第8話「翔助の怒りと、地球に落ちた復讐鬼(後編)」
………………
与島歩の姿が、変貌してしまったのは、地球に飛来した謎の生命体が寄生したからだ。
その生命体には、知識がある。
だから、イジメられていた与島に寄生し、彼の肉体を一時的に支配し、彼をイジメた不良達に暴力の仕返しを与えた。
生命体は、許せなかった与島に暴力を加えた者達が。
………………
「どけ…。貴様には用はない」
与島の異形の姿が、ゼイファーマンに話し掛けた。
「てめー、ゴボウ野郎じゃねぇな…」
ゼイファーマンの意識は、翔助自身であるが、与島の場合は意識を支配されているようだ。
岩石を削って出来た彫刻のような顔の異形の与島の口が、開いた。
「私は、名もなき宇宙の片隅で生まれた知識を持つ鉱物体。エイミネイターと、自分で名付けた…」
「おりゃ、宇宙の平和を考える会のゼイファーマン(本当は、マッスル星人)だ…。一応、地球人だ…」
一応、ゼイファーマンも名乗る。
「私は、宇宙を漂っていた途中、地球の引力に引かれ…」
「勝手に、話し進めんな!」
自己紹介したのに、無視されたゼイファーマンの額に、青筋が浮く。
それでも、エイミネイターは語りだす。
「私が、来るつもりもなかった地球に落ちて見た光景は、信じられない物だった」
エイミネイターの岩石のような表情が変わった。
「地球人が、同じ地球人に対し、暴力を行う醜き姿だ。同じ赤い血が流れている者を、殴る蹴るだのと!!しかも、きゃつらは、赤いの血が流れても、なにも思わず、蹴る殴る!蹴る殴るだ!!!殴られた相手は、苦しんでいるというのにだ!!!」
その言葉に迫力には、ゼイファーマンは驚く。
「だから、私は暴力を加えられた与島歩の肉体を借り、醜き暴力を働く奴らを排除する」
排除という言葉に、ゼイファーマンは反応した。
「なんだと!」
喋りっぱなしだったエイミネイターに、一言投げた。
「さっきまで、与島歩に暴力を加えた奴らを、この世から消す!!」
「待てや!!」
ゼイファーマンは、エイミネイターの首を掴んだ。
「離せ!ゼイファーマンとやら!!」
「確かに、ムカつくけどよ、あのクソ野郎共殺す気か!やめろ!!」
「奴らに、生きる価値などない!!邪魔するなら、貴様も排除する!!」
そう叫び、エイミネイターはゼイファーマンの腹に蹴りを入れた。
「ぐっ!」
首を掴んでいた手を開いて、ゼイファーマンは後方に吹っ飛んだ。
更に、追い打ちを掛けるように、エイミネイターはゼイファーマンの顔面に拳を打ち込む。
口から、血が吹き飛ぶ。
「いい気なんな!!」
殴れた勢いに耐え、踏張ったゼイファーマンが叫ぶ。
「あのようなイジメを働く者は、消えてしまえばいい!それを、邪魔する貴様も消えてなくなれ!!」
ゼイファーマンも拳を上げ、エイミネイターの顔面を殴り付けた。
「あいつらにも、親がいんだぞ!血流れて、生きてんだぞ!!妙に正しいこと言って、自分を正当化すんのは、反吐が出んだよ!」
ゼイファーマンの拳が当たり、エイミネイターがもたつく。
「それでも、奴らは消す!」
「岩みてぇな顔のくせに、屁理屈こねるな!!」
互いの拳が、互いの顔面に入った。
そして、その勢いで双方、本気で殴り、蹴り合う。
皮膚が裂け、血が飛び、土に血が染み込んでいく。
「おらぁ!」
エイミネイターの首を掴み、腹部に何発も膝蹴りを浴びせた。
口からは、血が吹く。
「ぐう!!」
ゼイファーマンの顔に、エイミネイターは自らの頭部を突っ込んだ。
鉱物のような硬さを持つ、エイミネイターの頭部の衝撃を直に浴び、ゼイファーマンはふらつく。
鼻血が、飛び散った。
「野郎!」
エイミネイターの顔に、拳がめり込む。
「貴様!」
ゼイファーマンの顔にも、同じく拳がめり込む。
何度も、何度も、互いを殴り付ける。
雨あられのように、血が飛ぶ。
この状態が、しばらく続いた…。
双方、ハイになっていた。
………………
あれから、時間が流れた…。
「べっ!」
ゼイファーマンの拳が裂け、血を流す。
大きく息を吸って、口から血を吐いた。
「はぁはぁ…」
全身ボロボロで、血を流しながら、前かがみに倒れるエイミネイターを、ゼイファーマンは見た。
どうやら、殴りあいの末に、ゼイファーマンはエイミネイターを倒したようだ。
「ぐっ…」
全身ボロボロで、血を流すエイミネイターは、弱々しく顔を上げた。
顔を上げた先には、ゼイファーマンの血まみれの姿が映る。
「貴様ぁ!」
エイミネイターには、こんな虚勢を返すしかなかった。
まだ、立ち向かって来るような顔つきをしている。
「おい、てめ…」
ゼイファーマンが、倒れているエイミネイターに話し掛ける。
「そんなに、納得できねーなら、一旦、俺に任せてくれねぇか?」
そう言って、ゼイファーマンは膝を地面つけた。
かなり、疲労しているようた。
果たして、言葉の意味は…。
………………
翌日の学校のホームルーム前。
翔助は、先日の怪我を負いながら、廊下を歩く。
生々しい傷跡を、すれ違う生徒達に見せながら歩く。
そして、翔助は、他のクラスの教室の前に立った。
ここは、先日、与島に暴力を加えた不良達が居るクラス。
そこに、翔助は、いきなり上がり込む。
すると、昨日の不良達が居た。
彼らは、翔助の登場に驚く。
「名塚だ!」
「なにし、きやがった」
翔助は、ズガズガと不良達の元へ向かう。
そして…。
バゴッ!
鈍い音を上げ、不良達の一人の顔面に拳を入れた。
「うごぉ!」
吹き出た鼻血を、不良は押さえて倒れこむ。
「きゃあああ!!」
一人の女子生徒が、悲鳴を出し、廊下まで響く。
不良達は、翔助の行動に震え上がる。
「てめーら…」
昨日、殴られて切れた唇を開き、翔助は言葉を発す。
「ただじゃ済まさねぇ…」
そう言い、不良達に次々に殴り付けた。
翔助は、昨日の彼らが与島にしたように、手加減なく、何度も殴りつけた。
………………
そして、不良達を全員沈めた翔助は、顎を殴って、気を失わせたリーダー格を制服を握り、引きずり歩く。その光景は、いくらなんでも、非道極まりない。
廊下には、血が落ち、すれ違う生徒達は怯え、道を開ける。
生徒達には、翔助が鬼に見えた。
「おい!与島居るか!!出てこいや!!」
翔助が、そう叫ぶ。
どうやら、リーダー格を痛め付けたことを与島に伝えようとしている。
スタッ…、スタッ…。
頼りなさげな足音が、聞こえてきた。
「ひっ!」
エイミネイターから、元に戻り、意識を取り戻した与島の姿が。
当然、昨日のことは覚えてはいない。
やはり、彼にも先日の怪我の後が見える。
翔助が、リーダー格を与島の方に投げ付けた。
「うわぁ!」
血まみれのリーダー格の姿に、与島は驚く。
「昨日、おめぇ、こいつにやられてたろ…。やり返してやったぜ…」
翔助は、そう与島に言いながら、また投げ付けたリーダー格を蹴った。
与島は震えながら、そのリーダー格の負傷を見る。
「ほら…、お前もやれよ…。煮るなり、焼くなり…」
翔助は、誘うように言い寄る。
与島は黙り込んで、震え上がる。
冷や汗を、大量に流す。
与島の脳裏に、今まで、彼らから与えられた暴力、嫌がらせを受けた屈辱と苦痛の日々が甦る。
身も心も、ズタズタにされきったあの日々が…。
だが、今の彼の立場は、逆転した。弱りきった不良を、痛めつけられる…。
仕返しが出来る…。
今までの恨みを、晴らすことが可能だ…。
与島の心に、復讐の気持ちが湧いた。
だが…。
「勘弁してくれ!!俺が悪かった!!」
気を失っていたリーダー格が、気を取り戻した。
「…!」
その声で、与島に芽生えた復讐の気持ちが弱り始めた。
「今更、おせぇんだよ!謝って済んだら、マッポも、仮面ライダーも要らねぇんだよ!!タコが!!」
そう叫びながら、翔助はリーダー格を、また蹴る。
惨めなまでに、リーダー格は泣き叫ぶ。その姿に、与島は自分を重ねた…。
すると…。
「やめろ!!」
「!」
「…!」
思わず、与島は叫んだ。
翔助は蹴りを止め、与島を睨んだ。
「ああ?」
与島は、翔助から目を逸らさず、また叫んだ。
「もう十分です!!もう止めてください!!」
「なんだと…」
翔助は、与島の襟首を掴む。
「もう嫌なんです!誰かが、殴られたり、蹴られたり、脅されて、自分を惨めだと感じるさせるのが!!もう、あんな思いするのも、させるのも嫌なんです…」
与島は、涙ながらに言う。
「…」
その言葉を、血を流しながら、リーダー格は聞き、黙り込んだ。
与島の襟首を握りながら、翔助は…。
「てめー、そんなんじゃあ、また、イジメられんぞ…」
そう言う。
「イジメなんか、一生の内の一瞬の辛さでしかありません。明日には、きっと幸せが来ると信じてます…」
与島のその一言で、翔助は襟首から手を離した。
そして、倒れこむリーダー格を睨み付けながら…。
「良かったな、こいつが、お人好しで…。昨日の件は、これで勘弁したらぁ。でも、俺はてめーらみてーなの嫌いだから、また、俺をムカつかせたら、こんなんじゃ済まさねぇぞ…」
そう言い去り、翔助は去る。
リーダー格は、あとから来た仲間たちに、引きづられ、保健室に向かうため、同じく立ち去った。
「はぁはぁ…」
緊張の線が切れた与島は、その場で腰を抜かした。
呼吸が乱れて、ヘトヘトだ。
この光景を、周囲で見ていた野次馬の生徒たちが、へたりこむ与島の元に詰め寄り…。
「すげーな、お前、根性あんな!」
「見なおしたよ」
「ケガないか?」
と、言い寄る。
今まで、存在感のなかった彼が一躍、生徒達の注目を浴びた。
これなら、与島はもうイジメられても大丈夫であるだろう…。
そう与島に、寄生するエイミネーターは思う。
(ゼイファーマンこと、名塚翔助よ…。わざと、悪役となり、与島歩という人間の強さを教えてもらった今回は、私の負けだ。だが、世の中は、このような事態が繰り返される物…。だから、まだ与島歩の体に寄生する…。貴様には期待するが、私を失望させてくれるなよ…。貴様なら、なにかを変えてくれかもな…)
与島の体内に寄生しながら、エイミネーターは翔助のこれから祈った。
………………
「ふー」
屋上で、翔助はタバコを吸っていた。
今回、与島への暴力が原因とは言え、不良達をボコボコにしてしまったため、学校中から非難を買ってしまい、学校側の処分もあるに決まってるので、さすがの彼にも答える。
「退学になったら、どうしよう…。また、プーかな…」
そう言い、下を向いた。
落ち込む彼に、学校のチャイムが鳴り響く。
………………




