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第18話「季節は巡る」

………………


「俺、参上…」

ゼイファーマンは、屋上に辿り着いた。

ガス爆発の名残で、少し煙たい。

煙が包む、屋上には人の影が二つ。

制服が焦げ、重度ではないが火傷を負い気を失った多摩と、何者かに意識を支配され、片手に調理実習室にあったと思われる出刃包丁を持つ冬海カイリ。

ゼイファーマンには、エイミネーターと与島の件があったので、彼女が宇宙人に憑かれているのがわかる。


「てめー、俺にとっては未知である女の体使って、随分、でっかい花火上げてくれたじゃねぇか…」

出刃包丁を持つ彼女に指を差し、ゼイファーマンが言う。

「貴様か、貴様が、マークジャックをやったのか?」

ユキハの声ではなく、どすの低い声だった。

出刃包丁を口元にやり、彼女は舌で刃を舐める。

即座に、ゼイファーマンは答える。

「だったら、なんだ?」

「死んでもらう」

刃を、ゼイファーマンに向け睨む。

刃は、煙が漂う青空を映す。


以下、ゼイファーマンの心の声。

あー、畜生ー。多摩の奴を、人質に捕られた…。あの服の焦げっぷりは、ヤバい…。早く、助けねぇと…。

宇宙人の野郎、あのマブい子に憑きやがってー。確か、多摩が探してた子か?あいつも、ついてねぇなぁー。

ていうか、殴れねぇじゃねぇかよー。

しかも、刃物持ち出しやがってー。

あー、カイリさんにフラれたばっかなのにー。


そうこう考えているうちに、憑かれた彼女は包丁を振りかぶり、ゼイファーマンに向かってきた。

「考える暇すらないか…」

とりあえず、ゼイファーマンは後ろに跳んで、彼女と距離を取る。

うかつに、手は出せない。

しかし、彼女の手に凶器がある限り、避けねばならない。

だが避け続ければ、火傷を負った多摩の命は…。

一番理想的なのは、彼女の体から、憑いた宇宙人が離れ、ぶちのめし、多摩と彼女を救出…、出来れば良いのだが、宇宙人は彼女から出る様子はない。

何故なら、彼女の体に居る限り、攻撃は来ないし、刃物があれば、十分、ゼイファーマンにも致命を与えられる。

そう考えているから、宇宙人は出てくることはない。

人質は、多摩とユキハの二人。

どうにかして、ユキハの体から、奴を解き放たねば…。

向かってくる刄を避けながら、ゼイファーマンは、自分のすべきことを見いだした。

しかし、考えるのは簡単だが、実行とは難しいことである。

ブン!!と鳴りながら、彼女の右手の包丁が、ゼイファーマンの首に向かって、振られる。

その瞬間。

ガシっ!と、その右腕を、ゼイファーマンは右手でキャッチした。

「よし、掴んだ!」

「くっ!」

彼女の顔が歪む。

あとは、このまま、右手から包丁を離すようにすれば…。

そう思いながら、ゼイファーマンは彼女の手にある包丁を奪おうと左手を動かした時。

「いっ、痛いっ…!やめてよ…!」

宇宙人に憑かれたはずの彼女が、急に女の子らしいを仕草をした。

「っ!」

女性慣れしてない翔助の意識が、これに反応し、思わず手を離す。

しかし、それは宇宙人が油断させるために作った演技でしかない。

「馬鹿が!」

偽りの仕草をやめた宇宙人の意識は彼女の体を操り、包丁をゼイファーマンに再び向けた。

「しまった!」

思わず、手を離してしまったことを後悔させる間もなく、ゼイファーマンに刄が飛ぶ。

包丁は、ゼイファーマンの腹部に刺さろうとした時…。


グサッ!


「うぐっ!」

ゼイファーマンは、包丁を右手で受けとめた。

包丁は、手相に合うように刺さった。

手のひらから、甲まで貫き、血が流れ、刃にも血がタラタラと流れる。

苦痛の表情を浮かべながら、ゼイファーマンは、これに驚いた彼女の包丁を持つ手を、左手で叩く。

これにより、彼女は包丁から、やっと手を離す。

しかし、ゼイファーマンの右手には包丁が突き刺さったまま。

「くっ!」

武器であった包丁を失った彼女は、悔しそうな顔をした。

「てめぇぇええーーー」

ゼイファーマンを苦痛の声を挑発に換え、右手から包丁を抜き取り、血が滲む足元に捨てた。

血が流れ続ける右手で、拳を作った。

「ふん…」

彼女は目を閉じた。

すると…。


ギュン!


「!?」

猛獣のような顔をし、マークジャックに似た姿をした宇宙人の姿が、目の前に現れた。

どうやら、やっと本当の姿を曝したようだ。

宇宙人の姿が出たと同時に、とり憑かれていたユキハが気を失いながら、その場に倒れた。

それを見て、ゼイファーマンの心の中で、保ち続けていたなにかが、はち切れそうになった。

「私の名は、トーリツク。マークジャックと同じく地球人を捕獲に…」

宇宙人が、名乗っている途中…。

「二つ、答えろ…」

ゼイファーマンは、言葉を挟んだ。

ボタボタと滴れていた血が、いつのまにか止まっていた。

「なんで、この学校を爆破した…」

俯いているせいか、ゼイファーマンの目が見えない。

トーリツクは、鼻で笑いつつ…。

「理由なんかいる?強いて言えば、マークジャックをやった貴様をおびき寄せるため。まぁ、貴様を処刑するための撒き餌かな」

軽い感じで言う。

「なんで、その子に憑いた?」

ゼイファーマンは、血が止まった右手で、倒れ込むユキハに指を差す。

それに対し、またトーリツクは鼻で笑う。

「だから、理由なんかいるのー?」


バコッ!!


そう答えた瞬間、トーリツクの顔面に、ゼイファーマンの右拳がめり込む。

顔面が、バキバキと音を上げ、クレーターのように凹んだ。

ゼイファーマンの中で、切れてはならないものが、ブチキレた。

「他人巻き込んで、調子こいてんじゃねぇやぁあ!!!ドクサレ!!!」

もう一撃、二撃、三撃と、何度もトーリツクの顔面、手足に拳を入れる。

「関係ねぇ奴を利用して、生き物として恥ずかしくねぇのかぁああ!?爆破で、人死ぬんだぞ!!解んねぇのか!?ああ!?てめぇえは、死んだあと体調崩せ!!!」

最後に、思いっきり、トーリツクの股間を蹴り上げた。

すでに、気絶したトーリツクは屋上ので泡を吹いて倒れる。

そんな奴の前に立ち、ゼイファーマンはトーリツクに向かい…。

「てめぇぇええみたいな、無関係な奴を巻き込む奴は、反吐が出んだよ!!!」

と叫び散らす。

煙は、いつのまにか消えた。


………………


あれから、数日…。

春休み中に起きた、あの出来事は、天声学園の生徒たちに恐怖を与えた。

春休みが終わった今、爆破した校舎で修復のため工事が始まっていた。

恐怖はあるが、それでも、生徒達は学校へ通う。

何故なら、皆この学校に愛着があるからだ。

それは、翔助とて同じ。

なんだかんだで、彼も学校へ通う。


春休み明け、初日の朝の通学路を彼は歩く。

右手には、あの時の深い傷が残る。

この傷で、まともにゼファーのアクセルは回せなかった。

「…!」

ふと、通学路の途中の喫茶店に目をやると…。

ガラスの向こうに、楽しそうに笑う春野カイリの姿が見えた。

誰かと話しているようだが、翔助はそれ以上、彼女の姿を見なかった。

何故なら、心の傷が疼くから。


更に、通学の途中、妙に背の高いリーゼントと、それに似合わない黒髪の美少女が仲良く話ながら、通学路を歩く。

あれは、多摩とユキハの二人だ。

どうやら、あの事件後、二人にあった壁は消えたようだ。

どんな会話をして、数年の壁を越えたのか翔助は気になったが、それ以上に、二人は一線越えちまったのかが、気になって仕方なかった。

そんな二人の間に入らぬよう、翔助はわざと歩を遅くして道を歩く。


「ん?」

目線を変えれば、今度は与島歩の通学姿が見えた。

そういえば、今だにエイミネーターは憑いているのだろうか?

しかし、憑いているのか解らないということは、彼はイジメられていないと言うことでもある。

「たまには、話し掛けろよ…」

与島の中に居るか解らないエイミネーターに対して、小声で呟く。


そんな彼の少し後ろを、クラス委員の風奈が歩いていた。

あのタクシー以来、彼女は車がトラウマになってしまったらしい。

その代わりに、彼女はバイクに興味始めていた。

そんな彼女の目の前に、翔助の背中が見えた。

「あっ、あのバカリーゼント…」

風奈は、ため息を吐く。

そういえば、あいつゼファー乗ってたな…、と彼女は思った。


翔助は、玄関に到着した。

下駄箱で、靴を履き替えていると…。

「おっはよー!!」

ドン!と、威勢よく背中を葉月に叩かれた。

「っ!!」

それに驚いた翔助は、怪我した右手を下駄箱に激突させた。

「ぎゃああああああーーーーー!!!!」

始業を伝えるチャイムより、その苦痛の叫びは響いた。


こうして、ゼイファーマンこと、名塚翔助の新学期が始まって行く。



あの右手の傷が薄まった頃、翔助は、ゼファーのタンデムに葉月を乗せ、湘南の海へ向かってアクセルを捻った。


………………

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