」


ソフィアが尋ねる。私たちは神様の御技を全て識っているわけではない。


「祝福はね、神が人に与える加護の一種で、神が本当にその人を愛し、心からその人を祝福したい、と思った時に与えられるんだ。神が人に入れ込むなんて希だから、めったに見られるものじゃないね。」


「私が、勇悟君の事を……?」


「ああ、そうだ。君は仁木勇悟君とディーナ君を心から敬愛し、心から祝福した。いっぺんの曇りもない心でね。」


そうなのだろうか。私には自覚は無かったが、でも、二人の幸せを願った事は確かだ。


「祝福された勇悟君とディーナちゃんの身には、一体何が起こるんですか?」


「基本的には、魂の成長促進だね。あとは、祝福した時の祈り次第、かな。」


「祈り……」


「ミネルバ。君も祈ったはずだよ。二人の祝福を。僕達のいるこの管理次元のさらに上の高階次元に。そこには、原始の神々が住んでいる。常に僕達を見守ってらっしゃるんだよ。」


「私、嬉しくて……。勇悟君の願いが叶って、信頼できる相手を見つけられた事が、嬉しくって。それで、二人でいっしょに幸せになれればいいなって、そう願ったんです。」


ユーピテル様は私の懺悔を聞いて、驚いた表情を見せた。


「ミネルバ……。一体君に何があったんだい? さっき会った時から別人のようだよ。」


「はい、その……。私、勇悟君の告白を聞いて、反省したんです。今まで、いかに自分が身勝手だったか。勇悟君をどれだけ傷つけていたかって……。」


「ミネルバ様……。」


肩に載ったソフィアは、嬉しそうな声を出す。


「そうか……。女神三分会わざれば刮目して見よ、だね。」


「うふふ、そうです。乙女の心は秋の空なんですよ。」


私は、ニッコリと微笑んだ。


読んで頂きありがとうございます!

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