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第16話「全部、嘘さ。そんなもんさ、春の女は幻」

………………


多摩巨人、17歳は特に家庭内が荒んでるわけでもなく、欝屈するタイプではない。

彼が、不良になったのは、親が元ヤンだった流れからだ。

普段から、明るく頼れる性格だったので、小、中学、高校と彼の周りには友人がいつも居る。

誰からも好かれ、リーダーシップのある男だった。


そんな彼の小学五年になった、ある日…。

昼下がりの体育の時間、グラウンドで、数名ごとのチームを作ってのサッカーをしていた。

その際に、彼は足を躓き転び怪我を負う。

軽傷だったが、一応、保健室に一人で行き、怪我を見てもらうことにした。

そこで、彼はある少女と出会う…。


多摩は、保健室に入る。

だが、室内に保健の先生は居ない。

どうやら、ちょうど、その場から離れていたようだ。

先生が居ないことに気付いた多摩少年が、保健室から出ようとすると…。

「ゴホッ…」

カーテンで隠されたベットから、咳が聞こえた。

どうやら、誰か居るようだ。

咳が聞こえた方のカーテンに、多摩少年は向かう。

誰が居るのだろう…、そう思いながらカーテンに手を掛けた。

そして、カーテンを開けると…。

「…!」

幼い多摩少年の目には、カーテンの向こうに居るベッドに横たわる色白い黒髪の少女が目に入った。

そして、彼女を見たまま黙り込む。

今まで、異性など意識したことも、感じたこともなかった多摩は、その彼女に見惚れてしまった。

「…!」

少女の方も、いきなり現れた多摩に驚く。

二人は、そのまま黙り込んで、互いを見つめる。

これが、多摩にとって忘れることの出来ない女性との出会いだった。


彼女の名は、冬海ユキハ。

昔から、体が弱く体調を崩しやすい少女。

学校に来ても、途中で保健室に行ってしまうため、人との接点が薄い。

彼女を知っているのは、ごく一部の児童と教師のみ。

だから、多摩は彼女のことを知らなかった。


こんな運命じみた出来事を、キッカケに、二人は仲良くなる。

多摩は、休み時間にでも、つまらなく下品な内容の話をしに、友達と遊ぶのをスッポかし、よく彼女に会いに行く。

ユキハ少女も、笑いながら、その彼が話に来るのを毎日、保健室のベッドの上で楽しみにしていた。

幼い恋人同士であったが、中学は別々になり、二人は別れることとなった。

携帯電話で連絡を取り合ったり、互いの自宅の住所を知らない、二人には永遠の別れにも思える。

卒業式の帰り際、多摩は彼女に…。

「俺、大人になったら、お前を俺の嫁さんにしてやるよ」

彼なり、本気で言ったプロポーズだった。

それに対し、彼女は…。

「うん」

たった一声、頷く。

こうして、二人は互いの将来を幼いながらに誓い合う。


月日は流れた…。

その歳月は、二人を取り巻く環境を変える。

中学時代、ふと教師との口論をキッカケに多摩は、もともと素質や要素があったとはいえ、不良、問題児として顔を広げ、学校内の生徒、周囲の不良、近所の人々から恐れらる存在となり、警察からもブラックリスト入りに。

そのことが、二人の関係を壊すこととなる。

何故なら、ユキハの父は警官だった。

彼女の父は、何度も、街中で問題を起こした多摩を取り押さえたりした。

その際、彼から暴行を受け、多大な迷惑を被っている。

彼女の父と、多摩は互いに目の敵にし合う。

だが、ある時、多摩はユキハの父が、その憎き警官だったのを知る日があった…。

彼は、初めて自分のしてきたことの愚かさを知る。

自分が、惚れた少女を生んだ親に暴挙をしていていたということに…。


15歳になった二人は、偶然、同じ高校に入学。

数年ぶりの再会を果たすこととなる。

だが、彼はユキハに逢うことをしない。

彼女の親に対する罵詈雑言や、暴挙への罪悪感があり、逢うことなど、とても出来ない。

もしかしたら、恨まれているかもしれない。

そう考えると、怖くて仕方なかった。

だから、彼は彼女を避けるように学校生活を過ごしていた。

ユキハの方は、やはり、体が弱いためか学校で見る回数は少なく、いつのまにか、彼女を学校内で見ることは保健室ですらなくなる。

噂では、彼女が学校を辞めたと流れ、多摩は彼女に逢うことは、もう二度とないと一人諦めた。

しかし、人は逢えなくなると思うと、より一目でいいから逢いたいという気持ちが強くなるものであり、多摩は心の中で彼女に対し、くすぶったままで居続ける。

翔助が、みつけるまでは…。


彼女の親に申し訳ない気持ちがあり、ユキハに逢うことをしなかった。

しかし、多摩は彼女の気持ちを知らない。

彼が父に迷惑を掛けたことを恨んでいるのか、それとも、今の自分と同じように逢いたがっているのか、あるいは忘れてしまったのか。

とにかく、彼は彼女の気持ちを知りに走る。


………………


キキィイ!!


多摩のCB750が、学校の駐輪所の前で急ブレーキをかけた。

制動でタイヤから、砂埃が舞う。またがりながら、左足でサイドスタンドを蹴りつつ、バイクから降り、地に足を着ける。

そして、そのまま多摩は学校へと向かった。


………………


(なぜ、カイリさんが…)

一方では、翔助が新たな局面を喫茶・奈良の駐車所で迎えた。

なんと、自分の憧れの女性であった春野カイリが目の前に居るのだ。

始動させたエンジンを、すぐ切り、翔助はゼファーから降りる。

「久しぶりね…。あの時は、ありがとう…」

彼女がそう言う。

前回はストーカーのせいで、思い詰めた表情をしていたが、今は明るく可愛らしい。

そんな彼女の笑顔に、翔助は…。

(かっ、カワイイ…)

襲いたいとは思わず、純粋に彼女に見惚れる。

性欲が純粋な気持ちに負けた瞬間だった。

ちなみに、もう多摩を追い掛けることは一瞬で忘れた。


………………


タッタッタッ!


人気のない校内を、多摩は走る。

校内には補習を受けている者、部活動をしている者などが、多少居るが、彼の探している色白の冬海ユキハと言う名の少女の姿は見えない。

もう帰ってしまったのだろうか?

多摩の脳裏には、そんなことが浮かぶ。

自分が今更、逢いたいというのは勝手すぎるのは解ってはいる。

しかし、今のような逢いたいのに逢えない気持ちは辛過ぎる。


………………


「カイリさん…。あの…」

「ん?」

喫茶・奈良の前に、翔助、カイリは立つ。

いつになく、彼は真剣な表情をする。

第三話で出会って以来から、翔助は彼女のことを想っていた。

出会ったあの日から、彼の脳内結婚したい女性ランキングトップをキープしているカイリ。

そんな彼女に、ある一言を言おうとしていた。

その一言は、希望への階段への一歩となりうる問い…。

そして、翔助は口を開く。

「今、彼氏居ますか?」

再会して、すぐなのに、そんなことを聞いた。

それには、彼女は戸惑う。

「…」

「いきなり、こんな質問してごめん…」

今回は、いつもと違う翔助は謝る。

だが、気になっていた。

ストーカー事件で、暗くなっていたカイリ。

そんな彼女を慰めてやりたい…、と下心なし(なしとは言い切れないが)で想っていた翔助。

カイリが、彼氏は居ないといえば、自分が彼氏になって、彼女をずっと守ってあげたい。

それが、翔助の考えであり、願望。

しばらくして、戸惑っていたカイリの口が開く…。


「うん、居るよ」


ザ・ワールド(翔助の時間が止まった)

かなりの明るい笑顔で言い放つ。

居ると答えるのは、予想中最悪の事態。

翔助はゼットンに破れたウ○トラマンのように、立ったまま動かなくなり、脳裏に、『水の星に愛をこめて』が流れる。


名塚翔助、18歳。

フラれたショックで、再起不能。

だが、運命は残酷にも、彼に戦いを強いらせる。


………………

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