第10話「逆境の翔助」
………………
スポットが当たらないが、翔助は、現在学生寮に住んでいる。
彼の部屋は、ゴミで溢れ、散らかっている。
そんなゴミの中で、翔助はスヤスヤと眠る。
とっくに学校の始業時間になっているのも知らず…。
昨夜は、夜遅くまで多摩と飲み明かしていたせいで、朝九時になるまで、目が覚めなかった。
………………
「やべぇな…」
ゼファーを駐輪場に停め、焦りながら、三階にある教室に向かう。
また、あのうるさい風奈から説教を食らうな…。
そう思いつつ、自分の教室の前に立つ。
それにしても、何故か、静かだ。
授業が始まっているなら、先生の声ぐらいはするはず。
なのに、このクラスは静かだ。
そんなことは、気にせず、翔助は教室のドアを開けた。
「ちぃーす…」
ひそひそと、翔助は教室に入る…。
すると…。
ガチャツ!!
「!?」
教室に入った矢先に見たのは、静まり返るクラスメートたちと、見たのことのない宇宙人一人の姿が。
宇宙人は、いきなり手に持っていた銃を翔助の額に突き付ける。
「なんだ、貴様は…」
銃を握りながら、宇宙人は言う。
翔助は、状況が読み込めず、とりあえず両腕を上げた。
「なに、この急展開…」
………………
話は、翔助が学校に来る数分前に遡る。
ホームルームが終わり、一時間目が始まる間に、三階のこのクラスの窓を突き破り、マークジャックという宇宙人が乱入した。
マークジャックは片手にマシンガンと、強靱な爪が手足に生えた凶悪な顔をした宇宙人。
そして、このクラス全員をマシンガンで、身動きを取れなくさせ、人質にし、学校の他の人間達、警察が助けに来れないような状況を作った。
マシンガンを構えながら、彼はこう言った。
「私は、我が星の文明の進歩のため、君ら地球人をサンプルとして宇宙船で持ち帰らせてもらう。生憎、私が先に単独で先に来たため、仲間が宇宙船と一緒に来るまで、君らにはおとなしくしてもらう…」
マークジャックの凶悪な表情に、誰も悲鳴を上げられず、ただ震えた。
そして、翔助は遅れて、人質になった。
問題は、クラスメートが大勢居る中で、ゼイファーマンに変身が出来ないこと。
正体がバレてしまうのは、変身条件を破ることになる。
このような状況下で、翔助はマークジャックを倒せるのか…。
………………
机、椅子はすべて後ろに下げられ、クラス全員が床に座らされた。
皆、誰一人として恐怖が隠せない者は居ない。
男女構わず、泣きだす者が出てきた。
ちなみに、教室にあの阿部高和教師は居ない…。
………………
そして、職員室。
教員すべて集まり、マークジャックへの対応を相談していた。
校長は、電話の受話器に手を当て…。
「警察を呼ぶんだ!」
だが、阿部教師はその手を止める。
「待って下さい!奴の手には、武器があります!警察を呼んだら、人質にされたクラス全員の無事は保障されません!!」
マークジャックの要求は、人質にしたクラス全員だから、交換条件や話し合いでは通じない。
だから、警察が来ても意味はなく、むしろ逆上してしまうかもしれない。
そのような判断が出来た阿部教師は、同時に、どうすれば良いのかと頭を悩ませる。
………………
マークジャックは、教壇の上に腰を掛け、クラス全員の様子を見下ろす。
その姿は、不気味で、皆に無力感を感じさせる。
翔助は、珍しく困る。
(さっきから、変身しよう思っても、出来やしねぇ…)
やはり、セキュリティのような物が働いているらしい。
すると、翔助の頭に誰かの声が響く。
それは、自分の身体に取りついたマッスル星人の声。
彼は、こう述べる。
・変身は、基本的に翔助の独断。だが、あくまで宇宙人絡みであること。
・宇宙人絡みでなくとも、翔助の致命傷、命に関わる事故、過失が起きた場合、自動的に変身。致命傷にならない怪我は、変身する条件に入らない。病気も含まれない。
宇宙人絡みであっても、他人の前では、上記の理由を除き変身は不可。だから、さっきのように銃を突き付けられても変身は不可。だが、銃が撃たれ死にそうになった、この場に他人が居なかったであったら、変身可。
・変身前、変身中に負った怪我は変身解除後には残る(マッスル星人には、治癒力がないため)
・他人に正体がバレたら、契約違反により、翔助、マッスル星人の存在は消滅する。死よりも、辛いことになる。
以上のことが、翔助の頭に響いた。
今更、説明すんな!と、心の底で言う。
しかし、上記のルールに引っ掛からない変身法が見つからない。
マークジャックが、自分に向けて銃を撃ってきたら、クラスメート達の前であっても変身は出来るが、正体がバレる。
また、下手に変身したら、奴を刺激してしまうかも知れない…。
翔助は初めて変身出来ない境地に置かれ、苛立ちを感じた。
「大丈夫、きっと、なんとかなるから…」
秋野は、泣きだしたクラスの女子を慰める。
このような絶望的な状況下であっても、彼女は取り乱さない。
その姿には、翔助もタフだなと感じざるえない。
「やべーよ…」
「死にたくねぇ…」
クラスの男子たちは、膝を抱え情けなくも取り乱している。
仕方はないことである。
クラス委員の風奈も、動揺しているが、必死に抑えている。
この状況のとりあえず、なんとか変身出来るよう、翔助は出来る範囲のことを試す事にした。
作戦その1
翔助は、マークジャックに見えるように手を挙げる。
すると、マークジャックはマシンガンを向けて…。
「なんだ?」
そう聞いてきた。
「あのー、さっきから腹痛いんですよ…。トイレ行ってもいいっすか?」
翔助が考え付いた作戦は、トイレに行き、変身するというシンプルな作戦。
(ふふふ、さすが不良界のキラと言われる俺…。これなら…)
「あと、一時間で宇宙船が来るから我慢しろ…」
冷静に返された。
「いや、漏れそうなんですよ!」
だが、翔助は必死に食い下がる。
しかし…。
頭に、銃を突き付けられた。
「治まりました…」
作戦は失敗した。
この作戦により、クラスメートから、緊張感がない、デリカシーがないなど非難を浴びた…。
「名塚君、絶対漏らさないでよ!!密室だし!!」
「うるせぇ!!(嘘だよ)」
秋野に余計な心配をされた。
作戦2
「あっ!UFO!!」
いきなり、そう叫び、窓に指を差した。
皆、窓に注意が行った瞬間を狙い変身。
というアイデアだったが…。
また、頭に銃を突き付けられた。
「なに、言ってんだ?てめー」
誰一人として、窓に注意を向けなかった。
これにより、また周りから非難を買う。
「UFOなんて、居るわけないじゃん。バカだねー」
「…」
秋野から、ダメ出しを受けた。
目の前に宇宙人が居るから、とりあえず、UFOは否定出来ないが。
あと何故か、秋野からバカと言われると、妙に腹が立つ翔助であった。
作戦3
翔助は、急に立ち上がった。
そして…。
「なんで、こんなことをするだ…」
いきなり、マジメな空気を漂わせ語り出す。
「こんなことをして、なんになるんだよ!!」
続いての作戦は、マークジャックへの言葉による武装解除。
世の中には、ペンは銃より強しという言葉がある。
だから、なんとなく相手に罪の意識が芽生えるようなことを言って、罪悪感により武器を捨てさせ、戦わせる手間を省かせる作戦だ。
「うるさいよ…」
「えっ…」
だが、奴には罪悪感などなかった…。
また、作戦が失敗した。
これにより、マークジャックの怒りが、更に燃え上がり、クラス全員から…。
「てめー!いいかげんしろ!!」
「ふざけてる場合じゃないんだよ!!」
「だから、ヤンキーは!」
手に負えないくらいの非難を買った。
さっきから、恐怖に震え怯えていた風奈も、とうとう怒りが沸点に達し、その場から立ち上がる。
「あんたは、なんで、そんなに空気読めないの!!だから、暴力問題とか起こせるのね!!バカじゃない!!頭悪いって、レベルじゃないわよ!!あんたみたいな人間、死んじゃえば!!!」
その言葉で、他のクラスの者たちは黙った。
いつも怒っている彼女だったが、今回ばかりは強烈だ。
「…ッ」
これには翔助は、なにも言わず、ただ立ちすくむ。
絶望的な状況下ゆえに、彼女の気持ちも解るが、さすがに、強烈だったようだ。
「ちょっと、言い過ぎだよ!」
秋野だけが、彼女に反論した。
しかし、風奈の翔助に向ける眼光の鋭さは半端ではない。
「てめーら!!静かにしろ!!」
この一連の騒ぎに、マークジャックが一喝する。
それで、風奈は再び、膝を床に置く。
翔助は、無言で立ちすくむ。
そんな彼に、マークジャックは…。
「おい、さっきから、うるさいリーゼントの山猿…。なに考えてるか知らないが、この俺は怒っている。こいつらの命保障出来るか自分でも解らねぇ…。だから、許して欲しければ、俺の目の前で、土下座しろ…」
マークジャックは、そう告げた。
土下座という屈辱的なことを強いらされても、翔助は黙り込む。
「そうだ!やれよ!」
口火を切って、鳥田が叫ぶ。
同じく、翔助のさっきからの行動に腹を立てた者たち、皆が翔助に土下座を示唆する。
「みんな!やめてよ!」
秋野は、そのように言うクラスメート達を止める。
しかし、翔助は言われるがまま、教壇の近くに行く。
そして…。
「すいません…。どうか許して下さい…。こいつら、巻き込むのだけやめてください…」
そう言い、翔助は額を床に付け土下座した。
それを見て、マークジャックはゲラゲラと笑い転げる。
クラスメートたちは示唆したとはいえ、少し黙り込んだ。
皆、唖然とする。
「翔助君…」
唯一、取り乱さない秋野が、初めて震えていた。ガクガクと、拳を握りながら…。
翔助の土下座を、無言で風奈は見ている。彼女の瞳が、少しだけ動揺した。
笑うマークジャックが、また一言言う。
「顔上げろ…」
翔助は、それで土下座を止め、立ち上がると…。
バゴッ!!
「ヴッ!!」
立ち上がった翔助の顔、無情にも蹴る。
翔助の口から血が吹き、更に、腹部を蹴り上げられる。
これには、クラス全員に戦慄が走る。
風奈は、目を見開き、引きつった表情をする。さすがに、あまりのマークジャックの横暴さに怒りを覚えた。
「翔助君…」
マークジャックの仕打ちのひどさに、秋野は下を向いて目を背ける。
翔助は腹部を押さえ、前かがみに倒れる。
苦しそうな表情を浮かべた。
それを見て、マークジャックは笑い転げる。
とことん歪んだ性根をしている。
だが…、マークジャックは一つ墓穴を掘った…。うずくまっているが、翔助の目は死んではいない。
それどころか、まるで、これからエロ本を買いにでも行くような楽しみを抑えているようだ。
そんな翔助の心の中は…。(変身出来たら、こいつの顔面に何発打ちこむかぁ…。あと、俺様をコケにした風奈に、あんなことや、こんなことを…)
マークジャックは知らなかった。
翔助の性根は、マークジャック以上に歪んでいるのが…。
宇宙船が来るまで、あと三十分。
…………………………




