ギルドでテンプレ:裏
私とソフィアは、相変わらず勇悟君を見守っている。
王都に到着した彼は、身分証が無いために警備兵に仮身分証の発行を依頼したようだ。
「まったく、人間の世界ってのは面倒ね。」
「平和とはいえ、犯罪者も多いですからね。」
詰め所に入った勇悟の前に水晶玉の魔道具が置かれる。他人のステータスを確認する、【姿見の玉】だ。犯罪者が都に入れないように、私が創ってあげた魔法具である。その強力な効果はステータス隠蔽系の魔道具やスキルを貫通し、犯罪者を丸裸にする。
「うんうん、さすが私の創った魔道具ね。あれならステータスから所持スキルまで全部まる見……え……」
「……このままでは、勇悟殿の人外ステータスが世界に晒される事になりますね。」
「……だめっ! だめよ! そんなの、いきなり王城に連れて行かれて勇者に仕立て上げられて、魔王討伐を命じられる、つまんないテンプレストーリーに成り下がっちゃうじゃない!!」
「ミネルバ様、確か、『魔王を倒して偉くなる』とか『成り上がりよ!』とか言ってませんでしたか?」
「あの時はあの時、今は今よ! 勇悟君を見てたら、そういう王道モノよりも、少しずつ仲間を増やして旅を続ける冒険モノの方が絶対面白いってわかるのよ!」
そういうや否や、私は神様パワーを使って勇悟君に【ステータス偽装Lv5】を付与する。私の魔道具を誤魔化すにはLv5でないと無理だ。
「はあ……。もう、何も言いませんよ。お好きになさってください……。」
ソフィアがそっぽを向いているが、知ったこっちゃない。勇悟君のピンチなのだ。
どうせ、勇悟君は【ステータス偽装】に気づかないだろうから、私が勝手に偽装までしてしまおう。年相応に、できるだけ弱々しく……。こんなものかしら?
顔色の悪い勇悟君は観念した様子で、水晶玉に触れる。
どうやら、上手くいったらしい。警備兵は何の疑いもなく、勇悟に仮身分証を与えた。
「ふう、何とかなったわね。」
「あからさますぎて、勇悟殿には、もはやバレバレですね。」
「そうね、これでまた一層と敬われてしまうわね。あー、神様って辛いわー。」
「ダメだこいつ早くなんとかしないと」
なんかソフィアから物騒な言葉が聞こえた気がするけど、気のせいよね。
◆
どうやら、勇悟君は冒険者ギルドに向かっているらしい。
初めて見るアニマや街の様子に興味一杯で、あっちへふらふらこっちへふらふらしている。お上りさんである事は丸わかりで、街の人々から生暖かい視線を受けているが、本人は気づいていないようだ。
私は、そんな小動物のような動きをする勇悟君をニコニコと観察している。
「うふふ、勇悟君楽しそうでいいわね!」
「何しろ初めて目にするものばかりでしょうからね。ちゃんと挨拶には応えていますし、この分ならすぐにこの世界に馴染めそうですね。」
「そうねえ、勇悟君には主人公として、どんどん『いべんと』を起こしてもらわないと。」
冒険者ギルドにたどり着いた勇悟。大きな建物を見て、口をポカンと開けている。
「冒険者ギルドといったら、やっぱりあの『てんぷれ』よね!」
「また何かする気ですか……。」
呆れ顔のソフィアはスルーして、何とかしてあの定番イベントを発生させる事を画策する。
「受付と酒場が離れているのが厄介ね。」
まあ、私の神様パワーの前には、距離なんて無意味なんだけど。
私は、受付と酒場の間の空気を操作し、音の減衰率を大幅に下げる。要するに、勇悟君の声が酒場まで届くようにしたのだ。名案でしょ?
勇悟君が冒険者登録手続きを依頼すると、酒場でくだを巻いていた男達数人が立ち上がる。どうやら、目論見は上手くいったようだ。彼らの耳には、勇悟君が大声で冒険者登録を申し出たように聞こえただろう。
◆
勇悟君を取り囲む赤ら顔の男達。
「さあ、あとはチート全開でそいつらをボッコボコにしてギルドマスター登場からのランクSよ!」
そう言って、私はシュッシュとシャドーボクシング。
「男達が噛ませ犬で哀れすぎるんですが……」
「いいのよ! 他の人間は主人公のために存在するの!」
「傲慢すぎますよ。あなた本当に神様ですか……」
傲慢? あんな奴と一緒にしないでよ。失礼しちゃうわ。ぷんぷん。
ところが。
思惑が外れ、勇悟君は俯いたまま動かない。男達の罵倒に反論すらせず、じっと耐えている。
「なんで!? こんな奴らサクッとやっつけられるのに!」
「さすが勇悟殿。理性的ですね。」
なんだか、ソフィアは勇悟君を持ち上げる事で、私を貶めようとしているように思う。私が理性的じゃないとでも言いたいのかしら。うう……。
男が痺れを切らし、勇悟君に殴りかかろうとしている。
「あーもうっ! いいわ! 『ラクサティブ』!!」
とっておきの禁呪を発動させる。男達は腹を抱えてうめきだし、トイレに駆け込む。
「ミネルバ様! 気軽に禁呪を使わないでください!!」
「いい気味よ!」
「元はと言えば、あやつらをけしかけたのはミネルバ様ですのに……」
ソフィアから目を逸らし、口笛を吹く私。でも、すーすーと掠れた音がするだけだった。
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