第12話「風奈と葉月」
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地球と大気圏の狭間…。
正確には、地球と大気圏の境界線は曖昧だ。
しかし、そんな曖昧な位置に一つの円盤上の飛行物体が漂う。
この円盤の飛行物体の名は『バイリス』と言った。
このバイリスは、マークジャックが呼んだ仲間達の乗る宇宙船だ。
しかし、マークジャックがゼイファーマンにより敗北したことで、現われることはなかった。
だから、地球と大気圏の狭間に揺れる。
そして、宇宙船内から話し声が聞こえる。
「マークジャックは敗北した…」
「誰によってだ…」
「わからぬ…」
複数の者の話し声だ。
「しかし、あの学園に居る何者かに敗北したのは確かだ…」
「あの天声高校は調べる必要がある…」
そう宇宙船内で会話が展開された。
これにより、奴らの標的は天声高校と定まる…。
果たして、この宇宙船に集う者達の狙いは…?
………………
あのバイリスに集う宇宙人達を追い詰めたゼイファーマンこと、名塚翔助は現在、学校で授業を受けている。
苦手な教科の(というか、すべて苦手)数学の時間、彼はノートに落書きをしていた。
彼なりの授業の退屈しのぎだ。
すると、途中で手からシャーペンが滑り、床に落ちた。
そして、そのまま誰かの椅子へと転がる。
「やべっ…」
落ちたシャーペンを目で追うと…。
「ん…?」
シャーペンが、転がった先は、斜め前の風奈の席だった。
彼女の足元に、シャーペンが転がる。
翔助の顔が険しくなった。
前回の彼女の発言が、今だに許せないでいた。
風奈は、足元に転がる翔助のシャーペンを取ると…。
「これ、あんたの…」
嫌々そうに彼女は、シャーペンを翔助に向ける。
「さっさと返せ…。このアマ…」
青筋浮かせながら、翔助は言う。
すると…。
グサッ!
風奈が翔助の額に、シャーペンを投げ付け、額にシャーペンの先が刺さった。
ピューと血が出た。
「くぉんの!クソアマ!!その制服剥いじまうぞ!!」
翔助は頭に来て、席から立ち上がり叫ぶ。
そして…。
………………
急に立ち上がって叫んだことに怒った数学教師は、翔助に水を入れたバケツを持たせ、廊下に立たせる。
「ちきしょう…」
額にシャーペンが刺さったまま、廊下に立つ翔助の姿は滑稽だった。
………………
終業のチャイムが校内に鳴り響く。
放課後になった。
玄関には、帰宅する多くの生徒達に中に、カバンを持つ風奈の姿もあった。
いつも委員会事で帰りが遅い彼女だが、今日は特に用事もなく普通に帰宅するようだ。
玄関を出た彼女の頭には、とあることが引っ掛かっていた。
それは、前回、変身に四苦八苦する翔助に言ったあの一言である。
彼女は言いすぎたと思ってはいるが、やはり、翔助の態度が気に入らない。
なんで、あんな奴がここに来たのか…、とすら思っている。
………………
いつもの駐輪所に、翔助と多摩、そして、多摩の不良仲間である星球児、秋野の姿があった。
ちなみに、星は名前の割りには野球などやったことはない。
彼らは、自分達のバイクにキーを差し、暖機のためエンジンを回している。
冬だとエンジンは冷え、オイル類がよく潤滑せず、回転数が上がらないため、適当にアイドリンクさせ、エンジンを暖める必要がある。
いつものように、暖機中のゼファーのタンデムには秋野が座る。
暖機中のCB750に多摩は腰を置く。
「なっちゃん、額どうした?」
額に絆創膏を貼っているのに、気付いた。
「夏木に刺された…」
星のバイクであるヤマハ、SR400の暖機中のエンジンを見ながら答える。
それに対し、多摩は笑う。
「翔助君が、あんな言い方するからだよ」
秋野がそう言う。
いつのまにか、彼女はこの不良達に馴染んでいた。
「にしても、翔助君はいろいろ人から恨み買うよねー(イジメ集団をボコしたり)」
新参の星がそう言う。
「悪かったな…」
目をうつむかせ、ドヨンとした雰囲気を出しながら、翔助は言う。
「ごめん…、そんなつもりで言ったんじゃないけど…」
新参の星は、空気が読めなかった。
そんな彼らの姿が、たまたま近くを歩いていた風奈の目に入った。
彼らの話題が、自分自身なのに彼女は気付いていない。
(バカの集まりか…)
そう思って、風奈は彼らから目を離した。
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この地域は都心から近く、自宅から会社への通勤距離が短縮できるので、ベッドタウンとして多くの人々が住む。
そのためか、駅前には多くのマンションが立ち並び、駅は、いつも混雑が起きる。
そんな場所に、風奈の住むマンションがある。
それも、かなり豪華で高級な作りになっている。
カチャツ…。
マンションに着いた風奈が、真っ先にするのはドアに鍵を入れること。
そして、中に入ると、リビングのテーブルの上に現金の入った封筒が置かれてある。
彼女の家族は、両親共々、仕事をしており、家に居つくことは休日でもなかった。
風奈は、母親が自宅で料理作る姿を中学一年を最後に見なくなった。
父親とは、週二のペースでしか会ってなく、会話は同じく中学一年を最後になくなった。
もう家族と言える状態ではない。
あの封筒の金も、要するに、晩食はこれでなんとかしろ、ということでしかない。
「…」
彼女は金だけを抜き取り、封筒はクシャクシャにしてごみ箱に投げ捨てた。
封筒には、なんの言葉もない。
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ブォオオオーーー!!
空冷四気筒のマフラーが鳴り響きながら、通学路を駆け抜ける。
鳴らすのは、校舎から飛び出すように出てきたイエローカラーのゼファー。
そのゼファーのアクセルを握るのは、さっき、多摩達と離れた翔助。
タンデムには、秋野が翔助の制服を握りながら乗る。
また、彼女の自宅まで送るように頼まれたのだ。
「近いんだから、歩いて帰れ!!」
アクセルを吹かしながら、翔助は後ろに居る秋野に向かって叫ぶ。
「えっ?なに、聞こえない」
翔助が取り付けたマフラーが、彼の叫び声をかき消すため、秋野の耳には届かない。
「お前って、意外に乳あるな…」
どうせ、マフラーが声をかき消すなら、わざと、さっきから己の背中にあたる感触を言ってみた。
すると、尻をつねられた。
「ぎゃあああー!!!」
何故か、この声だけは秋野に聞こえた。
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そんなこんなで、目的地に到着。
ゼファーは彼女の自宅前に止め、アイドリングをする。
秋野の自宅は、普通の一軒家。
和式で、庭には彼女の祖父の趣味か盆栽が並ぶ。
彼女の両親は至って普通の夫婦。
父は、『人生、こんなものか…』と思っているサラリーマン。
母は、おせっかい焼きで地獄耳といわれる専業主婦。
たぶん、秋野葉月という少女は母親似だ。
その母親似の葉月少女は、ゼファーのタンデムから降りた。
「送ってくれて、どうもー」
「尻痛いよ、バカ女…」
彼女からのお礼を、つねられた自分の尻を撫でながら、暴言で返すヤンキー・名塚翔助。
ガラッ!
葉月の自宅の玄関が開いた。
翔助、葉月は玄関に首を向ける。
すると、玄関から…。
「誰だぁ!!」
そう叫びながら、上半身裸で、かなり筋肉質の老人が現われた。
「なっ!」
翔助はその異様な存在感を放つ老人を前に、鼻水を吹き出した。
明らかに、老人とは思えない筋肉の高密度さ。
筋肉の発達による肌の美麗さ。
そして、168センチの翔助を越える185センチの身長。
その体躯に、翔助は一瞬『グラッ○ラー刃○』の世界に来たかと思った。
「あっ!おじいちゃん!ただいまー」
葉月が、その老人をそう呼ぶ。
翔助は、素で吹き出す。
老人の名は、秋野松尾、65歳。
葉月の祖父でありながら、実践派空手の雄。
多くの空手大会優勝経験を持ち、この地区を巣食う暴走族、暴力団組織を素手で撲滅した等の数々の武勇伝を持つことから、別名『関東圏の桜花王』または、『関東圏の聖戦士』と呼ばれる。
彼と戦って無事だったなは、後にも先にも、『関東圏の悪夢』と呼ばれた悪童だったそうな…。
その『関東圏の悪夢』である現在自営業を営む、K.Yはこう語る。
「マジで、ヤバかった…。死ぬかと思った…。小説じゃなかったら、死んでた」
K.Y泣きながら、そう語る。
「誰だ!貴様は!?」
生ける伝説が、翔助に向かい叫ぶ。
その迫力に、翔助は思わず変身しそうだった。
「名塚翔助君。あたしの友達」
葉月が翔助を紹介すると、『関東圏の桜花王』は…。
「なに?このリーゼントが、葉月の友人と申すか!?」
また、叫ぶ。
「そーだよ」
笑顔で葉月が答える。
それに対し…。
「友達は多い方が良い…。だが!ヤンキーと付き合うのではない!!」
いちいち大声なため、翔助は震えっぱなし。
(恐い…、恐すぎるよ、この爺さん…)
もう半泣きだ。
叫ばれるたびに、秋野松雄から、とてつもないオーラ力が放たれた。
残念だが、この状態のまま次回に続く…。
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