第11話「落ちてやるが、心までは堕ちないぞ」
………………
この異常事態は、すぐに口渡りで次々と、学校中に伝わる。
当然、隣のクラスの多摩にも…。
「なっちゃん(翔助)が、宇宙人に捕まった?」
突拍子もないことだが、現実に起きているので、多摩も状況を飲みざるえない。
他の不良達も、翔助の安否が気になっていた。
学校側も、何度もマークジャックにコンタクトを試みたが、すべて拒否。
校長、阿部教師ら、すべての教員が苛立ちを隠せない。
奴の仲間が来るまで、あと30分…。
………………
教壇に腰を掛け、意気揚揚としながら、マークジャックは自分の肩を、翔助に揉ませていた。
相変わらず、クラス全員は恐怖でうずくまる。
あと数分したら…、宇宙船に…。
そんな考えが、彼らを支配する。
だが、そんな状況であっても、秋野はめげずに他の生徒達を励ます。
風奈は、うつむいたままだ。
「ん?」
マークジャックの肩を揉みながら、翔助は奴が入ってきた窓際を見た。
窓ガラスは割れ、周囲に破片が広がっている。
(三階から入ってきやがったか…。なるほどな…、三階なら、外の状況は解るし、警察が突破しにくくなる…)
などを考えていると…。
(三階…。窓…)
急に、翔助の頭になにかが浮かんだ。
今まで、状況のせいで変身不可だったが、三階というキーワードが翔助の直感を押す。
だが…。
「おい…」
肩を揉んでいるマークジャックが振り向いた。
そして…。
バゴッ!
マークジャックは、マシンガンで翔助の顔を殴り付けた。
「ぶっ!」
さっき怪我した部分が、殴られたことにより、更に膨れ上がる。
口からは、また血が流れる。
「てめー、力入れたろ!痛かったぞ!!」
そう言いながら、マークジャックは殴られた顔を押さえる翔助を蹴る。
ただ、肩を揉まれていて、少し痛かっただけで、奴は殴り付けた。
その横暴さに、クラス全員は、また悲鳴を上げた。
しかし、そんな時…。
「いいかげんしろ!!このバカ宇宙人!!!」
秋野が立ち上がって、激怒した。
とうとう、彼女の堪忍袋が破れた。
それには、クラス全員が彼女の方に振り向く。
「葉月!やめなさい!!」
風奈も立ち上がり、秋野を止めに入る。
だが、秋野はよほど頭に来たらしく…。
「サンプルだの、なんだのって!武器持って、脅しかけて、バカじゃない!!それで、一方的に殴り付けたり、蹴りつけたりして!!バルタン星人も、メトロン星人もやらなかったわよ!バーカ!!バーカ!!」
今まで、見たことないくらい秋野は叫び散らす。
それに、マークジャックは逆上してマシンガンを構えた。
「この女!」
しかし、銃口を向けられても、秋野は動じない。
それどころか、面と向かってマークジャックの目を睨む。
「葉月!やめなさいって!!バカは、あんたよ!!」
そう言って、風奈は秋野の手を引っ張る。
何度も彼女に謝らせようと、風奈は説得する。
しかし、マークジャックの怒りは大きかったようで…。
「舐めた口を、聞きやがって!!」
激情し、引き金に指を掛けた。
その時…。
ガシャン!!
「!?」
急に窓ガラスが割れる音がした。
音の方に、皆一斉に振り向く。
そこには、窓ガラスを殴って右拳を血に染めた翔助の姿が。
額に青筋を浮かせ、マークジャックを睨み付ける。
「秋野の言うとおりだぜ…。このウンコ宇宙人…。マシンガン盾にして、些細なことに反応しやがって…(早漏が)」
マークジャックは、マシンガンを翔助の方に構え直す。
「貴様!」
「ああー、貴様みたいなキッタネェ宇宙人に殺されるくらいなら、こっから飛び降りた方がマシ」
そう言う翔助を、クラス全員が固唾を飲んで見る。
秋野、風奈も黙って、翔助を見つめた。
すると…。
「じゃあな…」
翔助は、割れた窓の方に跳んだ。
「!?」
全員が、言葉を失った。
翔助が窓から、飛び降りた。
あっけなく…、静かに、窓から落ち、翔助の姿が消えた。
風奈は目を見開いて、その現実を見た。
秋野は、口を開き…。
「しょ、翔助君ーーーー!!!」
思わず、目に涙を浮かべ叫ぶ。
クラス全員が、もはや言葉すら出ない。
気のせいか、外が一瞬明るくなった。
(誰が、こんな下らねぇことで死ねるか…)
「はははははは!!!」
大声で笑うマークジャックに、皆視線変える。
その笑い声は、まさに絶望へのファンファーレのよう。
窓際に背を向け、教壇の上にまた腰を掛ける。
「わかったか!無力さのあまりに、狂うもの姿を!!」
唄うように、語り始めたマークジャックの背後から、物音がした。
「ははは!わかったか、己等の…」
喋っている途中、マークジャックは背後に違和感を感じた。
そして思わず、振り向くと…。
「お前、演説下手だな…。ガンダムのギレン・ザビ見習えや…」
マークジャックの後ろに、いつのまにか、全身の血管を浮き上がらせたゼイファーマンの姿が。
それには、マークジャックどころか、皆一斉に驚く。
「誰だ!貴様!」
「お前をぶん殴りたくて仕方ない、光の国からやってきたゼイファーマンです…。歯ァ、食い縛れ!!」
血管を浮き上がらせた左腕を振り上げ、拳をマークジャックの顔面にヒットさせた。
バゴッ!
メリッ!と、顔面にめり込んだ拳の勢いがマークジャックの体を窓の外へと吹っ飛ばす。
「ぶはぁ!!」
マークジャックは、割れたガラスを更に割り散らし、体が鉄砲玉のように、三階の窓からグランドの地面へと飛ぶ。
そして…。
ドスン!!
激しい振動と砂埃を巻き上げ、グランドにマークジャックの体が左腕から落下した。
「ぐお!」
強靱な肉体であるから、致命にはならないが、その衝撃はマークジャックの手にあったマシンガンを破壊に至らせた。
顔面からは、ゼイファーマンに殴られた負傷後が残る。
「なんだ!あいつは!!」
壊れたマシンガンを投げ捨て、マークジャックは両足をグランドに着ける。
そして、自分が飛び出た三階の窓を眺めると、窓際にゼイファーマンが立っている。
………………
さっきまで煮え湯を飲まされていた翔助が、変身することが出来たのは三階から身を投げたときだ。
ちょうど、三階から落下したことにより、皆の視線から離れた。
それにより、変身条件を満たす。
同時に、変身したことにより落下せず校舎の壁に付き、よじ登り、教室に入り込む。
まさに、劇的な登場とも言えよう。
………………
「うおおおおおーーーーー!!!!!」
ゼイファーマンは助走を付け、窓際から飛び出す。
グランドに立つマークジャックの元へと、飛び降りた。
それに、もちろんマークジャックは気付く。
「こっちに来るか!!」
強靱な手足の爪を構え、こちらに飛んでくるゼイファーマンに迎撃態勢を取る。
マークジャックが教室から離れたことにより、クラス全員がその場から立ち去る。
やっと、この絶望感から解き放たれ、生徒達に安堵の表情が浮かぶ。
だが…。
「翔助君は!?」
秋野だけは、ゼイファーマンが飛び去った後の教室に留まる。
ゼイファーマンの正体が、翔助なのを知るわけのない彼女には不安が取り去ったわけではなかった。
秋野だけは、飛び降りた翔助のことを心配した。
そんな秋野の姿を、風奈はただ見ていた。
ドスン!!
ゼイファーマンが、マークジャックの目の前に立つ。
グランドの砂煙が、辺りに吹く。
西部劇の撃ち合いのような緊張感が流れる。
マークジャックは手を広げ、爪を見せびらかす。
そして、口を開いた。
「不意打ちとは言え、私に一発殴るとは…」
屈辱だったようで、根に持つような言い方をした。
「てめーみたいなチャカなしじゃ脅しもコケねぇ、タマなしはムカついて反吐が出る…」
メキ!メキ!と拳を鳴らしながら、ゼイファーマンは言う。
すると…。
サッ!
「!」
マークジャックは、素早い動きで右手の爪を弧を描くように振る。
その勢いは、空気を切り裂き、寸でで気付き避けたゼイファーマンの左頬を切り裂く。
「っ!!」
切られた頬から、血が吹き出る。
右手を振り終えたマークジャックは、続いて、左手を振る。
「!」
またも、寸で気付いたゼイファーマンに避けるが、右腕を切られた。
まさに、手足が凶器そのものだ。
マークジャックの両手が、赤く染まる。
「どうした?ゼイファーマンとか言う、山猿君?」
見下すように、切られた右腕に手を当てるゼイファーマンに言い放つ。
「啖呵を切った割りには…」
マークジャックの口が、言葉を発している途中…。
バゴッ!!
「ぶっ!」
マークジャックの顔面に、ゼイファーマンの左拳が打ち込む。
めり込まれた口から、血が出た。
「喧嘩の途中で…。偉そうに論してんじゃねぇ!!」
鬼気迫る表情で、ゼイファーマンが叫ぶ。
「貴様ァ!!」
また弧を描くように、マークジャックは爪を振る。
しかし、安易に避けられたため空を切った。
そして、何度も何度も、爪を左右で振る。
だが、すべてゼイファーマンに避けられる。
(当たらない!!)
マークジャックが、心の中で叫ぶ。
何故、当たらないのか…。
マークジャック本人は気付いてないようだが、スピードの割りには、手での弧を描く爪技の動きがすべて同じだったのだ。
だから、爪技のコースさえ読めば避けるのは容易い。
バゴッ!!
今度は、ゼイファーマンの蹴りがマークジャックの腹に入る。
「ぐは!」
口から、血反吐を出す。
「この蹴りは、無関係なクラスの奴らを脅した分!!」
そう言いながら、ゼイファーマンは右腕を振り上げる。
怯んだマークジャックには、そのスピードに対する応答が遅れた。
「これは、貴様がヘナヘナにさせた男共の分!!」
思いっきり握り締められた右拳で、マークジャックの左手を殴り付けた。
ボキボキ!と、左の手の骨と爪が割れる音が鳴る。
「ぎゃああああ!!!」
激痛に、マークジャックは叫ぶ。
ゼイファーマンの左手に、血管が激しく脈打つ。
「これは、貴様が泣かした女子の分!!」
左拳を、今度はマークジャックの右手に打つ。
爪が割れ砕ける。
「私の!私の美爪が!」
砕けた両手を、マークジャックは見て嘆く。
その間に、ゼイファーマンは右足の爪先をグランドに、トントンと叩く。
「最後に…」
「ひっ!」
さっきまでの余裕を持ったマークジャックの姿はない。
ゼイファーマンこと、翔助の頭に秋野の顔が浮かんだ…。
ゼイファーマンは、大きく素早く鋭く右足を固める。
「これは、貴様が秋野に銃を向けた分だぁあああーーーー!!!!」
ゼイファーマンの渾身のハイキックが、マークジャックの顎に命中。
言葉話すことも出来ないほどの激痛、衝撃がマークジャックの意識を消した。
顎が砕けてしまったのだ。
そして、彼の自信と誇りも…。
バダン!とマークジャックは、口から血を吹き上げ倒れた。
ゼイファーマンは黙って、マークジャックに背を向ける。
こんな彼の姿を見せたなら、きっと宇宙船で来る仲間も退くだろう。
だから、もうマークジャックの野望は消えた。
案の定、宇宙船らしき物は現われることはなく、マークジャックは警察に捕獲された。
………………
「翔助君!」
秋野は三階から階段を駆け降り、一階の翔助が落ちたらしい場所に向かう。
果たして、無事であるだろうか…。
そう祈り、玄関に着くと…。
「おい、どこ行くんだ?」
変身を解除した翔助が、玄関で内履きを脱ぐ秋野に聞く。
「三階から落ちた翔助君探しに…」
脱いだ内履きを片手に、そう答える。
すると、違和感に気付いた。
「って!なんで、そこに!?」
探してた本人が目の前に居ることに、秋野は驚いた。
気付くのが、少し遅い…。
とりあえず、適当な理由を付けて無事だったと言い、彼女からの質問攻めを流した。
「心配したんだからね…」
秋野が、さりなげなく言うその一言が妙に心に染み込んだ。
………………




